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SS置場11
拍手ログ 三角食べ L
更新いっかい飛ばしてしまった、すいません!拍手ログです。









食事の時の習慣というものはその人の性格を表しているとつくづく思う。
食事事情が特殊なベポはさておき、例えば今 バンの目の前で夕食を摂っているこの男は量配分まできっちりと整った
絵に描いたような三角食べだ。
その隣で皿を突いている我が船のリーダーは好き嫌いはあれど医療知識が巾を利かせているのか綺麗な三角食べに
落ち着いている。
・・・問題はシャチ。
向かいに座って、こういう事に口煩そうな2人が眉を顰めているのに気付かずパクパクと皿の上の料理をたいらげて
いくのだが、皿から消えていくのは見事なほどに1品ずつだ。
途中 他の皿に目移りすることがないのか、シャチは黙々と一つの料理を口に放り込み、もっしゃもっしゃと頬袋を
膨らませて咀嚼する。
ぱくぱくごくん、むしゃむしゃぺろりと実に美味そうに食事を続けるシャチは本当に幸せそうだ。
呆れた顔で眺める2人が口を挟めずにいるのはその為で、それでもとうとう限界が来たのだろうペンギンが口を開いた。

「シャチ、おまえ同じものばかり続けて食べて飽きないか?」
「もぐ?」
絶賛お食事中のシャチは 何が?と首を傾げて目で問う。
ペンギンに何を言われているか分からないくらいだから彼としては食事に不満なんてないのだろう。
ある意味 料理人冥利に尽きると言いたいところだが、味わう側のセンスに少々不安が生じる。
・・・っくん、と口の中の料理を飲み込んで、シャチが改めて聞き返した。
「何に?」
あまりにも当然のような顔で言われ、聞かれたペンギンの方が戸惑っている。
「いや・・・味だとか食感、とか?」
突っこみを入れたはずのおまえが疑問系になってどうすると面白く眺めていると、シャチが満面の笑みで堂々と答えた。
「え? だって美味ぇじゃん!飽きっこねぇよ」
あー、これはコックの連中に聞かせてやりたかったなと、割と他人事なのでバンは暢気に考えた。
「・・・・」
お。珍し・・・ペンギンのやつ、迫力負けしてやがる。
ぐっと詰まったペンギンの隣で片方の眉を上げたローが ほぼ均等に減っている自分の皿を指して続きを引き受ける。
「こんな風にどれも順に喰えねぇのかっつってんだよ、ペンギンは」
直球で言われて初めてシャチもそれに思い至ったらしい。
ああ!と納得したように頷いた彼は苦笑を浮かべてかりかりと頭を掻いた。
「三角食べってやつっすよね?俺、苦手なんスよ」
ひとつの料理を食べ始めたらそれがなくなるまでまっしぐら。
他に目移りなんてしない、いや、出来ないのだろう、この単純シャチは。
「・・・性格出てんなぁ」
脇で見ていたバンが思わず感想を漏らすと、そう、それだと船長とペンギンが頷いた。
おっと、意外なところで激しく同意を得ちまった。
「一点集中型と言っても限度があるだろう」
呆れた口調のローの隣からペンギンも言葉を続ける。
「だいたい、おまえは戦闘でも集中が足りない。いや、逆か?」
「逆だな。相手に集中するのはいいが もっと周囲にも目を配れ」
1対1でタイマン張ってんじゃねぇんだ。脇からの攻撃にも十分備えろと二人掛かりで言われてシャチが
気圧されたように、お、おお。と頷いている。
とはいえ、手元に集中しがちではあるが敵味方入り乱れての白兵戦ではシャチとてそう鈍くはない。
・・・まぁ、指示を飛ばすべき立場のローの広すぎる視界に比べれば目の届く範囲が狭いと言われても仕方ないのだが。
咄嗟の反射で攻撃を避けているのは戦闘時に於ける勘や本能の部分もあるのだろうけれど、それを戦闘のセンスと呼ぶか
単なる野生の勘と呼ぶかは主観の問題かもしれない。
「分かりました、もっと周りに目を配るよう気をつけます」
いつになく真面目に助言を聞き入れて頷いたまではよかった。
その後に、言わなくてもいい一言を添えちまうのがシャチなのだけど。

「船長に余計な心配掛けて気を散らさせないように頑張ります!」
「・・・な、」

絶句だ。
今朝はペンギンに続いて会話の途中で絶句する船長まで見ることになるとは。すげえ男だな、シャチ。
ああ、言っておくがこの男は本当に"まっしぐら"な奴なのだ。
これが嫌みでも皮肉でも自惚れでもなく、気に掛けてもらって嬉しい、だけど余計な心配は掛けないように努力すると
ストレートな笑顔で言ってのけるのだからある意味凄い。
シャチのキャラでなければ誰が心配だとか総つっこみで頭の一つも殴られていそうなものなのだが、ここまで裏表なく
言われてはそれもしづらいだろう。
ご心配ありがとうございますと添えられたシャチの笑顔は会心の笑みで、そりゃぁそうか。
この単純男は食事や戦闘だけじゃない。恋愛においても下手な駆け引きなんて含まない、どストレートに好意を向ける。

『それしか目に入らない』という言葉はこういう奴の為にあるのかもしれないな、とバンはこっそり含み笑う。
小さく肩を揺らしたバンに不審気な目線を寄越したペンギンに、
"船長まっしぐら"と耳打ちしてやる。
ぶふっ!と堪えきれずにふきだしたペンギンの横から、地獄耳の持ち主であるローの手が伸びてバンの頭をぽかりと殴った






 三角食べ




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あきゅろす。
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