SS置場8 狐の嫁入り3 L 終わらなかったのでもう一回引っ張ります。次で終わるのかな…(でもそれを見越して1,2,3にしてたもんねー) 本当は故人絡めて何か深い設定を考えようかと思ったのですが話が長引きそうなのでやめました。そしてきっと うまい案は出てこなかっただろうなーw あ、そういえばコレ、ドラマ陰陽屋の影響じゃないですよ。あれの原作を 集めてる人が貸してくれるのでシリーズは前から読んでますけどあんまり好きじゃないw これは最初の部分の 事故チューが原因で異種族交流が始まるところが書きたかったんですw なので流れ全然考えてない、困ったなw 結局の所、男の素性はあっさりと割れた。 無縁仏となるはずのコラゾンの墓を建てた人物を手繰れば男に辿り着くかもしれないという老狐の助言に従って社の記録を 調べてみると、資金を用立てたのが彼だったのだ。 男の名前はトラファルガー・ロー。 "用立てた"というのは、文字通り資金を提供したのみで、実際 男がこの霊園に足を運ぶ事はなかったらしい。 寺にある記録だけでは此処に眠る人物との関係までは分からない。 縁あって資金は出したものの足を運ぶ気になれなかったか、それとも何か事情があって来れなかったのかもしれない。 会って男に聞いてみないと実際のところは分からないのだが なんとなく シャチには後者のように思えた。 ただ、聞いてみても話してくれないような気もするのだ。 「・・・あ。 居た」 最初に見つけた連絡先は古いものだったらしく、何度かの出直しをした後、ようやく彼の現在の住処を見つけたシャチは こうしてローを訪ねてやってきた。 今度こそ居るんだろうなと老狐の手も借りて調べたマンションの前に立ち、ローの部屋はどの窓だろうと見上げていたシャチは ロビーから出て来る人影が目的の人物だと気付いてホッと胸を撫で下ろす。 やっと見つけた喜びのまま駆け寄って声を掛けようとした。 その刹那 彼の影から現れた人物が腕に手を掛けて寄り添うのを見て、踏み出し掛けた足を引っ込める。 (人間の雌!) ぴったりと腕にくっついて歩く女を気に留める様子もなく、また、その女の歩調にも特に配慮なく目の前を過ぎていくのを 見送り 暫くしてから ハッとシャチは我に返った。 「あっ!俺、謝りに来たんだった!」 だけど どちらにしても今日は都合がよくないだろう。 これから出掛けるところに客が来たところで迷惑にしかならないじゃないか。 ・・・それよりも。 (既に嫁になる相手が決まっているんなら俺の輿入れなんてどう足掻いたって無理じゃねぇか) もともと、自分は雄なのだし。 輿入れ以外に老狐が言っていたのは何だった? 家来?下僕? それは 昔 子守歌代わりに眠る前に爺さんから聞いた"眷属"とかいうやつだろうか。 (それって、何の取り柄もない普通の狐の俺に務まるものなのか?) これは、さっきの"人間の雌"が本当にあいつの嫁になる相手なのか、確かめなきゃいけない! 考えがそこに至るやいなや、シャチは慌てて2人の後を追い掛け始めた。 かなり遅れを取ったけど追いつける自信はあった。 男の匂いは覚えていたし、一緒に居た女からは偽物の花のような匂いが香っていた。 あれはシャチも知っている。雌が雄を誘う時に意識を惹きつけ自分を魅力的に見せる為につけるやつだ。 本物の花の匂いの方がいいのになと 人間がつけるその匂いを嗅ぐ度に思う事をその時も考えながら、記憶と自分の鼻を 頼りに追い掛けていたシャチは、彼等の後をついて歩く内に、軽く混乱に陥った。 (嘘だろ、雌が多すぎる!) どこかに向かっているらしいのだが、その途中で彼等に声を掛ける人間は沢山いた。 話し掛けているのは雄も雌も居たが シャチの見た限り、声を掛け近付く人間は圧倒的に雌が多かった。 ローの腕にくっついて歩いていた雌の顔もいつの間にか代わっている。 (えっ・・・え? 一体、どれがあいつの嫁になる相手?) 本人は マンションを出てきた時と同じように群がってくる雌には関心なさそうな顔をしている。 だけど、そのうちの何人かとは顔を近付け内緒話のように言葉を交わしては 口の端だけを上げる笑みを浮かべていた。 その顔はシャチが見たものとは違う。 ・・・俺にあの美味しい物をくれた時はあんな変な顔で笑わなかったのに。 あんなにたくさんいる人間の中に 気に入った雌はいないのだろうか。 ローに近付く雌の中には 身を擦り寄せ"一緒になりたい"と露骨にアピールしている者もいる。 ほとんどが相手にされずにまた人の波の中に消えていくのだが、あれはもしかしたら極上の雌が寄ってくるのを 待っているのかもしれない (もしかして、嫁選び?) 突然思いついたシャチのその考えは、そう思ってみれば正解のような気がした。 爺さんの言うように 彼のところに輿入れするのなら、シャチも前に出て自分も嫁になりたいと名乗りをあげないといけない。 (けど、俺、雄だし・・・) あんなにたくさんの立候補があるのだ。とてもじゃないが、あの雌の中に紛れて名乗りを上げるなんて真似はシャチには無理だ。 (人間ですらないのに、滑稽でしかないじゃないか) 何も出来ずにじっと観察しているだけのシャチは、次にローに近付いた雌を見て青褪めた。 それまでの顔ぶれが霞む程にゴージャスな雌が異種族のシャチでさえ感じるようなフェロモンをまき散らしながら妖艶に微笑んでいる。 彼女は 手に持っていたグラスをローに渡した。 受け取り、それに口を付けた彼は 満足そうに笑って 旨そうに息を吐く。 (今、プロポーズ・・・受けた?!) 性的にアピールしながら差し出された物を受け取って口に入れた。 その上、飲んだ後も嬉しそうに笑っている。 確かにこれまで見た中であの雌が一番だとシャチも思う。 ではやはり、どの雌にも目を向けずにいたローは自分の目に敵う相手が近付いてくるのを待っていたのだ。 その証拠に それまで煩そうにあしらっていたローは女がまだ隣にいても許している。 (なんてこった・・・見ている目の前で嫁選びが終わっちまうなんて) 爺さんが知れば 何ぐずぐずしてやがったんだとまた雷を落とすかもしれない。 ショックで固まるシャチの視線の先では 擦り寄る雌の腰にローが手を回していて、さら距離が狭まった2人の顔が近付いていく ・・・あ。キス、しちまう・・・ 思った瞬間、それまで根が生えたように固まっていた足が急に意志を持ったように勝手に動き、シャチは身を翻して駆けだしていた。 あんまり思い切り走ったので、途中テーブルにぶつかって上に乗っていた飲み物を倒してしまったのだけれど、振り返らずに 一目散に外を目指した。 多分、見たくなかったのだ。 "何を"なのか自分でもよく分からなかったけど、すとんと落ちてきたその結論が間違ってないのだけは シャチもどこかで納得していた 「そんで おまえは何にも出来ずにすごすごと逃げ帰ってきたってのか」 とんだ腰抜けだなと言われて、しょぼくれていたシャチはキッと顔を上げる。 「だから!誘っている雌はあんなにたくさん居んだぞ?!嫁になる人間なんかよりどりみどりなのにッ。なんで狐の俺が 割り込めるんだよ!」 激昂して怒鳴ったシャチは 何も言わない老狐の見ている前で、はぁ、と ひとつ息を吐くと、それまでの激しさを収めて ぽそりと静かな声を出した 「やっぱいいよ、俺。あいつんとこ行かなくても、別に・・・」 狐としちゃ半端者かもしれないけど一匹でも平気だと言ったのに、稲荷の狐は額に青筋を浮かべて反対する。 「馬鹿言うんじゃねぇ。まだ自覚がないのかもしれねぇが、その半端な姿の弊害はおまえの思っているほど 簡単なもんじゃねぇんだぞ」 頭を冷やしてよーく考えろと言う老狐がいつものように怒鳴らない事が却って真剣な怒りを感じさせる。 しかも、稲荷の狐は はっきり"弊害"と言った。 狐社会に混じっていられなくなる他にも、何かあるというのだろうか。 不思議そうに自分を見るシャチに、苦虫を百匹ほど飲み込んだような苦い顔で稲荷の狐は弊害の正体を言って聞かせた。 「おまえも知ってるだろうが。変化している間は自分の姿が普通の者には見えないって。ちょっと考えりゃその軽いおつむでも 分かるだろう」 ハッとした顔になったシャチに向かって、"その半端な姿をしている限り、シャチの世界にはおまえしか居ないに等しい"と、 苦々しい声で老狐が言う。 「だって・・・、」 じーさんには見えてる、と反論するまでもない。 妖狐である稲荷の狐に見えているのは当然なのだ。 そのくらい、シャチだってよく知っている。だけど普段は狐の姿でいることが多いシャチは、それがこの先ずっと続くとは 考えていなかったのだ。弊害の実感がすぐには沸かなかったのはそのせいだ。 「・・・でも、輿入れしたってあいつにしか見えないんだろ? だったら、同じじゃん」 「それがそうでもねぇんだな」 流石に、"最後まで契れば狐としては生活できなくとも人間の姿でなら何も問題なく生活出来る"とは、いくら年輪を 重ねている老狐といえど まだガキのシャチに自分の口からは言えなかった。 だから代わりの解決策を 教えてやるに留める 「おまえらは異種族だがもう契りを結んだんだ。定期的に契りを更新すれば他の生き物にも姿は見える」 「えっ・・・?」 意外な事を言われたシャチが 間の抜けた声を出す。 それを無視して、老狐は一息に最後まで説明を終えてしまおうと言葉を続ける。 口を合わせた後、どのくらい効果が持続するかはおまえの力次第だ。 成長するにつれ 見えている持続時間は増えるが、まぁガキの間は1回の接吻で保って数時間ってとこだろうな。 フン、と鼻息を吐いた稲荷狐が 早合点せずに人の話は最後まで聞きやがれとじろっと睨む。 だが老狐の説明が終わった後も、まさか稲荷の狐からそんな事を言われると思っていなかったシャチは、ぽかんと 口を開けて固まっていた [*前へ][次へ#] [戻る] |