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SS置場11
再会5 L
わ〜、拍手いただいていたのにすいません、あと数行で終わる!ってところで数日続けて寝オチてました。
間があいちゃったーこのあとさらに数行ロー視点を入れる予定でしたがまたオチそうな気がしたのでとりあえずUP。
後で書き足すか別のページでアップします。数行ですむはずだからどうしようかな〜







「だから、違うんだよ。」
そこで一旦、続きを待つ友人の顔と、その向こうにいるローを順に見て、"違うんだ"とシャチはもう一度繰り返した。
「ローが追ってるのは俺じゃない。いや、うちに来たのは俺と会ったからだけど、俺じゃないんだ」

意味が分からず戸惑うペンギンと、眉を顰めたローの射るような視線がこちらを見る。
「言ったろ?俺だって馬鹿じゃねぇって。"今度は"なんてヒント貰ってて分かんないわけねーじゃん」
「おい、なんの事だよ」
ローとシャチの会話を知らないペンギンが不服そうに説明を求めるのが聞こえたけど、考えを言葉にするのに
忙しいシャチには説明を挟む余裕はなかった。
「それにさァ、俺、最近ローの表情がなんとなく分かんだけど・・・」
言った途端、あるわけない、という空気がローとペンギンの両方から伝わってくる。
だけど、近頃シャチには彼の目に表情を見る事が出来るようになっていた。
「たまにさ、"これじゃない"みたいな表情してる時あんだよな」
「・・・まさか」
気のせいじゃないのかという否定はペンギンのものだったが、まさかという疑いの言葉はローの口から出ていた。
ほら、とシャチは真っ直ぐに彼の瞳を見る。
「今だって動揺してる」
作り物の、変わるはずのない瞳の奥に、シャチにしか分からない色が映っていた。
「俺じゃない誰かが居るんだろ。似てるのかもしんねーけど、それは俺じゃない」
だから、そいつと俺の違いを見つけちゃ、"こいつじゃない"って思うんだ。
自分じゃ分かってないかもしんねーけど、その度にがっかりしてんだよ、あんた。

或いは自覚はあっても顔に出していないつもりだったのかもしれない。
シャチに読まれているとは考えていなかったせいで油断していた可能性も。
横で聞いているペンギンも、もう口を挟まなかった。
やけにきっぱりと言い切るシャチの様子は、実際にそれを目にしている当事者にだけ分かる根拠があると物語っていた。
ここで話を聞いただけのペンギンが"おまえの気のせいだ"と言えない強い自信がシャチの言葉に説得力を与えていた。

「・・・・・」
室内に沈黙が降りる。
黙しているローは今度は面白がって様子を見ているのではなかった。
シャチの明かした事実による驚きで言葉が出てこないのだろう
「なんでかな。あんた、意外と表情分かりやすいんだぜ?目を見たらなんとなく分かるんだよな」
声には 少し、自虐の気持ちが含まれていた。
ローには人の気持ちは読めないのに、なんで俺だけ分かっちまうんだろうと心の中でひっそりと笑う。
その表情が読めるようになってみて気が付いたことは他にも幾つかあった。
憎まれ口の最中にも案外楽しそうにしている事、時々 優しいとも呼べるような目でシャチを見ている事。
そして、その目が "こいつじゃねぇ"とシャチを否定することや、その後、寂しそうに伏せた目がシャチの向こうへと
流れていくのにも。
何度か続けばローが自分の後ろに別の誰かを見てるってことくらい嫌でも分かる。
メンテさえ怠らなければ寿命なんかないのだから、似たような人間を探す時間はいくらだってあったのだろう。

「だからさ、ペンギンが心配してるような悪巧みなんてねーから!俺もなんもされてねーし、そんな喧嘩腰になるなよ」
なっ!と場の雰囲気…いや、自分の気分も含めてこの空気を一掃しようと明るく声を上げる。
これ以上余計な事を言っていたたまれなくなるのは嫌だったから。
ちらりとペンギンを伺えば、何とも言えない微妙な顔をしていた。
ペンギンとは付き合いが長いから、色々と気付かれてしまったかもしれない。
余計な事は言うなと合わせた目で牽制すると、軽く舌打ちして彼は目を逸らせた。
余計なお節介をすべきか否か迷っていたのだろう。危ないところだ。
「そういうわけで、こいつが最初から気にしてた技術的な質問には答えてやってくr・・・・・・!?」

視線を戻すと同時に、いつの間にか目の前まで移動していたローに顔を捕まえられていた。
「・・・え?!」
人の体温と同じような温度に調節されたローの手がシャチの両の頬を挟む。
まじまじと間近に見つめられて、思わず身を引くのに頬を包む手は離れない。
「な、なんだよ、放・・・」
「なんでだ?」
「え?」
何が・・・? と、あまりにもピタリと据え付けられて離れない目に吸い込まれそうに感じながら 反射で聞き返していた。
そういやローって瞬き必要ないんだっけと頭の隅で考える。
意識の大半は目の前の相手に集中しているのに、シャチの頭は殆ど動いちゃいなかった。
「性格なんかまるっきり違うのに、あいつと同じ事を言う」
今まで話したことのなかった過去をローが語り始めているのに、距離が近すぎてイマイチ頭に入ってこない。
「同じ、こと?」
そうだ、と不思議な色をした目が頷く。
「あいつも、俺のことを人間だとしか思えないと言った」
お前と同じだと過去の事を話しながらも、ローの目はシャチから逸れない。
後ろに逸れることのない視線は自分の中に過去の姿を探しているのか、違うのか。動揺する今のシャチでは分からない。
頬に添えられた手の一方が するりと後ろの方へ流れ、シャチの頭を支えるように角度を変える。
ますます近付いた距離はもしもローに酸素が必要だったら"吐息の掛かる距離"というやつだ。
「ただのアンドロイドなのに 俺にも感情があるとも言っていた。それに、目を見れば分かるとも。」
「・・・だって・・・」
あるんだろ? 少なくとも、俺にはローが自分の感情に基づいて行動しているように見えた。
そう言おうとして、あまりの近さに言葉に詰まる。
ローの中にある感情。それは理屈じゃなくて シャチが直感的に理解していたようなものだった。

「あいつは――」

自然に傾けられたローの顔が近付く。
シャチの唇に押し当てられたローのそれは、手と同じように体温のようなものがあった。
培養して作られた人口の皮膚は人間のものと遜色ないほどに精密に生成されていて、自分とどこが違うんだろうと
ぼんやり考えた。
唇が離れた後もシャチの頭を支える手はそのままで、結局鼻先を付き合わせたままだ。

「ただの機械の俺を、好きだと言った」

頭に触れる彼の手に力が籠る。
きっと、もう何十年も、もしかすると百年も昔のことなのに ローの中ではずっと引っ掛かっていたのだろう。
人と違って彼の記憶は薄れる事がないのだから。
「勿論、俺はなんの冗談だと取り合わなかった」
そんなヤツのどこに感情があるのかと自嘲のような呟きを漏らすローは苦しそうに見えた。
後悔や自嘲の感情を持つ彼のどこが人間と違うのだろう。
同じじゃねーか、とシャチは思う。
その苦しみを和らげてやりたくて、無意識のうちに彼の背に手を回し慰めるように力を込める。
「それを気にしたのはあいつの親の方だ。自分たちの息子を案じて、二度と接触しないよう命じて俺を手放した」
「・・・その命令、守ったのかよ」
それきりなのかというシャチの問いはあっさりと肯定される。
「アンドロイドが主人の命令に背けるとでも?」
ましてや彼の言う事が本当ならローはまだ作られて間もない時期だったはずだ。
今のように自分の意志なんてものを自覚していなかったことだろう。
「その後、あの家がどうなったかも知らない」
調べる事もできたはずの彼は命令どおり、元の主人の動向を調べることすらしなかったのだろう。
知ったところでどうしようもないのだ。なにがあっても側にいてやることも出来ないのだから。
そうやって、"彼"の元を離れたローは、見つけたのだ。
多分 元の主人の血を引くシャチを、その姿形だけで見つけ当てた。

「今度は間違わない。てめえの言葉を信じる」

冗談なんかじゃなく、そう言ったローの顔が再び近付いてくる。
それに従って目を閉じたシャチの唇に今にも触れる、というタイミングでコホンと咳払いがした。
「流されやすすぎ・・・」
聞こえた声は友人のものだ。
それまで黙っていたペンギンが身の置き場のない状況に思わず漏らした一人言で、ハッとシャチも我に返った。
改めて目を開いたシャチと間近に目を合わせたローが、にやりと口端を引き上げる。

「ちょ、ちょっと待て!俺別に好きだとか言ってねーし!」
なにがてめえの言葉を信じるだ!と、現実に戻った途端に襲ってきた気恥ずかしさに慌てて声を上げる。
否定するには遅すぎた感が満載だったけど、言わないよりはなんぼかマシだ。
言ったところでローはちっとも堪える様子はなかったけれど。

余裕の表情で少し身を離し、互いの間に空間を作りながらも応答がある。
「俺も言ってねぇ。・・・が、てめえは今白状したようなもんだろ」
「〜〜〜っ」
誰もおまえに好きだと言われたなんて言ってねぇぞと指摘されて、今度こそシャチの顔が真っ赤に変わる。

ペンギンの前でいわゆるラブシーンとかいうものを演じてしまったばかりかそれを否定も誤魔化すのにも失敗して、
どんな顔すりゃいいんだと頭を抱えるシャチの背後で、
やっぱりおまえは迂濶過ぎだ。隙だらけじゃないかとペンギンの呆れたような声が聞こえてきた。







  再会




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