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SS置場8
不器用な者達 E(バン+シャチ)
久しぶりに実家に帰ってました^^ 更新遅れてすみません。ノンケバンとバイかもしれないシャチ。※できてません







「あ、バンさん。頼まれてた浸透剤とマリンガード買って来た!」
防錆スプレーってメーカー一種類しかなかったんだけど これでいい? と買い出しから戻って来たシャチが
息を切らせて駆けてくる。
クルーの中では下から数えた方が早いという若さのこの青年は、上陸の度に買い出しを任される事が多い。
今朝も、遅れて朝食を摂るバンのところへ寄ってきて、何か追加で必要なものはないかと聞いていた。
追加…というのは、先日そろそろ島に着くという航海士の予測を聞いて、今回も買い出し係になる彼が
あちこちの部署に必要な物を申請してくれと通達して廻っていたからだ。

「でさ? バンさん。明後日には島に着くんじゃないかって話だから、なんかストックが切れそうなもんある?」
ガン、ガン、とショックレスハンマーを振り回すバンの横にしゃがみこんだシャチは メンテ中のバンの立てる物音や
振動に慣れているのか、全く気にした様子もない
バンの方も、仕事中にシャチが側にくることに慣れていて、塩食いしたボルトに舌打ちしながら 商売道具を
突っ込んだケースから滑走剤と一緒に取り出した防塵マスクを彼の方に放る
「着けてろ。吸い込むぞ」
キャッチしたシャチが慌てて着けるのを横目にスプレーを噴き付け 暫く試してみたが動きそうにない。
やれやれと首を振って 今度は別の手を試そうと思ったところへ、"はい"と差し出されたものを何気なく受け取って、
手にしたものが次に取り出そうとしていたハンディバーナーだった事に眉を上げる
「ああ・・・よく分かったな」
「そりゃ、いつも見てるし。 あぶってみるんっしょ?」
よく見てるよなと思いつつもバンは受け取ったバーナーを軽く振ってシャチの方へ向ける
「見てんなら火を使うって分かってんだろ。こんなとこで油売ってないで行きな」
「えー」
不満の声を上げても、邪魔なものは邪魔なのだ 
「汚れっだろーが。臭いとか汚れ付けたまま医療班の仕事や調理の手伝いなんぞ出来ねぇだろ」
裏方であるバンの仕事場では機械油のこびりついたものも多い。下手に触って汚れや臭いが付けば洗っても簡単に落ちやしない。
それをシャチに付けないようにと気を回していては仕事にならないのだ
「買い出しの必要なもんは後でメモしとく。ほれ、さっさと行きな」
「ちぇ」
唇を尖らせて不満を表してはいても バンの指摘が正しいのは彼も分かっているのだろう
しぶしぶ、立ち上がって出ていこうとしている
「邪魔して悪かったね」
去り際の言葉は皮肉にも取れなくはなかったが、どちらかといえばあれは拗ねているのだ

汚しちゃ困る相手の退場で、やりかけの仕事に戻ろうとしたバンに 別の方角から声が掛かる
「あーあ、可哀想に。少しは構ってやればいいのに。ノンケに惚れちまって、シャチも報われないな」
「そんなんじゃねぇよ、馬鹿め。あの坊主なら仕事中じゃなきゃ相手してやってるだろうが」
軽くいなして手元に集中するバンを、やれやれと肩を竦めた仲間は これ以上言っても無駄だと苦笑して自分も仕事に戻った。
仕事の合間の軽口で色恋沙汰にノってくる相手もいるだろうが、バンはそういうタイプではないとその船員も知っているのだ。
下手に詮索して仲間の機嫌を損ねても一利なしと互いに手元に意識を戻す

熱であぶってようやく動きそうなネジを外しながら、それでもバンの頭の中では先ほどの話題が続いていた
(しょうがねぇだろ。 他人の性癖がどうだろうと文句はねぇけど、俺ァ 男をそういう目で見れねぇんだから)
シャチだって分かってるから無理にせまったりせずに『よく懐いている後輩』の立場に甘んじてるんじゃねぇか。
いや、そもそもシャチが男色の気質があるとは聞いてない。寄港先ではナンパした女の子と歩いているところも
何度か目撃しているから、元々アレは女好きなのだ
(それが何を好き好んでおっさん相手に・・・)
考え過ぎだろ、てめぇら。
"航海中の暇潰しに適当なゴシップを作り上げて楽しんでいるだけなのだ"
だが、そう言い切れるだけの根拠をバンも手にしていない
確かにバンは野暮天かもしれないが、決して鈍くはなかった
彼の自分への懐きようには バンなりに感じるところはあった
(だからと言って、おいそれと応えられるもんでもねぇんだよ)
完全ヘテロのバンには無理な話だ
今のこの距離感が 互いに丁度良いもののはずだった
(あいつが 変に欲を出さなきゃ、の話だが)
不満が爆発しないように適度に構い、期待を持たせないように突き放すところはそっけなく。
面倒な駆け引きなど苦手なバンにしては 破格に気を使った対応をしている
下手に揉めて彼を傷付けたくないと考える程にはバンもシャチを可愛がっていた
その分、目端の利く彼にはバンの気質も気遣いも解っていて シャチの方でも思い切った行動には出られないのだろうが、
その方があいつの為にもいい。
周囲の余計なお節介や戯れ言には耳を傾けないバンにはバンなりの考えでの扱いだった




「これ。他のメーカーのに拘るなら取り寄せになるって。滞在中には届かないでしょ?だから一本だけ見本に貰ってきた。
違うのがいいなら次の島で買う、問題なかったら後で船に箱で届く手筈になってる」
「あぁ、これで構わねぇ。そのまま貰ってくれ」
「了解!」
おまえも買い出しの手配が上手くなったなと感想を漏らしたバンが ご苦労さんとシャチの頭をくしゃくしゃと撫でる。
子供扱い過ぎると怒るかと思ったが、シャチは大雑把なバンの手つきに片目を細めただけで何も言わなかった。
ずれた帽子の端からはみ出す乱れた髪を海風がなぶる
その風の流れを読むように 2人の視線が海へと流れた

ぷか・・・と、バンの吐いた煙が空へ上る

それを目で追ったシャチの視線の先には 青い空を舞う海鳥の姿が映った


「ねぇ、バンさん」
「あ?」

どちらも、視線は海の方を向いたまま シャチの呼びかけに答える

「もし、俺が、さぁ・・・」

直球型のシャチが 彼らしからぬ風情で言い澱んだことで どきっとした。
ぎくり、と言い換えてもいいかもしれない
「なんだ」
そんな焦りをいつもの仏頂面で覆い隠して聞き返す、その声に動揺が混じらなかったのは偏に年の功だろう

もし、俺が。
その後に続く文脈は "もっと大人だったら"か? それとも、"女だったら"と続くのだろうか。
自慢じゃないがバンはその手の仮説は得意ではない
いくら仮の話を想像してみろと言われても、現実に彼の年はバンよりもずっと下だし女でもないのだ。
無理に仮定しても自分の心情なんて想像も付かない。事実は事実だろうと目を逸らさない頑堅さは技術者には
向いているが想像と先読みを必要とする指令塔やその補佐には不向きだった
当然、バンは自分に適した仕事を知っていたし船でのバンの役割も身に合ったものだと思っている。
適材を適所に配置するのはローの手腕で、まれに作戦会議に呼ばれて意見を求められるのもバンのようなタイプの人間が
どう考えるかを知りたい場合や技術的な相談を受ける時だ

無茶な仮説をされても答えらんねぇぞと考えているバンの隣で、ふっ・・・と、シャチから緊張が抜けた。
苦笑のような笑みを向けて、「や、なんでもない。」 聞き流してと言ったシャチは、今度こそ曇りのない笑顔を見せた

「後で、お駄賃にアイス奢ってくんない? この島特産のフルーツで作ったやつが美味しいんだって!」
「あぁ? てめ、こりゃ船の仕事だろが」
「買い出しが上達したご褒美!」
してやったりの悪戯っ子の顔で笑われて、しょーがねぇなと苦笑する
「夜にゃ飲みに出るが、そんな時間まで売ってる店あるか?」
「名物らしいから大丈夫だって」
バンから奢って貰える意志を引き出したシャチが やった!とガッツポーズを作っている

シャチの欲しがった"特産アイス"
それが "愛す"と引っかけてのことかもしれないと 片隅でちらりと思い付いてはいたのだが・・・
(ま、これくらい、いいか)
くすっと小さく笑って バンはその提案を受け入れた












 届かない相手

無邪気を装う者と無骨を装う男







バンさんが絆されても発展しようがないのですが寧ろそういう状態で絆された時が見てみたい!
体の関係なくてもいいっていう風になるのかな?それとも何かの関係ができちゃうのかな?


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あきゅろす。
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