[携帯モード] [URL送信]

SS置場4
転校生5 (L)

いろいろとやり尽くされた話の進め方の転校生シリーズですが 意外と拙宅では初の試みなのです。
だらだら展開なので合間に別の話を入れながらのんびり進めていきたいと思います。














"真面目に就労するユースタス屋を見に行かないか"

そんなふうな誘いを受けて 週末の夜に家を出た

(進学校なのに うちってバイトOKなんだ・・・ しかも夜?)
そう考えたのが顔に出ていたのか、『いや、働いてんのはヤツの親父。ユースタス屋はただの手伝いだ』と
ローが説明を付け加える
「あぁ、家の手伝いなんだ」
キッドの家の家業なんだろうか、それって何だろう、お店?
不思議がるキャスケットをにやにやと眺めるローは到着するまでは教えてくれないつもりらしい
と言っても、着いてしまえば分かるのだからと キャスケットも焦る事なく なんだろうなぁと楽しみに
ローと一緒に駅へと向かった

車内は土曜日だからか いつになく人の数が多い
自分も遊びに出る人間のうちの一人だから文句はないけど、この混雑は何だろう
地下鉄の中でもそう思っていたキャスケットだったが、促されて降りた駅で唖然と辺りを見回した
「何これ? 今日、何かあるの?」
車内に埋まっていた人間の大半がキャスケット達と同じ駅で降り、え?え?と思いながら外へ出たら
そこにも人の波が出来ている
中には浴衣姿の女の子が大勢いて、「あっ、もしかして、お祭り?」 聞くまでもなく人混みの理由に思い当たる
「正解。 あいつの仕事場もこの波の目指す先だ」
「えっ、もしかして、テキ屋?!」 高校生がそんなバイトしていいのかと驚いた声を出したら 珍しくローが噴き出す
「おまえ、それユースタス屋に失礼だぞ。見掛けで判断しただろう。まぁ、屋台の仕事なんだけどよ」
似合ってる。 寧ろ似合いすぎている。高校生には見えないほどの出来すぎたがたいにあの迫力。
笑っていいのかここは堪えるべきなのか、迷うキャスケットが微妙に顔を歪ませている横で、ローは携帯を手にしている
漏れ聞こえる会話から キッドのいる場所がどの辺りかと聞いているんだなと思いながら キッドの姿が見えやしないかと
きょろきょろと顔を動かしていたキャスケットの襟首が急に引っ張られ、目を白黒させるのにも構わずローが歩き出した。
「見えやしねぇよ、もっと中の方。こんな入り口付近のしょぼい場所じゃねぇとよ。」
それとも浴衣姿に目移りしてるのかと言われて そうだ、折角の浴衣姿を堪能しなくちゃと目を輝かせたら 後にしろと
やっぱり首根っこを引っ張られた
「先に目的地だろ。もう着いたって連絡入れたからな」
・・・そうか。あんまり遅いとキッドが待ちくたびれるかもしれない
ローと一緒だからまさか迷子の心配はしないだろうけど あまり待たせるのも失礼だろう
「どうでもいいけど、さっきから首ひっぱるのやめてくんない? 猫の子供じゃないんだから」
「・・・手を引いて欲しいんなら俺は構わねぇけどよ」
夏のお祭りに、男同士で手を繋いで?
その状況を思い浮かべて むむ、と顔を顰める
「ケッコウデス。余所見しませんからフツーに歩いてクダサイ」
はぐれんなよ、と差し出されたローの手をぺしっと叩いてキャスケットも人波の流れに従って歩きだした

「で、結局何の屋台なの?」
一人で探すより二人でと店の種類を尋ねるキャスケットの横で、行く手を睨んでいたローが声を出した
「見つけた」
「え?どこ?」
視線を追ってきょろきょろと見回したキャスケットもキッドの姿を発見する
「あ、かき氷!」
父親と店番しているはずの屋台には氷を削るキッドの姿しか見あたらなくて、あれ?と首を傾げていると
客から代金を受け取って顔を上げたキッドと目が合った
「よう」
手を挙げて合図を送るキッドの堂々とした格好はやはり高校生には見えない
「一人か?」
「親父か? あっちで呑んでるよ」
キッドの指すテントには中にベンチが設置してあり 腰を落ちつけた大人達が飲み食いしてるのが見えた
あの中の誰かがキッドの父親なのだろう
ここから眺めただけでは判別できず、屋台に目を戻したキャスケットに「何にする?」とキッドが聞いてくる
あ、そうかバイト先に来たのだから何か注文した方がいいよねと気付いた横で、「しろくま」とローが即答していた
「遠慮なく一番手間が掛かるやつ頼みやがる」
「当然だろ。てめえの奢りなんだから」
何も言われていないのにローはキッドの奢りだと決めつけている
キッドの方も口じゃ文句を言うのに さくさくと手際よくフルーツを盛り付け、見た目も整ったしろくまかき氷を作った
(この2人、仲良いよなぁ)
店の商品はキッドの奢りだと言っても、ローはさっきイカ焼きと焼きそばを差し入れに渡していた
出費としては双方変わらないやり取りを軽口混じりで互いに礼を言うことなく終わらせてしまうのは
付き合いの長さからくる気心だろうか
(なんか、口が挟めないって言うか・・・)
どことなく落ち着かない気がするのは疎外感を感じているのかと自問しながら その様子を端で ぼうっと
眺めていたキャスケットの前に ぬっ、とかき氷がつき出されて面食らった
「なに呆けてんだ? おまえも食うだろ」
「えっ、あ!これ、俺の?」
思わず受け取った氷を眺めてあたふたするキャスケットを 落ち着けよ、溢すぞと笑ったキッドにプラスチックのスプーンを渡されて
赤面しながら「う、・・・ゴチになります」 と言ったら何がツボだったのかキッドに爆笑されてしまった
見れば隣で既にかき氷の山を崩すローも苦笑している
なんで笑われているのか分からない、と眉を寄せていたら ローから ぼそりと "おまえ時々ホントにガキみてぇになるよな"と
言われて首を傾げた
――どこが 子供っぽかったのだろう
「てめえ素直すぎ」
考えてる事みんな顔に出るしな、と指摘するローの横でも笑うキッドが頷いているから自分はよっぽど考えが読みやすいのだろう
「それ、子供っぽいのと関係ある?」
反論を試みたのに2人は気にも留めていないようだ
「純真なガキみてぇだよな、俺らと違って」
「おまえそこが気に入ったのか?」
本人を目の前にしての噂話は 貶されてもいないけど誉められてるような気もしない
寧ろ、バカにされてね? と唇を尖らせていたら 妙に可愛いものを見る目付きで2人から見られて
あぁ、コレが子供扱いされる原因か・・・と自分でも可笑しくなって笑ってしまった

貰った氷を食べた後、差し入れを食べるキッドのかわりに少しだけ店番を代わって手伝った
ローは注文を取るのと会計をするのみで実質作る作業はしない
なので、横で頬ぼるキッドの指導に従って5つばかり氷を削る
シロップの量なんかは大体の勘で出来るのだけど、しろくまは自分じゃ無理かなぁ、と思っていたところへ注文が入った
「さっき食ったんだから分かるだろ」
「あの分量で正解?」
フルーツもふんだんに入っていた氷を思い浮かべる
あれってかなりオトモダチサービスだったんじゃないだろうか
「量なんかは適当だけどよ。喰い終わったから俺やるわ」
新たに器に削りながら、フルーツを足していくキッドの手際はやはりこなれたもので 素直に任せた方がいいと場所を譲る
「店番も結構おもしろいね」
「10個も作れば飽きるぜ」
笑うキッドは意外と愛想良く客の対応をしていて 案外接客業も向いてるじゃないのと感想を漏らすと
トラファルガーよりはな、と返ってきた
「俺は逆に愛想を振りまかない方がいいんだよ」
寧ろ客引き要員なんだと言うのにも妙に納得がいく
「おまえはきりきりと働くタイプ」
「あぁ、ちゃっちゃと動いて重宝がられそうだよな」
「・・・それ、パシリ的な?」
憮然とするキャスケットの頭をキッドとローの両方から伸びてきた手がわしゃわしゃと撫でる
「いいんですよー、体動かすの嫌いじゃないし」
頬を膨らましていると余計に子供扱いされそうで、キャスケットはさっさと話題を切り換える事にした。
「でも二人本当に仲良いよね」
近くの店で買った綿飴を口に入れながら 最初に思った事が口を突いて出る
「なんだ妬いてんのか」
「ばっ・・、バカな事言うなよ、そんなわけないだろっ」
単なる感想じゃないかと返す文句はローの耳に念仏の如く あっさりと流されてしまう
「まぁ仲良いっつーか俺らの間じゃ普通だ。相手がユースタス屋だろうがペンギンだろうが俺の対応は同じだろ」
そうだっけ? と一緒のところを思い返してみると 確かにローとペンギンの間にもツーカーな雰囲気が流れていた
なんだ、じゃあ仲間内で過保護にされてるのは俺だけなんじゃん、と思わずため息が漏れる。
子供扱いで過保護というとやはり何処かしら遠慮されているような気がして少々がっかりしなくもない
まぁ、俺が一番新参者なんだから もっと慣れてくるまで仕方ないか・・・と気を持ち直して顔を上げたら
なんだかニヤニヤした顔のローがキャスケットを観察していた
「俺らは相手によって態度を変えたりしねぇっつってんだろ? おまえのガキ扱いは あいつらにからかわれてんだよ」
反応面白えもんな、おまえ。今も百面相してたぞと キャスケットの頭をぐりぐりと撫でるローの横でキッドが眉を寄せている
「・・・なぁ、どうも端で見てるとてめえら付き合い初めのカップルみたいなんだが」
「なんでこんなガキっぽいのと俺が」
「ちょ、問題はそこ!? 違うでしょ、男だよ、俺!?」
(女の子っぽいなんて言われた事一度もないのに、どこをどう見たらカップルに見えるんだ!)
憤るキャスケットに追い打ちをかけるようにガキっぽいのに違いはねぇだろとしれっと言ってのけるローとムキになって
言い返す様子が"気になる子にちょっかいを出す男とそれがまんざらでもない女"に見えるだなんて思いつかないキャスケットを
まぁまぁとキッドが苦笑を浮かべて諫める
そんな風にいつもどおりわいわいと騒いでいたら、いよいよ人混みが増えてきてキッドの店にも行列が出来始めた。
妙なじゃれ合いをしている余裕がなくなり、客がある程度減るまで会計や削りを手伝ううちに思ったより長居していたらしい
「そろそろ花火が始まるからてめえら見えるとこまで移動しろよ」とキッドに言われて、
「あ。 これ、花火大会なの?」と改めて聞いたら呆れた顔をされてしまった
「・・・何も教えてねぇのかよ」
「急に誘ったからな。てめえのバイト先に行くとしか伝えてねぇ」
(それでついてくる辺り、こいつはよっぽど暇なのかトラファルガーが信頼されてるのか)
微妙だな・・・と一人言を漏らすキッドに気付かず、じゃぁね、と手を振ってローと連れ立ってキャスケットも移動を始めた


「場所取りも何もしてねぇから座って見れねぇかも」
「いいんじゃない? 立ってても邪魔だって怒られないんなら。」
ローにとってはキッドのバイト先へ顔を出す方がメインだったのだろう。計画性も何もなしの行き当たりばったりなあたり、
花火に対するやる気のなさが透けて見える
「俺、花火大会の花火って好き。こう、お腹にドン!って響くと花火だぁって気がしてさ」
テレビやなんかで見ても、そりゃ、綺麗だけど、この音がないと花火の醍醐味が味わえないんだよねと
多分ローは人混みが嫌で自宅で見るタイプだろうなと思いながら話していると、ふぅん、と気のない返事をしたローが
「じゃぁ来年も来るか?」と言ったので吃驚して立ち止まってしまった
「ぅ、わぁ!」
流れる人波は止まったキャスケットにぶつかり押しのけながら進んで行く
その中に飲み込まれそうになって慌てて声を上げたら、ぐい、と掴まれた腕が引っ張られて、呆れた顔のローの前に
引き摺り出された。
「・・・ホント、ガキ。」
「うぅ・・・言い返せない・・・」
ガキだと文句を垂れたはずのローは 何故だか楽しそうに笑っている
結局、手を引かれて歩き始めたキャスケットは ドン!!と大きな音を立てて花開いた花火をバックにしたローの
その横顔がやけに印象に残って花火と共に夏の思い出としてくっきりと脳裏に刻まれていた






 夏の名物、花火と屋台












自分に画力があればローの横顔を挿絵にするのに!画力ェ・・・


[*前へ][次へ#]

43/100ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!