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SS置場11
均衡 P(L)
初期の頃にこういうの好きでよく書いてたなー、懐かしいですもの凄く短い一場面でシャチ視点









自業自得・・・だろ

文句のつけようのない理想の相手だったはずだ。

シャチはペンギンが一番好きだったし、自分には勿体ないくらい出来た人間であるペンギンもシャチを好いてくれて
大切にしていたのに。

(俺が、わがまま・・・だった、から)

公私を混同しないのはペンギンの長所だ。
何より、船の存続を守る為に身を粉にして働く彼をシャチは本当に尊敬していた。

(だから、これは 俺が悪い)

シャチと一緒に居ても何かあれば仕事を優先して置いていく。
その分 先刻は悪いと埋め合わせるように優しく抱き締める腕に不満をぶつけるような無様をしなかったのは
自分のくせに。

ペンギンが船の中で重要なポジションに居るのも、仕事に没頭してシャチのことがうっかり頭から抜け落ちることも
しょうがないなと笑って赦す度量くらいシャチにもあった。
(いくらなんでもそれくらいで目くじら立てたりしない)

ただ恋人と居る時にはシャチの事を一番に考えてくれさえすれば、何も不満なんかなかったんだ。

"ペンギンの一番になりたい"

その一言がどれほどの我が儘かシャチ自身もよーく知っていて、
だからこそ口にする事が出来なかった。

(あいつの頭の中ではいつどんな時でも船長が一番だ)
それは ペンギンという性格を考えても彼の役割から考えても至極当然の事なのに。
一番を望むのは仕事と恋人のどちらが大切か尋ねるくらいに意味のない事だとわかっていたくせに。

言葉でどれだけ誤魔化してみても同じだった。
理屈じゃ納得していても感情はそれを望んでいて、

("その一番を俺が獲っちまったらどうなるかな"なんて 馬鹿な事を考えた)

そんな事を思い付くからだ。こんな事になっちまったのは。



目の前にはシャチの最愛の恋人。
彼は普段の無表情ともまた違う、顔から一切の感情を削ぎ落とした何もない空虚の表情をしていた。

シャチの後ろには"彼の一番"である男が居て、どうしたことかその腕はシャチの胴体に回されている。

"そうなったらペンギンはどんな顔をするだろう"

ちらっと考えただけだ。

"俺がペンギンの一番を獲っちまったら、ペンギンが考えるのはどっちの事だろう。――俺? それとも、…船長?"

自虐にも近い疑問を、ほんの少し 頭の片隅で思っただけなのに。
まさか本当に船長からこんな仕打ちが返ってくるだなんてシャチは考えてもいなかった。

だからシャチはごく軽い気持ちで聞いたのだ。
"船長、俺の事 好きですか"
その返答がこの行動で、測ったようなタイミングでペンギンが船長室の扉を開ける。そんな事態に陥ったのは
全てシャチが放った一言が切っ掛けで――


まるっきり、人形のように感情の抜け落ちたペンギンと、愛おしむように慈しむようにシャチを抱き締める船長の腕。

その2つに挟まれたシャチは身動きすらままならない。

崩された均衡を戻す術なんて 誰にも分からないことなのに。
(覚悟もなしにつついた自分の浅はかさを呪ってももう遅い)

張り詰める室内の空気を破るように シャチを抱く腕がゆっくりと顔の方へと上がってきた。







 綱渡りの平穏




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あきゅろす。
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