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SS置場8
ギャップ3 (C)
つぎで終わります











失礼どころじゃない。 これ以上言い訳のしようのない態度を取ってしまった。

夜になってしまっても 昼間の自分の態度を説明できる良い理由を思い付けず、暗澹たる気分で食堂に向かう。
本当は食事をするどころの気分じゃないのだが、ここでペンギンが夕食をボイコットすればシャチどころか
他のクルーにまで怪しまれてしまう。
興味本位で痛む腹(その上"痛くもない"と言い切れないのだから気が重い)を探られるのはごめんだと足を向けるものの、
シャチに問い詰められた時には今日自覚したばかりの自分の感情を白状するしかないのだろうかと溜息が漏れる。
どんな羞恥プレイだ、それは。
(ありえないだろう、入ってまだ半年の新人に。それも、相手は男だぞ?)
よりにもよってそんな相手に懸想…と考えただけでカッと顔が熱くなる。
別に欲求不満だったわけでもないのだ。 
いや、そもそもペンギンはシャチをそういう目では見ちゃいない。
不本意なことに、いや、ここで不本意というのはシャチに対して失礼極まりないのだがペンギンにはそんなつもりは
全く無かったというのに、シャチに所謂"一目惚れ"というものをしてしまったらしいのだ。
自覚はなかったのだが ペンギンは意外性に弱かったのか、思いがけない彼の素顔に参ってしまったようなのだ。
(こんなに惚れっぽくはなかったはずだが・・・)
参ったな、と重い溜息を吐こうとしていたところでベポの姿が目に入った。
そういえば自分が逃げ出した後、どうなったのか聞いておきたい。
ベポはうまく誤魔化してくれただろうか。
(シャチは、何を言ってきた?)
にわかに気になりだしたペンギンが追いかけようと足を早める
ベポが今にも食堂に踏み込もうという直前に追いついたペンギンは、ベポの体で隠れて見えていなかった相手の姿を
見つけてぎょっとした

「あ、ペンギンさんもこれから夕食っスか?」
今度もシャチの方が先に声を出した。
心構えの整っていなかったペンギンは ひきつる喉から辛うじて返事を絞り出す
「あ、ああ」
それだけでは素っ気なさすぎるかと、さっき仕事が片付いたところだと付け足す。
シャチの方は取り立てて気にした様子もなく笑みを浮かべてお疲れさまですと労いの言葉を返してきた。
(待て、ベポ。先に行くな。トレイを持って並ぶ前に昼間の顛末を教えてくれ!)
ひきつる頬で笑みを返しながら ベポはどういう言い訳をしたのかと頭をフル回転させる。
そんなペンギンの窮地には気付く様子もなくさっさと先に行ったベポは ペンギンと口裏を合わせようとは考えていないらしい。
とにかくこの場は忘れ物か何かの口実を作って一時離れるべきかと無表情で焦るペンギンは、「はい、どうぞ」と
差し出されたトレイを受け取ってから しまったと顔色を変えた。

シャチから手渡されて思わず受け取ってしまった。
食堂を離脱するなら早くしなければ、このままでは下手をするとシャチと一緒のテーブルに着くことになるかもしれない。
こんな時こそ船長から急な呼び出しが掛かったりしないかといつもは面倒に思う出来事を期待したが、既に席に着いて
食事を始めている姿が目に入って落胆に肩を落とした。
「あ、茄子の挟み揚げ!俺これ好きなんですよね」
うちのシェフって腕がいいですよねと話すシャチの会話の中から"好き"の部分だけがやけに耳につく。
深く被った帽子の奥で目を泳がせながら そうだな、などと適当な相槌を打ったペンギンは、バンでも誰でもいい、
親しくしている連中の近くの席が空いていないかとテーブルに目を走らせる。
ああ、畜生。こんな時に限って混じれそうな席がどこにもない。
「――ですよね。じゃぁ、―――せんか?」
「ああ。・・・え?」
そわそわと空席を探していたペンギンは、尋ねられた事に適当に答えてしまってからシャチの方に顔を向けた

「あ、やっとこっち見た」
笑って言ったシャチの言葉に どきっと焦る。
ペンギンが不自然に自分の方を見ない事をシャチに気付かれていたと冷や汗が流れた。
だが彼は気を悪くした様子はなく、にこにこと笑顔でペンギンが聞き逃した質問を繰り返す。
「ペンギンさん、もうお仕事終わったんですよね。じゃあ、夕食の後ラウンジで少しお酒に付き合って下さい」
ただし、今度は質問じゃなかった。
先程ペンギンが "ああ"と答えたせいか、シャチの説明は断られない前提のものだ。
"・・・逃げられない"
これは、自分に話があるという事だろうか。
そう思案しながら頷くしかないペンギンが了承の仕草をすると シャチはニカッと笑みを深めた
「あ、ペンギンさん。あそこ空くみたいっスよ」
シャチが示したのは船長のいる席の斜め前だった。
間近で見る笑顔には曇りがなく、直視しがたくて教えられた席によろよろと向かったペンギンは シャチの気配が
離れていくのに気が付いた。
振り返れば、彼は別のテーブルに向かおうとしている
"船長のいるテーブルは俺には恐れ多いっすよ"と苦笑して離れた席に着いたのは、見逃されたのだろうか。
(・・・いや、後で約束があるのならそれまでの猶予という事なのか?)

「おう、ペンギン。どうした、妙な顔して」
「別に何も。」
ローの指摘を軽く流して席に着く。
味なんか分かる気がしないと思って口にした茄子の挟み揚げは シャチの言う通り、ぱりっと揚がった外側を噛むと
ジューシーな中身が口内に広がってとても美味しかった






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あきゅろす。
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