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SS置場4
破戒 L
ロキャスでこういう定番のベタ展開の話やるの久しぶりな気がする。久しぶりで楽しかった´∀`












「船長、少しいいですか」

言葉は丁寧ながら、船長室に入ってきたペンギンからは静かな怒りが感じられた

用件は分かっている。
昼間のキャスケットへの態度に関して一言なりと言いたい事ががあるのだろう

だが 自分を慕ってくるクルーにすげなくしたところで別段文句を言われる筋合いがあるはずがない

(寧ろ 親切じゃねぇか。 あいつの気持ちに応えるつもりはないって、はっきり意思表示しただけだ)

いいとも答えていないのに既に話をする体勢のペンギンを面倒臭そうに眺めるローが無理に追い出さないのは、
自分の態度で気落ちするキャスケットの様子に多少の罪悪感でも感じたからか
(いっそ、あいつの事はおまえに任せると放り投げてしまうべきか)
ローの中にある迷いが いつもと違って煩く小言を言うペンギンをきっぱりと拒絶させないのだろう

「・・・何だ」
小さく溜息を吐いて聞く姿勢を取ったローへとペンギンが詰め寄った

「分かっているんでしょう。・・・キャスケットの事ですよ。あれだけ真っ直ぐに想われていて どうして応えてやらないんです」
予想通りの諫言をつのる部下に向かって 片眉を上げて余裕の表情を作る
・・・意識して作らなければならないなんてことは、ここ数年来無かったのだが、と我が身を振り返る余裕くらいはローにもあった。
その装いがどこまでペンギンに通じているかは分からないが こいつの方とて頭に血が上っているようだから
もしかすると気付いていないかもしれない

「無茶言うな。いくら相手が健気だからってこちらの気持ちが動くとは限らねぇ」
正論を突き付けてやったつもりだが、それは更にペンギンの怒りを煽る結果になったらしい
普段はそんなに感情を顔に出さない部下が思わずのようにムッとした表情に変わる
「耳障りのいい言葉で誤魔化さないで下さい。貴方だってあいつの事が気になっているんでしょう」
激昂する感情を隠そうともしない ペンギンにしては珍しい様子を眺めながら どこか他人ごとのように考える
("気になっている" とは随分お上品な言葉を選んだものだ)
この怒り具合では "あんただって惚れてるくせに!"と口汚く罵っても不思議はないのにペンギンは控えめに表現した

はっきりと指摘すればローが違うと否定すると考えたのかもしれない
(それくらいでムキになるつもりはないが、言われてみなければわからねぇか)
キャスケットに関しては今ひとつ、自分の思うように感情がコントロール出来ない事は、ロー自身 とっくに気付いている

だからこそ、応えられないと思った

懐いてくるキャスケットを奴の好きにさせているうちは良かった
素直な部下はローに少しからかわれただけで顔を真っ赤にして動揺する。 思わせぶりに肩を組み、ピンクに染まる耳たぶに
唇を寄せてのひそひそ話に 触れているキャスケットの心拍数がしゃれにならないほど上がっているのを面白く観察し、
気紛れで与えた本があいつにとって宝物かという程嬉しそうに受け取る様子を眺めたりしている間は ローも彼の気持ちを
くすぐったくも嬉しいと考えていた
(自分の、手のひらの上で転がして。それでも慕ってくるのを愛でるだけで満足していられれば良かったんだが)
それまでローは自分は物欲が薄いと思っていた
だから、恋愛の対象にしてもいいかなと思った相手に対して 自分でも意外なほどの執着心と独占欲があると気付いた時には
これはまずいかもしれないと考えた

(あいつの気持ちは、真っ直ぐ過ぎる)

自分の性格は把握してるつもりだ
1度、手を出したら。
――キャスケットを壊してしまうまで放してやれないかもしれねぇ
指先の一本、髪の毛の一筋すら自分のものにして。キャスケットがローの事しか考えられなくなるまで追い詰めて
支配しなければ気が済まない。
骨の欠片になるまで喰らい尽くして、それでも尚、止まらないかもしれない危うさを感じる


「てめえだって わざわざ余計なお節介をここまで言いに来るくらいだから、あいつの事は憎からず想っているんだろ。」
答えを返さないローに焦れたように睨んでいたペンギンが 虚を突かれたように黙り込む
その隙を突いて、少し前から考えていたその一言を言い放った

「そんなに大事なら おまえが大切にしてやればいい」

「な・・・っ!」
あんた正気か!? とでも言いそうな勢いでペンギンが目を剥く
言われたこいつは意外だろうが、暫く前に思いついたそれは 機会があれば言ってやろうと思っていたのだ

ペンギンの方が自分よりもずっと彼を大切にするだろう。 ローと居るよりも その方がキャスケットも幸せになれる。
その考えは至極真っ当に思えて また、思いついたと同時に少し苛立った
だからこそ こうして面と向かって言うまでに少し時間が掛かってしまったのだが。

ギリ、とペンギンが奥歯を噛み締める音が聞こえた
貴方は何も分かっていない、と その目が雄弁に物語って我が船のキャプテンを睨んでいる

その目を平然と見返して、自分はキャスケットの想いに応えるつもりはないと意思表示するローを睨め付けながら
ペンギンがその口を重そうに開いた

「貴方が要らないのなら俺が貰う」
・・・それで、いいんですね、と念押しするのは ローが前言を覆すのを望んでいるのだろうか
(本当は望んじゃいないのに、だ。それだけ、あいつが大事だって事だろ)
だったら 間違いない。 キャスケットはこいつを選べば幸せになれる



言葉を発する気配のないローを見て これ以上話しても無駄だと感じたのだろう
或いは 日を置いてまた何か言ってくるつもりかもしれないが、残念ながらローには2度とこの話を蒸し返すつもりはない

まだ言い足りなさそうにしながらも 失礼します、と口の中で呟いて出口に向かったペンギンが 少しは冷静さを取り戻したのか
それまでの荒々しい動作を抑えて静かに扉を開いた



「・・・?」
出て行くはずの音がしない
そんなところで何を躊躇っている、もう話を続けるつもりはねぇぞと言ってやろうとして扉に目を向けたローは
ペンギンの背中の向こうに人影が見えて眉根を寄せた

「きゃす・・・」
仲間の名前を呼びかけたペンギンの声が半ばで途切れる

彼の目の前、船長室の扉の前には 両の目を大きく見開いたキャスケットが 身を隠す事も出来ずに立っていた










綺麗すぎて、受け止めきれなかった彼の真っ直ぐな想い。
自分にはない美点を持つ彼を汚して破壊し尽くしてしまいそうで――

本気になったと気付くと同時に、手のひらを返すように冷たくした
キャスケットが 自分の傍に居る事を諦めるようにと 気のある素振りも可愛がる事も全て止めて
・・・想いを、隠して



考え込んでしまったローと 思いがけない訪問者に話を聞かれていた事に固まるペンギンの間で沈黙が降りる。
誰も動かないと思われたその部屋で、最初に行動したのはキャスケットだった

"ペンギン、悪い。俺 キャプテンに話があるから"
声が聞こえたと思ったら 仲間のクルーの脇を擦り抜けて室内に入ってくるキャスケットは 許可のない入室を咎める事も
出来ないほど真剣な顔をしていた
普段は控えるべき時は控えめに振る舞う彼が 強い意志を漲(みなぎ)らせて立つ姿は 並々ならぬ決意が滲み出ている

自分は口を出すべきじゃないと感じたのだろうペンギンが黙って船長室を出て扉を閉めた

それを確かめる事すらしなかったキャスケットは ローの目の前に立ち しっかりと視線を合わせている
何か声を掛けるべきかとも思うが、彼がどういうつもりでいるのか計りかねたローは言葉を選べずに
キャスケットの目を見返していた

微笑もうとしたように見えたキャスケットは、結局、いつもの笑顔を浮かべることなく決意の滲む唇を動かした
「船長。」
真剣な声で呼ばれて 無意識に彼の言葉に集中する

今度は笑う事に成功したキャスケットが 出来るだけ感情の高ぶりを抑えたような声で言った

「俺はそんなに弱くありませんよ」


思いがけない言葉に目を瞠ったローの元に キャスケットが一歩近づく
先の一言を告げた彼は もう自分の感情を抑えるつもりがないのか、すぅ、と1度 息を吸い込んだ後は怒濤のように
言葉を紡ぎ始めた
「だいたい!俺の方がキャプテンよりも、ずっとずっと貴方の事を好きなんですよ!気持ちの大きさじゃ負けません!」
あっけに取られるローの前で、息継ぎの時間を見せずにキャスケットの唇が言葉を続けていく
「これ以上惚れようがないくらい、貴方の事であたまがいっぱいなんです。少しでも俺を気遣う気持ちがあるなら
拒絶しないで下さい。今だって、俺は既に貴方が居ない毎日なんて考えられないのだから・・っ」

俺から貴方を好きだという気持ちを奪わないで


そう言って胸に飛び込んで来たキャスケットを反射的に受け止める
強気な事を言ってはいても、ローに拒絶される恐れは否めないのか 抱きついてくる彼の体は小さく震えていて

――ダメだ。 手放せねぇ

目を閉じて考えたのは一瞬で、
次の瞬間、キャスケットの背に腕を回したローは 力一杯彼の体を抱き締めた











(あー・・・。 今、何時だ)
漸く、互いの気持ちの通じ合った2人は そのままベッドへと縺れ込んだ
離れようとしていた反動で これでは駄目だと思うのに彼の身体を貪るのが止められない

キャスケットの方も 拒絶するつもりは全くなかったのだろう
初めての経験に緊張する身体から出来るだけ力を抜こうと努力している様子が覗えた
それを気遣う余裕すらなく ひたすらにキャスケットの声を上げる部分を攻め、最後にはもうぐちゃぐちゃで何も分からない有様で
声を上げるキャスケットと体を繋げた
多分、それなりの痛みを彼には与えてしまっただろうけど、それだけでもなかった事は絶対だ
ローだけでなく、キャスケットも 何度も熱を噴き上げ終いには声も出なくなるほどたくさん喘がせた

最後には気を失うに近い状態でシーツに沈んだキャスケットは それでも満足そうな顔で眠りについた
そのキャスケットを腕に抱き締めているうちにいつの間にかローも眠りに落ちていたらしい

やべぇ、後始末もせずに寝ちまった
そう思って起き上がろうとしたら 寄り添うように眠っていたキャスケットの目が開いてローを見ているのに気付いた

「起こしたか?」
掛け布からはみ出しているキャスケットの 少し冷えている肩を手で覆う
そのまま自分の方へ引き寄せると、この部屋に入ってきた時の気負いも、2人で抱き合った時の必死の情熱も
脱ぎ捨てたキャスケットが穏やかな顔で微笑んで首を横に振った
ローの胸に凭れるようにして腕に収まる身体の温もりが心地いい。
誂えたようにぴたりとローの隣に嵌ったキャスケットが気持ちよさそうに息を吐いて口を開いた
「ねぇ キャプテン。さっき、俺を壊してしまうかもしれないっておっしゃってましたけど、
俺の方が貴方を壊してしまうかもとは考えなかったんですか」
ピロウトークに適切な話題ではないかもしれないが、語るキャスケットの顔が幸せそうだからいいとしよう
そんな事を考えながら、事後の気怠い倦怠感が思考力を奪うに任せて言葉を舌に乗せる
「壊せるものか」
おまえに俺が? と小さく苦笑を浮かべたローに甘えるように擦り寄ったキャスケットも、くすくすと肩を揺らしている

「だって、キャプテン。」
少し上体を起こしてローの顔を覗き込むようにして 出来たての恋人の滑らかな唇が動くのを眺める


自分の欲しいものを他人に譲ろうと考えるだなんて、トラファルガー・ローのアイデンティティーが崩壊していませんか?



楽しい悪戯を思いついた子供の顔で笑う愛らしい船員に一本取られたなと朗らかな笑い声を立てながら、
(堪んねぇ、こいつ可愛い)
もう一度彼を引き寄せ、その悪戯な唇に喰らい付いた








 ままごと遊びのような恋を始めようか

甘い砂糖菓子も悪くない 
すれっ枯らした自分でもそう思うくらい、彼といると初々しい感情で満たされる




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あきゅろす。
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