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SS置場3
逆輸入SS 病棟R


先日の逆輸入読切の発狂病院。そこに居たローがもし正気じゃなかったら? 彼はどういう経緯であそこに居たのか?
仮定のifによるお遊びです。――最終的に船長は病院に取り込まれます(だって前回の話で既に病院に居るんだもの)
それでもいいよ、という方のみ続きよりどうぞ。











ハートの海賊団船長 トラファルガー・ローは、戦闘で怪我を負ったクルーを担いで夜道を走っていた
クルーの怪我は酷く多量の出血のせいで意識も半分飛んでいる。
こんな時に、道具がない――せめて血止めの薬でもあれば。
船までの帰路を辿る時間も惜しく、クルーを担いだまま手近にあった病院へとローは その行き先を変えた




飛び込んだ先の病院で、治療は自分でするから道具を寄越せと告げたが断られた
・・・勿論、病院側としては至極当然の事だが。
奪い取ってしまってもいいが保管場所も分からず闇雲にそれを行うには船員の容態が悪すぎる。
諦めて治療は病院に任せるか。・・・だが、その治療には立ち会わせてもらう
ごねるローに病院の方も説得に嫌気がさしたのか、うまく手術室内に入り込む承諾を得る事ができた

そもそも本当はごねている時間すら惜しいのだ
薄暗い廊下を手術室へと急ぐ。
先程 角を曲がる時にちらりと見えた赤い髪は―――ユースタス屋?
(何故ヤツがこんな所に。)
一瞬頭を掠めた疑問は、今はそれどころではないと隅へと押しやる。
手術室では手出しはさせてもらえそうにない
だが、執刀医の腕次第では強引に自分が取って代わろうと決めていた
自分ほど彼の事を知っている者はここに居ない。しかも、自分の腕には絶対の自信がある

その室内で、執刀医の腕を確かめるまで至らぬうちに、出血が酷く輸血が必要だと言われた。
あまりの出血に病院内にストックした量では足りないという
「幸い、あなたと患者は血液型が同じです―――血を、いただけますか 」
手術の経過によってはすぐに自分が動けるようにしていたい
だが、クルーの命には代えられない。
ローは躊躇する事なく輸血の為の採血に同意した



ギリギリの量まで抜かせてもらうから、と簡易ベッドに寝かされ血管に針を挿される
限界まで取られても平気だが、と溜息を吐きながら横たわっているうちに、ローの頭がぐらりと揺れる。
――あ?
霞む視界とぼやける意識は、度を超えた採血による貧血とはまた違う
針に・・・何か、仕込んであったか?
「しまっ・・・・、」
普段であれば こんな油断をする自分じゃないのに、クルーの容態を心配するあまり警戒を怠った
最後まで言い終える前に、朦朧とするローの意識は、霞んで消えた






目覚めたローは、自分が治療室で白衣を着て座っている事に気付いた

一体、何故、いつから自分はこんなところに?

あぁ・・・治療しなければ。 誰を?
――思い出せない





別室ではカルテを抱えた看護婦が"室長" と書かれた名札の掛かった部屋に入っていくところだった
「ユースタス先生、この患者はどうしますか?」
カルテを手に取り慣れた様子で確認するキッド

そのカルテは、患者はすでに虫の息だと告げている
「もう手遅れだろう。・・・あぁ、ちょうどいい。新入りの医師に実験させなさい」
キッドにそう告げられた看護婦が、その綺麗に整った眉を微かに顰める
「薬は充分与えているのですが医師として使えるようになるまであと一息というところですが。」
その言葉に表情も変えずにキッドは指示を与える
「なんて精神力だ――なかなかしぶとい。だが、彼の腕をみるいい機会だ。彼に執刀を任せよう。
それに――彼にもここに慣れて貰わなければ。あぁ、それから。手術に入る前に 彼にネモナ※リドと
オー※ップを多めに与えるように」





――治療をしなければ。
沸き上がるその衝動に、どうする事もできずに居たローの部屋に「急患です」 と患者が運ばれてくる

俺の患者はコレか、と掛けられていたシーツを捲ったローは 思いがけない衝撃を受けた

運ばれてきた患者は、自分のよく知るクルー。
その船員はすでに虫の息で意識も無い

すぐに治療が必要だったはずなのに、何故

一目で手遅れと解る船員に愕然とする。 自分は、こいつを手術室まで運んだはずだ

(だが、今すぐ治療すればあるいは――いや、俺が助けてみせる)

唇を噛んですぐに手術に取りかかる準備に入る。
そのローの首筋にちくりと何かが刺さった
(な――に・・・?)
違和感に振り返ったローの口に、大量の錠剤が押し込まれる
吐き出そうにも首に刺さった注射器から流れ込む軽い痺れ薬が邪魔をして、それも全て飲み下してしまう
「な―――」
飲み込んだ大量の薬に、床に踞ってゲホゲホと咽せるローの目の前に看護婦が屈み込んだ

「先生。 患者が待っています」
肩に手を置き、その唇を綺麗に笑みの形に歪ませて笑う看護婦が囁く。
今飲み込んだ薬が胃で溶けきる前に吐き出さなければ・・・
「大丈夫ですよ。ただの抗精神剤です」
大丈夫なわけがない。それをあれだけの量、飲み干したのだ。
ゆるく頭を振って意識をはっきりさせようとするローを助け起こし、看護婦は告げた
「早くしないと――手遅れになりますよ」

看護婦にマスクを装着され、よろける足取りで患者の元へと向かう

執刀に懸かったローは、すぐにもその危険性に気付いた
霞む視界 ――大量の発汗にメスを持つ手が滑る。
その指すらも細かく震えて 手渡されるメスを取り落とした
震えてぶれる腕に舌打ちしながら、力の抜ける身体で、それでも必死で治療にあたる
看護婦の言うとおり、このクルーの容態では少しの時間も無駄にはできない
ましてや、執刀ミスを起こすなんてあってはならない
「くっ・・・!」
少しでも意識を明確にしようと手にしたメスを自分の腕に突き立てた。
その痛みによる覚醒も、ほんの僅かの時間しか保たない
目に入る汗に舌打ちしながら、何度も首を振って はぁはぁと荒い息を吐く
 
その震える手から、一本のメスがカシャンと乾いた音を立てて滑り落ちる


(――治療、・・・・しなければ)


遠く近く、定まらない焦点に、ローは きつく目を閉じ、再び開いた視界は ぐらりと傾いて消えていった








手術室前のソファで、顔を覆って座り込むローの前に白衣を着用したキッドが音もなく現れる

「あぁ―――亡くなってしまいましたか。でも、あなたはいい腕でしたよ 。
通常の体調であれば或いはもしかすると患者は助かったかもしれない」
くくっ――と笑うキッドに「てめぇ!」とつかみ掛かるローの腕に再び針が突き刺さる。

イキのいい先生だ。 好きですよ、そういう性格
――だが、この病院には必要ない
余計な事は忘れなさい

キッドの言葉を聞きながら歯を食いしばるローの目に、予想外の人影が映る
(まさか)
霞む目を凝らすローが、その姿を確認する前に その意識は暗く途絶えて暗転する




「薬は惜しみ無く使っていい。何もかも忘れるまでじっくり追い詰めなさい」
崩れ落ちたローを腕に抱えたキッドが、背後に現れた看護士に指示を与える

アイアイ――ワカリマシタ、ユースタス先生

看護士は、その巨体から想像できないようなすばやい身のこなしでローの身体を抱え上げると、
診察室という名の独房へと運んで行った





 発狂病棟R











ってな感じですか?うーん、違う?これがあの読切に続いているかというとそうでもないような。あくまでも
「もし正気じゃなかったらどんな事があったのかな?」というお遊びです。先日のお話のパラレルワールド?
とことん追いつめないと正気を失うまでには至らなさそうだなーと。体力を奪う極度の採血と、多量の投薬、
救えなかったクルー、信頼する船員による裏切り(?) これだけじゃ足りないかもしれませんが、これ以上
思いつきませんでした。流石に体の自由を奪って目の前でクルー虐殺なんてのはやりたくないしね〜
因みに手袋してないのは汗で手が滑る必要があったという勝手な都合。 あ、キッドさんはとっくに自我が
崩壊してます。拙宅キッドさんはこんな言葉使いしませんよ〜

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