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SS置場4
転校生2 (L)
転校生シリーズ。コンセプトが「日常を綴ろう」なので盛り上がりがあんまりない地味シリーズです。
今回は短めのターン。拍手にしたいところでしたが拍手にすると続きがUPできないから通常更新で。













「ローってさ、帰宅部だっけ?」
いつの間にか一緒に昼食を食べるようになっていたキャスケットがお弁当の卵焼きをつつきながら尋ねる
「あ? 殆ど顔は出してねぇが一応在籍はしてる」
「う・・・。 やっぱ、どこかに入らないと駄目なのかな」
弱ったような顔で質問を続けるキャスケットが悪戯に箸を動かすものだから、折角綺麗に整っていた卵焼きは
その姿を分解しつつある
「いや、どこにも入ってない奴も居るには居たと思うが・・・」 
まぁ、内申にひびくとかなんとか言われてるから大抵の奴ぁどこかしらに入部してるな、と教えられて
うーん・・・と眉間に皺を寄せるキャスケットの手元では卵焼きのばらばら死体が出来上がっていた
「入りたくねぇのか?」
好きそうなのに、意外だなという思いを滲ませたローの言葉にキャスケットは こくりと肯いた
「うち、母親がさ、最近勤めに出るようになったんだよ。」
外に出る元気が出て来たみたいで安心した、と口元を緩ませるキャスケットの両親は最近離婚したところで、
気分の沈んでいた母親も漸く立ち直る兆しを見せはじめたというところらしい。
あまり家の事は話さないキャスケットだが、一緒に行動する事が増えていたローは いつの間にか彼の"家庭の事情"を
把握してしまっている
「でさ、家事をしながらって やっぱしんどいだろ?だから出来るだけ家の事を手伝いたいんだよね」
実はこの弁当も俺が作った!と自慢そうに胸を張ったキャスケットは、無残な姿の卵焼きに気付いて 慌ててそれらを
口の中に掻き込んだ
「あぁ、それじゃ、お前遅まきながらの鍵っ子デビューか」
「ん、まぁね。そんな訳だからあんまり熱心に部活ってのも厳しいんだよね」
もぐもぐと口を動かしながら話すキャスケットの相談を受けているローを、周りの生徒は感嘆の思いで ちらちらと眺めている
あのトラファルガーが転校生の面倒を見るだなんて一体クラスの誰が想像しただろう
「俺と同じとこにするか? 結構さぼってるけど定期考査でそれなりの成績を収めてりゃ文句は言われねぇし」
「え。 試験?・・・って、ロー、何部なんだよ」
試験の影響を受けるような部活ってどこ?!と警戒するキャスケットを余所に、ひょい、と他人の弁当箱から
無事な形の卵焼きをつまんだローが ぱくりと口に放り込んで何気なく答える
「ん? 英研」
簡単だろ? と咀嚼しながら目で言うローの前で、キャスケットが悲壮な顔つきでバタリと机に突っ伏した
「え、英研〜〜〜っ?」
「・・・なんだお前、その外見で英語駄目なのかよ」
「日本生まれの日本育ちなんだよ、自慢じゃないけど英語は毎回赤点すれすれなんだから!」
すっかり食欲の無くなったらしいキャスケットの弁当からししゃもの唐揚げがローの口の中に消える
「いい機会じゃね? 頑張ってみれば?」
しれっとそう言ってのけたローの前で、うぅ〜〜っとキャスケットは唸り声を上げた





そんなやり取りがあったのが一月ほど前。
現在キャスケットは 一度懐に入れてしまえば意外な事に面倒見の良いローの「出来の悪い生徒」となっている。
「面倒見が良い」とはいえ、口の悪さや手の早さは変わらずで、「そうぽんぽん頭を叩かれたら覚えた事も
忘れちゃう!」と文句の1つも言いたいくらいにはスパルタ方式の押しかけ家庭教師だった
「中間試験前っつっても 日頃の宿題が効いてるだろ?単語は大体頭に入ってんだから楽だろ」
「ん〜〜、確かに、前に比べたらずっと意味が分かりやすい」
単語も覚えずに教えを請うなんてふざけた事ぬかすなよと言うローのお達しで 授業で習った単語は完璧に
覚える事を義務づけられたキャスケットは、"最小限の努力で文句を言われずさぼる方法"を実施中だ。
つまるところ、さぼるなら努力は怠るなというわけで、それで部活に出るのが最低限の日数で免除されるなら
惜しい努力じゃない
「おまえ、苦手だって先入観で全然やる気なかったんだろ」
単語の記憶は普通に出来てるのに文法の基本的なところから分かってねぇ、と言ったローから 現在、文法を
叩き込まれてる最中で、初歩からやり直しているものの この分じゃそれなりの好成績を取れそうだ
見返りの要求もないから、キャスケットは日々のお弁当のおかずをローが横取りしていくのを黙認している。
最近では作っているのがキャスケットだと知っているローからお弁当の中身のリクエストもくるようになっていて
"2人分作ってもいいんだけど" と言いたいのをぐっと抑えているキャスケットだった
(だってさ、そんな事言ったら "いらねぇ"って言われそうなんだもんな。横取りすらやめてしまいそうで・・・
変なとこ意地っ張りなんだよな、ローって。)
慰謝料だって養育費だって貰っているのだ
もう1人分のお弁当くらい余分に作っても全然構わないのに。
なので、リクエストくらいは応えてやりたいと、勉強以外にそっちでも努力をしていて、このところ料理の腕も
随分上がったような気がする
母親の口から美味しいという言葉が出る事も最近じゃ多いのだ
(料理だけじゃ片手落ちだからね。洗濯や掃除だって一通り出来るようにならなくちゃ)
キャスケットの手伝いの腕よりも、越してきた当初は精彩を欠いていた表情が持ち前の元気な笑顔に戻った事を
母親が密かに喜んでいるとも知らずに、キャスケットは家事に試験にと日々張り切って過ごしていた

(いいお友達が出来たんだわ。何もやる気のおこらなかった私に代わって家事も楽しんでやっているようだけど、
あの子の学生生活を家事一色で終わらせないように 少々の我が儘もきけるくらいの余裕を持たなくちゃ)

母親の立ち直る切っ掛けが自分だと知らないままに キャスケットも落ち着いた母の様子を嬉しく思っていたのだった








『中間考査が終わったらすぐに夏休みでしょう』

母親がその話題を出したのは夕食でのことだった
『仕事があるから連れていってあげられないんだけど、お友達とおじいちゃんの家に行かない?』
近くに海もある祖父の家は、休みに入れば泊まりがけで遊びに行くのが常で 小さい頃から何度も通い慣れた田舎だった

(・・・どうかなぁ。クラスの中で誰を誘うかっていったら間違いなくローなんだけど・・・)
ローとキャスケットの冷戦(?)が終わってみれば 次第に他の生徒とも拘りなく話すようになっていて、今じゃ普通に
クラスに溶け込んでいるものの やはり一番親しいのはローだ。
だからといって、ローと他の生徒が一緒に旅行・・・というのは彼等の方が気を遣いそうだ
気兼ねなく一緒に行動できる者と言えば、元からローの友人だった者達だけど、組が違うから今度はキャスケットが
殆ど話した事がない。
そんな相手から旅行に誘われて うんというかどうか、怪しいところだ
(まぁ、でも・・・ローの友達ってみんな剛胆というか、肚が据わってるっぽいから 誘えば案外気にせずOKしそうな気もするけど)
ローはどう言うかなぁと考えながら ぽてぽてと歩いていると、後ろから問題の相手の声が聞こえた
「よぉ。 何ちんたら歩いてんだ、遅れるぞ」
試験も終盤に向かってそろそろバテたか?と言われて苦笑する
「大丈夫だよ。今日は得意科目だもの」
その上、数学はこっちの学校の進度の方が遅くて キャスケットは今回のテスト範囲の授業を計2回受けている
これで結果が悪ければよほど頭の出来が悪い事になるじゃないか
「それよりさ!ローって夏休みの予定、もう立てた?」
「あ?」
なんだ、もう夏休みの予定か、気が早いなという言葉をありありと顔に貼り付けたローに向かって、キャスケットは
にっこりと笑顔を見せて一息に言い切った

「2〜3日、泊まり掛けで海に行かない? 俺の、じいちゃん家!」
「・・・海?」

何を藪から棒に、という毒気の抜けたローの顔を見るのは、親しくなる切っ掛けとなった騒動の時以来 これで二度目だった









 夏はまだ始まったばかり













えーと、文中でうまく伝えられなかったのですがキャスが家事を始めたのは母親が勤めに出る前からの事です。
「焦っちゃ駄目、焦らずゆっくり丁寧に」と自分に言い聞かせながら書いてます。それでもやっぱり焦り気味かなぁ
そうするとだらだらしがちだけど、このシリーズは行間を省略しすぎて唐突にならない方がいい。雰囲気SSで
行間も背景も全部飛ばす書き方がいい話もあるけど、これは丁寧にやりたいです。拙宅には珍しい感じ!w 
関係ないですけど先日メッセージ送った時に(管理人としての連絡事項だったので)畏まって最後に「拝」ってつけたら
「千堂 拝」って名前だと思われた〜  ありそうな名前とありがちな勘違いw


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