[通常モード] [URL送信]

SS置場2
拍手ログ 精霊 P
拍手ログ。ドリームっぽい雰囲気の短い文です。最後の方ちょっと恥ずかしいです〜///









ボクには体が無い
その変わり、少々特殊な力を持っている
喩えば、ほら、今そこに横たわっている人間の中に入り込んで自由にその体を動かせるような。

――ねぇ? そこのキミ。ボクと取引しない?

目の前の横たわる体はしとどに溢れた血に濡れて、このままではその命が尽きるのもそう遠くない

――キミの体、一日ボクに貸してくれるなら、その傷、治してあげるよ

だって、入り込んでもすぐにくたばってしまうようじゃ、ボクが十分に楽しめないもの

――放っておいたら、死んじゃうよ?一日だけ、ボクの自由にさせてくれるだけでいいんだから

聞いてるかな。まだ、聞こえてるかな。
少し心配になった頃に、目の前の男の口から ごぼ、と大量の血が溢れた

――聞こえてる?ねぇ、ボクに、キミを貸してくれる?

げほ、と口内に残った血を吐き出して、男は 「いいよ。一日、自由にしていい。」 と、ボクの提案に同意した





「へぇ?結構使い心地いいね、この体。」
負っていた傷を全部綺麗に完治させた体は、入り込んだボクにはとても快適だった
「見た目より、鍛えてある。動くのも軽い。」
くるくると腕を回して、シュ、と足を蹴り上げる
うん!すごくいい。
しかも、周りの景色がとても綺麗に見える
入り込んだボクは、その体の持ち主の性質にかなり影響される
ここで、こうして景色を眺めるだけで 気持ちが上昇して楽しくなってくる
彼の目を通して見た風景は それまで入った事のある体で経験したよりもずっと綺麗で、
この体の持ち主が世界をとても愛している事が窺えた
なんて綺麗で美しい世界。
こんな風に世の中を見る事ができるなんて、彼はとても優しい心根の持ち主なのだろう
道行く人を見るだけでも、それまでとは全然違う。
この子は、世界を、人間を、とても好いているらしい
「すっごく気持ちいい!ボク、いい体に出会えたみたい。」
彼の体を使っているので、自分に向かって褒める事になるのも変なのだけど、手を伸ばして自分の肩をよしよしと撫でた
「キミ、とってもいい子だね。一日、この体に居られて嬉しいよ」
とくん、と心臓がひとつ小さく音を立てる
これは、彼の返事かもしれない
あはっ ボクに褒められて照れてるのが分かる。この子、思ったより可愛い!
「久しぶりに、街へ行って誰かと言葉を交わしたいな」
きっと、この子もニンゲンと話すのが大好きだ。
だって、あまり煩わしい交流は苦手なボクがそうしたいって思ったんだもの
口笛でも吹きたいような、弾んだ気持ちで自然と足が街へ向かう
市を見て回って陽気な店主を捕まえて、言葉の掛け合いを楽しむのも面白そう!
「街に、行こうね」
ボクの提案に、心臓がとくん♪と軽く返事を返した




「キャスケット!」
市での会話を楽しむボクに誰かが声を掛けてきた
この体の知り合いか。・・・話を合わせるのがちょっと面倒かもしれない
逃げた方がいいかなと一瞬浮かんだ考えが 途端に跳ね出した心臓に邪魔されてうまく纏まらない
なに、キミ、一体どうしたの?
「おまえ、どうしたんだよ、その血?!まさか郊外であったらしい乱闘に巻き込まれたんじゃないだろうな?」
目深に被った帽子でその顔は見えないが、声を掛けてきた男は責めるというよりはこの体の持ち主の身を
心配して慌てているらしい事がボクにも分かった
「怪我してるのか?何こんなとこふらふらしてる。早く船で手当てを」
そう言った男に腕を掴まれた瞬間、びりびりと電流が走るような衝撃を感じる
さっきから跳ねていた心臓はやかましいくらいの鼓動を繰り返してる
・・・あぁ、なんだ。キミ、この人の事、好きなんだね?
大丈夫。変な事をして嫌われるような事態にはならないようにするから、安心して。
「怪我はしてないよ。血はついてるけど、どっこも傷なんてないから」
相手の男を安心させるようにそう言って、ボクはにっこりと笑顔を振りまいた


"それにしてもその血まみれの服じゃ目立ってしょうがない"
一応、町中に入ってすぐに周りに警戒されないようにジャケットを手に入れて羽織っていたのだけれど、
帽子の男はそれじゃ納得しなかったらしい。
市の店主は これくらい見て見ぬ振りで愛想よかったんだけどな
どうやら世話好きらしいその男は、すぐ傍の露天でシャツとズボンを一式買いそろえて手渡してくれる
・・と、言っても。ここで着替えていいのかな
手にした服をどうしよう、と困った顔で突っ立っていると、ぐい、と腕を引かれた
「こっち来い。俺の部屋で着替えればいい」
この人の、家?
おとなしく引かれるままに着いていくと、彼は一軒の宿屋に入っていった
この島の人間じゃなかったのか。そう言えば、さっき「船」って言った?
・・・ふぅん、こじんまりしてるけどいい部屋を借りてるじゃない。
きっときれい好きなんだろうな、と思いながら徐に着ていたジャケットに手を掛けて脱ぎ去る
脱いだそれをぱさりと手近にあった椅子の背に掛けて血塗れたつなぎの袖から手を抜いたところで
「おい、ちょっと、待て!」
腕を掴まれて びっくりして相手の顔を見上げた
「え・・・何?」
戸惑いながら見上げた先、その男はものすごく焦った顔をしていた
つなぎについた大量の血を見て心配がぶり返したのかもしれないな、と思い当たる
「あ、血はすごいけど、怪我はないよ?ホラ、見てみなよ、傷なんてない。綺麗なもんでしょ」
男から少し体を離して自分の胸を指さす
本当は、この体の胸から腹に掛けて大きな裂き傷があったのだけど、ボクが跡形もなく綺麗に治した
少し誇らしい気持ちで、男に見せつけるように傷一つない肌を自分の指でなぞる
すべすべして触り心地のいい柔らかい肌。
この肌に傷を残さないよう綺麗に治してよかった
自分の腹を見下ろして、傷が残っていないか検分していたボクは、目の前の男の喉から唸り声が聞こえるのに気付いた
「本当に、傷なんて、ないよ?心配しないで。ホラ、」
ひっかかり一つない滑らかな肌の上に 少しの傷も残さなかった事を自慢したくて 男の手を取って自分の胸へと導く
触れた途端、ボクの心臓が大きく どくんと跳ねた
そして、何故か触れた男の心臓も大きく跳ね上がったのが分かった
なんで分かったかって、それは、男の心臓がボクの心臓の上に合わさるようにぴたりとくっついていたから。
どうしてくっついているかっていうと、近くにあったベッドの上に、男ともつれ合うようにして転がっていたから
「おまえ、それはわざと、なのか?」
「え?」
いつの間にベッドに押し倒されたのか、と驚くボクの耳元で聞こえた声は酷く苦しそうで、熱を持った声だった
「俺の気持ちを知ってて、やっているのか」
「えっ?・・・・え?」
貴方の気持ちって、と聞く前に、唇が塞がれてしまった
荒い息と共に熱い舌が差し込まれる
そこで、ボクは全てを理解する
この2人は、両想いなんだ。
なのに、2人は まだ、互いの気持ちを伝え合っていなかったのだ

―――ここで、邪魔をするのは可哀相だ

そう思ったボクは、約束の一日にはまだ半分ほど足りないのだけど、この子に思いを遂げさせてあげたくて
だまってその体から離れて 元居た森へ向かって空を飛んだ



半日だったけど、それで十分おつりがくるくらい楽しい時間を過ごせた。
しかも、相手を想って、想い返されるという、とんでもなく素敵な気持ちを経験させて貰った
ニンゲンが、ニンゲンを想う気持ちって、あんなにあったかいんだ。
暖かいだけじゃなくて、胸を締め付けられるような、激しさがあって通じ合えばあんなに、泣きたくなるくらいに、
幸せな気持ちになれる。 幸福で体が震えるようだった。
実際に、あの子の体は震えていた――相手の男の腕も、同じように。
体を操っていたボクの支配を越えるほど、あの子の想いは強かった

「ニンゲンって、いいもんだね。悪い事ばっかりじゃ、ないんだ」



もうしばらく、この島に居て、ニンゲンが快適に暮らせるように守ってやってもいいかもしれない。
度重なる争いに嫌気が差して、島の守り神としての立場を捨てて海へ出ようと思っていたのだけど、
あの子達みたいに純粋な気持ちを持つニンゲンも居るのなら、もう少しここを守ってみよう

――この島の、島民に愛想が尽きてしまったら、あの子達のようなニンゲンの居るところへ移ってもいいし。
この島も、あの子の目を通して見たように、あんなに美しいところだと知ったら、ここで暮らすニンゲンの
争う気持ちも治まるかもしれない
あの子の見た風景を、この島のニンゲンにも見せてあげよう
手始めに、夢の中ででも、見せてあげようか


「もちろん、あの子達には、もっと別の幸せな夢をね」



夜になるにはまだ少し早い。
今夜の楽しみを思って、ボクは、ヒトには見えぬ素顔で にっこりと微笑んだ







 幸運は綺麗な気持ちに降りてくる



いい子には良いことがあるって、本当なんだよ?


[*前へ][次へ#]

16/100ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!