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SS置場4
恋人達のキス L

時間軸は一本なのに現在進行形と過去語り形がまぜこぜ← あれ?現在進行形部分は回想という事で^^
ていうかコレが終わったら何か明るいの書きたい!飽きた!














「知ってるか?あの、窓際の。そう、金髪の小柄な奴。」

そんな声が耳に入って何気なく窓の方を見た
そこには、大人しそうな生徒が友人らしき数人と穏やかな笑顔で話していた

「ここだけの話だけどな」

近くの席で固まっているグループの噂話は続く

「あいつ、男のくせに、誰にでもヤらせるんだぜ」

"ここだけの話"に信憑性なんかない。
無責任な噂話にしても、男が男に抱かれるだなんてどこから出てきた話やら
元を辿ればほんの些細な出来事なんだろう
そう思って肩を竦め もう一度寝るかと腕に顔を埋めようとしたローの耳に、あり得ない声が聞こえて目を瞠る

「知ってる。あいつは、誰とでも寝る淫乱だ」

下世話な話を肯定する、その声の主は ローもよく知っている友人で
――こんな話を好んでするような奴じゃない
その、友人が。 ペンギンが、同意した事で噂に拍車が掛かるだろうと 寝ぼけた頭のどこかで考えながら ローは
珍しい事もあるなと友人の背中を眺めていた
話に加わったペンギンが何を考えていたかなんて、その時は気付くことも、ないまま。









(あぁ? あいつ。)
同じ学校の奴等とばったり会うなんてことのなさそうなホテル街。
大手振って泊まりにいけるような場所なんかじゃなくて、・・・その時ローがなんでそこに居たかは今は別問題なので
棚上げしておくが。
とにかく、割と有名な進学校の生徒にはお目に掛かることはないような、そんな場所でヤツに会った。
――こんなとこ、ふらふら歩いてるようじゃ噂になっても仕方ねぇ
ははぁ、つまり、誰かうちの学校の奴がここで見掛けた事があるのだろう
噂の真相なんてこんなもんだ、そもそもこんな場所を通るようじゃ噂にされても自業自得だ
それとも この場所を埋め尽くすケバケバしい外装のホテルがどんな類のものか知らずに歩いているのだろうか
あまりにも場にそぐわない見かけのクラスメイトを見たローはそう判断した
教えてやれば顔を真っ赤にして狼狽えてしまいそうな、そんな純情そうな同級生。
この先にそいつの用のありそうな場所なんかあったか?と地理をつらつらと思い起こしていたローの目の前で、
視界を横切って現れた男がクラスメイトの肩に親しげに手を掛けた

(あれは・・・同じ学校の奴だな。)
進学校でもやはりおちこぼれる奴はいる。 その中でも あまりいい噂を聞かない上級生の1人だ
(あんな奴と付き合いがあるようには見えないんだが)
肩に手を回されたクラスメイトは特別嫌そうな顔もせずに、何か話し掛けられてへらへらと笑っている
虐めというわけでもなさそうなその様子に、やはり知り合いかと興味を無くしたローが視線を他に向けようとしたその時、
ローの先を歩いていた2人の姿が消えた

いや、本当に消えたわけでなく、すぐ横にあったラブホテルの中へと消えていったのだが。
(・・・ホントかよ)
実際自分の目で見ておきながら俄(にわか)には信じがたい事実に思わずそう漏らしかけたローに隣から声が飛んでくる
「ねぇねぇ、今の見た? 男同士で入ってったね。やだぁ、ホントにぃ?」
こんな普通のとこじゃなくってもっとそっち系のホテルにしたらいいのにと腕にぶら下がった女が甘ったるい声で話すのを聞いて
自分が女連れだった事を思い出す
「まぁ、他人事、だよな」
いいんじゃね、別に。
興味の無さげにそう言って、それでもヤツとは違うホテルを選んだのは同じ学校の生徒と顔を合わせるのは面倒だと
考えたからだ。
こんなとこだ、滅多にバッティングする事もねぇだろ
ローはそう考えて、目先の楽しみを優先してクラスメイトの事は頭の隅へと追いやった





(・・・ところがだ。)
1度見掛けてからは弾みが付いてしまったのか 時折そのクラスメイトとかち合うようになってしまった
キャスケットという名前のそいつの噂は、ローが何を言う事もなくても相変わらず噂として陰で広まっている
これだけ噂になっていれば本人の耳にも入っていると思うのだが、そいつのご乱交は変わらないようだった。
乱交、というのは、ローの知る限りキャスケットの相手は複数いる様子だからで、初めに見た上級生とも あの後
数回見掛けていた。
・・・相手は誰でもいいのだろうか
自分も人の事は言えないが、喰う身と喰われる身ではまた意味合いが違う
そこまで考えて、ふと、初めて彼の噂を聞いた時の事を思い出した
『あいつは、誰とでも寝る淫乱だ』
そう言い切ったペンギンは、きっとキャスケットの乱れた男関係を知っている
知っていたところでそんな事を言いふらすような奴ではないのだが、ああいった事はペンギンには受け入れ難いかもしれない
キャスケットの相手が女であればまた違うのだろうが。
(好きで遊んでるんだ。放っておけばいいのに)
教師の都合で授業が自習になったのをいいことに校舎の陰で煙草を吸っていたローは、噂の当人が見知らぬ生徒に
連れられて歩いているのを見て起き上がった
「・・んだよ、あいつもサボりか」
それにしても、男連れ。
見覚えのない相手だということは上級生かもしれない
(まさかこんなところで逢い引きか?)
いくら何でもそれはまずいんじゃないかとローでさえも思った
「・・・・。」
まぁ、夜遊び仲間として、様子を見るくらいはしてもいいか

ローが2人の後を追ったのは 好奇心や興味からではなくて、どちらかと言えば手当たり次第のキャスケットを案じての事だった




「あ・・・の、・・・」
もう、授業が始まってるんですけど、という声が聞こえて、なんだ、やっぱり呼び出されたのかと気付く。
教室で友人と話す時のような元気な声じゃないのは相手が上級生だからだろうか
「いいじゃん。たにセンが急病で自習なのは知ってるぜ」
あの様子じゃ押し切られてしまうんじゃねぇのとローは陰から様子を覗った
腕を掴まれて困ったように少し身を引くキャスケットを、相手の上級生が引き寄せる
見た事のない顔だと思ったら、
「知ってるぜ。おまえ、相手は誰でもいいんだろ」 という声が聞こえてきて あぁ、知らないはずだと納得したローの目の前で
そいつは強引にキャスケットの肩を抱く
「・・・・・」
困った顔のキャスケットは肩を抱かれ、腰に手を回されて へらりと笑顔を浮かべた

それを見た瞬間、ローには分かってしまった
この顔は前にも見た事がある
(あの時は分からなかったが、あいつ、上手く断る事が出来ねぇんだ)
どうしてそう思ったのか、根拠もないのにローの脳は瞬時に そう判断した

今なんて、いくらでも断る理由はあるのに。
授業中だから。 或いは学校じゃ嫌だとか。知らない人間とはしないとか。
どうとでも切り抜けられると思うんだが、何をぐずぐずとして流されているんだ

「なぁ、いいだろ。ちょっとだけ」
抱き寄せて、今にも唇を奪われそうになっているクラスメイトは そうされて条件反射であるかのように瞼を閉じる
(嫌がってたんじゃねぇのかよ!)
ち、と舌打ちして、ローは物陰になっているその場所から声を掛けた


「キャスケット、そこに居るのか?」

その声に びくりと2人の肩が跳ね上がった
「キャス?」
さっきから探していたように、気心のしれた友人を装って名前を呼んで姿を見せる

擦れ違うようにして去っていく上級生の顔は見なかった
目に入ったのは 目を見開いて驚きを示していたクラスメイトの顔で、
そいつは ローの姿を認めると 「とら、ふぁるがー・・?」 とローの名前を呼んで、ふ・・、と
泣いているのか笑っているのか分からないような頼りない顔を作った




本人は多分笑っているつもりなのだろう
安堵したのか、それともクラスメイトにヤバイ場面を見られて更なる窮地に陥ったと思ったのかその顔からは読み取れない
だが、ローはそれよりも先に別の事を確かめてみたかった
「ふぅん。 誰でもいいって噂は、本当か?」
唇を歪めてそう言ってやる
キャスケットは何も答えずにローを見つめたまま立ち尽くしている
(・・・・立ち竦んでいる、とも言えるか)
近寄っても、彼は逃げなかった
距離を詰めたローに押されて、キャスケットの肩がぶつかったフェンスがかしゃんと音を立てる
くい、と顎に手を掛けて持ち上げると やはりキャスケットは黙って目を閉じた
(ここまでは、さっき見たシーンと一緒だ。 ・・・が、)
遠目から見ただけじゃ分からなかったが、触れているローの手に細かな震えが伝わっている

肩を掴んで身を離してみると、閉じられた瞼に生える薄い金の睫の先が ふるふると揺れているのが分かった

「・・・怖ぇんだな、おまえ」

ローの言葉で 閉じていた目が大きく見開かれる

「教室じゃ普通に接してるのに? あぁ、そうか。 男性一般じゃなくて、性欲の対象にされるのが怖ぇんだ」
「・・・・っ、」
言葉に詰まったキャスケットが強張った顔でローの手を払い退ける
身を翻した彼が無言で走り去るのを黙って見送ったローは、ポケットに入れたままだった煙草を取り出して火を付けると
ふー・・ と、空に向けて一筋の紫煙を吐いた



1本吸ったら戻るか。ここはあまりいい喫煙場所じゃねぇし
そう考えながら吸い終えた煙草を地面に落としたところへ、カサ、と音が聞こえる
目だけでそちらを見れば 神妙な顔のキャスケットが立っていた

「教室に戻ったんじゃねぇの」
吸い殻を土に散らしながらそう言うと
「・・・さっき、・・・ありがとう」
という声が返ってくる
「別に。 見てて、嫌がってんのが分かったから」
余計なお節介やいちまった
そう言ったのに、キャスケットは首を振って、嫌だったのは本当だから。助かった、ありがとうと生真面目にお礼を言って
少し躊躇った後 そろそろとローの傍にやってきた
驚いて逃げてしまったけど、トラファルガーって、そういうお節介嫌いだろ?なのに声を掛けてくれたから。
お礼の言葉と一緒に浮かんだ笑顔は今度は教室で見掛けるようないつものキャスケットの顔で、
「落ち着いたんなら教室戻るか。次の授業は抜けると色々煩ぇし」
ローのその提案に、キャスケットは笑顔で肯いた





互いに無関心だった2人が関わったのはそんな経緯で、その後 2人はゆっくりと距離を縮めていった
知ってしまえば、ローの方も危なっかしいキャスケットが気になったし、キャスケットも 誰にも言えずにいた事に
気付いたローに気を許していたから。
2人が親しくなっていくのは、ごく 自然な事だった


何がそんなに怖ぇ

そう、聞いてみた事がある

・・・押さえつける手だとか。ギラギラする目とか。

キャスケットは目を伏せて 彼等の行動を思い出すようにしながら ぽつりと答えた後、少し時間をおいて
ローの名を呼んだ

俺、ね。子供の頃。・・・・・父親に。・・・押さえ込まれた事、ある。

彼は つっかえつっかえ、それだけを話した

父さん、酔ってて、さ。

彼は詳しくは話さなかった。酔ってて、と付け加えて 言葉を切る
それだけで十分だった
キャスケットに何が起こったのか 全てを聞かなくても彼の感じている恐怖の一端は予想できたし、
言葉に出来るものでもなかったのだろう。
子供の頃に植え付けられた恐怖心は、その後の彼から抵抗する力を奪い、逆らえないまま今日まで来てしまった

黙ってキャスケットの肩に手を置く

・・・怖いか

自分の手は 怖いかと聞いたローに キャスケットが首を振ったので、彼の肩を抱いたまま自分の方へと引き寄せた

されるがままにローの肩に頭を預けたキャスケットは 一筋、二筋と涙を流して、ローの腹あたりのシャツを握っていた
噛み締めた唇が痛々しく見えて ローは前を見つめる彼の顔をこちらに向け 静かに唇を重ねた

長く付き合いを続けていた2人の、初めてのキスを キャスケットは黙って受け入れる

怖がっている様子が無かったのは ローのキスが慰める色合いが大きかったからだろう
欲に駆られての行為ではなく 気持ちが優先してのキスは キャスケットには初めてだったようで
いつしか想い合うようになった2人が体を重ねた時も 彼は怖いとは言わなかった
互いに相手との距離を埋めたくて触れ合うセックスは初めてだと恥ずかしそうに身体を開いたキャスケットは
それがこんなに気持ちのいい事だと知らなかったと言って止めどなく溢れる想いのままに素直に声を上げて絶頂を迎えた

俺、ローと出合わなかったら、身体を合わせる喜びを知らないままだったろうなと言った後、少し照れ臭そうに、でも
幸せそうに笑ったキャスケットを込み上げる思いのまま抱き締める
色々と辛い体験をしたはずなのに素直な彼が愛しくて もっと喜びを教えてやろうと思った。
こいつは これからも自分の傍に居ればいい。そうすれば、いつまでも笑わせてやる

「セックスの気持ち良さなんて想いの深さで変わる」
そう言ってみたら、笑顔のキャスケットに 愛してるよと言われたので なんだか堪らなくてもう一度抱いてしまった
遊び慣れた自分が何度も欲しいと思うくらい愛しい相手を抱くのは ローにとっても初めてだった





余談だが、初めに噂を聞いた時のペンギンに感じた違和感の正体は2人が付き合い始めて暫くしてから判明した。
キャスケットには秘密にしているが 1度、ペンギンにキスの現場を目撃されてしまった事があった

その時の彼の表情で気付いたローは ああ、確かキャスケットと親しくなった切っ掛けもそうだったなと思いながら、
後にペンギンと会話を交わした

「おまえ、あいつのこと、好きだったんだな」

「・・・違う」

否定するペンギンを問い詰めはしなかったが 彼も自分の気持ちに気付いているのだろう
それをわざわざ指摘しても誰の益にもならないのだからとローもそれ以上聞かなかった
そういえばキャスケットからペンギンは幼馴染みだと聞いた事があった、と思い出す。
長ずるにつれて親しく付き合う事はなくなったけど、きっと俺、呆れられてしまったんだと淋しそうに話していた

(ペンギンは、こいつなりにキャスケットを信頼していたんだ)
なのに、噂通り、男に連れられてホテルへ消えていく姿を目撃して――
(それも、一度や二度じゃなく)
そのたびに、傷ついたんだろう
こいつは 裏切られたように感じたのかもしれない

キャスケットが 本当はそんな行為を嫌がっていて、助けを求める言葉も言い出せない程怯えていた事に彼は気付かなかった
信用するとかしないとかじゃなく、それだけペンギンのショックが大きかったんだなとローは考えた

「・・・1度、面と向かって責めた事があるんだ」

あの時 キャスケットは理由も聞かずになじった俺をどう思った。
へらへらと笑っていた陰では、本当は助けを求める涙を流していたというのだろうか
俺が 信じてやらなかった事は、彼をどれだけ傷つけた?

「彼を、あんなにも、投げやりにさせてしまったのは、俺・・・なのかもしれない」
苦々しい顔でそう言ったペンギンの言葉は否定する
「違う。あいつは別に投げやりになってたわけじゃねぇ」
怖かっただけだと言ってもペンギンの罪悪感は薄れないかもしれないが、悔いているなら行動すべき事は決まっている
「けど、寂しがってた。あいつは今もおまえに呆れられてると思ってる。余計な事は言わなくていいから話し掛けてやれ」

ローの後押しが利いたのか、暫くすると キャスケットとペンギンが話している姿を教室で見掛けるようになった
彼等が話し合ったのか それとも自分の言ったように何も触れずに元通りの位置に納まったのかは知らない
必要を感じれば話し合うだろうし、聞いて欲しければそのうち話してくるだろう
気付けば3人でつるむ事も増えた自分達は この春 同じ大学に進学する
(そのうちの2人が出来上がってるとは周りは思ってないかもしれないが)
ローとペンギンを友人とした事でキャスケットの周囲をうろついていた不穏な連中も手を出してこなくなったのは
思わぬ福音だが、どちらにしろ良からぬ輩は払うつもりだったから幸運だったのはそいつらの方だ

――もうすぐ四月。
「あとちょっとで 卒業、だね」
肩を抱かれても知り合った頃とは比べものにならない程穏やかに笑うキャスケットの唇に 掠め取るようなキスを落とした








(ちょ、こんなとこでっ!!)
真っ赤になって慌てるキャスケットの背後で おまえら 場所を考えろ、とペンギンが苦笑していた


 恋人達のキス










文中で書いてませんが父親からはイタズラされた程度だと考えてます。次回更新はペンキャス予定。でもきっと不憫。



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