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SS置場10
子供返り(前編)
時間ない!書く時間ない!とりあえず前編!
追記:書き忘れてましたがハピエンじゃないです。










「船長大変!シャチがバカになっちゃった!」
「いつものことだろう?何を今更」

そんな暢気な会話から始まった事態がペンギンの耳に入ったのはその日の午後のことだった。
午前中いっぱいを資料庫で過ごしたペンギンが昼食の時分だからと向かった食堂で、
とにかく人だかりになったテーブルが目に飛び込んできた。
特に首を突っ込むつもりのなかったペンギンがそのテーブルに近付いたのは、口々に"シャチ"と呼ぶ声が
騒ぎの中心に同室のクルーが居ると教えたから。
そのくせ、問題のシャチの声が一切しないのはどうしてだと疑問に思った。
喩え口いっぱいに食べ物を含んでいたとしてもシャチならば何かをしゃべらずにいられない。
こんなに人が集まっているなら尚更で、サービス精神に富んだ彼なら無言でいるはずがないのだが。
数歩近付き、高めの身長の利点でクルーの頭の向こうにあるテーブルを覗く。
やはり、注目の元はシャチだ。
何故かおおぶりのナプキンを首に結んで前掛けのような格好をしたシャチが席に着いている。
彼の目の前には炒飯の盛られた皿が置かれていて、だけど、それを食べるための道具はシャチではなく
それは隣に座る船長の手の中にあった。

「おい。口開けろ、シャチ」
言われたシャチが素直にあーんと口を開ける。
その口へ、手にしたスプーンで掬った炒飯を船長が押し込む。
ただし、乱雑な調子ではなく丁寧かつ慎重にシャチの口内へ落とし込む手つきは船長らしくない。
いや、場所を変えればこのうえなくローらしいのだが、あれではまるで診察や介護にでもあたっているみたいじゃないか。
何をしているんだと呆れたペンギンの目前で、あれだけ丁寧に食べさせたにも関わらず シャチはぽろぽろと炒飯を食べ溢した。
頬には幾つかの米粒。皿の周辺と前掛けにも散っている。
もごもごと咀嚼したシャチの頬に付いた米を取りつつ、船長はまたスプーンに一掬いの飯をシャチの口元に運んでいる。

「なに・・・やってるんだ?」
知らずのうちにペンギンの口から零れた唖然とした声での質問に、それまでシャチばかりを注視していたクルーが振り返った。
「ああ、ペンギン。大変だぞ、おまえの相棒」
多分介護はおまえに回ってくんじゃねぇ?と言われてもピンと来ない。
一体シャチの身に何が起こったと言うのか。
応答に困るペンギンに別のクルーが説明を添える。
「あいつ、完全に赤ん坊か幼児みたいになっちまってるぜ」
「言葉も録に話せないし理解度もかなりのもんだ・・・悪い方の意味で」
周囲のクルーが口々に説明を始めた内容は俄には信じられないものだったが、実際に目の前のシャチは船長の介助なしでは
1人で食事もままならない様子で、いくら彼がお調子者でもこうまでしてペンギンをからかう程の考え無しじゃない。
だいたい、クルー一丸になってペンギンを騙したところで何の利点があるのか。
改めて周囲の喧噪を放って続いている食事風景を見てみれば、何か変だと思えばシャチのトレードマークの一つが見当たらない。
(いや、船長に食べさせて貰ってる時点でこれ以上ないくらい変なんだが・・・)
久方ぶりに大勢の前で姿を現した彼の目は、確かにいつものシャチとは違っていた。
見る者によれば生意気ともとられかねない敏捷(はしこ)そうな目をしていないのだ。
無垢な子供の瞳を絵に描けばこんな風だろうという見本のようなソレは、体も育った大人が持つものじゃなかった。
元から童顔であるシャチの容貌も相まって ガタイは大きくても本物の子供みたいだ。
童顔を気にする相棒はアレでいて充分大人だったのだと、今のシャチを見て初めてペンギンは心から納得した。
「どうしちまったんだよ、おまえ・・・」
思わず漏れたペンギンの言葉に 答えを与える事の出来る者は、船のどこを探しても見つからなかった。



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あきゅろす。
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