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SS置場10
つぎはき(後編) P
後編です。軽く△です。








「ペンさん。今日も泊まっていっていい?」
昔は"ペンにーちゃん"と呼んでいた呼称も 成長につれてシャチは"ペンさん"に変えた。
子供の頃から入り浸っていても実の兄ではないのだからという彼なりの線引きのつもりかもしれない。

「構わないが。書き置きは残してきたか?」
「一応。でも、探したりしないって」
放任だからと笑っているが父親はおろか彼の母親も 多分 シャチのその書き置きに気を留めることはないのだろう。
彼等は シャチがまだ小学生の時ですら、外泊しても怒りもしなかったそうだから。

シャチが頻繁に泊まりに来るようになってからこの家には彼の物が増えた。
着替えやパジャマ、シャチ専用の歯ブラシからコップまで。
気付けば いつ泊まりにきても平気なほど買い揃えてしまっていたのだ。

「ただし、夜更かしは禁止だ」
「・・・分かった。」
え〜〜!という顔をしたシャチが渋々ペンギンの言葉に同意する。
うちに来る事で悪い癖が付くのならお泊まりはなしだという口実は いつまで通用するだろうか。
(いや、実際 他家の子供を無断で預かっているのだからそういうルーズな事は避けた方がいいんだが)
それが口実だというのはペンギン自身が一番よく知っている。
シャチを泊める時は3度のうち2回は"レポートや試験があるから"という理由で机に向かい、シャチを先に寝かせるようにしている。
「今日もレポート?」
上目使いに見上げるシャチがペンギンの手にしたルーズリーフを恨めしげに見ながら確認してくるのを、肯定して机に向かう。
その代わりに シャチの就寝時間までおしゃべりに付きあったり宿題をみてやったりしている。
「ペンさんの勉強が忙しいんなら自分で出来るからいいってば」
何度となくシャチから言われたが"いいから見せてみろ"と強引に出れば素直に従うので助かっている。
「そんなに遅くならないから先に寝ててくれ」
無理なんかしてないからと重ねて言うと、唇を尖らせ不満を示しながらもシャチは先にベッドに向かった。
育ち盛りの彼は順当に体も成長している。そろそろ2人で眠るにはこのベッドでは窮屈だと告げても不自然じゃないだろう。
問題はどのタイミングで切り出すかで、シャチが変に傷付かないように告げるにはと話を出しかねている。

――傷付けたくない。 ベッドを分けたいのはペンギンの一方的な都合だったから。

念のため、シャチが就寝してから2時間は時間を潰してから ペンギンは彼を起こさないように そうっとベッドの傍に近寄った。
「・・・・」
ペンギンを待っていたであろうシャチは、早寝が習慣付いているせいで待ちくたびれて眠ってしまっている。
すよすよと健やかな寝息を立てて眠るシャチは、昼間の元気でくるくる変わる表情が鳴りを潜めていて、こうして見れば
大人しい物静かな少年のように見える。
目覚めている時は良く回る口を閉じるだけでこんなに雰囲気が変わるものなのか。
いとけないだとかあどけないだとか、そう言った表現が当て嵌まりそうなその寝顔に、ペンギンは感じてはいけないものを
何時からか覚えるようになっていた。
シャチが懐いてくれているのは分かる。だがそれは"兄のように" "家族のように"慕われているだけで、自分のように
欲を含んだものじゃないのだ。同一視していいはずがなかった。

(弟みたいに可愛いと思っていたのに。いつからこんな薄汚い衝動を感じるようになったんだ・・・)
可愛がっていたはずのシャチをそんな風に見ている自分に戸惑った。
かといって、難しい年頃にさし掛かるシャチの前では迂闊なそぶりは見せられない。
ただでさえ家庭に恵まれないシャチから 彼の落ち着ける場所を取り上げたくはなかった。
大切に思って慈しんできたシャチが誰よりも信頼している"兄"に襲われるだなんて事態だけは避けなければならない。

少し躊躇った後、ペンギンはシャチがよく寝入っているのを確かめて、そっと隣に横たわった。
一旦眠りについたシャチは少々のことでは目を覚まさない。だからとベッドに入るのは彼が眠るのを待ってからにするように
していたのだが、今夜に限って寝転んだ途端、「ん・・・」とシャチが声を出して身動いだ。
あ、と思った時にはシャチの目が開いていて、眠そうな視線がペンギンを捉えている。
ふにゃっと笑顔を浮かべたシャチは、もそもそとペンギンに身を寄せてきた。
寝ぼけているせいか子供の頃の習慣のようにペンギンの腕の中に収まろうとしている。
避けることも逃げることも出来なかったペンギンの胸に顔を押しつけた彼の腕は、甘えるようにペンギンの背に回って
きゅっと抱き付いた。
ふわっと鼻孔を擽ったのはシャチの髪の匂いだろうか。
同じ銘柄のシャンプーを使っているはずなのに 子供特有の体臭なのかシャチからは少し甘い香りが漂ってくる。
成長途中のまだ細い腕は少女のようでもあり、少女以上の力強さも内包していた。
肺一杯に吸い込まれたシャチの匂いに目眩がする。
意識している相手にこんな風に抱き付かれて 抱き締め返せない腕が微かに震えた。
(耐えろ、シャチが寝付くまではこのまま、石になれ)
その、発展途上の柔らかい身体を抱き締めたら止まれなくなる自覚があった。
彼が眠ればベッドを抜け出そう。
でなければ次の衝動に襲われたら制御が効かなくなるかもしれない。
幼い時と違って肩に回らない腕に焦れたのか、シャチが不満げに胸に押しつけた顔をぐりぐりと擦り付ける。
彼の髪がさらりと腕を滑り、とん、とペンギンの腿の上に足が乗った。
(これ以上くっつかないでくれ!)
とくとくと鼓動が速まり始める。このままでは洒落にならない生理現象を起こしてしまいそうで腰の引けるペンギンに、
シャチは足を乗せてまでくっついてくる。
動くに動けないままのペンギンの胸から 不意にシャチの顔が離れた。
「ペンさん、心臓凄い速い」
大丈夫?と不安げに見上げた顔と乱れた髪に どくりと心臓が跳ねた。
そろそろくっついて寝るには暑い時期にさしかかる最中、ペンギンの胸に顔を埋めていたシャチは暑さのせいか目元も
頬もほんのりとぴんく色に染まっていて、健康的に見えるはずのその顔をペンギンの爛れた脳は違う表情に変換する。
ヤバイ!と思った時には下に熱が集まっていた。
咄嗟に腰を引いた為、シャチの腹には当たらなかったはずだ。
だけど、腕の中の彼は 少し恥ずかしそうに目を下げ ますます頬に赤味が射した顔で、思いもよらぬ行動に出た。

「・・・っシャチ!」
猛るそこに そっと手が添えられ、思わず焦りの声を上げる。
「馬鹿!どこ、触って・・・ちょ、待て!」
すりすりと撫でた手は、明確な意志でそこを触っていた。
ただでさえ無理に押さえ込んでいた欲望をそんな風に刺激されては堪らない。
ぐんと硬度を増したそこに引き擦られるように息が上がる。
これ以上は収まりが付かなくなるとなりふり構わずベッドを出ようとしたペンギンの頬に、ぺたりとシャチの手が触れ
思わず目を落としてペンギンはごくりと唾を呑んだ。

少し伏し目がちの彼の顔が目の前にある。
恥ずかしくて堪らないといった赤い顔のシャチが、目を上げ ひたりとペンギンを見た。
その目が潤んだようにしっとりと湿っているのは羞恥のせいか、それとも緊張のせいだろうか。
何か言いたげに薄く開いた柔らかそうな唇が そっとペンギンのそれに触れる。
「・・・好き、」
震える吐息と一緒に吐き出された言葉は ペンギンの理性を容易く引き千切った。





「・・・ぁ、ふぅ、っん!」
それまで抑えてきた反動で、ペンギンの中の欲望は止められなくなっていた。
柔らかいシャチの肌を手で唇で舌で味わい尽くさんばかりに何度も辿る。
恥ずかしがって引いた脚の先にも舌を這わせ、その指先まで味わい 彼の身体中、ペンギンの触れていない部分が
なくなるまで味わった。
ふと、シャチを見ると 知識はあっても経験はないのだろう彼は初めての感覚に息をするのも精一杯という様子で
半開きの唇から乱れた熱い吐息を零している。
ひくんと震える頬が瞼を持ち上げ、とろりと潤んだ目をペンギンに向けた。
途端、襲ってきた衝動にペンギンは伸び上がって唇を合わせ、ねじ込んだ舌で肉厚のない薄い舌を絡め取る。
その間もペンギンの手は、勝手に彼の秘部をまさぐり次の準備を始めていた。
「ぁ・・・あ、ペンさ・・・、好き、っ・・・すき、・・・ぁ!」
キスの合間に漏れ聞こえるシャチの譫言のような声に頭が沸騰しそうだった。
自分がこんなに器用だったのかと驚くよりも本能のまま彼とひとつになろうと動く体に任せ、何度も深く口付けながら
狭いそこに自身をあてがう。
「 好きだ、シャチ 」
告げると同時に、ひくりと震えた熱い場所へと押し入った。



いつからシャチは自分のことをそんな風に思っていてくれたのだろう。
中学生ともなればこういう方面にも興味の出てくる時期だ。
その気になればシャチだってこの手の知識を手に入れることが出来る。
手を伸ばしたペンギンに怯える様子も戸惑いも見せなかった彼は、ペンギンよりもずっと前に覚悟を決めていたのかもしれない。
縋るように必死に伸ばされた手を掴み、指を絡めて握り合わせる。
シャチは、ペンギンが避けていたことにも気付いていたのだろう。
・・・もしかするとそのせいで自分の気持ちを自覚したのかもしれない。
(淋しい思いをさせたかもしれないな)
喘ぎすぎてしゃくりあげるような呼吸を繰り返す彼にもう一度口付ける。
ふと、涙をいっぱいに溜めたシャチの目が薄く開いてこちらを捉えた。
ペンギンが一人取り残され、無気力に潰されそうになっていた時に飛び込んできた小さな命。
家族に飢えていた彼と疑似家族のように身を寄せ過ごしてきたこれまでの日々を思い出す。
(・・・本物の家族にはなれないが、恋人にはなれる)
後で彼にそう告げようと考えながら、ペンギンはシャチの熱い体内へと吐き出した








 あり合わせの家族

疑似から本物へ、新たな関係を結ぶ




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