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SS置場10
口内炎・前編 E
ありえない寝オチをしたので前後編にします。急がないと遅刻するー!




チリッ、と口内に痛みが走る。
"ああ、また噛んじまった"と舌先で探ると、唇の内側に小さく膨らんだ傷跡があった。
昨日 島に降りた際に入った店で昼食を摂った際に噛んだ場所だ。
別に胃が荒れて口内が腫れていたわけでもないのだが、買い出しの最中に手軽さ重視で買い求めたジャンクフードを
パクついていたペンギンはなんとはなしに目を向けた店の外に見たものに意識を取られた。

(シャチ?)
視界を横切る良く知る相手は珍しく自分達のユニフォームとも呼ぶべきつなぎを脱いでいる。
海賊という身分を隠したいのならそれだけでいいはずなのに、彼はトレードマークである明るい色合いの帽子を船に
置いてきたらしくオレンジがかった赤毛が露出している。
そればかりか、普段外すことのないサングラスまでが見当たらなくて同室であるペンギンも久しぶりのシャチの
翡翠の瞳が見える。
素顔を出してああいう格好をすれば確かにシャチには一般人に紛れるのは簡単だろう。
覇気や殺気が滲まないごく普通の人間を装うのが上手いところを買われて情報収集等の諜報活動に駆り出される事も
多い彼だから。
腑に落ちないのは今回の上陸で一般人を装う必要がないのにどうしてシャチがあんな格好で島に降りたのかだ。
仮に海賊だという事を隠しての上陸だとしても、帽子やサングラスを外す必要はない。
(船の連中に見つかりたくない・・・?)
浮かんだ考えをまさかと自分で打ち消したペンギンが、思いがけない光景を見たのはその直ぐ後だ。
中に居る仲間に気付かず店の前を通り過ぎたシャチが、誰かに向かって大きく手を振った。
"ああ、誰かと待ち合わせてたのか"
同時に、普段の格好と違うシャチの装いから "逢い引きか"と邪推が浮かぶ。
もしかしてクルーの誰かとシャチが? と、思わず目を凝らした視線の先に、有り得ない人物の姿があった。

「てっ!」
咀嚼の最中にも関わらず気もそぞろに惰性で噛み続けていたペンギンは驚いた拍子に加減が狂った。
適当に動かした顎は距離感を誤って唇の内側に歯を立てていた。
さっくり噛んだ痛みで目を離した一瞬で対象を見失い、慌てて姿を探した時には 人混みの中に消えたシャチの姿は
見つけられなかった。


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