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SS置場4
転校生8 (L視点)
転校生シリーズ、前回分のロー視点。キャス視点をなぞっているので少々端折っています。ベタです←












「珍しいな、おまえがこんな物欲しがるなんて」
「俺のじゃねぇよ」

友人がそう言うのも不思議はない
なにせ、料理などするはずもないローが普段来ることのない店内で選んでいるのが"調理道具"なのだから。
探している目的の物は、『魚の身おろし器』とでも言うのだろうか、どうにもうまく三枚下ろしが出来ないというキャスケットが
ハンズの便利調理器具に、"それ一つで皮剥ぎから骨抜きまで、やりにくいイカの皮剥ぎまで誰でも簡単にできる" という
調理器具があるらしいと聞きつけ欲しがっていて、今度買い物に行こうと誘われていたのだ。

誘われていたのに 一人で来たのには理由がある
――数日後に、キャスケットの誕生日がくる
欲しがっているものを既に知っているのだから、ならば誕生日の贈り物にそれを選ぶのは当然だろう
別に他の物をやっても喜ぶのには違いないのだが どうせなら本人が必要としていて普段から使うものがいい。

そう思って 久しぶりにサボったついでに 友人が珍しがるほど滅多に来ない場所へと足を延ばした

いつもは仲間内で誰かに誘われた時くらいにしか来ないのだが、売り場がどこかくらいは知っている
・・・が、話に聞いただけの器具が発見できるだろうか
店員にでも聞くかと店に入ろうとしたローは、丁度、店の前で 食が趣味、というかむしろ生き甲斐の友人と遭遇した。
喰うのが好きで、それが高じて自分でもそこそこ料理をする友人(ただし、味見と称して作る度に次々口に放り込むので、
今のところ彼女の手料理をローが口にした事はないのだが、風の噂によればレパートリーは相当あるらしい)だから、
欲しい物を探すには最適な人選だ

「ジュエリー屋。」

そのうちキャスケットにも会わせてやろう
こいつの気っ風の良さは仲間内ではダントツで、見かけは綺麗な女のくせに中身は非常に漢前だ
キャスケットと話していたらどっちが男か分かんねぇ、みたいな会話になるかもな
料理が趣味になりつつあるあいつとは丁度話も合うかもしれない。
そう思いながら声を掛けたローを振り返って、「おっす、久しぶり!」 ボニーが にかりと笑顔を浮かべた





「魚を下ろす道具っつーと、出刃包丁か鯵切り包丁? あと、うろこ落とし・・・あぁ、こいつ、便利そうだ。これひとつで
骨抜きまで出来る。 そいつ、料理の腕はどんくらい? 捌き慣れてないんならこれが良さそうだけど」
初心者向きの便利グッズだなと手渡された器具を眺める
快く買い物に付き合って店に舞い戻ったボニーは、さくさくといくつかの調理道具を手に取って並べた後、最後に
妙な形のハサミのような物を追加した
「こいつは包丁って感じじゃないけど、こうやって身を剥ぐんだ。ここで挟めば小骨も取れるし、初心者にはもってこい。」
「多分これだ、欲しがってたやつは」
友人の太鼓判付きのその商品を手に取って、さっさとレジに向かうローの後をボニーが苦笑して追いかける
「相変わらず、他には興味ないんだなぁ」
欲しい商品のついでに売り場を見て廻るのが好きな人間は多いというのに、てめえは目的のものしか見ちゃいねぇな。
まぁ、自分で料理をしない人間には無用の長物か? と、すでに自分の買い物を終えていたボニーもすんなりレジへと向かう。
なんとなく、流れのまま連れ立って並んだボニーは、寧ろローよりもキャスケットに興味が湧いたらしい
「そいつ女?」
「いや、男」
「ふぅん。 珍しいな、料理が趣味っての」
レジのすぐ傍の売り場の食器を眺めながら、ボニーが選んだ話題はキャスケットの事だ
「趣味っつぅか、必要に迫られてやってたのがいつの間にか・・って感じだな」
興味ありげに詮索してくるボニーを、こういうところは普通に女らしいよなと思いながら質問に答えていると、
珍しいっつったらトラファルガーがわざわざやる物を買いにハンズに来る方が珍しいか?とボニーが豪快に笑った
「普段恩恵にあずかってるからな。 たまたま、もうすぐ誕生日だって知ってたし」
そういえば欲しがっていたものがあったと思いついたら、渡してやりたくなった
きっとローがそんなものを用意しているだなんて思ってもないだろうキャスケットは、目を丸くして驚いた次の瞬間、
めちゃくちゃ嬉しそうに笑うのだ。 弾けるような笑顔で ありがとうと飛びついてくるような気がする
「今時珍しいくらい素直な奴だからな」
なんでもすぐに顔に出るし、その分、キャスケットの笑顔は油断しているとストレートに胸に入ってくるくらい、真っ直ぐに
気持ちを伝えてくる
「周りが一癖も二癖もある連中ばかりだから余計にあいつの素直さが際立つ。あぁ、女ウケはいいタイプだから
おまえも気に入るだろうぜ」
「相当気に入ってるんだな、おまえ。あぁ!そういえばペンギンから聞いた事ある。"ローのクラスメイト"って、そいつだろ」
「女ウケがいいって、そいつイケメン?」
うきうきと聞かれて苦笑しながら そういうタイプじゃねぇなと教えてやる
「ペンギンも気に入ってたみたいだし、今度紹介しろよ!」
遊ぶんなら誘えよな〜と、海へ連れていかなかった事を言ったらしいボニーに手を上げて
「あぁ。おまえは気にしねぇだろうけど、女も一緒だっつーと気を遣うだろうと思ったんだ。あいつらともまだ親しく
なかったしな。今度集まる時は声を掛ける」
そう言うと、大きく肯いたボニーが 楽しみにしてる、と 白い歯を見せて笑った








次の日 教室に入ったローは違和感に首を傾げた
何か妙だと思えば、顔を合わせれば真っ先に笑顔でおはようと声を掛けてくるキャスケットが、ローの登場にも気付かず
ぼんやり宙を見つめて座っていて、カタン、という隣の席の椅子を引く音も耳に入っていない様子で はぁ、と溜息を吐いている
魂の抜けたようなキャスケットに周りの席の奴等も不審そうな顔をしていて ローが登校する前から こんな様子なのだろうと
当たりを付けた
"キャスケット、どうしちゃったの" と問い掛ける目線がいくつかこちらに向けられているが、昨日丸一日会っていないローに
分かるはずもなく、自分の居ない間に何かあったのかと探りを入れてみる
『昨日どうだった。小テストとか宿題とかあったか?』
そう尋ねてみても、キャスケットはまだぼんやりしていて、よく見ればいつも健康そうな目元には うっすら隈が浮いている
他の生徒に小テストの存在を指摘されても思い出せない様子の友人を見て
(こりゃ相当重傷だな。 昨日、何があった)
そう思いながら 目の下の隈を指摘しながら顔を覗き込んだら、キャスケットは ふい、とローから視線を逸らせた

(あ? 何だ? "俺"か?)

キャスケットはといえば、ローの疑問に満ちた視線を感じるのか、冷や汗たらたらといった様子で何かもごもごと
口を動かしているものの 意味を成す言葉が出てこずに焦っているのが手に取るように分かる
(・・・やれやれ。)
内心溜息を吐きながら ぽん、とキャスケットの頭に手を置く
こいつの様子がおかしい原因が自分だとしても 何か言うべき事があるならキャスケットは ローに面と向かって
きちんと言ってくるはずだ
大した事ねぇなら昼には元に戻ってるだろうと様子を見る事にして、
「授業だ」
そう言ってやれば、キャスケットは慌てて教科書やノートを取り出した





(昼になっても変わりねぇ)
朝から挙動不審だったキャスケットは、弁当を広げたまま 碌々料理に手をつけやしない
寝不足で食欲がないのかと聞けば、違うと首を振って、少し考えるような仕草を見せた後、待って欲しいと言われた。
どうやら自分でも己の変調をうまく理由付け出来ずにいるようで、それなら問い詰めても無駄だろうと鼻を鳴らす
キャスケットが答えを見つけるまで聞いても無駄だと判断したローは、自分が原因ならちゃんと自分に言えよと
念押しして引く事に決めた。
普段通りの態度で接してやれば、キャスケットは ぎこちないながらもいつも通りに振る舞おうと声を張り上げる
(別に無理しなくてもいいのに)
だが これもキャスケットなりの気遣いだろうと調子を合わせてやれば、漸く普段のような笑顔が浮かんできて
(まぁいいか)
思った以上に友人のこのえがおを気に入っている自分に内心苦笑しながら、さっさと調子を戻しやがれと
キャスケットの足を蹴飛ばした

そんな感じの一日の授業が終わって、帰る時の事だった
明日はこいつの誕生日だった、自分の知らないうちに買っちゃいねぇだろうなと確認するつもりで何気なく聞いた言葉で
キャスケットの様子が変わった
朝と同じ、いや、朝以上に落ち着かない様子で、明らかにおどおどしながら 『行ってない』 と言う
この反応は何だ? 普通に考えりゃ、行った事を隠してるようにしか見えねぇんだが。
だがキャスケットは再度確認しても 行ってないと肯く
そのくせ、必死にローと視線を合わせる事を避けている
(いや、どっちなんだよ)
口じゃ否定してるが態度は肯定してんぞ、と問い詰めようとしたローの目の前で、
「キラー!!」
キャスケットが突然、大声を出した

"ちょっとキラーに用があって" と慌てたように言って駆けて行く後ろ姿を唖然と見送る

なんだ今の。
逃げたようにしか見えねぇ
・・・ってか、もしやキラーに相談するつもりか、あいつ。

ちらりとキャスケットが振り返った動作から一拍おいて、ムッとした顔に変わったのが自分でも分かる
(てめ、俺を差し置いてキラーに向かうとはいい度胸じゃねぇか。言っとくが俺は独占欲が強ぇからな!)
腹立ち紛れに そう考えて、ふと、ローは思い直した
自分はそんなに独占欲が強かっただろうか。
確かに受け入れた相手には親身になるが・・・・仲間内で、独占欲――?
(・・・違ぇ。 そんなこたぁない)
気付いたローは あっさりとソレを認めた

「いつの間にか、"こいつは俺のもんだ"と思ってたんだな」

誕生日に物を贈るだなんていう気紛れを起こしたのも、相談相手にキラーを選んだ事にむかつくのも、そういう訳だ

気付いてみれば キャスケットに接する態度も 自分にしては妙にあいつにだけ甘いのも納得がいく
「まぁ、今更自覚したところで変わりねぇか」
態度を変えるつもりなんか一欠片もないローは、自覚したってこれまで通りだ、と口角を引き上げた
『付き合い初めのカップルみてぇ』 と言い当てたキッドの言葉が正解なのは少々癪に障るが、ああいう野郎の勘は
普段から馬鹿に出来ねぇからなと思い直す
(なら、あいつも同じって事か?)
無自覚かもしれねぇけどな、と くすりと笑いが零れる
気付いたキャスケットがどのくらい動揺するのか、想像してみるだけで面白い
「あいつもそうだというなら、逃がしゃしねぇ」
取り敢えずはキャスケットが自分で気付くまで 余計な虫が付かないように目を光らせるくらいはありか? と
考えながら帰路に就いたローは、結局キャスケットが既に買ったのか確認しないまま渡す事に決めた






「おはよう!」
翌朝のキャスケットは昨日と違い、元気な様子で声を掛けてきた
あれからキラーに相談した結果かと思うと若干いい気はしないのだが そんな事で苛ついても仕方ない。
キャスケットの方から昨日の話題を振ってきたのを切っ掛けに、先日購入した調理器具を彼に手渡した
受け取ったキャスケットは、思った通り 顔中で喜びを表してローの手をぎゅっと握る
買った経緯を話せば、どうやら彼はそのローとボニーをどこだかで見掛けたらしい
ははぁ、昨日の態度はそれが原因かと、ピンときてそれを口にしたら、ものすごい勢いで語尾をもぎ取られた
必死で誤魔化そうとするキャスケットをからかうのも楽しいのだが、今は苛め過ぎない方がいいとローの勘が告げている。
それに加えて、焼きもちだと思えば彼の反応が可愛く思えて口元に自然な笑みが浮かんだ

そのローに、ちらりと視線を流したキャスケットが妙に慌てた様子で、それでも丁寧に鞄に包みを仕舞うのが
微笑ましくて、ぽん、と肩を押して通学を促す
昨日と違って 自然に並んで歩き出したキャスケットが、
『・・・ホントは、さ。 彼女かなって思って、びっくりした。』
そう 本音を漏らした後、やっぱり、誤魔化すように礼を言って笑った顔がいつもより輝いて見えて思わず目を細める

(その笑顔に免じて誤魔化されてやるよ)
今度ボニーを紹介してやると約束して、キャスケットの髪を掻き回したら 彼は 一層嬉しそうに笑って、
学校に向かう歩みを少しだけ、ゆっくりに緩めた





こいつが認めるまで待ってもいいか、なんて甘い事を思ったのは、


 この笑顔を曇らせたくなくて

そう考えたのは、似つかわしくないほどの純粋な思い














ローサイドをどうするか迷ってたのですが、結局気付いたのはほぼ同時期という事になりました。流れで。
ハンズで何を買ったか決めてなかったから慌てて決めた!これ、本当に売っている商品です。ボニーちゃんの
口調は あんまり女の子っぽい言葉使いじゃありません。ゾロと話してた口調ってこんなのだったような気がした
のですが、みなさんのイメージと違ったらごめんなさい!そし漢前だと思うの。それもあくまでも自分のイメージ。



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