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SS置場4
拍手ログ 休日 L

拍手ログ 短い一場面













「おかーさーん、待ってよーう」
停泊中の船のブルーワークに腰掛けて港の様子を眺めていたローの耳に子供の甲高い声が聞こえてきた
買い物帰りなのか食材の入った袋を抱えて歩く母親の後を追って 小さな子供が一生懸命駆けている
呼ばれて振り返った母親が立ち止まり、笑って我が子を待つ長閑な風景がローの視界の下に広がっていた

ようやく追いついた子供が 駆けてきた勢いのまま母親に向かって飛びつく
母親の腹の部分に しっかりと抱きつき、楽しげに声を張り上げながら顔を見上げた子供は夢中で何か話している
高くてよく通る子供の声と違って受け答えする母親の声は聞こえないが、穏やかに我が子に微笑む様子は
彼等の家庭が和やかで満たされたものだと物語っていた


呆れ返るほど ちまたにありふれた幸福な光景

一般人の親子は波乱に満ちた生活など望んでいない。 そのまま、凡庸に、だが堅実に一生を終える事を信じていた
それはそれで彼等には幸福な人生なのだろう

眼下で平凡な幸せに浸る親子連れを眺める
親の顔も碌に覚えていない自分には知る事の出来なかった世界

(もし、自分の両親が健在だったら 俺はあちら側の世界に居たのだろうか)

今の自分を嘆いてはいない
己の信じる道を歩んで来、こうして沢山の仲間を得た。
望む先もあるし、必ずそこへ辿り着く自信もある

単に自分の知らない世界とはどういうものだろうと興味を持っただけの、僅かな時間。

視界を巡らせて道行く人波を 船の上から眺める
そのローの後方から 騒がしい声が近付いてきた

「せ〜んちょう!またそんなとこに腰掛けて。 うっかり海に落ちたって知りませんよ?」
声と同時に駆ける足音がして、背後からローの腹に腕が回される
「今日の夕食のメニュー、なんだと思います? この島、野菜が豊富らしくて絶対今夜は野菜メインのメニューに
なると思うんですよね!」
いつもと変わらぬ楽しそうな口調で話すキャスケットは甘えるようにローの腰にしがみついたままだ。
奇しくも 先程の母親に甘える子供と同じポーズで彼は次々と話を繰り出していく
適当に相槌を打つうちに 彼の話は 買い出し組のペンギンはきっとお土産を買ってくる、という話題に変わっている
船長聞いてます? と所々で挟みながらも話すキャスケットは楽しそうで内容よりも彼の表情を眺める方が好きだと思った


「なんですか?」
ローの肩に顎を乗せるようにしていたキャスケットが言葉を切って首を傾げている
どうやら知らぬうちに彼に笑い掛けていたらしい

「いや・・・子供みたいだなと思って」
何それ、船長ヒドイ! と、すぐに文句の飛び出してくる騒々しいクルーをぐいと引き寄せて
「可愛いなって言ってんだよ」
ローのその言葉で顔を赤らめた彼を 腕の中に閉じ込める

(狙ってやってるんじゃなくてのタイミングは こいつの天然の特技とも言えるな)

こっちの『家族』は 呆れるくらい元気だぜ?

彼と話しているうちに通り過ぎてしまった親子に向けて 自慢するように笑顔を向けると、
わたわたと慌てるキャスケットの髪をくしゃくしゃと乱して 彼の体を抵抗出来ないほど ぎゅっと抱き締めた






 たまにはこんな長閑な午後。


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