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SS置場10
子供返り(中編1)
一気に終わっちゃえばいいのに終わらなかったので中編。書く時間欲しいなぁ、ホントに。
すいません、そろそろ出さなきゃいけないのに年賀状一枚も書いてなくてこれからです…や、親のだけは終わらせてるけど!
職場の人に出すのだけでも今日作らないといけなくて最後まで書く時間とれませんでした。明日は忘年会だし時間ないなぁ
そういえばこれ、仮タイトル(ファイル名)が身も蓋も無く「バカ」っていうそのまんまのタイトルでした。










「ほら、シャチ。着替えるから手を上げて」
赤ん坊のようになってしまったシャチを寝かせつけるのは同室のペンギンの役目になった。
風呂ひとつ一人では入れないシャチを入浴させ、髪から体から総て洗ってやる。
はしゃいで暴れることすらしないシャチの世話は簡単で、言いつけを理解すれば素直に従う彼はどのくらいの知能なのだろう。
湯冷めしないうちに服を着せ髪を乾かす。
文句一つ言わずにされるがまま、大人しくベッドの縁に座っているシャチにドライヤーをあてる。
細い髪質は手入れを怠るとあちこち跳ねる。適当にタオルで拭っただけで寝てしまった彼がぼさぼさの寝癖だらけで
起きてくることも珍しくないのだが、このところずっとペンギンの世話を受けているせいでその姿を見るのも久しくなかった。
(相変わらず、話さないしな・・・)
話好きの同室の相棒の変わりようは二人部屋に静けさをもたらしていた。
シャチの元気な声がこの部屋で聞けるのはどのくらい先になるのだろうか。
診断によると、シャチはもう元には戻らないらしい。
船長が何度も検査して出した結果だ。

『記憶を司る細胞と伝達するシナプスがイカれちまってる。神経が麻痺しただけなら回復もあり得るかもしれねぇが、記憶を
蓄積していた細胞自体がオシャカになってりゃそれも無理だ』
死滅した細胞を復活させる能力でもない限りな、と船長は苦い顔で付け加えた。
あの日は海も穏やかで、なんてことのない航海だったはずなのだ。
たまたま 掃除当番にあたっていたシャチがモップを担いで歩いていた甲板に、突如襲った光の束。
目撃した仲間の話では、天候は悪くなかったはずだ。
(それなのに、雷のような光が船の上を横切った)
その進路の上にシャチが居たというよりは彼の持っていた棒状のものを光が狙ったのかもしれない。
戦闘中でもない穏やかな日常で背後から伸びてきた光の剣に対応できるはずもなく、一瞬後には倒れたシャチの姿があった。
焼け焦げもなく見た目は何事もなく眠っているかのように見えたものの完全に自失していたシャチは、介抱するクルーの前で
目を覚ました時には言葉も記憶も失っていた。

("ここ一番の運は船の中で誰よりも良い"んじゃなかったのかよ・・・)
そう笑って豪語したシャチが今ではただの幼児でしかないじゃないか。
"雷に直撃されて命があっただけでもめっけもんだろ"と笑ってくれる相棒は今はもういないのだ。
ペンギンがどんなに落ち込んでも持ち前の明るさで吹き飛ばしてくれる相棒の欠けた穴はこんなにも大きい。
「おまえがいないのに・・・どうやったら立ち直れるかなんて、分かるもんか…」
零れた声は自分でも情けないくらい力のないものだった。
シャチが居ない部屋は明かりが消えたようで寒々しい。
他のクルーのように心配してはいても笑顔を浮かべるだけの強さは今のペンギンにはとても持てなくて、日常の業務と
幼児になったシャチの世話をこなすだけで精一杯なのだ。
疲れているだけか、とも思う。
だけど、その疲れを吹き飛ばせるだけの力がどうしたら沸いてくるのか見いだせない。

いつの間にか手を止め俯いていたペンギンの頬に、ぺた、と何かが触れた。
顔を上げればそこには幼い顔のシャチがいて、ぺたぺたと頬に触れているのは彼の手だった。
「うー、んうー・・・」
言葉を話せないシャチが何かを訴えている。
両の手でペンギンの頬を包み暖めようとしている彼の目には明らかな心配の色が浮かんでいた。
「・・・慰めてくれてるのか?」
馬鹿になっちまったのに。
まともに考える事もできないような子供に還っても 他人を思い遣る事ができるのか。
「シャチは・・・優しいな」
「うー?」
シャチの理解できる言葉は少ない。
状況を判断できるだけの頭は今の彼にはなくて、ただ、気落ちするペンギンの気配だけは感じ取っているのだろう。
どうやったら慰めになるかも知らない彼が元気づけようと触れてくる手の温かさに零れ落ちそうな涙を堪えて、
無防備なシャチの体を力一杯抱き締める。
「このまま。シャチ。少しだけ、このままで」
縋るように抱き付く相手の背を抱き返したり撫でたりする知恵のないシャチを補うように、ペンギンはいつまでも彼を抱き締めていた



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