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SS置場2
拍手ログ 人形 P
短い拍手ログです。そしてパラレルなのか海賊なのか千堂にもよくわからない←


  







月の光が満ちる夜――

殺風景な部屋にそぐわない、精巧な人型にかたどったDOOLを窓辺のベッドに そっと座らせる
1/50の、精巧だが、小さな 人形

その、小さく丸い頭にそっと指をそえる
人工毛の、本来のモデルとなった彼のものとは、全く違う手触りの髪を 愛おしげになぞる男。

「―――キャスケット」

つるつるとした、ニセモノの髪を撫で、彼の名を呼ぶ


「キャス・・・・」

指先に触れる、硬い 人形の頬に、吐息が掛かる

「戻って、来い―――」

呼びかける男の目が、切なそうに細められる

「キャス・・・・っ」



呼びかけられたDOOLの、焦点の合わない瞳が、きらりと仄かに揺れる

それまで ただのガラス玉だった眼に、ゆっくりと生気が宿り 意志の力が灯り始める

「キャス」

男の、安心したような声が響き 少しだけ 身を引いた彼がその瞳を見つめる

ぐ・・・・、とDOOLの体が痙攣したように 大きく揺れた 次の瞬間、

男の――ペンギンの腕の中で、綺羅綺羅と息づく 温もりが 穏やかに微笑んだ

「ペンギン。 ―――ただいま」

一瞬、ぎゅっと抱きしめた体を 無理矢理引きはがす

顔を見合わせて微笑む愛しい恋人の柔らかな頬を手に収め、笑う彼の顔を食い入るように見つめた男は、
「おかえり」
破顔して 頬を合わせるようにして、彼の体を抱き締めた




「すっかり 甘えん坊になっちまったよなぁ」
いつまでも腕から離さないペンギンの背を撫でながら、くすくすとキャスケットが笑う
「うるさい。一月ぶりなんだ。存分に触らせろ」
キャスケットの首筋に顔を埋め、恋人の匂いを胸に吸い込むペンギンの腕に力がこもる
腕に閉じ込め、どこにも逃がすものかと体全部を使って締め付ける
「ペンギン。 ねぇ、ペンギンったら」
笑ってそう言いながら、そのさらさらの黒髪を指で梳くキャスケットの心地よい声がペンギンの耳をくすぐる
「なんだ」
ようやく、腕の中の存在を実感しながら ペンギンが声を返す
「ねぇ。抱き締めてくれるのは嬉しいんだけど、顔、見せてよ。俺だって一ヶ月ぶりなんだから」
"一ヶ月"
その言葉に胸を締め付けられたように、一瞬 ペンギンの顔が歪む
「ペンギン? ほら、どこにも行かないから。 顔見せて? キス、させてよ。ね?」
宥めるように背中をさすり、ゆっくりと腕の中から抜け出したキャスケットが今度はペンギンの頬を両手で包む
「笑顔じゃねぇの?」
くす、と笑った彼からの柔らかい口付けを受けて、一月の空白を埋める如く ペンギンも、激しく彼の唇に喰らいついた


――このところ、ペンギンが寂しそうな顔を見せるようになった
時折、自分に見えないように辛そうな表情を浮かべるのも知っている
激しく掻き抱くペンギンに身を任せながら、夢中のペンギンの頭を抱き締めて撫でてやりたい衝動に駆られる
(ペンギン。もし、俺が 重荷だったら――)
言ってはいけない言葉が頭を過ぎる
きっと、口に出してしまったら、余計に彼を傷つける
これは 俺が言っていい言葉じゃないから
(あぁ。でも・・・・辛かったら、いつでも 壊してくれていいんだ)
俺はおまえが望むなら 何でも受け入れるから


一月ぶりの彼のやわらかい体を抱き締める
キャスケットは何も言わずに微笑んで自分を抱き留める
抱いているのは自分なのに、彼に、彼の胸に包み込まれているような不思議な感覚を味わう
(それも、彼が、もう この世の人間じゃないからだろうか)
違う。 以前から、キャスケットにはそういうところがあった。
首を振って自分の考えを追い払う
負い目を、感じているから、こんな馬鹿な事を考えるんだ

本当は尽きたはずの命だった。
それを、彼を亡くすのが耐えられずに、そのたまを人形に封じ込めた
封じるのに借りた月の力
その力が強くなる1日だけ、封じられたキャスケットはヒトとして行動できる
月に一度だけの逢瀬。

それでよかったのか…? 彼が、人としての生を終え、生まれ変わる機会を潰してしまっても…?

これでよかったのだろうか こんな身の自分と居る事で、新たに彼を必要としてくれる人との出会いを潰しているのでは…?


互いが、互いを、想い、互いが互いの心に己の選択の是非を問う
運命に逆らう事で次の生を享受する機会を失った二人の疑問が重なる

(( 自分は 本当に 間違っていなかったのか・・・・? ))



誰にも答えの出せないその問いは、彼らの友人にだけ、届いた




大丈夫。 
ペンギン、お前の命が尽きる時には、俺がお前を人形に封じよう
そうして、二つの人形として 世に残してやるから
朽ちる時は二人一緒だ


だから、安心してるといい。
あ? 俺が先に死んだらどうするって?
そんな事あるわけねぇだろ。 俺を誰だと思ってやがる

二人の疑問を笑い飛ばした友人の、太陽のような笑顔で ようやく安息が訪れる

彼に任せておけば大丈夫だ
太陽は、月よりも 支配力があるからね

間違ってないよ。 ううん、間違っててもいい。 俺達は ずっと、一緒だ―――





古いアンティークの店の奥に並ぶ、なんの変哲もない一組の人形に纏わる、小さな恋の お話。




 月に融けた逸話







ま、ベタですけどねw これ七夕の日とかにやるべきだったのかしら。


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あきゅろす。
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