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SS置場4
転校生7 (L)


「・・・それで?」
結局何を相談したいんだ、と最後まで聞いたキラーは続きを促した
起こった出来事を聞いた限りでは キャスケットの相談内容についてはいくつかの予想がつく。
つくだけに、一体どれを自分に聞きたいのかキラーには判断できなかった

「なぁ、俺、彼女とのデート現場見ちゃったの、ローに言うべきかな?」
・・・そこか。
予想の中では一番核心からほど遠い部分を上げられて、指摘してやるべきか否かキラーは迷った
「それは置いといて、」
「置いとくのかよ!」
すかさず口を挟まれて思わず苦笑する。
わざとじゃないのだろうが、無意識にキャスケットも結論を避けているのだろう
多分、自分じゃ気付いちゃいない
いないが故に 己の動揺の理由が分からず、対応にも戸惑っている。
(だけど、どこかで分かってはいるのだろう)
気付きたくなくて無意識に目を逸らしている
もしかしたら、彼からすればその結論は想像すらしていない類のものなのかもしれない

「いいから聞けよ」
落ち着け、と諫めるようにキラーに言われて、キャスケットも妙に焦っている自分に気がついたのだろう
困ったように眉を下げ、一つ息を吐いて椅子に深く座り直した
「・・・ん。 ごめん、何を焦ってるんだろ、俺」
「今から俺が質問する事に正直に答えていけば、相談しなくても自分で答えに辿り着く」
「・・・そうなの?」
そうなんだよ。 自分でも分かってるから俺の話を聞くのが怖いんだ
胸中でそうつっこみながら、キラーも居住まいを整えた
自分の話し方次第では、キャスケットは否定してしまうかもしれない。 そもそもキラーが指摘してしまっても
いいことなのだろうか、と若干迷わなくもないが 彼の方から持ちかけてきた相談なのだ。
多分自分一人では結論に辿り着かないと、キャスケット自身も気付いている
「まず、ローと一緒に居た女だが、」
一呼吸置いて そう言っただけで、キャスケットは ぴくりと肩を動かした
顔にも緊張が走っていて、・・・自分がどれだけ意識しているのか キャスケットは気付いているだろうか
「俺も知ってるヤツだ。 学校は違うが、割と有名人だな」
「・・・ふぅん、そうなんだ」
複雑そうな顔で相づちを打つキャスケットの表情は冴えない
「おまえ、あいつを見てどう思った? 後ろ姿だけでも目立つやつだろ?」
試しに話を振ってみると、初めに言ったキラーの言葉を忠実に守るつもりなのか、キャスケットも口を開いた
「ん。 すっごい目立ってた。スタイルも良くて、動作も切れが良くてハキハキしてて、顔は見てないけど、きっと美人だろうなって」
ハンズで見掛けたローの連れ、ボニーに関してはすらすらと言葉が出てくる
キャスケットの評価は正当で、確かに彼女はキラーから見ても人目を引く美人だ
「正解だ。結構綺麗な顔だぞ。機会が在れば見てみるといい。 それで、2人が並んだところを見て、どう思った?」
今度の質問には、キャスケットは 眉を寄せて考え込むような仕草をした
1度、開きかけた口を噤んで、再び開いた彼の声はさっきと違ってトーンが低い
「お似合い、だなって、・・・思った」
それきり、キャスケットは言葉を発しない
「それで、彼女だと思ったんだな。 どうして声を掛けずに帰ったんだ。おまえが人見知りしたとも思えないし、
聞いた感じじゃデートだからと遠慮したようにも思えないんだが」
ぎくり、とキャスケットは目に見えて顔を強張らせた
そこを避けるから結論に至らないんだ。 認めたくない気持ちは分かるがいつまでも目を逸らしておけるものでもないだろう
何せ、ローとキャスケットは同じクラスの隣の席、あれだけ親しい間柄では避けて通れるものじゃない
認めた上でどういう態度を取るかはキャスケットの自由だけど、とキラーは言葉を継いだ
「デートだと思ったのは駅に着いてからなんだろう? 似合いだと思う前に、彼女が一緒だと気付いた瞬間は どう感じた?」
まるで尋問しているようだ、と内心苦々しく思いながらも追求の手を緩めない
ここで手加減してしまってはキャスケットも結論に至れないだろうから。
「見た、瞬間、は、・・・」
キャスケットは喉に何かが引っ掛かったような声で、苦しそうに言葉を押し出している
ん?どうした? と続きを促すように顔を覗き込めば、縋るような目でキラーを見返してきた
「・・・息が、止まるかと、」
喘ぐようにそう言って、キャスケットは言葉を切った。
何か気付きつつあるのか、目を見開く彼はキラーの方を凝視している
「・・・どう、して?」
そのまま目を逸らさずに、逆にキャスケットの方から質問してくる
「どうして、何に、俺は、そんなに驚いたの・・・?」
あぁ、気付き始めたなと思いながら、彼も予想している結末へと誘導していく
「彼女が、人目を引く派手な美人だったからか?」
「・・・違う」
否定するキャスケットは 瞬きを忘れたようにキラーを見つめている
「ローが、彼女の買い物につきあってハンズに来るような奴だったから」
「・・・違う。だって、俺達とだって、行くじゃないか」
「あぁ。なら、彼女が居るのを聞かされてなかった事がショックだったんだな」
「・・・ショック?」
ミスリードな質問を一つ入れてやる。 キャスケットがどうしても認めたくないのであれば、そういうことだと自分で
納得してこの問題から目を逸らすだろう
「ショック、だったんだ? ・・・だよね。吃驚して、逃げちゃうくらい、ショックだったんだ、俺は。 何が? なんで?
キラーの言うとおり、彼女の存在を知らなかったから? 違う、よね。 だって、聞けば教えてくれるだろ、ローは」
核心に近付いてきたせいか、身を乗り出して話すキャスケットの口調が、どんどん早くなる
ここまでくればキラーの誘導なんか必要ないだろう
彼は もう 自力で答えに辿り着く

「彼女がいたことが、ショックだったんだ」

キャスケットは 一度も瞼を閉じないまま 表情を変えることなくそう言ったかと思うと 急に興奮から醒めたように
どさっ、と椅子に背を預けた

ぱちりと一つ、目を瞬かせて、
驚きに表情も抜けてしまった人のように、呆然と、最後の質問を下す

「俺、・・・・ローの事、・・・好き、・・・なの?」

「だろうな。」
肯定するキラーの返事など必要なかっただろう
キャスケットは自ら導き出した結論を、既に自分で認めてしまっている
その答えが彼に与えたショックは大きいのだろうが、キャスケットは素直に自分の感情を認めた

「嘘、だろ。 男同士なのに」
額に手をあてて キャスケットは力の抜けた声を出した
変だよね? と言われてキラーも返答に困って苦笑を浮かべる
「おまえら最初から仲良かったし、ローもやたらとキャスケットに甘かったからな。 ・・・まぁ、惚れちまっても、
仕方ないかもしれん」
本当に?適当な慰め言うなよなぁ、と呻いたキャスケットは 脱力して椅子に沈み込んだ
「あぁ、嘘みたい。 いくら ローが優しかったからって、馬鹿じゃん、俺。 なんでわざわざ男になんか惚れるんだよ」
認めた後は ドッと落ち込みが襲ってきたらしい
凹んだ様子ながらも、キャスケットは ちらりとキラーを見上げた
「・・俺、うっかり男に惚れちゃうような馬鹿だけど、気持ち悪いとか思ってくれるなよ」
「あぁ。俺等の中じゃ そんな些細な事気にするような奴はいない」
「っ些細じゃないから!いや、おまえらからしたら些細なのか? いやいやいや、俺にとっちゃ大事おおごとだ!」
気にしないでくれるのは嬉しいけど、と ぐったりと机につっぷしたキャスケットの後頭部に声を掛ける
「一つ、教えといてやるけど ローとボニーが付き合ってるなんて話、聞いた事ないぞ。 今更だが、初めに
置いといた質問に戻るが、一緒のところを見掛けたって明日言ってみろよ。」
ホントウにイマサラだ・・・と 自分の腕に顔を埋めたままのくぐもった声で言うキャスケットの頭を撫でてやる
「自覚が出来ただけ状況は好転したろ。頑張るにしろ諦めるにしろ、自分で見定めてなきゃどっちにも動けない」
「う・・・ん。あんま、嬉しくないけど、すっきりはした。 ありがと、キラー。 ここは奢るよ」
そう言いながらもキャスケットはまだ顔を上げられずにいる
耳が赤いところを見ると 好きな相手が居るとキラーに知られた事が恥ずかしいらしい
それも、相手が仲間内に居るのだから恥ずかしさも一入ひとしおだろう
「いいさ、寧ろ奢ってやる。期待に添えずあんまりいい結論を言ってやれなくてこっちこそ済まないな」
ぐしゃぐしゃと髪を乱せば、漸くキャスケットは腕から顔を上げた
「優しくして、惚れられたって知らないぞ。 何せ俺は前科ありだからな」
「くくっ・・・違いない」
冗談に紛らわせる余裕が出て来たキャスケットと暫く話した後、家の事をしなきゃという彼と別れてキラーも店を出た














「おはよう!ロー」
一晩眠ったキャスケットは 今朝は元気に登校した
前日の睡眠不足もあったせいか朝までぐっすりと眠って、起きた時にはローと話す心構えも出来ていたのだから
我ながら図太いと思う。
(あいつらと一緒に居るうちに俺の神経も太くなったのかな)
なんて考えちゃいるが、元々 クラスで浮いていたローにも平気でくってかかるような神経の持ち主だったと
キャスケットは自覚していないようだ。 そもそもローの眼鏡に適った時点でキャスケット自身も "類友" の素質は
十分にあるのだから。
登校中に一緒になったローは、昨日の事は気にしていないのか "よぉ" と、いつも通りの態度で歩いている
「昨日、ごめんな、途中で帰っちゃって。 ハンズに行ったかって話だったよな、」
そこまで言ったキャスケットの言葉で、「そうだ・・・」 と、ローが何やら鞄に手を突っ込んだ
「ここで会ったんなら、今のうちに渡しとく。」
ほらよ、と渡された包みは、見覚えのある包装紙
「・・・ハンズの袋だね」
「てめえ この前欲しいっつってたろ。まだ買ってないんだよな? 丁度いいから、やる。 誕生日だろ。」
えっ!? と思い切りローの方を振り向いたのに、相手は歩みを変える事なくスタスタと先に行ってしまっていて
キャスケットは慌てて友人の後を追った
「これ、・・・これ!? もしかして、昨日、いや、おとついか。 コレ買いに行ってたの?
え、いや、それより今日って何日、あぁあぁあ!ホントだ、俺 誕生日じゃんっ」
騒がしく追いかけるキャスケットを待って振り返ったローは したりとばかりに笑っていた
「すっかり忘れてたな? わざわざ足を運んだ甲斐がある」
おめでとう、と言われて、多分 ほっぺたなんかは赤くなっちゃってるんだろうなぁなんて思いながら、キャスケットは
ぎゅうう、とローの手を握ってありがとうと声を張り上げた
ホントは抱きついてしまいたいくらいに感激していたのだけど、流石に自覚した身でそれは恥ずかしい
「丁度欲しがってたのを知ってたからな。あんまり詳しくねぇから店でばったり会った友人にいくつかピックアップ
してもらって、その中から選んだ」
「ああ!あの!あのさ、俺、おとついロー見たんだよ。その友達ってピンクの髪の美女じゃない?」
美女かどうかは知らんが、確かに見た目は整ってるな、と返したローが、おや、と眉を上げる
「てめえ、なんか変だと思ったら――」
「そ!そう、なんだよ。あんまり綺麗な人と歩いてるから、びっくりしちゃって!」
慌てて誤魔化すように語尾をひったくって声を上げる
これ以上追求はしないで欲しい・・・と、ちらりとローを盗み見る
いつもみたいに慌てるキャスケットをからかうような笑いを浮かべていたら、真っ赤になってしまうかもしれない。
そう考えて、様子を覗うように視線を送ったキャスケットは、どちらかといえば "莫迦だな" とでも言いたげに
口元に薄く笑みを敷くローを見て、妙に騒ぎだす心臓を慌てて諫める
(今の笑い方、妙に男臭いっつぅか大人っぽいっつぅか。それにどきっとしてんだから、決定的だ・・・)
やっぱり、自分はこの友人に惚れてしまっているらしい
貰ったプレゼントを丁寧に鞄に仕舞って歩き始めたキャスケットと肩を並べて歩くローの隣が 昨日と違って心地良くて、

「・・・ホントは、さ。 彼女かなって思って、びっくりした。」
ぽつりと本音を漏らして、でも、その先なんて言えるわけがないから。
プレゼント、ありがとね、と唐突なお礼を言って にかりといつもの笑顔を浮かべる

「ばーか、んなわけねぇだろ。 今度見掛けたら声掛けろよ、紹介してやるから。なかなかに漢前な奴だぜ?」
きっとあいつとも直ぐに仲良くなる
そう言われて うん!と笑顔で大きく頷いたキャスケットの頭を、ローの手が くしゃくしゃと掻き乱した







 ひとつ、前進。

どうなるかは分からないけど、今の自分を認めてあげよう
好きだという気持ちに罪はないと思うから











キャスが欲しがっていたのは多分調理器具系の便利グッズ。 そのうちロー視点も書かないと駄目かなぁ、コレ。
いや、今回の話のじゃなくて。ローがキャスをどう思ってるかって描写いっこもいれてないもんね。うーむ・・・
ロー視点をどうするかちょっと考えなくちゃ。やっぱ入れないと不自然だもんなぁ。短いので何か入れるか・・・



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