[通常モード] [URL送信]

SS置場8
裏側 前編
あと数行ほどで終わりだなってところで寝オチてました。仕方ないので分ける程の長さじゃないけど
前後編になりました。バン視点(というか主役?)











貧富の差がありそうな島だなというのがバンの第一印象だった。
一見 それなりに綺麗に見えるその街も、裏通りに入ればどこも同じ薄汚れた空気が首の後ろに纏わり付くような、
ある意味 自分達には慣れた雰囲気を醸し出す、そんな島。
暴力事が氾濫しているわけでもないが、綺麗に取り繕ったところで どの島にも一ヶ所はあるような、裏街。
腕っ節に自信があり、カモられない程度には場慣れしていれば、遊ぶには適した場所だが、生憎 その日は
バンにその気は無く、そこを通ったのは船のある港へ戻る近道だったからだ。

気分次第じゃ女とどこかにしけ込むつもりで宿を取っちゃいなかった。
寝るだけなら船で十分だと、店でそこそこの酒量を過ごしていたバンは、いい気分で人気の減った夜道を
歩いていたのだが、目の端に捉えたものが気に掛かって 数歩進んだ先で足を止めた。

(キャスケット・・・か?)
いや、間違いなく彼だと思う。
目の端に引っ掛けただけだが見慣れた仲間の姿を間違えるほど酔ってもいないし耄碌もしちゃいない。
それでも自問したのは 今し方見たキャスケットの雰囲気が彼らしくなかったからだ。

後ろを振り返っても そこにはもう人の姿は無い。
なのに、どうしても気に掛かったバンは、彼らしき人物を見た場所まで引き返した。
だって どう考えてもおかしい。
キャスケットは こんな時間にこんな場所を1人で歩くようなヤツじゃない。
酒場で仲間と一緒に飲んで騒いでいるのなら分かるが、その仲間から外れて裏町を彷徨くのは
彼のキャラではないのだ。
いや、百歩譲って 所謂ダウンタウンに物見高い興味を持ったとしても、あんな風に すっかり裏街に
溶け込んでいるはずがなかった。
"ちょっと覗き見してみたかっただけのお客さん"
そんな雰囲気で、ここの連中が見れば絶好のカモといった雰囲気でなければおかしい。
見慣れているバンですら目を疑ったほど、すんなりと裏街に馴染み、平気な顔で佇んでいるアイツは何だ。
(その上、1人じゃなかった――だと?)
クルーじゃない。 明らかにこの島の人間の腕に、甘えるように媚びた様子で腕を絡めていた人物の、
顔さえ目視していなければキャスケットだと思わなかったに違いない。

――あれはどう見ても"男を誘う"目付きだった
(ありえねぇ・・・ キャスケットは男だぞ?)
あいつにそんな趣味があるとは聞いてないし、仮に性癖を隠していたとしても あんな風に男を喰い物に
するような誘い方をするような奴じゃない。
身を売る商売をしているようなこなれた雰囲気で行きずりに男を誘うような、そんな遊び方はキャスケットなら
絶対にしないだろう。

見間違いだと確かめたかったのか、あるいは何か深い事情があると思いたかったのか。
バンは、彼等が立っていた路地の入り口まで戻り、そっと 暗い夜道を覗った








くすくすと抑えた笑い声が聞こえる

外灯すらまばらにしかない通りからでは 小道の辺りまで灯りは届かず、路地は真っ暗な闇だ。
目を凝らしても 見えるのは黒い影ばかり。
だがそこに、何か息づく気配があった。

それを頼りに 更に奥へと視線を走らせる
もぞもぞと、黒い塊が動くのが見えたような気がして、
「・・・ふふっ・・・」
思ったよりも近くに聞こえた吐息混じりの声は、耳を疑う事に仲間のものだ。
これまで聞いた事もないような色っぽい艶を含んだ声が囁くのが思い切り顔を顰めるバンの耳に届く。
「だめ・・・だよ。 こんなとこじゃ・・・ァッ、いや、・・・っふ、」
気の急いた男が落ちつくまで暫く好きにさせていたのか、ぁ、だの、んん、だのいう抑えた声が続いた後、
甘ったるい声が相手を誘う
「ぅん、っん・・・ ねぇ、どこか、入ろうよ」
「・・・いくらだ?」
聞いていたバンの方が頭に来て怒鳴りつけるところだった。
俺の仲間は娼婦や男娼じゃねぇ!
カッとなったバンは、次に聞こえた声で冷水を浴びせられたような気分で立ち尽くす。
「あんた次第、だね。 どこまでしたい?」
話す仲間の声の合間に、男の息が荒くなるのが分かった
「ってめ、煽んな・・・ッ」
キャスケットが何かしているのだろう、ごそごそと動く音と唸る声がして、とうとう 男が折れる。
「分かったよ、払うから 来い!」
――交渉、してんだ。
ということは、自分の仲間は島の人間・・・或いは立ち寄っただけの船乗りかもしれないが、彼等を相手に
身を売る商売をしようとしている。

2人が奥から出て来る気配がする。
分かっていても 身を隠す気になれなくて、バンはそのまま立ち尽くしていた

出て来て、自分を見た仲間がどんな顔をするのか知りたかったというのもある。
だが 突っ立っていた事でバンは益々混乱する事になる
キャスケットと思しき男は バンを見ても顔色ひとつ変えることがなかったからだ。

「ほら、ぐずぐずしてるから人が・・・」
がたいの良い男の腕にぴったりと寄り添って腕を絡めた彼は軽くバンへと視線を流しながら平気な顔で男と
話しつつ通り過ぎる
出歯亀・・・というカチンとくる単語が彼等の会話から漏れ聞こえるが、それに文句をつけられる程には2人は
バンの存在を気に留めていない。
唯一、アレがキャスケットだと確証を与えたのは、擦れ違う一瞬、彼の目がバンを捉えて、ふふっ…と艶やかな笑みを
口元に浮かべた事だ
――知らん顔をして擦れ違いながら あいつは俺を認識している。
その意味するところはプライベートに関わるなという事かもしれないし、無粋な事をするなという警告かもしれない。
(揉め事は御法度、だろ?)
そんな彼の声が聞こえるような気がする余裕の微笑みだった




[*前へ][次へ#]

49/100ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!