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SS置場11
信頼9
9回めにしてやっとローが出てきた。
キリのいいとこまでと思ってたらこんな時間に!うわぁ、これから弁当作ってお風呂とか…校正は明日する








シャチが目を覚ましたことで安心したのか、それからのペンギンはお説教モードに突入した。
いくらなんでも無謀過ぎる、今回おまえが命に別状なく怪我だけで済んだのは本当に運が良かったからだと言われて
あまりの剣幕に身を引こうとして走った痛みに顔を顰める。
「悪かったって。考えなしに飛び出しちまって、ホントごめん!」
意識を失った後の事を思うとペンギンの怒りも分かる。
目の前で倒れたシャチの様態を確かめ、その場では処置のしようがないと船まで運び込んでくれたそうだ。
しかも 爆発物と自分の間に飛び込んできたのが原因の怪我とくれば、やりきれない思いだったに違いない。
(立場が逆だったら俺だってぜってー怒るし)
仲間の危険を見過ごせないのはシャチだけじゃない。それはペンギンだって同じなのだ。
心配すればその分だけ怒りも大きいというもの。この説教は甘んじて受けなきゃなと神妙に覚悟を決めたシャチの鼻先に、
消し炭のように焦げた袋が突き付けられる。
その真ん中にはぽかっと大きな穴が空いていて、その焼け焦げた跡をシャチはまじまじと眺めた。

「おまえが朝から探して周った本だ。言っておくが、こいつがなきゃ穴が空いてたのはお前の腹だぞ」
勿論、シャチのお腹にも火傷はあった。 だが、この厚い本が盾になっていなければ火傷どころか腹の肉をごっそりと
持って行かれていたに違いない。
「肉で済めばまだいい。あの距離じゃ内蔵が無事だったら奇跡だ」
「・・・・」
じゃぁ、やっぱり生身のお前じゃなくて良かったじゃん、と口に出せるほど流石にシャチも厚顔じゃなかった。
せっかく手に入れた大事な本をそこらに置いて行きたくなくて腹に仕舞って乗り込んだのは偶々で、シャチの命が
助かったのは偶然の産物による結果論でしかない。本当なら今頃生死の境を彷徨っているところだろう。
「下手してりゃ即死だ。後で船長にもたっぷり絞られるぞ、この馬鹿シャチ!」
怒っているペンギンはぐったりと沈んで意識のない相棒の姿を思い出したのか、いつになく感情が昂っている様子で
シャチの目には泣きそうになっているように見えた。
「そっかー。船長に命助けられちったな」
惚けた顔で、しれっと言ったらペンギンの纏う空気が目に見えるくらいはっきりと変わった。
「…こんの、大馬鹿野郎ッ」
般若の形相で怒鳴りつけたペンギンが救いようのない相手への説教を止めて足音も荒く部屋を出て行く。
助け舟を出したつもりが、本気で怒らせてしまったかもしれない。
「だって、おまえ人前で泣くの大っ嫌いじゃん・・・」
ぽつりと零したシャチの声は一人きりの部屋ではやけに頼りない音で響いた。







「なんだ、怒らせたのか?」

「っ、船長!」

出て行ったペンギンと入れ違いに現れたローはえらい剣幕で歩いてったぞと教えてくれる。
「すいません、ドジ踏みました」
起き上がって 先走った行動での怪我を謝ろうとしたシャチを手で制し、いいから怪我人は寝ていろと告げる。
「ペンギンから聞いてる。怪我の原因はおまえばかりじゃねぇとさ」
どっちも同じだ、纏めて説教してやると宣言した船長は無事とはいえ結構な怪我を負ったことで手加減してくれているらしかった。
・・・全快してからこってり絞られそうではあるが。
当然、シャチの怪我の程度は船長も知っている。下手をすれば命がなかったというこの状況ではそう簡単には
勝手をした事への怒りは解けないだろう。
判断はまずくなかったとは思うが、その程度の輩を相手に慢心していたと募られたら返す言葉がない。
船長は力が及ばなくての怪我よりも油断に拠る怪我を嫌う。しなくていい怪我を負ったクルーには非常に厳しく
二度とするなと叱り飛ばしていた。
ペンギンがどこまで状況を話したのか知らないが、間違いなく自分達は後者で、船長の激怒の対象だ。

「うう・・・ 先延ばしになるだけ余計恐ろしいっスよ」
お説教は今窺いますと言ってみたが、ジロッと睨まれただけで観念して口を噤んでしまう。
「言って分からない奴には体罰込みだ。せいぜい、怪我が治るまで反省しておくことだな」
「あああ〜」
負傷が自分だけで済んだ事に後悔は無いが、普段からの船長のいいつけを守れなかったのは痛い。
そりゃもう怒ってないはずがないですよねーと頭を抱えてシーツに沈んでいると、そのシャチの枕の先に放置していた
物体へと船長の視線が流れる。
・・・しまった。まさかペンギンと入れ替わりで船長が来ると思ってなかったから隠しておく時間がなかった。
こんな黒焦げの本なんか見せちゃ益々船長の怒りに火を注ぐだけじゃね−か。
本当に危うい状況だったのだと知らせるようなものだ。
頬が強張りそうな心境で恐る恐る船長の様子を覗う。
迫力のあるキツイ目付きがシャチをちらりと眺めたが、そのままもう一度本の方へ戻った。

「こいつか。てめえを救ったってヤツは」
"死"の文字を刻んだ手が本を取り上げる。
頭上を通り過ぎる手に頭を掴まれそうな気がして思わず目をつぶってしまったシャチは、聞こえた声につられて
閉じていた目を開けた。
焦げて穴が空いて尚、凶器と成り得る分厚い紙の束をしげしげと眺めるローに思っていたような怒りの空気が
ないことで却って不安の面持ちのシャチに、本に目を落としたまま話し始める。
「咄嗟の判断にしちゃ上出来だ」
中央に出来た大きな穴を長い指がなぞりながら ローの声が言った。
「厚みのある本のお蔭だぞ」
肝に命じておけよと忠告する船長は飛び出したシャチが勝算なく動いたわけじゃないのを汲んでくれたようだ。
とはいえ、その本を持ち込んでいたのは偶然の事なので大きな顔は出来ないのだが。
それにしても――と腑に落ちない様子でローが呟く。
「おまえがこんな分厚い本を買うとはな。珍しい事もあるじゃねぇか」
「や、それは・・・せん、っあ、いや・・・」
ぎくっという思いが顔に出なかったか危ぶみながら、それは船長に贈るはずでという声を慌てて飲み込む。
内心冷や汗ダラダラのシャチに気付いているのか読み取れない表情のまま、淡々とローの話が続く。
「勝機があるならそれもいい。だが、無茶な賭ならただの無謀だ。命を粗末にする奴は俺の船には要らねぇ」
「船長」
冷徹な悪魔だの"死の外科医"だの呼ばれるローだが、そんな噂と裏腹に船のクルーには目を配っている。
仲間だからという身贔屓を抜きにしても大切にされているのは同じ船に乗った人間なら皆知ってる。
こうして命の大切さを説かれる事も クルーなら誰もが一度は経験していた。
(でも、)
それはローの医者としての本分とは何か違うようにシャチには感じるのだ。
だけど、それがどういう理由からくるものであれ命を心配する船長の気持ちは本心からだと伝わってくる。
「・・・っ」
シャチの胸の中に、じわりと何かが込み上げてくる。
その気持ちをどう捉えていいのか分からなくて、突き動かされるように声を張り上げた
「船長! 俺っ、一生船長に着いていきます!無謀な馬鹿はしねぇからッ、傍に置いて下さい!」
お調子者で楽天家のシャチのいつにない真剣な剣幕にローが驚いた様子でシャチの顔を見返す。
それまでどこか不機嫌だった船長が、簡単に一生なんて言葉使ってんじゃねぇよ、莫迦と言って笑った




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あきゅろす。
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