[携帯モード] [URL送信]

SS置場8
太陽と月(吸血鬼パロ) W
吸血鬼パロですが以前のものとは設定が違います。ハーフじゃないです。突如書きたくなった双子で吸血鬼。
あ、このシャチとキャスケットの間で恋愛感情はありません










「・・・食事に行くの?」
出掛けようとしているシャチの後ろから声が掛かる

振り返ったシャチは そこに自分と瓜二つの顔を見て 困ったように首を傾げて苦笑を浮かべる
「キャスも来る?」
頷くわけないだろうなと思いながら言った言葉で、キャスケットもシャチと同じような顔で首を振った
「ごめんね。 俺は"食事"はいらない」
「うん」
"そういうだろうと思った" と、薄く笑ったシャチにキャスケットは もう一度 ゴメンと言って眉を下げた。
シャチと双子の兄弟であるキャスケットの食事事情は特殊で、彼は自分達の摂るべき食事を口にする事を嫌っている。
多分、こうしてシャチが食事に出掛ける事も 本当は嫌なのだ
だけどそれが自分達の体に必要な食事だと分かっているから 彼は引き留めはしない。
キャスケットはいつも、こうして 少し悲しそうな顔で見送るだけだ

「そんな顔しなくても殺しはしないから。 ・・・ね?」
少し浮かない表情で見る弟の頬に手をあてる
自分達が食事をすることで相手の命を奪う事が 彼の食事拒否の根底に根ざしている理由で、だからシャチは
面倒ながらも一晩に複数の相手から、彼等が命を落とさない程度に量を控えて摂取している
「目撃されなけりゃ口を塞ぐ必要もないだろ?」
面倒でも姿を見られないようにしているし、仮に誰かに見咎められても記憶操作で忘れてもらうからと付け加えて
コツンと額を合わせる
間近に目を合わせたキャスケットも、シャチが面倒な手間を掛けても相手を殺さないからと言ったことで、
ふにゃんと表情を弛めた
誰もを魅了する彼の笑顔に今日もシャチは破顔する
「我がまま言ってごめん」
余計な面倒を掛けていると知っている彼の謝罪はその柔らかい唇からキスを掠め取る事で封じた
「たいした手間じゃないって。 そうだろ?」
運動能力1つとっても自分達より遙かに劣る人間達ではシャチの相手ではないと笑って言えば、キャスケットも
頷いて同意を示す。
もう一度、今度は長く唇を重ねてから、シャチは出掛けるねと告げた
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
笑顔で見送ってという願いは言わなくても通じたようだ
玄関先で繰り返した挨拶に 今度はキャスケットが笑顔を返してくれる。
自分達の存在が噂になっているわけでもなし、気をつけるほどの危険はないよと思いながら軽く手を振って、
シャチは足音を立てない身のこなしで家を出た





雲に隠れた月を見上げて目を細める
夜目の利く自分達には月明かりなどあってもなくても同じで、食事中身を隠す事を考えると隠れている方が都合がいい。
それでも、シャチは明るい月を見るのは好きで、食事に出た今日が月の見えない夜なのを残念に思った

(キャスケットを喩えるなら "太陽"の方が相応しいのかな)
冴え冴えと白く光る月よりも、暖かな日差しを供給する太陽の方が彼らしい気がする
確かに、そんな彼に"血を啜る"という行為は不似合いだった

自分達は、ヒトとは違う。
彼等人間から "吸血鬼"と呼ばれている種族で、当然ながら主食はその呼び名の通り 彼等の生き血だった。
『 主食 』
つまり、人間の生き血以外にも口にする事は出来る。
彼等と同じような食べ物を口に運び、果実酒などを嗜むのも自在だが、ただし それ自体はあくまでも味わう為の行為なのだ。
生きる為の糧とは違い、どれだけ摂取しても身にはならない
(本来なら、そのはずなんだけどな)
キャスケットは 人間と同じ物を食べて生きていけると信じている
実際、彼は今まで吸血行為を行うことなく これまでの時間を生きてきた。
生まれ持った性格なのか、キャスケットは餌である人間にも好意的で、血を吸うのを極端に嫌っている。
本当を言えば シャチだって そんなもの口にしたくない
(だけど、キャスケットの為だから)
本当の意味での食事をしないキャスケットが何故生きていられるのか。
それは、自分達が たまたま双子だったからだ

双子の自分達だけに起こる現象で、シャチが体内に血を取り入れると、そこから得られた栄養はキャスケットにも供給される

『おかえり、シャチ! 遅かったから心配したんだよ、今日はどこまで遠出してたの?』
出迎えてくれる彼の顔を思い浮かべて、シャチは記憶の中のキャスケットにつられたように微笑んだ。
自分が これまで集めて摂取してきたどの血液よりも綺麗な色をした赤い髪、透き通るような白くて艶やかに輝く肌――
それらは全てシャチの努力の成果だ

血を口にしないからこそ穢れないままに生きているキャスケット。彼があんなにも純粋で綺麗な心根でいられるのは、
全部ぜんぶシャチがキャスケットの代わりに血を啜っているお陰だ
(キャスは、知らないけどな。そんなこと。)
目に見えない汚れに塗れている自分の手を見て、ぽつりと考える
キャスケットが"食事"をしてくれるようになれば・・・ 自分はもう生きている人間の血を口にしなくてもよくなる
――でも、知らないままでいてほしい
綺麗な、きれいな、綺麗な、キャスケット。
アレはシャチの作り上げたものだ
(このまま。 ・・・ねぇ、キャス。一生、こんなものは口にしなくていいよ、おまえは)
一口でも啜れば 彼の純真さは濁る
嫌なことも汚い事も何にも知らない、清潔で美しい事しか知らないまま生きていけば良い。

それは、シャチが居なくなればキャスケットも生きていけないことを意味するのだけど

(いいよな。俺達、双子なんだし)

ふっ・・・と、浮かんだシャチの笑みは キャスケットのそれとは違って 影を伴い細く輝く月光のような微笑だった








 運命共同体

彼のように生きてみたい、そんな願いすら浮かばないほど深い憧憬




[*前へ][次へ#]

15/100ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!