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SS置場12
リレー04 S-side


うるさいのが居ない間に元に戻ってしまおうという試みは脆くも失敗に終わった。
あれだけ頭の切れる船長とちゃっかり者のシャチだ。留守にするなら手を打っていて当然だったと落胆して
部屋を出るなり 「遅ぇよ、ペンギン!」と声が飛んでくる。
反応を返す間もない。
引っ張られるようにして船を下りながら振り返った先ではもう1人のおれが船長に捕まっていた。
一体この2人は何なんだ。

「早く早く!間に合わなくなっちまう!」
「だから!どこへ行くんだ」
「着くまでなーいしょー!」

結構人気で手に入れるの大変たったんだぜと言われても何の事だかわからない。
目的地に着くまで話す気がなさそうなシャチに仕方なしに黙って一緒に走りながら、そういえば迷いなくおれの方を
捕まえやがったなと今さらながら気が付いた。

元が同じ人間で姿はまるっきり同じなのに。
どうせシャチの事だから見分けるコツでもあるのかと聞いても「俺ペンギンの事愛しちゃってるから♪」とかなんとか
ふざけた答えしか返って来ないに違いない。
おれも大概シャチとは付き合い長いからこいつの言いそうな事なんかは想像がつく

「着いたぜ、なんとか間に合った!」
「? なんだ、ここ」

ずらりと並ぶ人間の頭を眺めながらさっきシャチの言っていた"人気"という単語を思い出す。
一体なんの列だと先頭へ目を走らせていると、シャチは複数あるうちの一番短い列の後についた。
「そっちの長いのは次の回のだから」と説明しながらポケットから抜いたチケットを一枚、おれに寄越す。
シャチから手渡されたチケットには派手なイラストと何やらゲームらしき名前が記されていた。

「今、この島で一番人気の遊びらしいぜ」
にひゃっと笑ったシャチの口から聞いた話によると、アスレチックと脱出ゲームを掛け合わせた代物だという。
少々レベルが高い為、最後まで辿り着けない者も多いという評判が却って腕自慢の間で人気に火を付けた。
「ここんとこずっと平和な航海だったろ?この前の襲撃もショボくて腹ごなしにもならなかったし」
いい加減おまえも船での鍛錬だけじゃ物足りないだろうと付け加えたシャチ自身も体を動かすのが待ち遠しそうだ。
因みに 列が短かったのは既に入場が始まっているからで、本当にギリギリの到着だったらしい。

「どうする?脱出順で何名かには商品が出るらしいけど」
それとも制限時間ギリギリまで中で遊んでるのもいいかもなーと入り口を眺めて言ったシャチがくるっと振り返って
わっくわくという効果音まで聞こえそうな笑顔を向ける。

アトラクション自体も面白そうだ。
だが、それ以前に隣でシャチの楽しそうな様子を見せられるとこちらのテンションも上がってしまう。
「当然、ワンツーフィニッシュを狙うだろ」
名のある海賊団に所属する身で一般人に負けてられるかと腕が鳴る。
それに、一緒に組むペアの相手がシャチとくれば負ける予感なんて欠片も浮かばない。
「そうこなくっちゃ!」
パン!と互いの手のひらを打ち合わせて気合いを入れたところで、入場の順番が回ってきた


 * * *


その日は島を巡って買い物やら観光やらで一日中出歩いていた。
最初にシャチと入ったゲームで予告どおり一番で脱出という幸先良い勝利を収めたのを皮切りに、
どういうわけか既に目玉となる場所を全て把握しているシャチの言う通りに回った島はどこへ行っても
ハズレがなかった。一度下調べでもしたようなスムーズな案内は見事なほどだ。

・・・そういえば、目が覚めた時にはシャチは部屋には居なかったんだっけと思い出す。
(こいつ、何時に起きたんだろう)
気さくで会話が得意なシャチの要領がいいのはいつもの事だが、今日はそれに輪を掛けて完璧な
情報収集に思えるのだ。
まさか、と隣で上機嫌のシャチを覗う。
(おれを、楽しませようとかって、考えて…?)
一緒に上陸した時はいつも楽しそうだが、今日はそれとは微妙に雰囲気が違う気がする。
まぁ、昨夜の事を思えば全く同じ方がおかしいのかもしれないが。

「あ、見えてきた。あの店 すっげー美味いんだって。メニューもペンギンの好みだと思う」
シャチの指さす先に見えたのはこぢんまりとしているが小綺麗な外観の店だった。
それすらも、これってデートなのではとペンギンが変に気負わない為の配慮のようにさえ思える。
「ん、何? もっと居酒屋っぽい方がいいか?」
親しいだけあってこちらの好みは完璧に理解されている。
その上で、気遣いを感じさせないエスコートとくれば文句の付けようがなかった。
「いや、そのメニュー喰ってみたい」
「そっか!」
にかっと笑う相棒の顔が眩しくて擽ったく感じるのは気のせいだ。
そう自分に言い聞かせながら入った店での食事の終盤で、楽しい一日をひっくり返すような異変が起こった。


かしゃん、と飲んでいた珈琲が皿に落ちた。
大半を飲み終えていたから中身が飛び散る事はなかったがその音はシャチに異変を気付かせるには充分だった。
「・・・・っ!?」
街中の飲食店の中だ。
ごく普通に食事をしているだけなのに、ぞわぞわと身体中を手が這う感触に襲われる。
脇腹や脚の付け根、うなじや背中など、昨夜シャチに教えられた自分の弱い箇所を執拗に撫でる気配がする。
じわっ・・・と嫌な汗が噴き出す。
何か話して気を散らさないとヤバイと思うのに、上がり始めた息がそれを許さない。
カタカタと小刻みに震え始めた頃には視界が狭まっていて、周りの音も耳に入らなくなっていたおれは、
どう取り繕ったのか知らないが足取りも覚束ない身をシャチに抱えられるようにして店を後にしていた。

「悪い。時間とか考えてなかった。早めに引き上げるべきだったよな」
そんな風にシャチが耳元で謝っていた気がするが、それに気付かなかったのはこちらも同じだ。
手近な宿に入ったのか、ベッドに横たえられた身を縮込めるようにして口を覆う。
ビクビクと震える身体と、ん、んっ、という抑えても漏れ出る吐息をシャチに知られるのはイヤだと思った。
「見、んな・・・ッ」
今のおれは別の人間の愛撫に反応している。
そんなところを見られるのは耐えられない。

「ペンギン? いいから、こっち向いて」
とっくに脱げ落ちていた帽子は床に転がっていた。
隠すものが無くなったというのに、前髪をシャチが掬って目元を露出させる。
いやだ。 きっと、目だって潤んで赤くなっているに違いないのだから。

嫌がって顔を背けたというのに、シャチは首を伸ばしておれのこめかみにキスを落とした。
いやだって言ってるのにと睨むつもりが閉じていた目を開けた途端 ぽろりと水滴が転がった。
そのおれの頬をシャチの手が包んで唇が重ねられる。
つなぎの前をくつろげ服の中に侵入してきたのは今度こそシャチの手だった。
その温かさの与えた安堵で身体から力が抜けた。

「すぐ楽にしてやるから。安心して」
のしかかってくるシャチの重みを受け止めながら、おれは縋り付くようにその背に腕を回した。



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