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SS置場8
太陽と月2(吸血鬼パロ) P
一応死ネタ?冒頭注意です。 前回の吸血鬼パロについて話していたら ちゃんとした文で読みたいと
リク頂いたので文字起こししてみました、太陽と月・その2です。以前のハーフ設定に近づけていますが
この双子は純血種です。








今夜も月が隠れているな・・・

空を見て そんな事を思ったのは 闇夜を好む者達のさざめきを感じたからかもしれない。

隣街で人非(あら)ざる者達の大きな集会があるということは風の噂でシャチの耳にも入っていた

あまり徒党を組む事を好まない、どちらかと言えば 長寿の為 名前や顔を知った相手が時折便りを寄越す程度の
付き合いが主で個人主義が大多数を占める種族であるシャチ達吸血鬼はそんな集会には興味もなく、ただ、
その中の一派である顔見知りの狼族が集会のついでにと連絡を取ってきた為 近くまで出向いて会ってきた帰りだった

キャスケットには食事だと誤魔化して出てきた
それは、シャチの用事が 今夜会った相手から荷物を受け取る事だったからだ。
手にした包みの中身は繊細な細工を施した骨董品で、二百年ほど前に亡くなった細工師の手によるものだ。
わざわざキャスケットに内緒で出たのは 密かに持ち帰って彼を驚かしたいという意図からで、実を言うと
シャチもキャスケットもこの細工師とは面識があった
この老いた細工師が生きていた頃には 彼との交流をシャチは快く思っていなかった。
だから、キャスケットが彼に会いに行くのに反対し、出掛けようとするところを見る度に喧嘩になった
(彼らの寿命は本当に短い。下手に関わって 最後にはいつも大泣きするじゃないか)
そんな短命の生き物と関わりを持つな、そもそも彼らと自分達は捕食の関係にあるのにといくら言って聞かせても
キャスケットは困ったように笑うだけで聞き入れない
この細工師が亡くなった時も 親しくしていたキャスケットは一晩中泣き明かしていた

その彼の遺作とも言える品が譲ってもらえると聞いて、こっそり連絡を取ったシャチはこうして手に入れた品を持って
家に向かっていたのだ
(別に、俺だってキャスケットを悲しませたくて反対してたんじゃないんだ)
この骨董品を見たら彼はどんな顔をするだろう。
驚きが引いた後は 懐かしそうに目を細めて笑うんだろうなと想像する。
若い頃は頑固一徹だった細工師も老いては穏やかな晩年を過ごしていて、人格的には実を言うとシャチも
嫌いではなかったのだと思い出話をすればキャスケットはどういうだろうか。
知ってたよ、と笑うような気がする
キャスケットは どれだけシャチがご託を並べても、言葉にしない深い部分を理解して柔らかく微笑んでくれる。
人間との付き合いに反対するのを曲げるつもりはないけれど、それも彼に悲しみを味わわせたくないからだ

もう一度、手にした包みを丁寧に持ち直しながら 早く彼の喜ぶ顔が見たいと慎重に荷を抱える。
折角 綺麗な保存状態のまま手に入れたのだ
新たな傷なんか付けたくはないと考えたシャチの耳が 先ほどからの騒めきと違う音を拾う

そちらに意識を向けた途端、鋭く光るものが視界を過ぎった

同時に、カサッと音を立てた包みに気が逸れる

一瞬の隙。
別ごとに気を取られていても シャチの肉体は傷を負っても直ぐに回復するという油断が判断を鈍らせた

光るそれがただの刃物ではないと気付いた時には シャチの腕は抱えた包みを庇っていて、それでも十分に
避けられるはずだった
――相手が、想定外の腕を持つハンターでなければ。
ただの人間ではない。恐らく、闇の種族の血を分けた混血族。
そうでなければシャチの反射神経に匹敵するスピードを出せるはずがない

視覚、聴覚、そのどちらもが、この角度だと銀の刃をまともに心臓に食らうと察知していた

ほんの半秒といった短い時間。
自らの命の終わりを自覚した瞬間、シャチが思ったのは双子の兄弟の事だった

――自分が居なければ彼も生きていけない

それを、嬉しいと思ったこともあった。
この世から姿を消すなら 2人一緒に離れる事なくと、どこかでそれを望んでいたのに

鋭い刃先を心臓が飲み込むまでの短時間に、シャチは彼が生き残る事を強く願った


"誰か、俺の代わりにキャスを・・・っ"


自分はひとりで逝ってしまってもいい。
だから、キャスケットに 生きる術を与えてくれ

それまで 願った何よりも強く強く力を籠めた願いを胸に抱えて
シャチの姿が霧となり崩れ落ちる

風に紛れて拡散していくその霧は もうシャチの姿を留めておらず、あれだけ強かった意志も掻き消えていく


かしゃん、と 最後まで手にしていた包みが地面に落ちて シャチが大切に抱えていた中身の割れる音が小さく響いた












「・・・っつ!」
森を進むペンギンは 飛び出した枝に手を引っかけた。
軽く舌打ちして傷口から滲む血を 舐め取る

こういう森の中の道には慣れてはいるのだが、生憎今夜は月が翳っていて視界が悪い。
なにせ 子供の頃からハンターの伯父に あちこちついて廻っていたペンギンは夜の森くらい何度も歩いている。
ペンギン自身はハンターではないのだが、幼い頃からその運動神経に目を付けた伯父が あわよくば自分と同じ職に、
うまくすれば狩りの際のパートナーにと目論んで連れ回していたのだ

(そういえば、あの時もこんな風に月の無い夜だった)

ペンギンは 一度、そうやって連れ出された時に 狩りの現場に居合わせた事がある
勿論、両親とも 子供を危険な場所に連れていくのは大反対で、だからその時も伯父は ただ、夜の森を歩く事に
慣れさせる為の小旅行に過ぎないつもりだった。
ペンギンも、そうやって古城のある街や、両親とは行く事のないような場所へ連れていってくれる伯父との旅行が好きで、
子供が嫌だと言えば即座に断るつもりの両親の『伯父さまから旅行のお誘いなのだけど、どうする?』という問い掛けに
毎回 『行く』 と答えて彼等をがっかりさせていたものだ。

それが 両親の強硬な反対に遭い伯父に着いて歩く事がなくなったのは、全てはその日の狩りが原因となった

何かを抱えて道を急ぐ人影を見た伯父の顔付きが、にこやかな笑顔から普段見た事もないような真面目な顔に
変わるのを見て まだ子供ながらペンギンも何かあると感じて口を閉じる
"声を立てるな"
身振りでそう示した伯父は固まって繁った低木の間にペンギンを隠し、それまでとは格段に違う身のこなしで先へと進んでいく

『危険なモノがいる』
そう分かって身の竦む思いがするのに、ペンギンは 首を伸ばして伯父の進む先を見た。

はっきりとは見えなかった
だが、先を行く小柄な人影は やはり自分達と変わりない姿に見える。
大柄で筋肉質な伯父と違って 前を行く影は華奢な外見をしていて、こうして見れば伯父の方が暴漢のようだ
"だが、相手は人間じゃない"
油断なく気配を潜めて、徐々に 伯父がその距離を詰めていく

風が吹き、周囲の葉が乾いた音を立てる瞬間を狙って身を隠した伯父が彼に襲い掛かる、その瞬間を ペンギンは
目が離せずに一部始終を見た

離れて見ていたペンギンには 人影が、持っていた荷物を気にしたのが分かった。
その僅かな隙を狙って 伯父の持つ鋭い刃物が彼の胸に突き刺さる
距離は相当離れていたはずなのに まるで目前で見ているように全てを捉えたペンギンの目は、その人物が
死を覚悟する瞬間を目撃し、同時に、胸を締め付ける激しい想いに呑み込まれていく

自分の感情のはずがなかった
狩りの瞬間を目撃した驚きはあっても、呼吸も止まるほど激しく訴えるその想いは間違いなく自分のものじゃない
「っう、ぁ・・・」
勝手に、ぼろぼろと熱い涙があふれ出る
まだ子供のペンギンは、どこかから割り込んできた想いに引き摺られ 揺さぶられた感情が勝手に涙を零し続ける。

"彼" の消滅する瞬間を、ペンギンは見ていない

感情の波に呑み込まれ 涙でぐしゃぐしゃのまま、地面に倒れ込んでいたからだ。
その夜から熱に魘されて寝込んだペンギンを 両親は残虐な現場を見たせいだと伯父を責めた

もともと、混血の伯父は親族の間でも煙たがられていたこともあって、それ以来、彼は甥を誘い出す事を禁じられ、
ペンギンの家族とも次第に疎遠になっていった
(・・・伯父のせいではなかったのに)
異を唱えるべきペンギンが寝込んでいたこともあり、目を覚ましてからも子供の自分の意見は聞き入れてもらえなくて、
今ではたまの親族の集まりで顔を合わせるのみになってしまっていた

そんな子供の頃を思い出しながら歩いていたせいか注意が疎かになっていたらしい
(少し行った先に綺麗な泉があったな。休憩ついでに傷を洗うか)
そう思って向かった先には、こんな月の隠れた夜だというのに 1人の先客の姿があった


姿が目に入る前に ばしゃっと水の跳ねる音が先に聞こえた
(こんな闇夜だというのに、人が・・・?)
慣れない者には 真っ暗に沈む泉の姿は恐怖しか与えないというのに、誰か居るのだろうか。
魚でも跳ねた音かと考えながら繁る木の間から出たペンギンは、丁度 そのタイミングで雲間から顔を見せた月の明かりの下、
泉の傍に佇む人影を見た

華奢な姿を、最初 ペンギンは女だと思った

よく見ればほっそりしたスレンダーではあるが男の体型だ。
顔形も 中性的に見えないこともないが、やはりどちらかと問われれば男だと答えるだろう
それを何故女と見紛うたかといえば、そこらの女よりも儚げな彼の様子がペンギンにそう思わせたのだ

ぱしゃ、と泉の畔に座って翳した彼の手が水を跳ねる。
ペンギンの目には、彼が水の中の何かを掬おうとしているように見えた
(まさか魚でもないだろう。 何か落としたのだろうか?)
声を掛けるのも躊躇われる彼の姿にペンギンの足も鈍る
だが、背後から吹く風がペンギンの気配を彼に届けてしまったようだ

一心に湖面を見つめていた彼が 何かに気付いた様子でこちらを振り返った

月明かりを反射して 金に光る彼の瞳がペンギンを捉える

ふと、どこかで見掛けた事があるように思えて 眉根を寄せたペンギンから、後ずさるような仕草を見せた彼の体が
目眩を起こしたように ふらりと傾く
思わず駆け寄って抱きとめてしまうまで、倒れずに済んだのは奇跡かと思う程、抱えた彼の体は軽い。
近くで見ると 遠目で眺めたよりも痩せた体は年端もいかない少女よりも細い。
彼の、青白い頬がぴくりと動き、細く息を吐き出した

――自分は この青年を知っている気がする

まじまじと、上から見下ろした顔は 初めて見るもののはずだ。
だが、確かに 知っていると勘のようなものが告げるのだ

眺める視線が煩かったのか、半分意識を飛ばしている青年の目が薄く開いた。
細く虹彩を放つ瞳が金色に輝くのが見え、ぞくり・・・と全身に鳥肌が立つ
"人間じゃない!"
本能的なものが危険を察知するのか、逃げろと頭が命令する
同時に、ペンギンは腕の中にいる青年が酷く弱っているのも感じ取っていた
"このままでは彼は死ぬ"
どうして、そう思ったのかは いくら考えても分からない
その上、ペンギンの考えた通り、細く開いた瞼はまた閉じかけていて、彼の意識は混濁しているように見えた

"だめだ。彼は生きなければ"

強い衝動に駆られて咄嗟にペンギンの取った行動は、有り得ない選択だった。
先程引っ掛けた傷を青年の口に押しつける
口内に広がる味を感じ取ったのか、無意識に青年の唇が動いた
「・・・っ」
小さく尖ったものが 肉に刺さるのを感じた
そこから、体内を流れるものが抜けていくのを感じて、思わず上げそうになった声を噛み殺す。
それは無意識の行動だったが――後にそれが正解だったとペンギンは知ることになるが――とにかく彼が無意識だった事で
ペンギンは命を救うことに成功した

暫くそうやって血液を与えるうちに、意識を取り戻した青年は激しく抵抗を始めてペンギンを驚かせた。
だが、弱るだけ弱っていた青年に無理矢理押しつけて食事をさせていなければ、その時 彼は命を落としていたことだろう。
首を振り、口を離そうとする彼の頭を押さえ付け、彼等の種族の事は分からないなりに十分だと思うまで血を与え続ける

「あなた、誰っ・・・」
抵抗する力を取り戻した青年の顔色が血色を取り戻しているのに気付いてホッとする
「ペンギンというんだ。 名前を聞いていいか?」
目の前に居るのが吸血鬼だと知っていて、名前を尋ねてくる事に戸惑いを隠せない様子の彼が躊躇いながら名前を名乗る。
その名前をどこかで耳にした覚えがあるような気もしたが、先程の脆く崩れそうな顔よりも 今の表情の方がいいと そちらに
気を取られたペンギンは、「ふらついていたようだけど歩けるか?」と彼の体調を心配する言葉を掛けた。
不調なら送っていくつもりだったペンギンは 自分の方こそ貧血を起こしているはずだと逆に彼の家に招かれる事になるのだが、
それでも、彼と交流を持つ切っ掛けを得た事に 心の奥で酷く安堵している自分を自覚していた。

それが、どこから来る感情なのか 知らないまま・・・








 約束された出会い

貴方を守る――それは、子供の自分に刻まれた鮮烈な祈り







キャスが掬っていたのは水面に映る自分の影です。 餓死寸前の朦朧とした頭で「シャチかもしれない」と
手を伸ばすキャス。どれだけ待っても帰ってこない兄弟をどんな思いで待っていたかと思うと胸が痛いです。
「月を追って歩くキャス」って話してたのを忘れてました。シャチを月に見立ててたんだろうキャスの姿。書き忘れた!


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