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SS置場9
全て彼
寝オチすみません。書きかけのやつじゃなくて夢用にかいた読切です。(帽子に★マークのある船員さんの名前は仮名で
スターさんにしました)

お知らせ:コメントいただいていたR様。メッセージを昨日確認致しました。返信させていただきましたのでご確認下さい。
拍手の不具合で対応がとんでもなく遅れてしまいました、重ね重ねすみません!











「シャチがブッ倒れた?」

報告を聞いたペンギンが驚きの声を出した。
確か、少し風邪気味のようだと言うのは耳にしていたが、倒れるほど悪化していたのか。

「いや、倒れたっていうか、熱があったらしい」
大したことないと笑って言うからいつも通りの仕事を任せていたら途中でシャチは目眩を起こしてふらついた。
「場所が悪かったんだ。そのまま、階段を転げ落ちて」
つまり倒れたというのは風邪でというよりは落ちて転んだ際に頭を打って脳震盪を起こしたのが真相らしい。
「・・・無茶をするからだ」
目眩を起こすくらい熱が高かったのなら素直にそう言って仕事のシフトを変えてもらえばいいのに。
同室ながらその熱に気付かなかったペンギンの落ち度でもある気がして、悪かったなと運んできたバンに謝罪して
シャチを引き取った。
本人のベッドに寝かせて調べてみればコブが出来ているから大丈夫だとは思う。
とはいえ打ったのは頭だから一応船長の診察を受けさせるべきか。
まだ意識のないシャチをころりと転がし患部を冷やしてやりながら、そういえば熱はどれくらい高いのかと額に手を乗せる。
氷嚢を作っていたペンギンの手が冷えていたせいで、てのひらではどうもよく分からない。
体温計を取りに医務室まで向かうか いっそ額を合わせて測ってしまうか思案していると、ぽっかりシャチの目が
開いているのに気が付いた。

「起きたか。具合はどうだ?」
熱よりもまず気分の悪いところはないかと確認する。
吐き気や何かがするなら打ち所が心配だと額の手を患部へ移動させながら聞いた。
こぶになっている部分に触れると ぴくっとシャチの瞼が痛みに震える。ここにコブがあると教えながら、寝返りには
気を付けろと助言した。
「痛いけど、吐き気や目眩はないです。すいません、船長」
こっちを見たシャチは自分の落ち度で心配を掛けた事を詫びている。
いつの間に・・・と、それを聞いたペンギンは後ろを振り返った。

「・・・?」

普通に見慣れた室内が見える。
どこにも船長の姿はなくて、おい、どこを見て言ってんだと顔を元に戻すと、シャチの目は真っ直ぐペンギンの方を
見ていた。・・・え、俺?
もう一度背後を見て、視線をシャチに戻す。
念の為 神経を澄ませて探ってみても室内には自分とシャチの気配しかない。
いや。でも、ローがペンギンの視界から姿を隠してからかって遊んでいる可能性も捨てきれない。
戸惑いながらシャチを見るペンギンの挙動が不審だったのか、訝しそうに眉を寄せてシャチが口を開いた
「船長?何してるんですか?」
やはりペンギンに話し掛けているようにしか思えない。
目を覚ましたばかりで寝ぼけているのだろうか。
"俺のことか?"と目で問いかけてみたがペンギンのアイコンタクトはシャチには通じなかったらしい。
意味が分からないながらもシャチは意図を読みとろうとペンギンの目をじっと覗き込んでくる。
・・・確定だ。
シャチはさっきからペンギンを船長だと思っているようなのだ。
(だったら・・・)
シャチの顎に手を掛け無言で顔を近付ける。
突然の行動に一瞬驚いたように目を開いたシャチは、素直に瞼を下ろしてキスを待つ姿勢になった



「何してやがる」

あと5センチで本懐成就というところで、ペンギンの体が上に引き上げられる。
ぎょっとしてキスの為に閉じていた目を開けたペンギンは、今度こそ背後にいるローの姿を視界に捉える事が出来た。

「っ船長!いや、シャチの様子がおかしいのを確かめてただけで、」
ほーぉ…と、まるっきりペンギンの言い分を信じていない顔でローが呟く。
「随分と都合の良い"診察"だなァ」
「いや、本当に!変なんだ、様子が!」
身の危険を感じたペンギンが 必死で誤魔化そうと声を出す。同室のクルーの様子がおかしいのは本当のことで、
聞いているローもどうやらそこは信じたらしい。
「どこがどうおかしいんだ」
取り敢えずローが状態を確認するのを優先した事に胸を撫で下ろしながら「実は・・・」とシャチを見ると、彼は
零れ落ちそうなほど大きく両目を見開いて2人を凝視していた。
どうやら待てど暮らせど落ちてこない唇に痺れを切らして目を開けていたようだ。

「おい、シャチ? どうした、おまえ」
これには流石にローも様子が変だと認めた。
ペンギンからまだ何も聞かされていないのだから症状は把握できておらず、まず本人の口を割らせるという魂胆らしい。
だがシャチ自身も事態が把握できていない為、彼は側にいるペンギンとローを驚きの顔のまま見比べ、遂に核心を
口から漏らした

「船長が・・・2人いるッ」

「はあ?」
「やっぱり・・・」
ペンギンとローの声は同時だった。
この中で状況を理解しているのがペンギンだけだと覚ったローの鋭い一瞥が飛んでくる
「どういうこった」
その剣幕に若干身を引きながら分かっている事実を告げようとペンギンが口を開いたと同時に、ノックと別のクルーの声が
割り込んできた

「よぉ、シャチ気が付いたか? 飯どうするよ。食えそうならリゾットでも用意すんぜ」
声の主はシャチを運んできた船員だ。
仲間の不調が風邪だと知っているバンは、見舞いを兼ねて夕食の手配にきてくれたらしい。
会話の途中のままローとペンギンがバンを振り返る。
その背後で、シャチが大きく息を呑む音が聞こえた

「また、増えた!えっ、なに、船長が増殖してる?!」
「増えるか、阿呆。トラファルガー・ローは俺だけだ」
本当なら殴られている場面だったが、氷嚢で冷やしている患部のお陰でシャチは災難を免れた。
とはいえ今の事態が十分災難ではあるのだが、今回のところは顎を鷲掴みにしたローに顔を覗き込まれるだけで済んだ。
「船長・・・」
正真正銘のローだと理解したシャチが少し落ち着きを取り戻す。
そこで漸く彼に説明が為される事となった。
「こいつはペンギンであっちにいるのはバンだ。倒れた時に頭を打ったらしいな。熱のせいもあるかもしれねぇが、そのせいで
全部俺に見えてるようだ」
話を聞いて、シャチもやっと事態を飲み込めたらしい。
ぱちぱちと目を瞬かせてロー、ペンギン、バンと全員の顔を見回すと、恐る恐る確認してきた
「・・・ペンギン?」
「そうだ」
ペンギンが肯定してやれば納得したようにシャチも頷く
「本当にペンギンの声だ・・・俺 目が変になってんのかな」
「変なのは頭だ。いや、そういう意味じゃなく」
反射で思わず睨んだシャチを諫めるように説明を追加したローの説によれば、目はきちんと像を捉えているらしいが
頭を打ったのが原因で視覚に映る映像を正しく認識出来なくなっているようだ。
「熱も下がってぶつけた衝撃で受けたダメージが回復すりゃまともに見えるようになんだろ」
これに懲りたら不調はちゃんと自分で把握して無理はするなと小言を喰らってやぶへびだとシャチが首を竦めて小さく舌を出した。
どうやら視覚の異常以外は普通に風邪(+たんこぶ)だけのようだ。

「・・・で、飯はどうすんの?」
「喰う!リゾットじゃなくてみんなと同じメニューちょうだい、バン」
パニックから立ち直ったシャチはちゃんとバンの声を聞き分けている。
「了解。聴覚に異常がなくてよかったな、シャチ」
途中から来たバンだったが先程の会話で事態を把握しているらしい。
ついでに彼は人物を服装で見分ければどうだと提案していった。
もっとも、シャチには目に入る人間の服装ごと全部船長に見えているだとかで バンの案は使えなかったのだが。
食欲も全く衰えていないくらいだから熱が下がるのも直だろう。
シャチの視覚の方も心配がないのならば症状が完全に治る迄にクルーの絶好のからかいの的になるぞと思ったが、
ペンギンの見込みは残念ながら外れることになった





「右から順に バン、スター、船長、ベポ、ペンギン!」
だろ?と言ってシャチが軽く首を傾ける
「あははは!シャチまた外れた。全然違うじゃないか」
笑った声で相手が誰だか分かったシャチが あれぇ、ベポこっちかよ!と頭を掻いた。
クルーの見分けも付かない状態で仕事をするなと風邪が完全に治るまで休養を言いつけられたシャチを見舞いにきた船員達は、
中の1人が誰が誰だか言ってみろよと言い出したのが切っ掛けで暇さえあればシャチに見分けを持ちかけている。
「今のところ全敗だね」
「動いたりしゃべったりしてくれりゃすぐに分かんのに!」
また外しまくったシャチは悔しそうにベポに言い返しているが、珍しく遊びに付き合っているローの機嫌は悪くない。
発覚時のアレが有耶無耶に終わりそうで船長の上機嫌は歓迎すべきなのだが、ある意味ペンギンには面白くなかった。
「見事に船長以外は当たんねぇな」
部屋で摂ったシャチの食事の片付けに来て巻き込まれたバンが感心したように笑って言う。
やっぱ船長と俺等じゃオーラが違うのかねと面白くない推測を残して食器を持って引き上げていく背中を見送るペンギンは
憮然とした顔を隠すのに苦労していた。
バンの推測も愉快な物ではないが、シャチがローだけを見分けられる実際の理由はもっと単純だろうとペンギンは踏んでいる。
「やっぱり愛の力は凄いよねぇ」
まだ続いていた会話からベポの声が耳に飛び込んでくる。
(・・・本当に。俺もそう思うよ)
面白くないと不機嫌の形に眉が歪むのを堪えきれなかったペンギンが視線を感じて目を向ける。
目が合った途端 にやりと唇を引き上げて笑ったローの得意気な顔に、今度こそムッとする表情を顔に出したペンギンは、
ローがベポ達の遊びに付き合っている理由がシャチにちょっかいを出そうとした自分へのペナルティだと気付いて
これ以上無いほど大きな溜息を漏らした







 全て"彼"に見える病

人はそれを愛と呼ぶ






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あきゅろす。
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