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SS置場4
奥方様 P
寝起きに直前に見ていた夢をメモしたものから文章化。内容覚えてないのでメモを見てもどんな夢だったのか
さっぱり思い出せないので、きっと全く別のお話になっていると思います。そして続くように見えますが続きません(ぇ














「あら、またお小言なの?それ、全部貴方がするの?」
お屋敷の女中さんに声を掛けられて、キャスケットはなんとか笑顔を作るのに成功した
「今日中に終わるのかしら・・・。手伝ってあげたいんだけど・・・」
どっさりと用意された繕い物を見て 頬に手を当てて溜息を零す先輩方に慌てて首を振る
「いいえ、全部、自分が頼まれた仕事ですから」
本当は、どう頑張っても今日中に終わりそうになかった
そもそも本当に必要かどうかも怪しいものまでが目の前に山積みにされていて、今夜の睡眠時間がどれだけ
確保できるだろうかと途方に暮れていたのだ
だけど、親切に申し出てくれているお姉さん達の好意に甘えてはいられない
「・・・そうよねぇ。 私達が手伝ったと知れたら、また 貴方が怒られるんですものね。」
可哀想に、後でこっそり差し入れを持ってきてあげるわね、と言われて へなりと眉を下げて肯く
針仕事が得意な者でも夜遅くまでかかるだろう量を、まだ縫い物の腕が上達していないキャスケットが1人で
するのだから。 下手をすると明け方まで掛かってしまうかもしれないと皆知っているのだ
「ありがとう。出来るだけ早く片付くように、頑張ります」
健気にも笑顔を見せたキャスケットの頭をお姉さん達が撫でて、ついでに、頬にそっと優しいキスをくれる

『本当は、とても優しい方なのよ』
いびられているキャスケットには信じられないかも知れないけれど、と悲しそうに言ってそれぞれの仕事に
戻っていく女中達の言う事は、本当の事なのだ
この屋敷に奉公に上がると決まった時に、ここを知る人達は口々に同じ事を言っていたのだから
『あの職場は、とてもいいところだよ』
『旦那様も良い方で、奥方様もとってもお優しくて』
いいところに決まって良かったね、と キャスケットの奉公先を聞いた人達は全員がそう言って喜んでくれた

まだ子供だからとどこからも仕事の口を得られなかったキャスケットだったから、一生懸命働こうと意気込んで。
どきどきしながら向かったお屋敷で、だけど、キャスケットを出迎えてくれたのは奥方様の冷たい態度だった





優しいはずの奥方様のその態度の理由は、早い内にキャスケットの耳に入った
妻の仕打ちを聞きつけた旦那様がまだ半人前の使用人にしか過ぎない自分の部屋をわざわざ訪ねてきて
何か失敗をしただろうか、もしかして、旦那様からもお小言を言われるのだろうかと慌てるキャスケットに向かって
すまない、と彼は頭を下げた

驚いて立ち尽くすキャスケットにそっと近寄り、辛い思いをさせてしまったと労るように髪が撫でられる
戸惑いながら見上げた旦那様は噂に聞いたような優しそうな目で自分を見下ろしていて、困ったような笑顔を
浮かべた後、ぽつりと一言いったのだ

『妻は子供をなくして以来、君くらいの子が駄目でね』
それは、つまり、目の前で申し訳なさそうに詫びの言葉を継げる旦那様にもあてはまる事だ

辛い思いをさせてしまった すまない

まだ半人前の自分に、誤魔化すことなくきちんと事情を話して、謝罪してくれる、その人も、子を亡くしているのだ
自分を見て話す事は彼にとって辛いのではないだろうかと探るように旦那様の顔を覗き込んだ途端、彼は、
穏やかな笑みを浮かべてキャスケットを抱き締めた
『君は一所懸命働いていてくれる。私は、君のその元気な姿で随分と慰められているんだ』
そう言って優しく背を撫でた大きな手の温かさに涙が零れそうになった
しっかりしているとはいえ、まだ子供の年齢に入るキャスケットは 辛い仕事場に傷付いていて、慰めるように
労るように抱き締められたその腕の中で 初めて、自分の感情を素直に表に出す事が出来たのだった

その晩は、今思い出しても恥ずかしい事に 主人である旦那様の腕に抱かれて声を上げて泣いてしまった

抱き締めてくれる腕を持たない、身寄りのないキャスケットにとって、声を上げて泣くなどという経験は初めてで
泣き止むまで優しく肩や背を撫でてくれた手に妙に安心して いつしか旦那様の腕の中で眠ってしまっていたのだ

翌朝、目が覚めた時は自分のベッドの中で、溜まっていた感情を爆発させたせいか妙にすっきりとした気分だった
(今日も、頑張って働こう)
そう、思って笑顔が浮かぶくらいに。

だからキャスケットが奥方様にキツク当たられてもお屋敷の仕事を止めなかったのは 旦那様の言葉のせいばかりでもない。
キャスケット自身も、この屋敷を離れたくないと、旦那様に仕える事に喜びを感じていたからだった








バシャッ
「ぅわっ?!」
奥方様に呼ばれて、部屋に入った途端 頭から冷たい水を浴びてキャスケットは声を上げた
髪から服から ぽたぽたと水を滴らせて立ち尽くすキャスケットに部屋の中央から奥方様の優雅な声が掛かる

「あら。ごめんなさい。花瓶の水を替えようとしていたのだけれど」
謝罪の形を取っているけど、奥方様の目が笑っている
当然、キャスケットが室内に踏み込むのを狙って "うっかり、過失で"水をぶちまけたのだ

「手伝ってもらおうと思ったのだけど、その格好じゃ無理ね。部屋で着替えてらっしゃい」
「はい。・・・・あっ」
水をぶっかけて満足しただろうと部屋を退室しかけて思い出す
今日は、お屋敷にクリーニング業者がやってくる日で、皆と同じくキャスケットの制服の替えもクリーニングに出していた
「どうかして?」
尋ねる奥方様の声には隠しきれない感情が滲んでいて、知っていてわざとなのかとキャスケットは溜息をつきそうなのを
慌てて飲み込む
「あの、今日は、一斉クリーニングの日で、替えの制服がありません」
あらあら、困ったわねとわざとらしい溜息を吐いた奥方様は、魅力的な笑顔でにっこり微笑んで こう、提案した

「だったら、メイド服を着ればいいわ。小さいサイズの物がいくつかあったから、女中に見繕ってもらいなさい」
えっ、と声にならない声を漏らしたキャスケットに微笑んだ奥方様はさっさと女中を呼びつけている
「この子に合うサイズのメイド服を用意して着せてやって?」
奥方様の指示に目を丸くする女中にびしょぬれの格好を見つめられて、気恥ずかしくて顔を伏せる
「先に、お風呂に入りましょう。そのままでは風邪を引くわ」
優しく告げるお姉さんに促されて奥方様の前を失礼する
「・・・奥様の意地悪なのね」
確認されても肯定出来ずに、黙ってキャスケットは浴室に向かう
「用意しておくから、ゆっくり温まってらっしゃいな。・・・女中服しかなくて悪いんだけど」
「いえ、他に服の替えがあっても、奥方様のご命令だから」
かわいそうに!と その女中は服が濡れるのも構わずにキャスケットを抱き締めた
「濡れるから 駄目だよ。俺、先にお風呂に行くから」
ありがとう、と言い残して浴室に向かう
見送る女中がやれやれと首を振るのが見えたけど、キャスケットは構わず浴室へ駆け込んだ

(このお屋敷の人は、みんな、いい人ばかりだ)
いびられるキャスケットが落ち込みそうになっても、こうして温かいハグを与えて慰めてくれる
そうされると、最初に自分を抱き締めてくれた腕を思い出して気恥ずかしくなってしまうのだけど、
キャスケットには彼女達の気持ちが嬉しかった
「服くらい、なんだ。」
気にするもんか、と温まりついでにもくもくと泡立てて体を綺麗に磨きまくる
ぱしゃん、とあぶくだったふわふわのお湯を跳ねさせて湯に沈んだキャスケットが すう、とその香りを
吸い込んで目を閉じる
(良い匂いのする石鹸と温かいお湯で、奥方様の意地悪で凹んだ気持ちも吹き飛ばしてしまおう)
バスタブから出て体に残った泡を綺麗に拭き取ったキャスケットは、すっきりとした顔で脱衣室へと向かった



「まぁ!こう言っちゃなんだけど、似合うわよ、キャスケット」
用意された服を身に着けて衝立の影から出た途端、女中達がヘッドドレスやリストバンドを手に集まってくる
ぎょっとして、そんなのいらないよと言っても有無を言わさずふんだんにレースをあしらった小物を着けさせられ
キャスケットはあっという間に『可愛いメイドさん風』に仕立て上げられてしまった
(可哀想にって言ってたくせに、絶対みんな、楽しんでる!)
呆然と立ち尽くす自分を余所に、お姉さん達はきゃっきゃと はしゃいだ声を上げている
「あと2〜3年してたら無理が出てくると思うけど、今ならその格好も違和感ないわ」
「嬉しくないよ!」
「ホントはリップくらいは塗りたいところよねぇ」
耳に届く数人のお姉様の冗談は半分本気に聞こえて、本当に化粧でもされてしまいそうで、キャスケットは慌てて
その場を逃げ出す
「ヘッドドレスもリストバンドも取っちゃだめよ。外したらお化粧しちゃうから」
後ろから聞こえてくるお姉さん方の言葉に ぎょっとしながら逃げるように掃除道具を納めている部屋へ滑り込んだ

(女中さん方は普通に着せ替えを面白がっているだけ)
だけど、奥方様は違う
こんな格好をさせられた自分の姿を嗤って楽しむつもりだ
(見つかったら また何を言われるか分かんないや)
ふう、と小さく溜息を零して、掃除に向かう
この時間なら旦那様はお仕事中のはずだから、書斎の掃除から手を着けよう
そう思って書斎に足を踏み入れ、よいしょ、と掃除に取りかかる
始めてしまえばキャスケットも仕事に熱中して 自分の格好なんて気にならなくなった
テキパキと棚の埃を拭い窓を磨いていくうちに、すっかり機嫌も戻っていたキャスケットは、かちゃりと聞こえた
扉の開く音も気にならず、綺麗に磨き上がった窓に満足して次の部屋に移ろうと くるりと体の向きを変えた途端、
あんぐりと口を開けた旦那様が自分を凝視している事に気付いて 声にならない悲鳴を上げた

「だ、旦那様?!」
なんで、こんな時間に書斎に旦那様が
(わ、わあああああ!見られた、旦那様に見られた!この格好っ)
逃げだそうにも扉の前には唖然と立つご主人様がいて、かといって身を隠す場所はソファの影か旦那様の
書斎机の下くらいしか思い当たらない
空拭き用の布を握り締めたまま あわあわと落ち着かないキャスケットに向かって、旦那様が質問を発した

「なんで、そんな格好をしてるんだ」
これは奥様のご命令で!――とは、流石に口に出す事は出来ない
「あ、あのっ、先程、過失で服を濡らしてしまって・・・」
今日はクリーニング業者の来る日だったので、替えが全てクリーニングに出されてたので、と しどろもどろに
答える自分を眉を顰めて眺める旦那様の視線が痛い
「制服でなくても、他にいくらでも服があるだろう」
「う・・・」
まだパニックを引き起こしている頭は良い言い訳を思いついてくれない
困ったようにあちこち視線を彷徨わせたキャスケットの方へ、旦那様が一歩、踏み出した
「妻が、何か言ったんだな?」
違う、と言えなくて キャスケットは困った顔のまま旦那様を見上げる
肩を掴もうとしていたらしい旦那様が、動きを止めて まじまじとキャスケットの顔を見つめた
「す、いません。 見苦しい格好をお見せして」
漸く、言うべき言葉を思いついて声を押し出しながら目を伏せる
恥ずかしい、という思いが自然にキャスケットの顔を俯かせた
「し、」
失礼します、と退室しようとしたのに、言葉が喉を出る前に ぐい、と肩を掴んだ手がキャスケットの体を引き寄せた

「ぁ」
気付けば、キャスケットは旦那様の腕の中に居た
あぁ、また、抱き締められている
ぼんやりする頭がその事実を確認するのに、いつもの優しいハグとはどこか違った荒々しい腕がキャスケットの頭を
旦那様の胸に押しつけるように締め付けていて 身動きできないその拘束が考える力を奪っていく
「旦那様・・・?」
力の入らない声が 主人を呼んだ
そのキャスケットの声で はっとしたように腕の力が緩んで体が離れる

目の前の旦那様が躊躇うように口を開くのと、キャスケットが「あの、」と声を出そうとしたのは同時だった
空気が喉に絡まる気がして うまく声が出ないのを焦れったく思いながら口を開いた2人が それぞれ譲り合うように
口を閉じてしまって、室内に沈黙が降りる
なのに、視線は逸らせないまま。
互いの顔を じっと見つめ合う



「何? あなた。・・・ペンギン。どうかなさったの?」
突然聞こえた奥方様の声で 2人を包んでいた空気が霧散した

自分を取り戻したのは旦那様の方が先で、「どうもしない。それより、キャスケットのこの格好はどういうことだ」と
奥方様の方へ歩いて行くのが見える
取り残されたキャスケットはというと、夢から覚めたような不思議な気持ちで まだ現実に戻りきれずに ぼんやりと
ご夫婦のやりとりを眺めていた
「キャスケット」
不意に自分の名前を呼ばれて、びくっと肩が震えてしまった
「あ、はいっ!」
慌てて居住まいを正したキャスケットを旦那様と奥方様の視線が絡め取る
「着替えてきなさい。自分の服の中で動きやすいものでいい。」
「表から目に着く作業は今日はしないようにしてね」
分かりました、と一礼して部屋を退室させていただく
部屋を出て行くまでずっと、奥方様の視線が背に突き刺さるように感じて 妙に体に緊張が走ってしまう
廊下に出て視線から解放されて キャスケットは大きく息を吐き出した
(・・・今のは、何だったんだろう)
いつもと違った旦那様の雰囲気と不思議にぴりぴりとしていた奥方様の纏う空気。
普段にも増してキツイ奥方様の視線はキャスケットの服装などもうどうでもいいと思っているのが感じられて、
その視線に追い出されるようにして部屋をでた

自分の出て行った室内で、何か起こるのではないだろうか。
そんな不安を感じながら キャスケットは着替える為に自室へと向かったのだった



それ以来というもの、奥方様からの当たりが少し和らいだような気がする
もしかしたら旦那様から厳しく言い含められたのかもしれないけど、それなら、奥方様なら却ってキツク当たりそうに思えた

代わりに、監視するような問い詰めるような視線が送られてくるので少し居心地悪く思いながら仕事に従事している
それでも以前よりは働き易くなったのには違いなかった

ただ、奥方様からいびられる事が少なくなった今、時折 旦那様の優しい腕を思い出して淋しいと感じるのだ
慰めてもらう必要も減って、それなら ハグが欲しいと思うのはおかしいのに・・・
そして、決まって奥方様の居ない時に感じる視線。
不思議に思って顔を向けると、そこに旦那様の姿を見つける事が多くて、その視線を感じると何故だか落ち着かない自分を持て余す
(・・・自分は一体どうしてしまったんだろう)
落ち着かないのに、その視線を嬉しいと感じるなんて。
(旦那様は、何を考えていらっしゃる?)
度々 自分をご覧になっているのは、どうしてだろう

そして、奥方様の、自分を見る警戒するような目。

入り込んではいけない迷路に足を踏み入れてしまったような、そんな予感をひしひしと感じながらもキャスケットは
抜け出せないでいる
(近いうちに、どうするのか、自分で決断しなくてはいけなくなるかもしれない)
その時が来たら――
流されることなく 自分の意思を貫けたらいい。

まだ、子供と呼ばれてしまう年齢で、行く当ても身寄りもない環境のキャスケットは 自分では逆らいきれない状況も
あり得るのだとよく分かっていて。 それでも、自分で悔いのない選択が出来たらと願わずにはいられなかった








 移ろう月

流転する運命に翻弄される光











展開の想像はご自由に。奥様の監視の目をかいくぐって思い切った行動に出るペンさんとか。昼メロ系展開が
お好みなら惹かれながらも互いに手を伸ばせず耐える2人? そしてしまいに切れた奥様が下男を使ってキャスを
襲わせてみたり、あやういところでペンさんが救ったり?あるいは間に合わない悲劇が起こった事からそれまで
耐えていたのにキャスに手を出してしまうペンさん・・・等、いろいろ展開できますよね←なのに書かないw 
どちらにしてもキャスケットをペンさんが意識しはじめた切っ掛けは奥様の意地悪が引き起こしたんだから自業自得。


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