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SS置場4
転校生 (L)

先日のお話の「本当はこうなるはずだった編」 (冒頭は全く同じです。)














(転校早々ツイてない)

越してきてすぐの、新しい高校への初登校日。
たいして期待をする気もなく学校に向かったキャスケットだったが、転校生である自分に割り当てられた席は
最後尾の端っこで、目立たない席はラッキーなのだろうかと思った自分に反してクラスの学生から何やら
同情めいた視線を浴びて眉を顰めた
窓際、最後尾。 客観的に見て良い席だと思うのに、この憐憫の目は何なんだろう
訝しみながら席に着くと、唯一の隣席が空きになっている

ここが空席なら、普通は不慣れな転校生をそちらに座らせるだろう
配置から見て孤立するような席ではあまりにも不親切で、教える側からしても不便に違いない。
「隣・・・今日、休み?」
前の席の子に そう話し掛けてみれば、ひく、と少し引き攣った顔で、「朝は居たんだけど・・・」 と語尾を濁して
教えてくれる
「サボり・・・?」
「さ、・・・さぁ・・・」
何気なく尋ねた質問だったのに、その子は明言を避けるようにぼそぼそと言った後、会話を続ける気がなさそうに
さっと前を向いてしまった
(何それ。)
もともと、楽しい気分での登校でもない
何せ この転校は親の離婚に伴う引っ越しが原因で、前の学校を離れたくなかったキャスケットは 少々
不貞腐れ気味の気分でいたのだ

「すいません、教科書がまだ揃っていないんですけど」
話し掛けるチャンスを無くし、また、隣が空席のキャスケットは 仕方なく手を上げて教師に申告する

「隣にでも見せてもらいなさい。あぁ・・・居ないのか?仕方ないな」
どうしてだか キャスケットは前の席の子の教科書を借り、前2人が机を合わせて教科書を共有する事になる
「え・・・、あの。俺がこっちの席に移ってもう1つ隣の子に借りたら・・・」
というキャスケットの提案は教師が無言で首を振った事で敢えなく却下され、転校早々 キャスケットは妙に
隔離される事になってしまった
勿論、教師や新しい級友にその意図は無かったと思うけど、結果としてそうなってしまったのだ






新しい学校に入って一週間。 教科書等も一通り揃って学校には慣れてきた

なのに 未だにキャスケットは新しいクラスで浮いている
時折姿を消す隣の席のクラスメイトは挨拶しても返事も返さないような取り付きにくいタイプで、見たところ
どうやら他の生徒がどことなくよそよそしいのはキャスケットというよりは隣の生徒に遠慮しているようだ
遠慮・・・というよりも、近寄り難い空気を纏うその生徒に関わりたくないというところか。
(遠巻きなんだよな。また、こいつがそれを歓迎してるようだから始末が悪い)
変なクラスに配置されてしまった
隣の席の生徒とは結局ほとんど話した事はないが、他の生徒とは少しは話すようになったとはいえ、
そんな感じで過ごしているのだから親しく会話をするような人間など出来てはおらず、初めに躓いて以来
なんとなく居心地悪いまま学校に通っている
問題の、隣の席の、トラファルガーという生徒は どうやら素行はともかく優秀な生徒のようで、教師からも一目
置かれていた。寧ろ教師の方も下手にその生徒に関わると知恵の回るトラファルガーにやり込められる事も多く、
当たらず障らずの距離感で接している
(だから、初日も席に居なかったのか。)
気紛れで時折さぼるのを大目に見られているのは優秀なだけが理由でもなく、彼のその扱い辛さにも因るらしい

それでも 教科書が揃うまでは必然的に彼に見せてもらうことになる
そう思って声を掛けようとしたキャスケットに、前の席の生徒が自分の教科書を貸してくれた
「え、でも」
「いいから」
押しつけるようにして渡された教科書。
前日と同じようにキャスケットの前の席の2人が机をつけているのを見ても教師は何も言わずに授業を進めていく
(なんで? こんなの変!)
確かに、トラファルガーは一匹狼の様相で、たまに彼を訪ねてくる友人も怖そうなタイプの人ばかりで、皆が気後れ
するのも分からなくはない
だけど キャスケットは こんな雰囲気は好きじゃない
(でもさ、トラファルガーだって話し掛けられても平気で無視するじゃないか。そんな態度じゃ余計に敬遠されるのに)
もやもやとした気分のまま、そんな雰囲気のクラスもあまり好きになれなくて 結果、教科書が揃った今も
キャスケットまでもが浮いている

そんな中、2人、組になって学習するという授業があって、彼と組む事になったのがキャスケットだった



押しつけられた感がなくもないのだけど、どのみち偶数の人数なんだから誰かがトラファルガーと当たるのだ
もともと親しい相手も居ないのだから誰とだって構わない
そう思ったキャスケットも、流石に相手が悪いと直ぐに気付いた
なにせ、それまでの授業内容を把握していないキャスケットに何の説明もない
勝手が分からず戸惑っていると トラファルガーは、さっさと自分だけで先に進めてしまうのだ
これはいくらなんでも酷い。
協調性の問題じゃなくて、ただの自分勝手じゃないか
「待ってよ。自分だけで先にやってしまったら組んでる意味がないじゃないか」
堪らずキャスケットも そう訴えたのに、トラファルガーは ふん、と右から左に流しただけだ
「とろとろやってんじゃねぇよ。手順も分からないのに半端に手ぇ出すな。」
邪魔なだけだと相手にもしないのが癪に障る
「説明してくれたら俺だって普通にできるよ!途中からしか授業を受けてないんだから仕方ないだろう?」
正論を突き付けたはずなのに、"は!" と馬鹿にしたように肩を竦められてキャスケットは俄然頭に血が上った
「何故俺が教えてやらなけりゃならない? 回転の悪い奴は嫌いなんだ。自力で分からないようなら
大人しくそこで見てろ。俺の邪魔をするな」
「何だって・・・?!」
ガタン!と音を立てて立ち上がったキャスケットを 周りで聞き耳を立てていた生徒が ひやひやした様子で横目で覗う

「そこ。何を騒いでいる。しゃべっていないで真面目にやりなさい」

教師に注意されて、キャスケットは口を噤んだ
本当は教師にこそ訴えれば解決するのだろうけど、告げ口するような真似は嫌だし 大人の介入じゃ根本が
解決しないんだと思って。

注意されて、仕方なく無言で席に座る
悔しげに席に戻ったキャスケットを、ふん、と見下すような目で ちらりと見たトラファルガーが一切気にせずに
作業を再開する
(ヤな奴〜〜〜っ)
どうせ教師が怖くて黙ったんだとでも思っているのだろう
そんなんじゃない。 喧嘩なり口論なりするなら、自分達だけですべきだと考えたからなのに。
返す言葉の無いキャスケットを諦めたと見たトラファルガーは、その後も黙々と1人で作業を進め、結局、その日
キャスケットに出来た事といえば彼の終えた結果をノートに記したのと散らかった道具の片付けだけで、
邪魔の入らないところで一度トラファルガーと向き合って話をしなきゃ、と決意を固めていた。



――なのに。
(話にもなりゃしない!)
あれ以来、当たり障り無く接するという事をやめたキャスケットは、言うべき事はトラファルガーに面と向かって
言うようにしていた
他の生徒は、初めは何か止めようとした様子だったけど 今じゃ関わりを避けてキャスケットがトラファルガーに
喰って掛かっても見て見ぬ振りに徹している
これじゃますますキャスケットはクラスに溶け込むどころじゃないのだけど・・・
何をムキになっているのだろうと自分でも思わなくもない
(でも、さ・・・)
家庭でだって、納得のいかないもやもやをつい最近経験したところなんだ。 父親の浮気が本気になったとか、
そんなの自分や母親が泣き寝入りする理由になんかならない。
これ以上、理不尽な事は、認めたくなかった
鬱屈をぶつけていると言われるかもしれないが、何を言っても歯牙にも掛けられない状況は、父親と母親の
諍いを思い出させた
(嫌なんだ。 きちんと 向き合って話せないのは)
多分、掴み所のないトラファルガーに父親の姿を重ねてしまっているのだろう
彼と和解する事で父親が戻ってくると考えるほど子供ではないのだが、そうなれば少しは自分の悲しみも
薄れるんじゃないかと キャスケットは思ってしまったのだった







(あいつとは根本的に合わないのかも!)
その日も衝突したキャスケットは(と言っても一方的なもので相手にもならない状況だった)憤慨する気持ちのままに
ドカドカと足音も荒く家路に就いていた
(人を人とも思わないような、あんな奴、嫌いだ。)
まだ部活を選ぶような余裕のないキャスケットは 早い時間帯の帰路を足早に歩く
そのキャスケットの背後から、すぅっと 徐行する車が近寄った

「キャスケット」
呼ばれて、ぎょっとしたように振り返る
車の中では中年の男性がハンドルを握っていて、「話がある。乗りなさい」 とドアを開けようとしていた
「俺はないよ。貴方と暮らす話だったら断ったじゃないか。浮気して傷付けたのは自分でしょう。浮気が発覚してから俺達が
どんな思いで過ごしてきたか分かる? 俺は 日に日にやつれていく母さんをずっと見ていたんだ。 許す気にはなれないし、
貴方のところへ行くつもりもない。」
ゆくゆくは赦せるのかもしれない。でも今はまだ父親の気持ちにまで思いやれるような余裕なんてない

「考え直さないか。少しでいいから話をしよう」
「今は無理だよ!」
中から伸びた手がキャスケットの腕を掴む
車に引き込まれてしまえばどこに連れ出されるかは分からないが、父が送ってくれるまで家には帰れないだろう
「嫌だったら!放して」
「キャスケット」
車に乗せようとする父親と押し問答をしていたから気付かなかった


「こんな昼間から人掠いか?」

はっ、として2人が振り返る
そこには、キャスケットとは どうにも馬が合わないと思っていた生徒の姿があった

人目を意識してか、父親の手が緩む
それを感じたキャスケットは 引き剥がすようにして腕を離し 「とにかく、俺は行かないから」 と強めの口調で言い放つ
少し 迷うような気配を見せた父親は、結局 そのまま黙って引き下がった



ありがとう、と礼の言葉を言う前にトラファルガーが先に声を出す
「数日後にてめえの変死体発見なんて事になったら流石に寝覚めが悪い」
縁起でもない例えだけど、犯罪絡みだったらと彼が懸念したのはキャスケットにも分かった
そのせいか、妙に素直な気持ちで 学校でも誰にも話していない事情を口にした

「あれ 父親なんだ。 俺を引き取りたいって言ってて。」

ぽつりと漏らしたそれだけの言葉で、察したらしい
トラファルガーは 深く追求すること無く ふぅん、と彼には珍しく相槌を返してきた
「俺・・・・、まだ、許せなくて、」
続きを言えずに言葉を切ったキャスケットの隣を並んで歩きながら、別にいいんじゃねぇの、と何気ない様子で
言ったトラファルガーの声に肯いて 自宅に向けて歩くキャスケットの横をどういうわけか歩調を合わせた彼が
無言ながらも付き合ってくれているのは送ってくれるつもりらしい。
それまでの無関心な態度と変わらず隣に居てくれる彼の存在をありがたいと思いながら その日 キャスケットは帰宅したのだった









「トラファルガー!」
翌朝、登校途中の姿を見掛けたクラスメイトに向かってキャスケットの方から声を掛けて近寄った

「昨日はありがとう」
おはようと言葉を掛けても反応がないのは予想がついていたので返事を待たずに話し掛ける
昨日の事は彼なりに多少気に掛けていたのか、いつもはスルーのトラファルガーが じろりと目を向けて口を開いた
「何もしてねぇだろ」
「声を掛けてくれたじゃないか。」
ついてくるなよと言いたげに足を進めるトラファルガーと並んで、キャスケットも学校に向かう
「まぁ、それも、なんだけど・・・」
一旦 言葉を止めたキャスケットを トラファルガーが不機嫌そうなまま ちらりと覗う
「話を 聞いてくれただろ。 詮索せずに。それに、いいんじゃないかって言ってくれた。」
俺、あんたとちゃんと話をしたかったんだ。 だから、ありがとう

そう言って、歯を見せるキャスケットを見てトラファルガーは不思議そうな顔をして眉を上げた
「・・あんな会話とも言えない受け答えに礼を言うのか?」
「どうして?当然だろ?」 俺は嬉しかったんだから。

そう答えたら トラファルガーは変な顔をしてキャスケットを見たかと思うと 無言で小さく溜め息をついた

ムキになるだけバカみてぇ

ぼそりと何か呟いたけど よく聞き取れなくて聞き返したら
「お前 変な奴」と返ってきた

そういう彼の顔は 少し口元が笑っていて
なんだ。そんな顔をすれば少しは取っつきやすいのに、と思ったキャスケットは無意識のうちに 笑い掛けていたらしい
面食らったように目を瞬かせたトラファルガーが、もう一度、
「変な奴。」
そう繰り返しても 不思議と嫌だとは感じなくて キャスケットは彼を嫌な奴だと思っていた事も忘れて トラファルガーの隣で
にこにこと笑っていた








 季節外れの編入、それがはじまり











最後の和解(?)のシーンに繋げたくて書いてたのに前回予定外の方向に進んだので書き直しました^^


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