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SS置場10
吸血鬼パロ3(後編)
このシリーズ、調べてみたら前回書いたのは2012年の8月頭!3年振りですね、文体変わってるというか劣化しちゃったというかw 精進しなきゃ!









"調査が目的の訪問で相手を刺激しないよう、最低限の装備だけで動いたのは失敗だった"
ペンギンがそう思った時には 自分とキャスケットが10人集まってもかなわないという強者と刃を交える羽目になっていた。
適当に誤魔化して追い返すという芸当も可能であったはずだが、彼は問答無用で襲ってきた。
いや、襲うなどという意識はなかったのかもしれない。
明らかに常軌の訪問時間を逸した人間を追い払うだけの軽い所作なのだろう。
それがその人間の命を止める動きに変わったのは 訪問の相手が面識のあった人間だと気付いたからだ。
放置して面倒事になるよりもここで絶命させるという至極簡潔な結論に至った彼の攻撃は最初のものとは全く違った。
二度目を受けて初めて分かる。
最初の、日々鍛えたペンギンの身体能力を以てしても辛うじて躱すことの出来た一撃は追い払う為のただの威嚇だったのだ。

可能な限り回避の行動に移りながらもペンギンは殺られたと思った。
そのくらい、その一撃は完全にペンギンの退路全てを攻撃の範囲に収めていて、どんな奇跡が起こっても避けきれそうにない。
死を覚悟する時間だけは在ったのが忌々しい。
これだけの能力であれば獲物がそれを自覚する暇すら与えず命を奪う事も容易に出来るのだ。
気まぐれに後悔する時間を与えたのは"彼ら"の忠告を無視したペンギンへの応報のつもりか。

そこへ目で追えない程のスピードで割って入った影がなければペンギンは間違いなくその場で命を落としていただろう。
その影は 同時にトンとペンギンの胸を突いて後ろになぎ倒し、攻撃の軌道上に立ってそれを弾き返した。
第二、第三と続く衝撃波に手にした短剣で応じる影は ペンギンが心配していた相手のものだ。
これまで彼と組んで仕事をした時ですら見たこともないような速さの攻防戦に息を飲む。

これが 彼の言う"上限のない身体機能"だろうか。
ペンギンと同じ、いや、それ以上に華奢な肉体でこの動きを続けていれば確かに彼の命を削ると言われるのも分かる。
だが どう見てもキャスケットの方が劣勢な状況の中、止める言葉を投げかけて邪魔をすることは出来なかった。

防戦一方のキャスケットには攻防の流れを支配する自由は無い。
その人間の視覚では捉えきれない激しい応酬が止んだのは問題の吸血鬼が攻める手を止めたからだ。

「ロー・・・」
ここまでの動きで既に息の上がっているキャスケットがその名前を呼ぶ。
答えもせずに彼を見つめ返す目は、以前ペンギンがまみえた時よりも青白さを増した温度のない冷たいものだ。
そこからは感情が読み取れない。ただ 呼吸すらうまく出来ないほどの冴え冴えとした威圧感が漂うだけだ。



「そいつを庇うのか?」
彼に取っては"運動"ですらないのだろう。名前を呼んだきり言葉を続けられないキャスケットと違って欠片も乱れのない
息づかいで質問を突き付けた。
愚かにも忠告を無視した輩だぞと、そんな人間に情けをかけるのかと疑念を投げ掛ける。
「あ、たりまえ、だろ!」
彼とは一緒に組んで仕事をしたこともある仲間だと 荒い呼吸の合間の切れ切れの声が反論した。
尋常でない呼吸の乱れにペンギンは眉を顰めてキャスケットの様子を覗った。
無理もない。これまで あれほど激しい争いを彼が見せた事はなかった。ドクターストップを言い渡された体に相当な無理を
強いたはずだ。
そのキャスケットの様子を眺めるローの視線は冷たく、ふ、と小さく笑う吐息が聞こえた。

「違うな。おまえは単にそいつが惜しくなっただけだろう?」
ローはペンギンを指して"そいつ"とだけ呼ばわった。
名乗った覚えもないので当然ではあった。
だがそれはペンギンを個人として認めない、ただの素体として捉える彼の認識に裏打ちされていた。
――当然だ。吸血鬼であるローには捕食の関係における下位の動物でしかないのだから。
現に、次にローはペンギンを"餌"と呼んだ。
「おまえにとってはこの機会を逃せば二度と見つからない程の人間だ。生かしておいて餌として飼いたいだけだ」
「止めろ、違うッ!」
それまで、応じ、防ぐだけで行動を起こさなかったキャスケットがローに向かって鋭い一振りを放つ。
離れた距離で振りかざしたはずの短剣はその鋭さから衝撃波を放ち、斬撃となってローへと向かった。
身を引いて躱す相手の懐へとキャスケットが飛び込む。
引退したとはいえキャスケットの技から技への流れるような動きは健在で、こんな時でなければ見惚れているところだった。
だが、以前彼が口にした通り 今キャスケットが相対している男は自分達が何人束になっても適わないような相手。
格下の相手を弄ぶまでもなく、ローはキャスケットの痩身を片手で取り押さえていた。
「不相応な運動は止めろと言ったはずだ」
身を捩って振り払うかに思えたキャスケットが、がくんと膝を折る。
そのまま ずるずると頽れるキャスケットを、ローは苦もなく抱え上げた。

息を呑んだペンギンが言葉を発する前に平坦な声がそれを制する。
「何もしちゃいない。ただのこいつの自滅だ」
こういった動きにキャスケットの体は耐えられないと以前にも聞いた事実が告げられ、ローが何かする以前に別の意味で
彼の体が心配になる。
ぐったりと動かないキャスケットは意識こそ喪失していないとはいえ、抵抗する力は無いらしい。
「・・・・・、」
何か言い返そうとしていたが 震える唇は音を発することなく結局そのまま押し黙ってしまった。
実は この時、普段滅多に話さないローにしては饒舌だ・・・と、霞んでいく意識の中でキャスケットは考えていた。
だが言葉を挟もうにも舌どころか指一本動かせないほど消耗していて、会話に耳を傾ける事で辛うじて意識を繋ぎ止めていた。
それを知ってか知らずか、2人に聞かせるように感情の滲まない声が最終通告を告げる。

「おまえにも」
戦意を喪失したキャスケットから離れた視線がペンギンへと注がれる。
「関わるなと言ったな? 近付かないのがこいつの為だとも」
"キャスケットの為"だと言われたところで、びくりと彼の肩が跳ねた。
自分を抱える男を見上げたキャスケットの顔には明らかな怯えが走っていて、言葉の続きよりもそちらの方が気に掛かる。

息を詰め、食い入るように2人を見つめていたペンギンは 視界がはっきりしない事に気付いて顔を顰めた。
いつの間にか、室内にはどこからともなく忍び込んだ霧に包まれている。
それが目の前に立つローの背後から立ち上っていると気付き、慌てて手を伸ばしたが間に合わない。
霞み薄れていく視界の中で、身を翻す影を見たのを最後に ペンギンを残してその部屋から全ての気配が消え去った。




 *  *  *



それきり、ペンギンの前から消えた2人の姿は目撃されていない。
彼等の住んでいた屋敷には人の気配が一切なく、あれから何度訪ねてもその消息は不明だった。
あの吸血鬼は正体を知られた為に姿を消したのだろうか。
――結局 何も告げぬまま ローが "彼"を連れ去った理由は?

(何も聞いてはいない、・・・が、)

あの時の、キャスケットの人間離れした動きは ひとつの結論を想像させる。

(だが、俺は何も聞かされちゃいない)

ローと呼ばれる吸血鬼が改めてその説明を口にするとは思えない。そして キャスケットもまた、自分の身についての不思議を
語ろうとしないだろう。
(・・・はっきりと耳にするまでは不穏な憶測も決めつけもしない)
自分はこれまでどおりの態度で彼に接するだけだ。

ただ、消息を絶ったキャスケットと再び巡り会う機会があるのかという懸念だけがペンギンの中に渦巻いていた。






 消 失

近付いた事で離れて行く距離




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