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SS置場9
猛獣ジャック(後編) P
後半です。ペンキャスからロシャチにシフトしたいなーと思ってるんですがオチがちゃんとつかないまま半端な感じで
後編が終わる事になりました









「シャチ、こっち。そいつには近寄っちゃ駄目だよ」
入ってきたソレは先程の獣ではなく おいでと呼びかける少年と瓜二つの姿をしていた。
違いといえば、シャチと呼ばれたソレに宿る鋭い眼光を放つ目付きくらいか。
キャスケットの残してきた服を着て隣に立ち並べばよく似た双子のようで、コレが何の血の繋がりもない、その上
人間ですらない獣だとは誰も思うまい。
滅多に外には出ていないようだが外出時にこの姿をしていればこの家に獣が居るのは誰にも知られないはずだ
(だが、ローの持つ胡散臭い情報網に引っかかった)
ペンギンがここに来たのはキャスケットではなくこの獣が目的だった。ローがどうしても手に入れたいと望んだからだ。
研究対象にしたいのだろう。
下手をするとその変貌のからくりを知る為に解剖するつもりかもしれない。
(生きたまま連れ戻るにはキャスケットの協力が必須。)
麻酔が効くかも分からない大型の獣、それも、薬がどんな影響を与えるか知れないから出来れば麻酔は使わずに
手に入れたい。
となれば、飼い主を手懐けるのが一番だとキャスケットを取り込もうとしていた矢先だったのだ。
"どうも、他にも狙っている奴等が居るようだ"とローが連絡を寄越したのは。
近隣の住人の目も、そろそろ気にしなければと思っていた頃でもあったペンギンはまだ陥落に至っていない状況で賭に出た。
ここでキャスケットが侵入者であるペンギンにシャチをけしかければ賭は負け。
大人しくシャチを連れて家を出たら勝ち。
自分の命を秤に乗せた賭は、今のところ負けではないらしい。
ただし、シャチはキャスケットとペンギンの間を塞ぐようにして立っている。
同じ家に居たのだ、匂いくらいは知っているかもしれないが、初めて見る顔に警戒を滲ませた眼が じっとこちらを見ていた。
キャスケットに何かするようなら飛びかかると 彼を守るようにペンギンとの間に入り、シャチは油断なくこちらを観察している

「シャチ」
呼び掛けるキャスケットの方が諫めるようにシャチの肩に触れる。
シャチがペンギンを敵認定して飛びかかれば もしかすると彼にも止められないかもしれない。
(それを恐れているのだろうか)
確かに この家に血塗れの死体が出来れば処分に困るかもしれないなと どこか他人事のように考えて、こんな時なのに
場違いにもペンギンの口元に小さく笑みが浮かぶ。
それを見咎めたのか、キャスケットの目に疑問の色が見えたが ペンギンは構わず先を促した
「出るぞ。夜のうちに街を抜ける」
ああ、と最初にペンギンの言った事を思い出したようにキャスケットが目を上げ、隣に立つシャチに説明する
「これから外出するからね。この人も一緒だけど 噛みつかないで」
・・・どうやら外に出るなり獣の牙と爪に襲われる心配はなさそうだ。
賭には勝ったのかなと考えながら、取り敢えず自分が害を加えるつもりがないのを示すように ペンギンは背を見せ
彼等の先に立って家を出た






「どこに行くの」
大人しく後について歩くキャスケットが聞いてくる。
シャチを抑える為なのか並んで歩く2人の手は繋がれていた。
(こうして見ると本当に仲の良い兄弟にしか見えないな)
ローは一体どこで彼等の情報を入手してきたのだろうか、我が友人ながら計り知れないと呆れながら答える
「友人のところだ」
・・・正確には友人というのは嘘ではないがペンギンの雇い主でもあるのだが。
シャチからは依然として油断ならないピリピリとした空気を感じる。彼の主人であるキャスケットが警戒を解いていないからだろう。
この状況で大人しく連れ出されてくれただけでも上出来だろう。
本当なら移動には車を使いたいのだが、狭い車体の中に押し込められるのを嫌がるという前情報を手にしていたペンギンは
この地方のこんな時間では利用客が少ない事を鑑みて夜半の電車という公共機関を使う事にした。
ペンギンの事は警戒していても人間を見慣れていないわけじゃないというシャチが、居合わせた人間を襲ったりしないかという不安は
あるが、キャスケットが何も言わないところを見るとどうやら大丈夫らしい。
彼とて人を襲ったシャチの行く末を想像できない年齢ではないのだ。
(寧ろ 一番危ないのは俺の身かもしれないな)
シャチのご主人様に害を為す人間と捉えられかねないのは今のところペンギンだけなのだから。

時間も遅いせいで人の姿が見当たらないのは好都合だったが、その事で却ってペンギン達は目を引いたらしい。
キャスケットとシャチが瓜二つなのも一因かもしれない。
その2人を連れた、親しくもなさそうな――いや、寧ろ警戒されている大人とくれば、駅員に怪しまれても仕方ない。
電車を待つホームでチラチラと自分達の様子を覗う駅員に キャスケットも気が付いた様子だった。
ここで彼が ペンギンと自分とは何も関係がない、自宅に押し入り自分達を連れ出したのだと訴えれば逃げることができるのだ。
キャスケットが行動を起こすかとひやりとしたものを感じていると、少し離れて立っていた彼がシャチと手を繋いだまま
ペンギンの傍に寄ってきた。

「ねぇ、これ持ってよ。疲れちゃった」
そう言って着替えの入ったリュックを差し出す。
疲れたからといって荷物を預けるような知り合いだと疑いの目で見る駅員に示しているのだ。
――シャチを手に入れようと住み慣れた家から連れ去ろうとしている相手なのに。
そんな人間を庇ってどうするのだ。まかり間違えばその獣は殺されるかもしれないんだぞ。

"馬鹿だろう。自分も完全に信頼できずにいるような相手の心配なんか"

思った時には手が勝手に動いていた。
荷物を受け取ろうと伸ばしていたその手で上着から財布を取り出し、キャスケットに向かって放る
「電車が来れば座れるんだ、文句を言うな。売店は閉まっているが自販機ならあるだろう。好きなものを買っていいから
もう少し辛抱しろ」
財布ごと渡してみすみす逃がすだなんて、俺も充分馬鹿だと自嘲の思いでいながら、口元には久しぶりに微笑が浮かんでいた。
どだい、時間がないからといってあんな手段を取った時点で後ろめたくて仕事へのやる気も半減していたのだ。
"不審に思われて仕方なかったんだとローには頭を下げるしかないか"という困った状況とは逆に晴れ晴れとした気分になった。
彼等が自分の傍を離れたことで駅員が近付いてくる。
これから受けるであろう職質をどう切り抜けようかとペンギンが考えていると、ぬぅっと 視界に缶コーヒーが割り込んできた。

「珈琲で良かった?」
驚きの顔を上げたペンギンに向かってキャスケットが笑って缶コーヒーを差し出している。
「俺達は好きなの買ったから」
キャスケットと手を繋いだシャチが空いた方の手にペットボトルを握っている。
指の間からなんとかの天然水と文字が見えているのはシャチが飲むかもしれない時の為に味の薄いものを選んだのだろう。
驚愕から気を取り直したペンギンが彼の思惑に合わせて珈琲を受け取る。
さっきまでの不審を綺麗に笑顔に塗り替えたキャスケットがポケットから財布を引っ張り出してペンギンに返すのを見て、
疲れてむくれていたのを扱いかねていたのだと判断したらしい駅員が安心したように通り過ぎていった





"馬鹿じゃないのか。どうして逃げなかった"
ホームに滑り込んできた電車に乗り、向かい合わせの席に座るなり言ったペンギンの言葉はキャスケットから
"俺達を逃がしたいの?"という質問で返され黙り込んでしまう。
そうだと肯定するわけにもいかない。こんな事がローの耳に入れば徒で済むわけがない。
"さぁ、な"
惚けてみたものの追求は止まらなかった。

「連れて行かなかったらどうなるの」
キャスケットの方にこそ、どうしてこれから自分を掠って行く相手を庇ったのか聞き返してみたいものだ。
そう聞けば彼こそが答えられなくて黙り込むのだろうなと口の端で小さく笑って見逃す事にする。
「失敗したのかと笑われるだけだ、たいした事じゃない」
そういって誤魔化すように彼のオレンジ味の強い赤毛をくしゃっと撫でると、もごもごと何か言いかけたキャスケットが
唇を尖らせて目を伏せた








 猛獣ジャック








ここで一区切りでいいですか、コレ。 こっからはロシャチに持ち込みたいんですがどうなんでしょうね。


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