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SS置場9
猛獣ジャック2-9

こんなに人数が居るのに、シャチはこちらに駆けてくる。ロー以上に得体の知れない奴等だ、来ちゃダメだと
首を振ってもシャチの足は止まらない
「おい。2人居るぞ、どっちだ?」
凄いな、見た目じゃ分からないと感心したように言って、背後の男が捕らえたキャスケットを覗き込む
「首輪をしてるからこっちじゃないのか」
大声を出させないよう口を覆ったままの手が、ぐいとキャスケットの顔を持ち上げ喉元を晒させる。
キャスケットの首には、ペンギンから貰ったアクセサリーがあった
「バカ、こいつは首輪じゃない。よく見ろ、ただのアクセサリーだろ」
「キャスを放せっ!!」
男達の間に割って入ったのは自分を取り戻そうとするシャチの声だ。
怒りが強くなれば姿を変えてしまうんじゃないかと青褪めるキャスケットの心配を余所に駆け寄るシャチの姿形に変化はない

「しゃべったぞ。こっちは違うな、人間だ」
そいつに用はない、こちらだけを連れて行こうとキャスケットを引き擦るように抱え込んだ男が告げる。
どうせペットの一匹、居なくなったところで警察も相手にしないし事情ありなら余計に大事に出来ないだろうと言う男達に、
追いついたシャチが飛び掛かろうとするのを、「おっと、」と、一本のナイフが押し止めた。

ひた、とキャスケットの首筋に冷たい刃が押し当てられる。
口元を覆った手がせっかく離れたというのに、代わりにもっと危険な道具が身を脅かしている。
声を出せずに息を飲むキャスケットを捕らえた腕の力は、ナイフを押し当てる今も緩まない。
少しばかり首を反らしてもすぐまた刃先が追いついてくる
「少々の怪我じゃ死なないだろうが、痛い思いをさせたいか?」
黙って連れ去るのを見ていろと背後の男が笑う。
射殺す強さの目で睨むシャチが今にも掴み掛かからんとしていた相手が、動きを止めたシャチを離れろと突き飛ばす。
小柄な子供だと舐めてかかっているのだろう。
キャスケットの首に当てられたナイフさえなければ シャチの鋭い爪に肉を抉られていたところだというのに、
何も知らない男達はこんなガキに何ができると嘲笑っている

「シャチに乱暴するなっ!」
だが、キャスケットが叫んだ一言で彼等の様子が変わった。
ざわっと動揺の声が広がる。
"おい、どっちがペットだよ"
"人語をしゃべるなんて聞いてないぞ"
男達の話す言葉が耳に入るにつれ、彼等がローとは何も関係のない人間だと確信が沸く
(ローと全然違う。こいつら、本当にシャチをモノみたいにしか考えてない)
そのローだとて躾に必要だと称してスタンガンのような道具を使っていた。
だったら シャチをモノとしか見ていないこの男達は何をするか分かったものじゃない。
別の男が、置き去りにしようとしていたシャチの腕を掴んで立ち上がらせる。その行動も相手への気遣いの欠片もない乱暴なものだ
「どっちが人間か――と聞いても、答えないんだろうな」
聞かれたシャチはギリギリと歯を食い縛って男を睨んでいる。
当然、キャスケットも思い通りに答えるもんかと唇を引き結んだ
「・・・両方連れて行こう。あまり長居して人目につきたくない」
油断なくキャスケットの首のナイフをチラつかせながら男達は2人を拘束した。
後ろ手に手錠を掛け、路地に隠すように停められていた車に獲物を押し込み 素早く立ち去る。
別の車にバラバラに乗せられたものの、行き先が同じなのは心強い。
不利になる事は絶対に話すもんかと固く口を閉ざすキャスケットは シャチが姿を変えなかった事について考えていた。
もとから人に見られるようなところでは姿を変えないように言っていた。
でも、カッとなればそのキャスケットとの約束も破ってしまう恐れがこれまでは少なからずあったのに。
ローの家に連れ込まれた事でシャチも自身の特異性を自覚したのだろうか。
(・・・あの家を、逃げ出したのは 間違いだった?)
少なくともあそこに居ればこうしてナイフで脅されて拘束される事はなかった。
シャチの存在を嗅ぎ付けた人間がロー以外にも居るかもしれないと考えるべきだったのに。
逃げ出した自分達をローは追い掛けて探すだろうか?
キャスケットの思考があの怪しい男に辿り着いた時、2人を乗せた車が大きな建物の敷地内に停まった






「おい、そっちは何か話したか」
男達が話しているのが聞こえる。
車を降りてやっと一緒になれた2人が寄り添うのを黙認し、そのまま車の側で立ち話をするくらいだから
この敷地内では人の目を警戒する必要がないのだろう。
ローの家から逃げ出したその日に別の人間に捕まるだなんて。
ここはあの家と違って人間の数が多すぎる。
ペンギンの目があるとはいえ、自由に歩き回る事の出来たあの家とは逃げ出せる確率が全く違う。
車の乗り入れた門の方を眺めて建物との距離を見る。うまく自由になれたとしても、この距離を走って逃げるのは
可能だろうかと不安になったところで男達の話は終わったらしい。
再び腕を掴まれ建物の中へ連れ込まれる。
"家"と呼ぶには相応しくない白いビルは まるで病院みたいで進んで足を動かす気になれなかった。
その2人を引き擦って投げ込むようにして部屋に閉じこめる間際、彼等はもう一度2人のうちどちらが人間で
どちらがペットかと聞いてきた。
答えるつもりはさらさらなくて、ひたすらに睨みつけていると、男の一人が提案を口にした
「獣は獣だろ。怯えれば正体を現すんじゃないか」
少し考え込むような沈黙の後、素直になった方が身の為だが答える気はないかと言われて不安を感じる。
こんなの、脅しだ。
(こいつらの言葉をより深く理解して怯えた様子を見せた方が人間だと見分ける為の脅しなんだ)
そう思いながらも表情を怒りのまま変えないよう努力が必要だった。

暫く無言で睨み合った後、"それならおまえ達の行き先はこっちだ"と、2人は部屋の奥にあった別の扉の中に押し込まれた。



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あきゅろす。
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