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SS置場3
帽子 L
カップリング色はほとんどありません。海賊ベース。







目が覚めたら一人だった
暗闇の中あたりを見回しても誰もいない
どこかで鳥の鳴き声がする
夜に鳴く鳥の、声―――
(森?)
入った覚えのない森で目覚めたキャスケットは、雲の切れ間から射した月明かりの中、
足下に転がっている白い物に気づいた
(船長の、帽子・・・・だ)
人の気配は、無いのだけれど
「・・・船長?」
呼んでみても、返ってくるのは 涼しげな虫の声だけ。
これがここにあるってことは、近くに船長がいるんじゃないのか?
辺りに目をやっても その姿は視界に入らない
「・・・待って。さっき、俺が目を覚ました時は、ここにうつ伏せに倒れてたから―――」
もしかすると、転がった帽子は自分の手に握られていたものかもしれない。
「俺が、船長の帽子を持って 歩いてた?」
どういう状況だろう
たまたま自分が帽子を預かったのか、それとも船長の元へ届けにいくところだったのか
或いは風に飛ばされた帽子を追いかけて森に入ったのだろうか
(だめだ、手詰まり。いくら風に攫われたって、こんな深い森の中にまで飛ぶもんか。
仮に飛ばされたのだとしても 近くに船長が居ないのはおかしいじゃないか。)
それとも、猫や鳥が奪って逃げたのだろうか
「・・・(今までの案の中じゃ)一番マシな案かな。」
それを追って森の中に入ったのかもしれない。自分の行動としちゃありそうなパターンだ。
(どうして倒れてたのか覚えてないってのは理由が付かないんだけど)
とにかく、コレを持って帰らなくちゃ
手に取って立ち上がろうとしたキャスケットが ぎくりと動きを止める

ガサ、と聞こえた音は すぐ傍の茂みから聞こえた
(なんか居る!)
だいぶん、暗闇に慣れてきた目で辺りを探る
あいかわらず人間の気配はない
(つまり、何か夜行性の動物・・・・)
神経が張りつめるのが分かる
細く息を吐いて 油断無く茂みの奥の気配を探る
殺気は 感じないのだけれど、向こうからもこちらを探っているように思えるのだ
かさ・・・と、枯れた葉を踏む微かな音がした
同時に さぁ・・・っと風が流れ 月の周りに澱んでいた雲が完全に流れ去った
「・・・っ!?」
何が黒い影が目の前に居る
月明かりの元、茂みの中から姿を現したのは すらりとした肢体を綺麗な白銀の毛で覆った 一匹の獣だった

(狼・・・だ。)
ただし、その獣からは殺気が感じられない
じっとこちらを一瞥したその狼は キャスケットのことなど畏れも見せずに ふいと意識を反らせる
再び流れる雲に姿を消しつつある月を仰いだ獣は 傍に人間が居ることも気にせずに ゆったりと
その場に座りこんで静かに目を閉じた
(・・え。)
面食らったのはキャスケットの方だ
どう見ても野生の狼に見えるのに 人間に対する警戒もなく大胆にもすぐ近くで眠ろうとしているのだから。
(そこらのハンターにゃ殺られないってか)
俺程度じゃ警戒も必要ないと馬鹿にされたような気もしなくもないが、キャスケットの方も
狼をどうこうするつもりはないのだから 下手に警戒されて襲ってこられるよりよほどいい
向かってこられたら、こちらも武器を出さざるを得ないから。
互いに敵意がないことに安心した途端、あたりの寒さが肌に染みてきて キャスケットはぶるりと小さく身震いした
よく見れば、狼のいる茂みは小さな洞穴の入り口になっているようで もしかするとそこは彼の塒だったのだろうか
月明かりも乏しい深い森の中、自分がどちらから来たのか方向すら分からないまま無闇に歩き回るのは危険すぎる
(他の危険な動物に鉢合わせしないとも限らないし)
「ねぇ。朝になったら出ていくから、一晩泊めてくれないかな」
無駄だと知りつつも声を掛けてみる
当然、ただの獣には人間の言葉なんか通じるわけもないだろう
ぴくりとも反応を返さない狼の様子を窺いながら そろりと洞窟に近寄る
怒らせないように そっと隣に腰を下ろしても 狼はものともしなかった
(人間の臭いが移っても気にならないのかな)
なんとなくだが、この狼は一匹で行動しているように思える
自分の巣に人間がいるのに 唸り声すら立てないのだ
(もしかして触れても、平気?)
静かに伸ばした手が 彼の毛並みに触れる
ぴくん、と耳が動いただけで 前足に顎を預けた狼は目も開かない
"さわっても 平気?"
囁いたキャスケットが首元に抱きついても 狼が吼える事はなかった









目覚めるとそこは覚えのない宿の一室だった。
昨夜酒を過ごして手頃な宿にでも入ったのだろうか
(女としけ込んだってわけじゃなさそうだな)
こじんまりとしたその部屋には、ローの他には人間はいない
――そう。"人間は"だ
部屋の隅に丸くなって眠っている塊は、どうやらまだ小さな狐の子供らしい
「どうやって宿に入ったんだ?」
ペット連れの客を快く泊めてくれるような所には見えないが。
(自分が持ち込んだのか道中勝手に着いてきたのか知らないが女ではなく子狐と泊まったらしいな)
「それとも、ベッドに入った時には女だったとか言うなよ」
くす、と笑いをこぼしながら 太平楽に眠っている獣に手を伸ばそうとしたら 気配に反応したのか
直前まで眠っていたとは思えぬ俊敏さで狐が飛びずさった
(おっと・・・子供でも獣は獣だな)
だが警戒心が強いのかと思えば一定の距離を離れると狐はそこで立ち止まる
「逃げてくれて構わないが一匹で部屋に残すのはできねぇぞ」
窓を開けても扉を開けても狐に出ていく気配は無い
どうするか、少し追い回せば勝手に出ていくか、と捕まえようとすると子狐はするりと身をかわした
次に伸ばした手からもひょいと逃れてベッドの上を跳ねる
何度かそれを繰り返して 結局ローは捕まえるのを止めた
楽しげに跳び跳ねる狐がローが遊んでくれているのだと思っているようにしか見えなかったからだ。
興味を無くしたローが 食事に出ようと扉に向かった途端、とん、と軽い衝撃が肩にくる
相手をする気のなくなったローに気付いた狐が慌ててそこに飛び乗ったのだ
人間の子供のような 丸分かりの感情に 思わず笑いが零れる
「着いてきたきゃ好きにすればいいさ」
狐は 今度はローの伸ばした手を避けなかった
その柔らかい毛並みを擽る指を大人しく受けて くぅ・・・ と鼻を鳴らす
「とりあえず、この帽子の持ち主を見付けないとな」
室内には普段自分のかぶっている帽子が見あたらず、代わりとばかりに見慣れた帽子とサングラスが置いてあった。
まさかキャスケットとここに泊まったとは思えず、酔って先に船に戻った船員の忘れ物か?と簡単に結論を出して終わりにする。
考えても無駄なことに労力を割く気はない
自分の帽子が無いのは腑に落ちないところだが、それだって船に戻って仲間と合流すれば分かる事だ
先に腹を満たそうと淡い色の帽子をポケットにねじ込んで 階下へと降りたローは、気が変わって受付で連泊を申し出た
――いくら考えても島に着いたという記憶がないのだ
という事は 簡単に船に戻れないかもしれない
(他のクルーはどうなっている・・・?) ちらりと頭を掠めた疑問は 取り敢えず
帽子という手掛かりを残して消えた仲間を見付けるのを優先するために奥へと押しやった










朝になった。
目が覚めるとすでに狼の姿はなく、それでも夢現の状態で獣が腕から抜け出るのを感じた時には
外はうっすらと明るくなっていたような気がする
もそもそと狼の巣から這い出たキャスケットがあちこち頭を巡らせても狼は見あたらなかった
「意外とぐっすり眠れたよね。俺って結構神経ず太いかも。」
宿のお礼も言わずに行くのは多少気が引けなくもないが 相手は言葉の通じない獣なのだからそこは割愛させてもらおう
(取り敢えず、街。)
人のいる方向を探して歩くうちに船長に会えるかもしれない
「でもさぁ、・・・なんかイヤな予感するんだけど。」
うちの船はいつ港に入った?
ここは、何て島だ?
「転んで倒れた時に頭でも打って忘れちゃったのかな・・・?」
でも、兎に角ここに帽子があるってことは船長も一緒だ。
早いこと足跡を見つけて合流しないとどやされるぞ
失くさないようにしっかりと帽子を手に持って 明るい方に向けて歩き出す
森を抜けて道に出れば 例え反対に歩いたとしてもどこかの街には着けるだろう
(船長のいる方に辿り着けますように!)
でなければ港だ。他のクルーと会えれば事情も分かるかもしれない
移動手段が足しかないのだからのんびりしてもいられない。
先を急ぐキャスケットがようやく森を抜けられる、と肩の力を抜いた頃に、どこかで狼の遠吠えが聞こえた

(あ・・・狼、初めて吠えた)
動物の声には詳しくないキャスケットには その鳴き方が何を意味しているかは分からない
でも、
「・・・なんだか、行くなって言われたみたいに聞こえるな」
そんな風に思うなんて、状況の分からぬまま一人になって気弱になってるんだろうか
(・・・不安はないんだけどな?)
概して楽観的な自分に加えて、手元にある帽子。
一人じゃないのは分かっているのだから 後はどうやってみんなを見つければいいかを考えればいい
そしてキャスケットの選んだ手段は "街でもどこでも、人のいるところへ行っての情報収集"
するべき事があるのだから悲観したり不安がってる暇はない
道の真ん中に立って、その先を睨むキャスケットが 「よし、こっち!」と決めて歩きだす
その背を見送る、白く光る二つの目がいつまでも姿を追っていた事には 前方を見つめるキャスケットは気付かなかった










この街で目覚めてから3日が過ぎた
そんなに大きな街でもないので歩いて見て回っても仲間の姿がないのは1日で確信できた
宿の人間に聞いても最近港に着いた船はないという
・・・勿論、島の連中に気付かれない場所に隠して上陸した可能性もある。でなければ、潜っているか・・・?
しかし、よほどの事がない限り 島に着いた時には船員達も船を下りて羽を伸ばしているはずだ
試しにここの地図を見せてもらって考えてみた
隠すならここかここ、と当たりを付けた場所には船の影は無く、ローは早々に結論を出した
(此処には、船もクルーも居ない)
こういう時の自分の勘は信用できる
では、手掛かりだけを残して消えたキャスケットはこの島に居るのだろうか?
自分の勘は居ないと告げている
なのにあいつの気配のようなものを、弱々しいながらも感じるような気がするのだ
とんっ、と軽やかな音を立てて目の前に置いた地図の上に 黄色い塊が飛び乗る
地図を睨んだまま考え込んでいたローに構って欲しくてわざと邪魔をする子狐は、すっかり傍にいる事に
馴染んでしまっていた
ローが外に出てもついて歩くし、自由に駆けていけるのにそのまま宿まで戻ってくる
宿屋の主人から文句が出るかと思ったのだが どういうわけか訳知り顔のおやじは何も咎めだてしないのだ
(・・・この街の特徴といえばそうなのかもしれないが)
仲間を捜して歩いていた時に気付いたのだが、ペットを連れ歩いている人間がの数が多い。
犬、猫は普通で、鳥から は虫類に至るまで大小さまざまな動物と一緒の人間がやたらと目に付く
(中には、俺のようなヤツも居るのかもしれないが)
ペットではなく・・・勝手に後をついて歩く獣と一緒の人間が。
ローが追い払わずに狐を供にしているのは 街の人間に紛れこめるせいでもあった
いたずらに歩き回っても無駄かもしれないが、このキャスケットの気配が本物なら あいつも探して歩いているはずだ
そう思って昼間はなるべく外にでるようにしていたローは 珍しく港に船が着くと聞いて見に来てみた
何かの事情で自分だけが先に着いたなどと都合のいい事は考えちゃいないが、外からの船なら何か情報を持っているか
あるいは上陸した時に何か変化が起こるのか、とにかく目で見ようと思ったのだが、
(船は船でも、あれは軍関係の船じゃねぇか)
海軍・・・というわけではない。見知ったマークを堂々と掲げてはいないから
だが、乗っている人間が明らかに軍関係者らしき動きを見せている。
今こっちは立て込んでるんだ。煩わしい事に関わっている場合じゃない
刀すら手元にない状況で素性が割れても、と 持ち歩いていたサングラスを取り出す
帽子は、あの色ではかえって目立つのでとりあえずは顔だけを隠そうと耳に乗せたローの足が止まる
2〜3度、瞬きしたローは、一度サングラスを外して周りを見た
まじまじと手の中のソレを見つめて、もう一度掛けたローの顔が、ふ・・・と表情を変える
掛けるために取り出したはずのそれをポケットに仕舞ったローは "帰るぞ" と子狐を呼ぶと
船を観察するのを止めて宿に向かって歩きだした










「・・・はじめの予感があたっちゃったかも」
先を急ぐキャスケットが独り言を漏らす
最初に選んだ道は小さな農村に辿り着いた
そこで道に迷ったと説明して この島の全容を教えてもらい、2つほどある街を時間を掛けて探して回って
船長どころか仲間の船員の姿すら無いという結論に達した
港にも足を運んで、停泊中の船の中に自分達のものが無いと確認し、そこでようやっと一つの予測が浮かぶ
(俺は、船で此処に来たんじゃない)
なら、海に拘って探しても無意味なんじゃないだろうか
そう考えたキャスケットの脳裏に 森を出た時の遠吠えが蘇った
まさかと思うんだけどさ、うん。まさかね・・・と思うんだけどさ。
(まさか、あの狼・・・船長じゃないよな?)
確かめるだけ・・・。それに、これだけ探して居ないんだ ひょっとして森にいるのかも、いや、それ以前に
"自分が最初に此処に来た場所"自体が森なんじゃないか?
あの遠吠えはもしかすると本当に森を出るなと教えてくれていたのかもしれない
考えれば考えるほど 答えが森にあるように思えてきて、キャスケットは森へと急いでいるところだった


「こっち・・・だったよな」
方向感覚には自信があったのだが、森の中では目印になるものがあまり無く、数日前に歩いた記憶を辿りながら足を進める
まさか戻ってくる必要があるとは思っていなかったから目印は最初に巣を離れた比較的巣に近い場所と、
森を抜けた付近にしか付けていなかった
(・・・一応、船長が森に居る可能性も考えていたから付けておいたんだけど、それがなければ何の形跡も
残していないところだったんだよな)
「あ、・・・在った!」
しばらく森を歩いているうちに、巣の付近に着けた印が見付かった
これを辿っていけば最初に自分が倒れていた場所に着く。
方角を間違っていなかったことに安堵して汗を拭ったキャスケットは、数分後に見覚えのある場所へと辿り着いた。

「あ・・。」
狼は、その場所に居た
キャスケットが来るのを知っていたかのように巣の前に座ってじっとこちらを見ている
(あ、違うか。誰か来る気配を感じたんだ)
落ち着いて考えれば説明のつく事も 今の自分は都合のいいように解釈してしまう
(落ち着いて、冷静に考えて 整理しよう)
ふぅ、と息をついて狼に近付く
すとん と目の前にキャスケットが座っても狼は逃げも唸りもしなかった
(や、冷静に考えても この狼は普通じゃないよな)
じっと人間と目を合わせて見合う野生の狼なんて聞いた事無い。
「まさか船長・・・じゃないですよね?」
思わず馬鹿げた言葉が口をついて出た
・・・だがやはり狼には人間の言葉が通じるはずもなく、ただキャスケットの顔を見るのみで反応はない
その、狼が急に顔を動かしたかと思うと、するりと立ち上がって巣穴に戻っていく
「え・・・、あ。巣に 戻っちゃうの?」
急な行動に戸惑ったキャスケットが立ち上がった途端、ぽつ・・・と大粒の滴が鼻先に当たる
えっ?と驚く間もなく雨が降り始め、キャスケットも慌てて狼の後を追った


「ご、ごめん!勝手言うけど、雨宿りさせてっ」
以前泊めて貰ったから大丈夫だろうと入っていったキャスケットを一瞥した狼が ごろりと床に伏せる
この雨がやむまで巣で眠っているつもりらしい。
「おじゃま、します」
邪魔しないように少し離れた位置に腰を落ち着けたキャスケットは ここまで来た後 どうするべきか考えていなかった事を思い出した

「ああ 船長どこいっちゃったんだろう。いや、どっか行っちゃったのは俺の方なのか?」
狼に気遣いながら キャスケットもばたりと後ろに倒れた
地面に転がったキャスケットの手が上へと上がり、それだけはずっと離さなかったローの帽子をまじまじと見つめる
(帽子にメモとか・・・行き先のヒントなんてないよな・・・)
そうなんだ。本当は、ここから調べないといけなかったんだ。キャスケットの本能がそう言っている気がするのに、
矯めつ眇めつ観察しても帽子は帽子。
「やっぱり 何もない・・・よなぁ」
ちぇ、徒労に終わったか
帽子にメモ案はハズレだった、と手を横に放り出す。
ぱふっと船長の帽子が自由落下してキャスケットの顔の上に落ちた

「・・・え・・・、あれ?!」
どこかから船長の自分を呼ぶ声が聞こえる
起き上がってキョロキョロ見回してみても姿は見えない
(や、やっぱり、幻聴? いや、あれは間違いなく船長の声だ)
立ち上がって、外へと探しに行こうとしたキャスケットの前に狼が立ちはだかった
「ごめん、そこ通して?船長の声がしたんだ。探しに行かなくちゃ」
それまでキャスケットに無関心だった狼なのに 今回は何故か入り口を塞ぐようにしてそこを動こうとしない
なのに、やっぱり 殺気はない。
探しに行かせまいという悪意すら 感じられない
諦めてその場から狼の背後に見える森へと目を凝らしても何も見えず、やはり人の気配はどこにもなかった
(もしかして、本当に幻聴?)
狼はそれを教えてくれてるのか?
納得いかないながらも 首を傾げたキャスケットが腰を下ろすと 狼もそこに伏せた
やはり、キャスケットを外に出したくなかったらしい
「なんだってんだ、一体・・・」 こいつが言葉を話せたらなぁ、と思いながら、
キャスケットは 何気なく さっき起き上がった時に落ちてしまった帽子を手にして頭に乗せた


『キャスケット、この馬鹿!帽子脱ぐんじゃねぇ』
「ふぇっ?!」
途端に 耳に飛び込んできた声に声を上げる
伏せて目を閉じる狼は相変わらず無関心で、これ、この声、俺にだけ聞こえてる?と思わず手で耳を塞ぐ
『あぁ?耳を塞ぐとは いい度胸だな』
やっぱり、直接頭から聞こえるっ
・・・って、あっ!
「帽子から 聞こえてんですか?!」
『遅ぇよ・・・くくっ・・・だから帽子を脱ぐなっつったろ』
どういう原理かは知らないけど、互いの帽子が交信手段になっているらしい
うわ、なんで 俺一回も帽子かぶんなかったんだよ、ずっと持ち歩いてたのに!と脱力したところへ船長の指示が届く
『今、最初に出た地点の近くにいるだろ? 届く距離に限界があるみたいでそこから離れると通信状態が悪い。
そっちは森の中か?おまえが移動を始めてくれて助かった。街に居た時は雑音だらけに映像はノイズまみれで
いい加減頭痛くて参った』
どうやらローの方はキャスケットよりも早くに この事に気づいてずっと交信できるのを待っていたようだ
「え。ちょっと待って下さい。映像?そんなのどうやって見るんです?」
自分には音しか届いてこない。帽子を覗きこめばいいのか?や、でもさっき見た時は何にもなかったぞ?
『鈍いな。少しは頭使え。こっちはおまえのサングラスがあるんだ』
あぁ。言われてみれば今のキャスケットは帽子以外にサングラスも身につけてはいなかった
「じゃぁ船長からはこっちが見えてるんですか。あ、それで此処が森とか分かるんだ・・・」
なんだ。そういう事か。
「他に何か気づいた事ありますか?なんでこんな事になってるんでしょう。俺、ここに来た経緯が全然分からないんですけど」
言いながら ぐるりと視界を巡らせる
入り口付近に居た狼は キャスケットがローと話している間にその位置を変えており脇に落ち着いてくつろいでいた
『こっちも、それは同じだ。最初に出た場所が宿だったからそのまま部屋に留まってる。』
話を聞きながら まだ小雨の残る外へと這い出る
今度は狼も動こうとはしなかった
おじゃましました、と大家さん(?)に声を掛けて歩を踏み出すキャスケットの後ろで寝そべったままの狼の姿が
ぶぅん、と霞んでいく
キャスケットが初めに倒れていた場所に立つ頃には、その姿は完全に大気に溶けて見えなくなっていた







其処に立った途端、視界に映る景色が横に流れ、気付いたらキャスケットはローと向かい合って娯楽室のテーブルに座っていた

「ゲームクリア・・・・だな」
目の前の船長の口から声が聞こえる
ぽかんと口を開けて船長を眺めていたキャスケットが はっとしたように声を上げた

「あっ・・・ あ――!思い出した!俺達、こないだの島で手に入れたゲーム、やってた・・・んでした・・っけね」
テーブルには 説明書も何もない胡散臭いボードゲームが広げられている
遊び方がよく分かりませんよ、と言いながら広げた途端に ゲームの中に引き込まれてしまったらしい。
キャスケットの駒らしき人形が 森っぽい絵の上に転がっている
ローの駒は海を挟んだ先にある島の街中付近に置いてあった
「あぁ、やっぱり、違う島に居たんだ」
盤を眺めるキャスケットを後目に、ローの手が駒を掴んで ぽい、と箱へ仕舞う
「つっても、一回限りの使い捨てだな」
一度試してしまえば戻るルールは分かってしまう。
ルールを理解した上であちこちの島を旅行気分で楽しむというのが本来の遊び方かもしれないが、
だとしたらこれは島を離れる事のない人間が遊ぶ為の物なのだ。
「そりゃぁ、ゲームなんかより現実の方が面白いですからね」
片付けの途中で手を止めてしまったローの続きを引き受けて こちらは丁寧に箱にゲームを納めながらキャスケットが苦笑する
キャスケットが気付くまで宿で退屈だったらしい船長は 伸びをしながら戻ってきた自分の帽子を手に取った

「おまえなかなか帽子かぶんねぇから待ちくたびれた」
そういうローはサングラスがある分キャスケットより早く気付く事が出来たのだ
軍関係者に顔を見られるのを避けるためにサングラスを使ったところ、キャスケットの様子が見えたのだという
「サングラスでそっちの様子が見えるなら帽子はどうだとかぶってみたら声が聞こえた」
互いの帽子が通信手段だと気付いたのにキャスケットが持ち歩くだけでかぶる様子がないから参った、と
苦笑したローは にやりと人の悪い笑みを浮かべた

「・・・誰が狼だって?」
にやにやと意地悪く見てくる船長にキャスケットは ぎょっとした
「?! 船長、いつから聞いてたんですかっ!」
うわ、うわ!俺の独り言、全部船長に だだ漏れ?
顔色を変えたキャスケットがあわあわと腰を上げたり座ったりと落ち着かないのを 面白そうにローが眺める

「まぁ おまえが散々ぶつぶつ言うのは聞かせてもらった」
「ぎゃー!!悪気はなかったんです!」
いや、でも!俺船長の悪口なんて言ってないよな? うん、状況への文句は言ったけど、せいぜいが
誰か仲間に会いたいなぁとか弱音吐いたくらい、・・・で・・・・あっ?!
ぱたりと止んだキャスケットの声から、その思考がどこに辿り着いたか分かって ローは喉の奥で笑った

「キャスケット」
「はっ、はい!」
うっすら目元を赤く染めて振り向いた船員に 喉が渇いたから何か持ってこいと命令して席を立たせる
指示を受けた事で頭が切り替わったのか この場を離れる事ができてほっとしたような表情で
部屋を出ていこうとしているキャスケットの背後に音もなく近付いて、肩に手を掛け耳に口を寄せた

「・・俺も一緒に居た狐がおまえっぽいとは、思ったが。」
耳元に聞こえた声で キャスケットの顔が真っ赤に染まる
振り返るような姿勢で見上げくる目が泣きそうになっていたから 軽く口に笑みを敷いて その目元に唇を落とした
驚いたように跳ねたキャスケットの肩をそっと押して部屋から出す
「ついでに何か食うものも。 あぁ、急がなくていいから落ち着いてから来い」
おまえの分も持って来いよと追加すれば、動揺で声も出ないのか、真っ赤な顔のままこくこくと頷いたキャスケットは
おぼつかない足取りでキッチンの方へと向かっていった




どこから聞かれていたと思ったかは知らないが、あの反応じゃ何を呟いていたかは推して測れるってもんだな。
俺が聞いたのは 狼を指して "キャプテンみたいでかっこいい" だの、"早く合流しないと後が怖い" 程度のものなんだが・・・
落ち着いたキャスケットがそれに気付く確率は半々だが、どっちにしろ、今の態度で白状したようなもんだというのは
自分でも分かっているだろう

ゲームなんかよりも うちの船に居る方がよっぽど面白いよな、と うっそりと微笑んだローは
キャスケットの仕舞った小箱をこつんと靴で弾いて 誰か欲しがるクルーがいれば与えよう、と
ちょうど部屋の前を歩いていた船員に箱を運ぶようにと指示を出した




 
 ゲームよりも面白い世界


くだらないゲームは退屈してるやつらがすればいい







うーんと、獣が傍に居たのは判定人とかヒントを出す役割とかそんな感じ?なんか古い映画でゲームをやるとそれが
現実に起こるっていう話があったけどそれとちょっと似てるかな。あれはもっと危機感が満載のゲームでしたが。
獣を出したのはそれがちょっとローとかキャスケットとかに見えたら面白いかなと思ったからです^^ ふっふっふ、
よくあるパターンでは、片方が眠ってる時は片方が獣でお互い傍にいるのに気付かないままなんとか回答に
辿り着くってのが王道ですよね!すれ違いものも大好きですv 今回はそういうのにしませんでしたが!だってそれ
ぱくりになっちゃうじゃないですか。ね! いやいや、長くて書いても書いても終わらなくてまる2日掛かったよ、
おかしい!一日は本を読む時間に充てる予定だったのに だって借りっぱなし困ったな。キャスケット視点とロー視点を
交互っていうのをやってみたかったので、場面がとぎれとぎれで少し読みにくかったらすいません。これ、ドリームの
方じゃ各視点毎で一日分の記事にしようと思います。1本に纏めちゃうとやっぱブツ切れ感があるなぁ カップリング色は
うっすらとしか出していないのですがペンギン不在だから一応ロキャス区分にしておくべきかな?
<私信>
先日コメントいただいたHさま!翌日サイトに伺ってメルフォから連絡差し上げたのですが無事届いていますでしょうか?
最近メルフォで送ったのが悉く届いてないみたいで、3〜4サイトさまから反応が無いんですよね〜 文字数多くて
拍手で送れなかったのでした←


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