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SS置場12
恋のルール05 P


「生まれてきてすいません……」


頭上に暗雲を漂わせ、この世の終わりの見本のように管を巻いているペンギンに溜息が零れる。
あれから姿を見ない友人が久しぶりに大学に顔を出した。
その後の展開を聞き出そうと連れ込んだ喫茶店で、さっきからペンギンはこの言葉しか言わない。
先日珍しく気骨を見せ "たとえローでも渡さない"と息巻いていた友人を見直したばかりだというのに、
この男はあの後 速攻で撃沈したらしい。

当たって砕けろの精神でぶつかったまでは評価する。
だがあの勢いに反してこの打たれ弱さはどういうことだ。

「…穴があったら埋もれたい。いっそ埋葬されてしまいたい。」
「おまえ、そういうキャラだったか?」

普段から寡黙なヤツが恋愛沙汰で右往左往するのは見物だとは思ったのだが、まさかペンギンが
こういう方向に壊れるとは。

「ったく。何をそんなに恥じ入ってんだ。一度や二度フラれたくらいで簡単に諦めんのかよ」
「いや…そういうのじゃ、なく…」
相手が絆されるまで粘る気概はねぇのかと続けようとしたローがペンギンの声音に眉を上げる。
訝しむような視線にますます身を縮込ませる友人の額をぐいと指で突いて無理矢理視線をあげさせ、
どういうこったと問い詰める。
興味本位のからかい半分というよりもどちらかと言えば尋問の様相を帯びたローの詰問に、
観念したようにペンギンが重い口を開いた。



 *  *  *


「逃げられた? …シャチに?」

歯切れが悪いながらも何があったかを聞き出してみれば、要するにペンギンはキスを迫って
シャチに逃げられたらしい。
なるほど、それは恥ずかしいはずだと思う傍ら、疑問が浮かぶ。

"シャチが逃げた"だ?
まさか。

「…ありえねぇだろ」

思わず漏れたローの一人言に勘違いしたペンギンがドッと肩を落とすのが見えたが取り敢えず放置だ。
真面目一辺倒のペンギンが色恋絡みでここまで壊れるのはある意味予想の範疇内ではあった。
つまり、そうなったら可笑しい(=楽しい)が、"ありえなくはない"と思える反応だ。

(だが、シャチが逃げたのは"ありえない")

まさかの想定外の人物がローの予想を越えた動きを見せている。

(ペンギンの出方次第で一度は巧くいっても続かねぇかもなと思ってたんだが…)

目の前で床にめり込みそうな程失意のどん底にいる友人を眺め、にやりと唇を歪める。
どうせこの唐変木は言われなきゃ気付かないのだろう。
シャチが彼らしくない行動を取ったことがどんな意味を持つのかなんて。


「おい」

こちらの声に反応を返さない死に体のペンギンに 聞けよと一声掛けて勝手に話を続ける。

「場慣れして、大抵のやつの誘いを拒まないシャチが逃げた」

"逃げた"の部分で新たに傷付いたのか、ビクッと肩が揺れたペンギンに小さく笑いを漏らして
残りの言葉を一気に言い切る。

「よく考えろ。そんなヤツが何を恐れたのか。俺のダチが気付かないほど馬鹿だとは
思いたくねぇが…」


おまえはどうだ?



その問いかけに言葉を無くして思考の渦に潜ってしまったペンギンをその場に残し、店を出て行くローは
己の投げかけた言葉の成り行きを想像し、込み上げる笑いを抑えきれずに声を上げて笑っていた。







これ、多分ローさんはペンギンと一緒に伝票も残していってる


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あきゅろす。
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