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SS置場8
所有印2 P
そういえばこの話もオチがついてなかったなーと、はぴえん目指してだらだら書いてたのですが予定を何も考えずに
書いたので微妙な感じになりました。久しぶりにへたれペン。











歩いてきたローと擦れ違う、そのタイミングでキャスケットが軽く頭を下げる
特に声を掛けるでもなく通り過ぎるだけの船長と船員にありがちな風景だったが、その時は様子が違った。

ぐい、とキャスケットのつなぎの首部分に指を突っ込んだローが引っ張る
首が締まって ぅぐ、と不明瞭な声を出しながら足止めをくらったキャスケットが驚きと若干の非難のこもった目で
自船の船長を見返した

「な――、」
何すんですかと言い掛けた彼の顔つきが変わる。
ハッと何かに気付いた様子で身を引こうとするのに掴んだローの手はそれを許さなかった。
却って ぐいぐいと引かれた首元が隠したかったソレをローの目前に晒す
固定された視線の先にある心当たりは見つかってはヤバイものなのに、しっかりと見られてしまっていて、
キャスケットはついに観念したように力を抜いた

「恋人のしわざか?」
にやりとわざとらしい笑みを貼り付けたローの質問は彼にはどう聞こえたのだろう。
ぎくっとした思いが顔に出てしまっている。
その年齢の男にしては素直なキャスケットは感情が顔に現れないように装うのが苦手なのだ
「違います」
ふるふると首を横に振る動作まで付けての否定は本当の事らしい。
それを聞いたローの眉が寄り、眉間に皺を作った。
彼がそうすると目付きの鋭さから不機嫌な顔に見える。単にそれが不審に思っただけの仕草であっても、
顔を付き合わせているキャスケットには責められているように感じられたのだろう。
首をすくめるようにして、「・・・違うんです」ともう一度繰り返した声は小さかった。
それでも否定したのは、よほど恋人だと思われては不味い相手なのかもしれない。
「誰だ、そいつを付けた奴は」
その様子を見たローの声はトーンが下がった厳しいものに変わっている。
耳にしたキャスケットが ぎょっとして顔を上げ、更に不機嫌度を増した船長の顔に慌てたように言葉を付け足す
「あっ、あの!違うんです!」
だから何が、という思いを押し込めてローが視線で続きを促した。
慌てるキャスケットはそれすらも気付いていないのか、勢い余ってローの腕を掴んでまで言葉を続けていく
「同意なんです!不本意なものじゃ、ないんです」
「ああ?」
ここで聞き返す声を出したローのトーンは更に下がっていた。
顔付きはもう不機嫌を隠さず じろっと睨むように相手を見る目には険が漂っていて、ますますキャスケットが
肩を縮込めて小さくなる
「同意でンな事しておきながら、恋人じゃねぇだと?」
うう、と叱られる子供のように目をつぶって俯くキャスケットはまさにお説教を受けている心境なのだろう。
そこまで小さくなっていながらも 彼は譲らなかった
「でも、そうなんです。無理矢理なんかじゃないです」
あんなに怯えた様子なのにそこだけはやけにきっぱりと言いきる。
そんな彼を見れば相手が誰かなどとローには容易に予想がついてしまう
「ペンギンだな」
今度の声には 怒りよりも呆れの色が濃くて、問われたキャスケットは、びくっと身を強張らせた事で肯定してしまっていた。
恐る恐る、相手の顔色を窺う様は いたいけな小動物のようだがローの追求は容赦ない
「性欲処理だとか言うなよ。てめえが、だぞ。あり得ねぇ」
そんなことは、だとかキャスケットは小さく口の中で反論していたようだが説得力の無さは自分でも分かっているのだろう。
ここで強く言い切り押し通せないところがキャスケットなのだ。
「セフレは認めねぇ。個人の自由に踏み込む権利はねぇが生憎コレは医者としての命令だ、てめえは恋人以外に
そんな行為は許すな」
「・・・職権乱用です」
「船長命令じゃねぇ、医者としての判断だ」
精一杯の反論もばっさり切って捨てられてはそれ以上キャスケットは何も言い返せない。
そもそも、ローは最初から医者としてキャスケットと関わっている。
無茶をした身体を的確に診断し、使われた薬に常用性はないのか検査して、その後のカウンセリングも続けていた、
歴とした主治医なのだ。医者としての判断だというローの言葉に嘘はない。
「でも、」
食い下がろうとして彼を見たキャスケットは、そこで言葉が途切れる。
船長の目を見て セックスフレンドなんですと主張出きるほど強気にはなれなかったのだ。
本当は、自分でもその関係を望んではいなかったからだろう。
キャスケットの気力が急に萎れたからか、ローは若干声を柔らかくしたが、突きつける結論は変わらない
「なんなら、船長命令も付け加えてやる。次の誘いは突っぱねろ」
そんなことをしたらどうなるか、知らないからこその強気なのだろうか
「心配すんな。数ヶ月で終わらせてやる」
何を?
船長命令を、だろうか。
それともこの関係を?
次々と浮かぶ疑問がキャスケットの顔にいくつも張り付いている
その船員の頭をくしゃっと撫でて、ローがにこっと笑みを浮かべる
「怒ってねぇわけじゃないからな? ああ、てめえじゃねぇ、ペンギンにだ」
顔も声もにこやかなだけに空恐ろしく思えてキャスケットが絶句している。
その強張る肩をぽんぽんと軽く叩いて 命令には従えよと言い残し、今度こそローは目的地へと足を向けた。

歩き去る船長を見送って不安げな顔のキャスケットだけが、いつまでもそこに取り残されていた








――キャスケットの様子がおかしい

最近、彼に避けられている気がする
(いや、避けられてもおかしくないような事をしてはいるのだが)
あの時、随分と理不尽な事を言いつけた。
なのに ペンギンにすまなさそうな気持ちで一杯の顔をしたキャスケットは黙ってその命令を受け入れ従っていたのだ。
彼は言われたとおり、鎖骨附近にペンギンが付けた跡が消えそうになると抱かれにやってきた。
今までのペースから考えれば 身体に残した鬱血はそろそろ消えかけているはずだ。
(・・・来ないつもりかもしれないな)
つまり、ペンギンから何か言われるのを恐れて顔を合わせるのを避けているのだろう。
問題はキャスケットがどうして急に命令をはね除けようと決めたかだ
(抱いてはいても無茶をした覚えはない。すこしばかりがっついたとしても嫌がる事はしなかったはずだ)
命じる形であっても嫌がられていないはずだと自負していた。
本気で嫌がっているかどうかが分からないほど自分達の付き合いは短くはないのだ。
避けている、ということは ペンギンに掴まり 「来い」と言われれば流されてしまう自覚が彼にもあるからだろう。
・・・だったら簡単だ。
逃げる隙を与えず捕らえてしまえばいい
避けていると言ってもキャスケットの行動パターンはだいたい読める。
どこへ先回りすればいいか予想するのは容易い事だ。

逃がしはしないとキャスケットを探して移動していたペンギンは、見つけた彼を捕獲する前にキャスケットと
一緒に居る人物の姿を認めて踏み留まった
(・・・船長と一緒か)
チ、と軽く舌打ちして歩みを弛める
ローの前で空惚けてキャスケットに声を掛けるというのも1つの手ではある。
いくら何でも船長の前でペンギンから逃げるような不審な行動はキャスケットもしないだろう。
だが状況が状況だ。
表情を隠すのに慣れている自分と違って十中八九、キャスケットは動揺を隠せず挙動不審になるだろう。
ローに怪しまれるのは得策ではないのだ

咄嗟の判断で二の足を踏んだペンギンだったが、結果的にそれで正解だった。
船長の肩越しにペンギンに気付いたキャスケットが ぎょっとした顔で固まったのだ。
それを不思議に思ったのか、ローが振り返る動きを見せるのに間一髪で廊下を曲がったペンギンは、
更に角まで足を止めずに進んで、そこで漸く詰めていた息を吐く。
(しくじった)
自分の姿は見られずに済んだはずだが、キャスケットは気付いてしまっただろう。
"船長の周辺に居ればペンギンは寄ってこない"
これは彼の捕獲には手こずるかもしれない。その時ペンギンが考えた通り、それ以降 キャスケットはローの傍を
付かず離れずでキープし続け、ペンギンの手をうまく逃れるようになった。


だが いくら船長の近くに居たとしても "あの船長"のことだ。
機嫌が悪い時にはキャスケットも近寄れないだろう。少々の長丁場になってもそう長期戦にはならないという
ペンギンの読みは大きく外れた。
1週間、下手をすれば数日のうちに追い払われるだろうと思っていたキャスケットはあれから一月を過ぎるというのに
何事もなくローの傍で過ごしている。
一体いつになればキャスケットが1人になるのかと じりじりする思いで観察していたペンギンは、そこで1つの
可能性に気が付いた。
(船長が もし、常に傍に居るキャスケットに目を着けたら?)
こうして手をこまねいている間にも彼を奪われてしまうかもしれない
(・・・いや、何を馬鹿な事を)
なかなか思う通りに事が運ばなくて煮詰まっているのだ。
そう思い、笑い飛ばそうとしたペンギンの目が 無意識に確かめるように彼等の方を覗う。

そこには 明るい声で笑う仲間の姿があって、思い過ごしではなくなるのではないかという不安が沸き上がってくる。
自分達がこんな風になる前までは、あの笑顔を目の前で見るのも珍しくはなかったというのに。
必要最小限に抑えての接触では笑顔で言葉を交わす事など ほとんどないのだ。
(のんびり構えている余裕なんて無いんじゃないのか?)
一度ひとたび生じた焦りの気持ちを抑えられずに、その夜 ペンギンはキャスケットの部屋へ強引に押しかけると決めた





「えっ、ペンギ・・・」
気配を殺して忍び寄り、扉を開けたところの彼を押し込むようにして部屋に身を滑り込ませる。
驚きに上げかけたキャスケットの声はてのひらで口を塞いで留め、いっそキスで塞いでしまおうかという考えが頭を
掠めたところで、驚きに見開くキャスケットの目がペンギンの背後を見ているのに気が付き、まさかと背後へ送った視線は
有り得ない・・・という相手の姿を捉えた。

「なにコソコソしてんだ。それが仲間の部屋を訪ねる態度か?」
ペンギンの待ち望んでいた不機嫌モードだ。
ただし、その険悪な視線はキャスケットではなく自分の上に注がれている
「随分穏やかじゃねぇ訪問だな。取り敢えずその塞いでる手を退けろ」
この状況でどう弁明すればいいのだろう
何をどう言い繕ったところで自分のとった行動は怪しすぎる
答えに窮しているペンギンの代わりに言葉を発したのは たった今 ペンギンが口を押さえて声を奪っていた相手だった
「ちがっ、違うんです、船長!ちょっとふざけてただけで…ペンギンは俺を驚かそうとしただけです」
「へぇ・・・?」
相槌を打つ声は彼の言い訳なんかは全く信じていない声音で、ちら、とペンギンを見たローは立ち尽くすペンギンを無視して
キャスケットに一歩進み寄りながら話し始める
「まぁいい。約束があるわけじゃねぇんだろ。来いよ」
ペンギンの横を通り抜けキャスケットの腕を掴んだローは相手の返事も聞かずに連れ出そうとする。
(冗談じゃない。こんな時間に何の用事だというのだ!)
無視された恰好のペンギンをちらちらと気にしながらもキャスケットは大人しく船長に着いて出ようとしている。
それを阻止しようと間に割り込むようにしながら彼の腕を掴んだ
「約束はしている。」
だから遠慮してくれと態度で示して掴んだキャスケットの腕を引く。
約束なんて本当はしていないのだから どうすればという顔のキャスケットは落ち着き無く 視線をローとペンギンの間を
忙しく往復させている。
三すくみ状態の部屋の中、最初に行動を起こしたのはローだった。

くく、と小さく笑って こちらも掴んだまま離していないキャスケットの腕を今度は力任せに引っ張った
「約束なんかしてねぇだろ」
引かれたキャスケットはそのままローの胸に突っ込み、それを受け止めたローは彼の丸っこい頭をしっかりと
腕の中に閉じ込めた。
よしよしとペットに施すように撫でてやりながら 嘘は言わせねぇと薄く笑って言って聞かせ、勝ち誇ったような目付きで
ペンギンを見る
「キャスケット、おまえ・・・っ」
カッとなったペンギンは心変わりしたのかと詰め寄ろうとして辛うじて思い留まった。
心変わりも何も、自分達は付き合ってすらいないのだ。
脅迫するような事を言って関係を続けている自分では彼をなじる権利など有りはしない。
「・・・・」
言葉を切って黙り込んだペンギンを フンと一睨みしたローがキャスケットの肩を抱いて連れて行こうとしたのだが、
当のキャスケットは首を振って立ち止まった。

「船長。もう、いいです」
一度床まで視線を落として、ぽつりと言ったキャスケットが 迷いを振り切るように顔を上げた。
「ペンギンのせいじゃないから、もういいんです。黙っていた俺が悪いんです」
全部話します。それで汚いって嫌われても、しょうがないですから…ペンギンを責めるのは止めて下さい。
そう言って、いうべきか迷うように唇を噛んだキャスケットは、結局それを言葉に出した
「俺、もう こんなのヤだし・・・」
逃げまくんの、もう嫌ですと本音らしきものを零してキャスケットは大きく息を吐いた。
「船長の言いつけは守ります」
恋人じゃない相手には許しませんからとぼそっと付け足して、2人にして貰えますよねと要求したキャスケットは
すっかり心を決めている気配だった。

指で顎を掻くようにしながら じっくりとキャスケットの様子を窺っていたローは、一応は納得したようだ。
片眉を上げ、分かったと承知しつつも釘は刺していく
「・・・事情はどうあれ、こいつが悪くないとは思わねぇけどな」
ペンギンを見るローの視線はやはり冷たい。
先程から話題に出ている"キャスケット事情"が何なのかは分からないが、ペンギンと彼との間であったことは
船長もある程度知っているのだろう。
キャスケットが話すとは思えないが、ローならば 彼の様子から真実に近い想像を抱いているはずだ。
出ていく直前、船長はキャスケットの肩に手を置き 何かを小さく囁いて行った。
はっきりとは聞こえなかったのだが、"おまえに罪はないんだぞ"というような言葉だったように思う。
確かに、そうなのだ。
ペンギンと出会う前に彼が誰と寝ていようがそれを責める権利なぞ誰にもないのだ。
頭では分かっていても感情が納得しなかった。
(だから、酷い事を言ってキャスケットを傷付けたし、その後もそれを理由に彼を縛った)
ローの言うとおりだ。
キャスケットに何も罪はないし、暴行紛いに彼を抱いた自分が悪くないはずがない。
(・・・嫉妬したんだと、正直に話して赦しを請おう)
それでも、彼がまだ自分に見切りを付けていないなら、改めて新しい関係を結んで欲しいと正直な想いを告げる。

浮かない顔のキャスケットが 重い口を開こうとしているのに先制して ペンギンが先に声を出す

「先に俺の話を聞いてくれないか。まず、これまでの事を謝らせてほしい」

戸惑った顔でペンギンを見るキャスケットに向かって ペンギンは、本当は あの時彼に伝えるはずだった言葉を
思いの丈全てを込めて告げ直した








 もう一度はじめから

やり直す機会を 俺にくれますか










本当はねー「くれないか」って書きたいとこなんですが、どうしても「ヤらないか」が浮かんでしまうので避けてしまう罠〜
あ、もう一度はじめからってのは勿論「好きだ」の後に言ってるんですよ



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