[携帯モード] [URL送信]

SS置場4
転校生4 (L)

転校生シリーズ。 ひぃひぃ いつもにも増してだらだらしてます。この回は短めです。キッドさんが出てくるのは次回。













(ローからお弁当のリクエストがあったから、・・・んー、食材の補充しとかなきゃ いけないかなぁ)
冷蔵庫の中を思い浮かべながら 帰宅途中で進路を変える
「買い物して帰ろ」
少し遠回りをして、家の近くの商店街の中を見て歩く
スーパーで纏めて買うのもいいけど、こうやって専門店で材料を吟味しながらの買い物も結構楽しいのだ
最近、ようやく どんなのが"質の良いもの"か分かるようになってきた
店主にいろいろと聞きながらの買い物の結果で、働きに出ている親に代わってキャスケットが食事を作っていると
知ったお店の人達は色々と食材を選ぶコツを教えてくれた
「キャスくん!今日はいいのが入ってるよ、これ、どうだい」
そんな声がちょくちょく掛かるのも この商店街に通った結果、すっかり顔を覚えられているからで・・・
いくつかの店に寄った後、出口付近の果物屋で キャスケットは足を止めた
なんだか無性に、みずみずしい果物が欲しいと思って 店頭に並ぶ果実を眺める
(今日は やたら喉が渇くし、安いのがあったら何か買っていこう)
店のお姉さんが いらっしゃい!と声を出して奥から出てくる
(どれに、しようかな・・・)
籠に盛られた果物を吟味しようと屈み込んだ途端に くらりと視界が揺れる
(あれ・・・?)
そのまま、キャスケットは不安定な姿勢で頭を支えきれなくて かくんと地面に膝を着いた
「えっ、あら!どうしたの?」
貧血? と言いながらキャスケットの顔を覗き込んだ店員さんが 「顔が赤い」と額に手を触れる
「熱があるわね、大丈夫、歩ける?」
手を借りて立ち上がったキャスケットは熱があると聞いた途端、急に具合が悪くなったような気がして額に手をやった
・・・自分じゃ、熱いのかどうかも分からない
それでも、店員さんに とにかく早く医者に診て貰ったほうがいいと勧められて 結局何も買わずに店を出た







朝から鬱々としていた天気は午後になってついに様相を崩し、窓の外から サァ――ッという雨音を届けている
(あー・・あ。 今日で二日も休んじゃった)
自室で横になっているだけだから雨に濡れることはない
だけど、教室で聞く雨の音と 熱で寝込んでる間の雨の音は どこか違った音に聞こえる

自宅で1人ゆっくり眠るなんていつぶりだろう
この辺りではそれなりに知れた進学校に編入したキャスケットは幸い頭の良い友人に恵まれて なんとか今の学校の
レベルについていっている。 部活はほぼ幽霊部員と化しているけど、その分自宅でのおさんどんに追われていて、
毎日忙しく、だけど、充実した日々を過ごしていたのだ
(ローに悪い事しちゃったなぁ)
あの後 熱で寝込んだキャスケットは 結局彼のリクエストを作る事が出来なかった
作れそうにないと分かった時点でメールを送っておいたけど、折角材料もいいのを選んで買えたのに。
その食材は母の手で別の料理となって既に自分達の胃に収まって消えている
無駄にはしていないのだけど、ローに食べさせる為に買ったものを自分の手で調理できなかったのが悔しい

(治ったら、リベンジだ)
こんなことくらいで怒ったりしないだろう友人をぼんやり思い出しながら ベッドに転がるキャスケットは、休んだ間ずっと
熱のせいで眠り続けていて、 随分楽になった体は このところ寝まくっていたせいか妙に目が冴えてしまった
眠って早く治してしまいたいけど、しばらく瞼が降りてきそうになくて、今何時だろう、と首を捻って枕元の時計を見上げる
(あ・・・。 もう、学校の終わってる時間だ)
宿題とかどうなってるかなぁ、と ひとりごちて息を吐く
「明日は学校行きたいな・・・」
この感じだったら、明日の朝起きる頃には熱も下がっているんじゃないかなと勝手に判断しての一人言に、
「熱はもういいのか?」
「えっ」
あるはずのない返事が返ってきて、キャスケットは吃驚眼びっくりまなこで声の方へと顔を向けた





「ロー? え? どうやって 入ってきたの」
数日ぶりの友人への第一声にしては間が抜けている
「俺に通り抜けの能力が無ければ誰かが開けてくれたんだろうよ」
いつもと変わらない口調に思わず苦笑が漏れる
「あいつらから見舞いを預かってきた。丁度ここに着いたら帰ってきたお前の親と一緒になってな」
本当ならまだ家に戻ってくる時間じゃない母が帰っているらしい。
どうやら我が子の様態を心配して早めに帰宅したキャスケットの母親とローが鉢合わせしたようだ
「起きてたから、呼び鈴鳴らしてくれてもよかったのに」
「待ってねぇよ。ホントに丁度家の前で一緒になったんだ」
がさがさと音を立てて枕元に置かれた袋は コンビに調達のお菓子やなんかが入っていて、多分、クラスの友達じゃなくて
キッドやキラー達からだろうと当たりを付ける
「んで、こいつはそこの果物屋から」
「え?!」
追加に、桃の入った袋を手渡されてキャスケットは慌てた
「菓子より果物の方がいいかと見てたら、あっちから声を掛けてきた。店の前で倒れたって?」
倒れたというよりは立ちくらみに近いのだけど、結局自分は何も買わなかったのにお姉さんはお見舞いをくれたらしい
どう見ても"家のお使い"には見えないローを友人の見舞いと判断した店員さんの勘はたいしたものだ
「また顔を出せとよ」
「うわ、悪いなぁ・・・」
登校したら真っ先に店に寄ってお礼を言わなきゃ、と呟いていたら じっと顔を見たローから 思ったより元気そうだと言われて
笑顔を浮かべる
「だいぶん楽になったから、明日から行けるかなって思ってるんだけど」
「あぁ、明日。英語の小テストがあんぞ」
えぇ!? と慌てるキャスケットを諫めるように手を出したローから、休んでる間の分は考慮されるだろうから諦めて実力で
受けろと諭される。
いや、予習していかなきゃと起きようとしたら それでぶり返したら本末転倒だと勉強禁止令を言い渡されてしまった。
これが以前のスパルタ鬼教師の口から出る言葉かと目を丸くする
休む前までは完璧に叩き込んであるから大丈夫だろと鬼畜な事を言うローに、自信ないって!と眉を下げて悲鳴を上げたら
結果がどうであれ怒らねぇよ、どんだけ鬼コーチだと思われてんだ 俺は、と笑われた


長居して体調に響いてもいけないからと短めに見舞いを切り上げたローを母親が見送っていく
久しぶりに友人の顔を見て 俄然元気が出たキャスケットはすっかりいつもの調子を取り戻していた。
せっかくだから貰った桃を食べてもらおうと思ったのに 帰るまでに冷えないと気付いたキャスケットが
絶対持って帰ってもらってと念押しした結果、どうやら母はうまくローにお土産を渡す事に成功したらしい。
随分遠慮してたけど押しつけたわと部屋に入ってきた母親は息子の様子をみながらベッドサイドに腰を落ち着けた

冷えたスポーツドリンクを水で割ったもの、汗拭き用にウェットティッシュと乾いたフェイスタオル。
今朝出掛ける時に用意してくれていた小物を新しいものに取り替えて、寝汗が出てるようなら着替えなさいと
新しいパジャマを傍に置きながら 越してきて初めて見たキャスケットの友人の事を聞きたがる
男ばかりで行った旅行など誰も写真を撮ろうと言い出す事はなく――実際はキャスケットの携帯に何枚かの海での画像が
あるのだが わざわざ母に見せる事をしていなかった――また、見舞いに来るくらいだからローこそが息子を元気にした
友人だろうと、母親の勘で見事に正解を導き出した結果の質問だった

友人の母の手前、一応 普段の態度は鳴りを潜ませていたローは、礼儀正しい学生に見えたに違いない。
聞かれるままに 名前だとか、彼の成績が優秀な事だとか客観的な要素だけを答えていくキャスケットは
これだけを聞いてたら さぞかし優等生に見えるんだろうなぁと内心で苦笑を浮かべていた

「ああいう子はもてるでしょうね」
総括した母の感想に 一瞬言葉に詰まったキャスケットは 母と真逆の答えを述べる
「そうかなぁ。どっちかっていうと近寄りがたいみたいでクラスでも遠巻きだよ?」
「そういう人はもてるのよ。表立っては騒がないでしょうけど、影での人気は高そうね」
あんたは男だから気付いてないだけよと母親は自信ありげに断言する。

・・・そうかもしれない。外見はあれだし、とっつきにくそうでもあれでいて案外面倒見がよかったりする。今から思えば
親しくなってからのキャスケットは 直ぐには気付かないくらいにさり気なく何かしらの気を遣ってもらっていた
(口は悪かったり態度はオレ様だけど 優しいよな、ローって。天の邪鬼だから面と向かって言ったら否定するだろうけどさ)
あれが女の子に向けられたら、きっと どんなに気のない子でも落ちてしまう
転校してからこっち ずっと近くにいたキャスケットは 短期間ながらも妙にそう確信してしまっていた。
今のところ ローと親しい女子には心当たりがないから女の子に纏わり付かれている場面なんて見た事がないけど
自分は学校での彼しか知らないのだから 私生活では親しい女子の1人や2人、・・・・居るんだろうな、やっぱり。

「どうかした?」
会話を止めて考え込んでしまったキャスケットに声を掛けた母に気付いて 慌てて布団を引き上げる
「薬が効いてきたのかな。 なんか、眠くなってきた」
息子の具合を確かめるように額に手をあてて熱をみた母が微笑んで キャスケットが適当に引いて乱れた布団を
きちんと直しながら優しい声を出した
「熱は今朝より下がってる。食べて眠って、起きる毎に回復していくから 眠いなら今は眠りなさい」
「・・・うん。 おやすみ」
本当は 昼間たっぷり眠ったせいであまり眠気を感じないのだけど、眠いと言った手前大人しく目を瞑る
母親が邪魔をしないように足音も静かに部屋を出て行くと、しんとした室内に残されたキャスケットに
さっき途絶えた思考がまた戻ってきた
考えたってしかたないのに、と思いながらもすっかり目の覚めた頭にはなかなか眠気が降りてこない

(ローって、学校じゃそんな話しないけど、彼女とかいるのかな)
居てもおかしくないよな・・・あんまりプライベートの話とかしないから俺の耳に入ってこないだけで。
一旦気にしてしまえば 他人の事なのにどうしても気になって仕方なかった
(学校の友達は紹介してもらったけど、他のローの交友関係って知らないし)
キャスケットの家を気遣っているのか単に話したくないのかは分からないけど、彼の家族の話も聞いた事がない

(俺、友達なのに ローの事 ほとんど知らないんじゃないか・・・?)
改めて気付いた事実に軽いショックを受けて ふるふると首を振る
・・・元気になって学校に行けるようになったら もっと沢山話をしよう
多分、登校したら真っ先に 休んでいる間の授業をローに叩き込まれるんだろうけど、それが終わって落ち着いたら、絶対。


(聞けそうだったら、彼女がいるのかも、そのうち――)

方針が決まったら安心したのか胃が薬を吸収しはじめたのか、急に睡魔が襲ってくる

(起きたら、お見舞い有り難うってメールを、ローやみんなに・・・)

携帯を探して枕元をさぐった手の動きが徐々に緩慢になる。そのまま、目当てのものを見つけきる前に、
キャスケットは緩やかな眠りに引き込まれていった








 友達の定義

親密度と情報量が比例するとは限らない

(情報競争に勝ち抜くだけが友人じゃない)


[*前へ][次へ#]

42/100ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!