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SS置場11
信頼8
めちゃくちゃ空いてしまってすいません。SW入るなり熱で寝込んで、その後はちょっと仕事が立て込んでました。
その分、わけずに一度でアップ。








襲撃を前に浮き立っているのか、その海賊船には呆れるほどすんなりと潜り込めた。
実は罠なんじゃないかという疑いすら持つ気にもなれないほどのお粗末な警備に脱力を禁じ得ない。
おそらく、乗組員以外が忍びこむ前提では考えられていないであろう船の構造は余分な部屋がないせいで食堂と
会議室を兼用している。
厨房に隣接したその部屋での潜めてもいない声は配管を通してシャチ達のいる場所までよく届いた。
(潜入されるなんて考えてもないんだろうな)
唇の動きだけでペンギンに話しかける。
互いに読唇術はマスターしているから2人はこういった場合でも不自由なく会話を交わす事が出来た。
(大した情報も持ってない。何か策があるわけでもないのにこちらの油断を当てにして襲撃とは三流のそのまた下だな)
策らしきものといえば、ひと気がない時を狙っての不意打ちだけとは随分とお粗末な計画だった。
用心は怠らないのが基本中の基本とはいえ拍子抜けせざるを得ない結果に気が抜ける思いがする。
(下手に襲撃を待つより用意したものを処分してしまった方が早いな。シャチ、武器庫を片付けてから帰ろう)
これほど油断しきった船なら忍び込んだついでに相手の武器を無力化して行っても大した手間じゃないだろうという
ペンギンの提案は至極もっともで、"了解"と、シャチも頷いて立ち上がった。




モノさえ片付けてしまえば後は放っておいても大丈夫だろう。資金があれば新たに用立てて襲撃という事もありえなくはないが、
この手の三流海賊なら知らぬ間に武器類が無力化されていた時点で怯えてその気も萎えるはずだ。
(ああ。下手をすると襲撃前の点検も怠るか?)
使おうと銃を構えて初めて故障に気付く可能性もなくはない。だとすると手に取った時に一目で分かる壊し方の方がいいか。
「手間かかるじゃねぇか、ったく・・・」
ぼやきながら、それでも一つ一つ明らかに壊れている状態に破壊していく。
流石に火薬の類は銃器と別の保管する知恵くらいはあったようで、シャチの居る武器庫には見当たらない。
情報収集を兼ねて船内を探りがてら、それらを見つけて水浸しにでもしておくというペンギンと二手に別れていた。
水を持ち出すのに手間取らなければペンギンの方が先に終わっているかもしれない。
「俺があっちだったら最後の仕上げに船ごと爆破してやんのに・・・」
うちの船に手を出そうなんて輩にはそのくらいしても構わない。
案外ペンギンが火薬処理に回ったのはシャチの気性に気付いていて、温厚な彼の穏便に済ませる為の配慮かもしれない。
騒ぎを起こして雷を落とされるのはシャチだ。それを庇ってという理由も含まれているのだろう。
(俺だってちったぁ状況考えなきゃって思うけどさ。船長やあいつらの事ンなると頭に血がのぼっちまって)
うまくコントロールしてくれる人間が居なければ却って船に迷惑を掛けることにもなりかねないシャチとその点 器用なペンギンは
切り離せないコンビなのだ。
ぽんぽん憎まれ口を叩いてはいても本音を言えば頭が上がらない相手だった。
「ほい、終了ー」
考え事をしながらもさくさくと動いていた手のお陰で思ったよりも早く作業を追えたシャチは、ペンギンはどうしたかな、と
入口の方を振り返った。しばらくそうやって覗ってみても相棒の戻ってくる気配はない。
(珍しく手間取っているのか?や、あいつならとっくに始末を終えて何か拾い物の情報でもないか探ってんのかも)
ここで待つべきが合流すべきか。
シャチが迷わず合流を選んだのは今がさほど警戒の必要のない状況だったからだ。
「さ〜て。ペンギンはどっちにいるかな」
鼻歌でも歌いそうな調子で、上機嫌のシャチは武器庫を離れた。



「・・・っと、やべ」
そう大型の船でもない。保存庫も近場だろうと踏んで、ひょこんと角を曲がろうとしてシャチは慌てて首を引っ込める。
どこかの部屋へ入ろうとしている船員の姿が見えたのだ。
見つかるへまはしてないよなと、そっと向こう側を覗ったシャチの表情が曇る。
先程の船員はまだ部屋の前に留まっていた。
だが、その様子は明らかに挙動不振だ。
部屋の中を探っているかのような緊張を伴った様子は自らの家とも言える船の中に居る時の振る舞いじゃない。
(気取られちまったか?ペンギンのやつ。)
物音を立てて見つかるようなドジは踏まないにしても、タイミング悪くやってきた船員が居れば隠れて潜むしかない。
近付く気配に気付かないペンギンじゃないが、一カ所しか無い出口に敵が居ては出にくいだろう。
ここは援護すべきだろうとポケットのナイフを取り出し、足音を立てずに近づく。
部屋の中に気を取られている船員の背後を取るのは あっけないほどに簡単だった。

「声は立てんじゃねぇよ?」
突如話し掛けられて、驚きの声をあげようとした男の口を手で塞ぎ、同時に米神にナイフをぶち当てる。
ただし、刃ではなく柄の方だ。
当て所によればそれで当分意識を戻さないくらいの衝撃は与えられる。
声を出す暇もなく崩れ落ちる男を片手で支え、外に放り出しておくよりはと抱えて室内に滑り込んだ。
そのシャチを出向かえたのは別の船員を相手にしていたペンギンで、部屋の隅には船員の持っていたらしい飛び道具が
転がっていた。ペンギンに蹴り飛ばされたのだろう。
(馬鹿じゃねぇ?こんな、火薬を保管してる部屋で拳銃ぶっ放そうとしたわけ?)
それでも海賊かよ。トーシロじゃねーのと呆れるシャチの目の前で、ペンギンが男を殴り倒した。
派手に投げ飛ばして余計な物音を立てないように手加減しているのが分かった。
だが、それが却ってよくなかったのだ。
ちょうど、シャチとペンギンの間に倒れこんだ男は自分が向かっていった相手との力の差をまざまざと実感したのだろう。
なにせ自分達は諜報活動のつもりはなかったから、胸にも背にも海賊の看板を背負っていた。
(いくら三流でもこれから襲うつもりの海賊のマークくらい把握してっだろ)
シャチの考えを肯定するように 船員の目はペンギンの胸のジョリー・ロジャーを凝視している。
遅まきながら自分の前に立つ男がハートの海賊団の人間だと理解した船員は、がくがくと震えながら手を翳した。
「馬鹿ッ、何考えて・・・・・・」
叫ぶと同時に駆けだしていた。
男の手の中のものはペンギンの位置からは見えなかっただろう。
だが、シャチからははっきりとソレが見えた。
動転して焦ってのことなのか、船員はライターを手にしていたのだ。
自棄になって火を放とうとしていたのか、それとも近寄るなと脅すつもりだったのか…
危なっかしい手つきの男の手から蓋の開いたジッポが滑り落ちるのと、シャチが彼の元へ辿り着くのは同時だった。







"大切な仲間なんだ。船も、そこに乗るクルーも傷付けさせやしねぇよ"

確かに自分はそんな風に考えていた。
だけどそれはシャチだけに限った事じゃなくて、船に乗る誰もが同じように思っているのだと自分は本当に
分かっていただろうか。

痛いというよりももう熱いとしか感じない。
火に炙られてんのかよと開いた薄目に飛び込んできたのは煙なんてどこにもない綺麗な空間と天井で、
"ああ。うちの船だ"と、思った途端、それまで感じなかった痛覚が戻ってきた。

「・・・ってぇ・・・」
掠れた声が喉から漏れる。
それを聞きつけたらしいペンギンの焦った顔がシャチの目を覗き込んだ。
(あ。すげぇ、俺。ペンギンの顔は綺麗なもんだ。火傷一つ負ってねぇじゃん)
近すぎて全身が見えないけど、どっか怪我してねぇだろな。
そんな風に考えたシャチの思考を読んだのか、心配に焦った顔だったペンギンがムッと唇を引き結んだ。

「シャチのくせに生意気にも俺を庇って怪我なんかするな」
素の顔を見られたのが恥ずかしかったのか、ペンギンが吐いたのはイキナリの憎まれ口だ。
・・・つったって、しょーがねぇじゃん。咄嗟に体が動いちまったんだ。
「大丈夫だよ。俺はこんなことで死にやしねーから」
何気なく言ったその言葉は不思議とシャチの中でやけに重たく響いた。
どうしてだろう。自分は、絶対に死ぬわけにはいかないと強くそう感じる。

"――任務半ばで死んだり出来ない"

ぽかりと浮かんだその想いは、いつ、考えた事だっただろうか。

「シャチ?」
一言発したきり、思考に籠もってしまったシャチを心配する声が聞こえて、ぱちりと目を瞬かせる。
そこには今度こそ本気で心配を隠さないペンギンが眉を顰めてシャチを見ていた。
俺、今 何か変なことを口走っただろうか。
なんだか一瞬夢の中にでも居たような気がする。ペンギンの声で現実に引き戻されたような心持ちだった。
「あ、や・・・ ドジって船長に心配掛けるような事はしねぇって」
船の為に身を張るのは苦じゃないが、それで命を落とすようじゃ船長を悲しませてしまう。
(だから・・・だよな? "絶対死ねない"って思ったのは)
何処と無く腑に落ちない気分を感じながらもシャチはそう納得した。




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あきゅろす。
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