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SS置場11
にゃんこの日2016 E
コラボ?と言っていいのかわかりませんがとりあえずにゃんこの月、ぎりぎり駆け込みUP!






タタ…ッと数歩駆けたところで後ろの重みにつんのめるように引かれる。
チ、と舌打ちしたくとも今は口に咥えた帽子のおかげで不可能だ。
…尤も、帽子がなくとも今のシャチには舌打ちなんて真似は無理かもしれない。
ああ、畜生!と胸中でぼやきながらズルズルと"帽子を引き擦って"駆ける姿は人間のものではない。
なんの因果か現在のシャチは人間ではなく、ぴょこりと尖る二つの耳をもつ獣の姿をしている。
(しかも!)
帽子の大きさと比較するとすっぽり中に収まってしまうサイズで、有り体に言えばまるっきりの仔猫としか呼べない。
(ったく!本体はガキじゃねぇってのに何で仔猫なんだよ!)
まだしも成猫ならこんなに苦労はしないのだ。
体も小さければ力も限られていて、持ち運べたのはこの特徴的な色合いの帽子だけ
(あのグラサン、気に入ってたのに!)
仔猫の口では咥えて走るには大きすぎて、持ち運べたのはこの帽子だけだった。
さすがにこれくらいは所持していないと自分だと分かって貰えないだろう。
だから何がなんでも船に戻るまで自分のトレードマークともいえる帽子だけは手放せない。
いかに駆けるのに邪魔でも自分と認めて貰う為の必需品を必死で運んでいたシャチは、ぐんっ!と強い反動に転げ飛んだ。

ふぎゃ!と漏れた声はあまりにも頼りない。
それでも、上下に回転する視界の中で、自分の運んでいた帽子が端に落ちていた瓦礫から突き出た丸形の鋼材に
引っ掛かっているのを捉えた。
それに気を取られたシャチの小さな体が、ぽぅんとゴミの袋に突っ込んで跳ね飛ぶ。
軽い分、地面に落ちた衝撃は少なかったが代わりにぽんぽんと面白いくらいに跳ね転がって、みるみる帽子が遠ざかって行く。
どうにか出す事に成功した爪を地面に突き立て、ズザッと滑りながらもなんとか転がる勢いを殺して止まった。
慌てて跳ね起き、後方へ置き去りの帽子へと駆け戻ろうとしたシャチを、突如天から現れた巨大な手が掴み上げる。
(あ、あ、あ・・・!?)
見る間に地面が遠ざかる。
それに逆らって闇雲に手足を振り回しても仔猫の小さな足じゃ何の足しにもならない。
「ふぎゃー(何すんだよ、離せ)ッ!!」
抗議の声も丸っきり猫の鳴き声では通じるはずもなく、抵抗虚しく抱き上げられてしまったシャチはその大きな瞳に
映った顔に目を丸くした。

(ユースタス・キッド?!)

なんだなんだ、何でこいつが俺(仔猫)を捕まえてんだ?!と正体を知られてもいないのに条件反射で慌ててしまう。
わたわたと蜿く仔猫をしっかり掴んだ手は大きくて、シャチが全力で暴れても一向に緩む気配はない。
どうやったら逃げ出せる隙間が生じるんだろう。
小さな体では直ぐに体力が切れるせいも相まって、シャチは途方に暮れて天を見上げた。
一方、捕まえたキッドはといえば、暴れるのを止めた仔猫を興味津々で眺め回している。
「見ろよ、キラー。この猫、赤毛だぞ」
珍しい、と子供のように目を輝かせてますますシャチを覗き込む。
「まさか。赤い猫なんて見たことないぞ。茶色だろう?」
光の加減じゃないかとキッドに負けず劣らずの巨体がやってきて一緒になってキッドの手の中を覗き込んでくる。
巨大で無機質な仮面はどこからどう見てもバケモノだ。俺が本物の仔猫なら恐怖でパニックを起こしているに違いない。
「茶よか赤みが強いじゃねぇか」
この仔猫の毛色は赤だとキッドが主張する。
「・・・確かに、茶色ではないな」
ちょっとキッドの髪と似ているとキラーが笑う。
それを聞いて、何故か得意そうにキッドが頷いて シャチの頭をわしゃわしゃと撫でた。
(ちょ、なに!まさか親近感でも覚えてんの?!)
小さな仔猫の体なのだ。キッドの大きな手で大雑把に撫でられては大地震か大嵐の中に放り込まれたみたいだ。
(帽子!早く回収しなきゃどっかいっちまう!)
ふがふがと唸りながらもみくちゃにされていると、不意に、ぼふっと体が柔らかいものの中へと落ち込み、ひっくり返ったシャチは
目をぱちくりさせてきょろきょろと辺りを窺う。
・・・シャチの周りを覆うのは見慣れた色だ。
不安定な布の中でなんとか天地を取り戻して帽子からもぞもぞと顔を出す。どうなってんだよと状況把握の為に周囲を窺うシャチの
仕草はどうやらキッドの中の何かを鷲掴みにしてしまったらしい。
「な、コレ、持って帰っていいよな!」
言葉上は相談している形式だが口調は断定だった。
隣に立つキラーを振り向くキッドの顔は満面の笑みを浮かべている。
「いや、多分だが飼われている猫だろう」
「首輪もリボンもしてねぇし違ぇだろ。毛並みだってくしゃくしゃだし」
「にゃー!(それはたった今貴様がぐしゃぐしゃにしたんだ!)」
シャチが不満を述べるのを聞きつけて、お、とキッドが笑顔を向ける。
「一丁前に会話に参加してんぞ、こいつ。連れて帰って船で飼う!」
「にゃーにゃーにゃ!(誰があんたの船になんか!俺は絶ってぇハートの海賊団を抜けたりしねーっつの!)」
「マジ会話してるみてー」
ははは、と帽子にくるんだ仔猫を抱えて楽しげに笑うキッドと対照的に腕組みの姿勢で眺めるキラーは、何かを
思案するように首を振っていた。







(船長、ペンギン、ベポでもバンでも誰でもいいから助けてーッ!!)

所変わってキッド海賊団の船長室で、シャチは路地で拾われた時とは比にならない切羽詰まった悲鳴を上げていた。
抵抗の余地もない仔猫姿のせいで結局あのまま為す術もなく船に持ち帰られてしまったのだ。
赤い毛並みが珍しかったのだろうと軽く考えていたのだが、船長室という個室でシャチはそれが間違いだったと
心の底から実感していた。
なにせ、人目がなくなった途端 取り繕う必要のなくなったキッドが思う存分愛らしい仔猫を堪能し始めたのだから。
――要するに、ユースタス・キッドは重度の猫好きだったのだ。
こちらの迷惑も一向に介することなく 撫でるわ抱き締めるわ、挙げ句頬擦りまでされて、シャチは面食らうを通り越して
気が遠くなる思いだった。
(信じらんねぇ!この、強面の手配書ふだ付きがだぜ?)
勿論、当人だとて似合わない事は承知しているのだろう。だからこそ外では大雑把に撫でるだけに留めていたのだ。
我慢の反動というのは恐ろしいもの。
あんた、それじゃ動物からは嫌われるぜという過度の愛情表現によるスキンシップは 野良ではなく飼い猫ですら
尻尾を巻いて逃げだす程だ。
(ああ、これがこんなゴツイ野郎じゃなくて綺麗なおねーちゃんだったらどれだけ良かったか…!)
馬鹿正直に船なんか目指さずに、せっかくの愛らしい姿を思い切り利用して美女の家にでも潜り込んでおくべきだったと
現実逃避していたシャチは、ぐったりとキッドのベッドにつっぷしていた。
仔猫の姿だから違和感はないが、これが本来の人間の格好であれば暴行でも受けた後のような見てくれだろう。
幸いなことにキッドの方でも仔猫が疲労困憊なのは分かっているようで、今はシーツに沈んでいるシャチの背を撫でるだけで
抑えてくれている。
散々頬擦りされた後で魂も抜けかけたシャチは、おまえホント可愛いなという心底感じ入ったようなキッドの声を耳にして
顔をそちらに向けた。
(あーあー、蕩けまくった顔しちゃって・・・)
こんな厳つい顔のくせして、愛らしい仔猫にめろめろだと伝わってくる、正に骨抜きにされた顔とはこの事というような
うっとりとした表情で見つめている。
あのユースタス・キッドがだぜ?とシャチは可笑しくなって、仔猫の姿のまま、きゅっと目を細めて笑った。
シャチのその笑みがヒットしたのだろう。
目にした瞬間、がばりと枕に顔を埋めたキッドのくぐもった声が、可愛い…可愛過ぎる…と漏れ聞こえている。
あ−、はいはい。仔猫の俺様は可愛いですよーと猫姿を開き直りつつあったシャチが考えていると、横から伸びてきた
キッドの手にガッ!と掴まれた。


「ふにゃあ?!(うおっ?!)」
再びの頬擦り攻撃に やめてくれ〜〜とシャチが目を白黒させる。
仔猫の笑みという悶絶ものの表情に歯止めの利かなくなったキッドは、情熱の赴くまま、ちゅっ…と仔猫の小さな口に
愛情をたっぷり込めたキスを落とす。

その瞬間、キッドの手の中にあった質量が急激に増えた。
ぼすっ!と、ベッドの上へ何か大きなものが落ちた振動が起こり、何事かと目を凝らしたキッドが、自分の船の人間
ではない男(しかもまっぱな上になんだか髪も乱れて半分放心している)を発見するのと、キラーから連絡を受けて
我が船のクルーを迎えに来たペンギンが船長室の扉を開けたのとは同時だった。







 にゃんこの日










コラボ?というか、ネタ元はカラ色トリ籠様のにゃんこの日のペンシャチです。本当は「このシチュで他のCPも面白そう」っていう
話だったのですが、全然同じシチュになってないですよね…後日改めて同じシチュにチャレンジしてみます。
元ネタのペンシャチも頂いてきましたので、次回飾らせていただきます^^



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あきゅろす。
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