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SS置場4
追憶 P

死ネタ。というか、文中に死ぬシーンは無いのですが事実として既にヒロイン(?)が死んでいます














ここにくると亡くなった大切な人を思い出す

彼が亡くなったのはもう何年も前のことなのに、ペンギンは その場所に近付く事が出来ずにいた

身の内がひりひりと痛むようなその気持ちに押し潰されそうになるから。

もうずっと、その場所に足を踏み入れる事がなかったのだ








ふと、小さな切っ掛けで訪れてしまったその場所。


子供の頃から彼と転げ回って遊んだその場所は、成長してからも度々やってきては 穏やかな一時ひととき
寄り添って過ごしたりもした二人の秘密の場所だった

――大切で、大切で。
自分の事よりも、何よりも、大切な――

そんな、最愛の人との思い出が 山ほど詰まった、所縁ある場所



この年になって再び訪れた切っ掛けは 長い付き合いの友人の言葉だった

彼はもう死んだ
でも、思い出まで殺してしまう事はないだろう?
だって
それじゃぁ、彼が生きていた証までが無くなっちまう

「・・・亡くなってしまう」
と、友人は言い直した。
ペンギンを説得する友人は、彼とも親しく付き合っていて、彼と自分が付き合っている事を
知っていた数少ない人間の一人。
その友人が 気鬱な顔で言葉を続ける

「あんたが愛した彼を、あんたの手で殺してしまう事になるんだ」

彼の死から目を背けて
大切な場所から逃げるように背を向けて

「そうやって、背を丸めて生きていくペンギンを見たら、あいつはなんて思うだろうな」
あんたの愛した彼が。彼の愛したおまえを。行く先から目を逸らして生きる様を見たら、悲しむと思わないか



友人の言葉に説得されたつもりはなかった

だけど、偶然にも 仕事の際に故郷の近くを通る事になって
・・・それだけならペンギンも避けて通り過ぎたかもしれない
なのに、本当に その場所の近くで車が故障してしまうという偶然がもたらした機会に

ふと、友人の言葉が蘇ったペンギンは、運転手の"修理には暫く掛かるのでその間少し歩いてきてはどうか"
という提案にのって、懐かしい道を自分の足で辿って歩いた


懐かしい場所。
『ペンギーン!早く、はやく!あんまり遅いと 先、行っちゃうよっ』
そこを歩むだけで、彼の楽しそうな声が胸に耳に蘇る
息を弾ませて駆けていく彼の笑顔と自分を呼ぶ元気いっぱいの声。

『ずっと、このままでいられたら、いいね』
雨宿りに潜り込んだ洞穴で 寄り添って座る彼が告げてくれた未来への約束。

その全てが懐かしく自分を呼んでいるようで、いつしかペンギンは口元に穏やかな笑みを浮かべて
思い出の場所を辿っていた

彼が居なくても、彼の声も言葉も表情も、全てが思い出の中に蘇り、
彼が居なくても、この景色の美しさは変わりない

(彼の愛した故郷。その素晴らしい風景と、大切な、愛しい記憶)

どうして自分は此処を忘れていられたのだろう

彼を喪った事が悲しくて
彼の不在を受け容れる事が辛くて

――彼が居ないのに自分だけが時を重ねていく事を、認めたくなくて


(思い出に、蓋をした)

彼との記憶を思い出したら一歩も前に進めなくなりそうで、何もかもを 記憶から追い出してしまって
(なのに、忘れる事が出来なくて)
胸の痛みから目を逸らし、故郷から足を遠ざけて
(一人で、生きていた)

「あぁ。懐かしいな。キャスケットの指定席だ」

いつもいつも、ペンギンが手前に、キャスケットが奥側に腰掛けて
楽しいことでも悲しい事でも、何かあれば時間など気にせずにいつまでも話し合った
互いの喜びも苦しみも分かち合うように
そうする事で新しい視点に気付く事も多くて、何より、彼の感じる事を自分も同じように感じたくて、
大事な事ほど、此処で話し合ったのを覚えている
成長してからも時折訪れては逢瀬を楽しんだ、思い出の場所。

どうしてだろう、その時のペンギンは、いつもは座らない彼の定位置に座ってみた

彼の気持ちを知りたかったのかもしれない。
彼の視点をなぞってみたかっただけかもしれない
そうやって、そこに座って暫くして

ペンギンは それまで気付かなかった、小さな文字に気が付いた

自分達はいつも同じ位置に座っていたから、ペンギンの位置からは決して見えないその場所に
小さく 彫り込まれていた、その文字に。



 ペンギン
 大好き
 どんなに離れていても、どこにいても
 俺の気持ちは ずっとペンギンの傍にある
 一生、隣に居るよ

 愛してる



刻まれたその文字を 震える指がなぞった

「・・・っ、キャス、」

とっくの昔に枯れ果ててしまったはずの涙が堰を切ったようにあふれ出す
きゃす、きゃすけっと・・・と、嗚咽の合間にたどたどしく彼の名前を呼びながら、我慢することなくペンギンは涙を流した

「バンの言うとおりだ。もっと、早くに此処に来ればよかった・・・な。 来なければ、一生、おまえのこの言葉に気付かず
一人で生きていくところだった」
不慮の事故で亡くなった恋人が 遙か昔に書いたと思しき短い言葉は、まるで彼がこの事を知っていたかの
ようにも見えてまた新たな涙を誘う
・・・知っていたはずはない。 多分、これは2人が故郷を離れる時に彼が密かに刻んだ文字なのだろう
遠く故郷を離れても 大切な場所に、自らの想いを誓うように。

「もう二度と、忘れない。 この先誰かを愛する事があったとしても、おまえへの想いは一生変わらない」

時が経つのも忘れて涙したペンギンは、その時を機会に 時折故郷に足を運ぶようになった


辛い事があった時や悩みが生じた時。
反対に、とても嬉しいことがあった時にも 足を運んで彼に報告した

自分の気持ちを整理する時にはその場所はとても適していて、あの時を切っ掛けにペンギンは
また前を向いて歩いていくようになった


今日、これから足を運ぶのは、恋人が出来たと彼に伝えるためだ
だからといって彼との事を忘れるつもりは全くない。
キャスケットが、もし あの場所に居たとしたら、彼ならペンギンのその報告を喜んでくれるだろう
(あいつは、そういう奴だから)
何よりも、ペンギンの幸せを望んでくれた彼だから

「おまえのあの言葉があったから立ち直れたんだって言ったら、笑うかな」

恥ずかしそうに頬を赤くして、それでも肩を竦めて嬉しそうに笑う彼が目に浮かぶ。
だけど、それはもう思い出の中の事だった
再び誰か他の人間と寄り添って生きる決心をしたペンギンの背を、キャスケットは喜んで前へと押してくれるだろう

「おまえの分も大切にする。・・なぁ、いつか、あいつにも此処を教えてもいいだろうか」

嬉しいよ!ペンギンの大切な人を 俺にもちゃんと紹介してくれるんだね

にこやかに笑うキャスケットの穏やかな声が聞こえてきそうな程、抜けるように青い空が広がっていた




 光 射 す 空














でもなんかうちのペンキャスだとペンギンがヒロインのような気がするの。攻めなのに。ここで出て来た
友人はローじゃなくてバンさんを想定してます。うちのバンさん(若い方)はキャスにキャラが近いんだよね
新恋人は想定してません。タイトルは鈴木光司の本に似てるなー、あっちは海だけど。あの話も好きだ。



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あきゅろす。
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