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SS置場7
密航2(後半)
後半です!前回の時点でローのパートが冒頭しか書けてなかったので二つに分ける羽目になりました。 ワカメさんの名前は
うちでは一応 Mr.シーウィード(Mr.ワカメってw)にしているのですが世間では通用しないので文中には名前は出していません。
なお、「密航者」ではキャスの呼び方はそれぞれの船員が好きなように呼ぶことにしています。今回エピソードを何も
思いつかなかったのでこんな形になりました。また何か思いついたら書くかもしれません(だってこれじゃ半端ですものね)









◇ ウェーブヘアの船員 ◇

「キャスには大きすぎるけど・・・膝まで隠れるから丁度いいか」
これでいいだろと古くなったTシャツを渡す
見た目は少年にしか見えないのでついつい子供扱いしてしまうのだがキャスケットの口から不満は出てこない。
外見が外見だからか、彼は早々に大人扱いしてもらうのは諦めたようだ
「着古したものだし作業用にしてしまっていいけど、大きいから足を縺れさせんなよ?」
わざと 子供に言って聞かせるように注意を与え、赤毛に近い赤茶色の髪をくしゃくしゃと撫でた。
海上での生活で日に焼ければもっと赤くなってしまうかもしれないなと観察しながら思ったところで、そう言えば彼は
既に子供じゃなかったと気付く
頭を撫でられると反射で目を閉じそうになるのか、眩しいものでも見たように細めている彼の目を覗き込んだ
「キャスのこの髪って育てば赤くなっちゃうとか?」
それとも暗みが増してブルネットになるのだろうか
船員の言葉で 再び大きく開いた目が正面から見つめてきた
ひょい、と軽く首を傾げているのは少し前までの自分の姿を思い描いているのだろう
「あぁ。 そういやガキの頃より赤くなってたかも。でも、屋根のないとこで寝起きしてた事もあるし、成長だけで
赤くなったのかは微妙だなぁ」
栄養足りてたかも自信ないと話す口調は見掛け通りの子供のものじゃない
脳天気そうに見えて苦労してんのねと労りを口にしたら キャスケットは ぱちぱちと瞬きして普通だよと答えた。
「俺のいた島、親がいないガキも大勢いたんだよ。理屈より暴力がまかり通るとこだったし、治安もそんなに
いいとこじゃなくて」
だから自分は特別珍しい身の上じゃないと、あまりにも普通に さらりと言うから。
(聞いた方が困るじゃないか)
彼の外見が可愛らしいと呼んでいいほどの年齢の姿である事が この場合は逆効果だった
「親は どうしたの」
いけね、すっかり子供に話す口調になってしまっていると口に出してから気付いたが、相手は気にしていなかった。
というよりも クルーの殆どが彼を子供扱いしてしまうので結果として慣れざるを得なかったのだろう
「知らない。物心ついた時には1人だった。・・・っうわ!」
船員は、思わず彼を抱き締めていた
"わぁ、ちょっと、何!" と慌てる声が耳元でしているが構わない
「駄目だろう、そんな姿でそんな事を言っちゃ!」
健気オーラがバッチリじゃんと、ぎゅうぎゅう抱き締めていたら流石に限界が来たらしい
ガツン!と臑に受けた衝撃で、痛みに思わず腕の力が緩んだ
その隙に するりと船員の腕を抜け出して、髪を乱したキャスケットが 心持ち距離を取った位置に立つ。
彼の被っていた帽子は体が元のサイズの時のものなのだろう。 派手に蜿いた弾みで落ちたまんま、床に転がっている
「もぉっ!みんな 馬鹿力で抱きつくのやめてよ、潰される!」
抱きつく、というよりは抱き締めているのだが、彼にとっては大差ないらしい
だが、流石に治安の悪い島に居ただけあって、力任せの抱擁から逃げる為に躊躇いなく急所を蹴る度胸はあるようだ。
骨がすぐそこにあるから激痛の走る場所だ。そこを蹴られて平気でいられる者は少ないだろう
「っキャス、可愛い顔して結構酷い・・・」
手加減無しとか酷いじゃないかと恨み言を漏らせば "だって子供の力じゃ思い切り蹴らないと逃げらんないんだもん"と
けろりと言ってのける顔がまた可愛らしいのが憎たらしい。
流石、その島を保護者もなく生き抜いてきただけあって彼の対処は手慣れていた
「案外っ、海賊船にも、向いてるじゃん」
言葉の合間に変なブレスが入るのは 油断していたところに綺麗に入った蹴りの痛みがまだ引かないからだ
「ありがと!」
にっこり笑った顔が綺麗な笑みなのも、ある意味ツボを突いていた
「あー・・・、マジ、今その笑顔反則」
体は子供返りしているものの、経験値は下がっちゃいないのだ
これは船長が気に入るだろうなとぼんやり考えながら、貰ったTシャツを抱えて戻っていく彼の後ろ姿を見送った



◇ ロー ◇

部屋から出ようと扉を開けたところで ふわりと柔らかい香りが鼻孔を擽った

匂いの元を辿ってみれば、シャワーでも浴びてきたのか 首にタオルを掛けたキャスケットが まだ濡れたままの
髪の水滴を拭いながらやってくる
実際の彼の年齢に見合った姿であれば それなりに男臭い仕草も、ちびっこ姿でやっていれば 背伸びして
大人の真似をする子供にしか見えない。
見ようによっては "こまっしゃくれた生意気な餓鬼"
受け取る側の性質によれば "抱き上げて頬擦りして撫で回したい愛らしさ" になる
勿論、キャスケット自身はそれを意識してはいないだろう
これまで通りの彼にとって普通の振る舞いを続けているだけだ。
髪を拭き拭き歩いてきた彼は、扉のところに立っているローに気付いて 「船長」と笑顔で ぺこりと頭を下げ挨拶を寄越した

「こんな時間にどうした」
風呂には随分早いなと聞けばバンの仕事を手伝ってたと笑う
「雑用が終わったんなら丁度良い。そろそろ問診しようと思ってたとこだ。厨房で飲み物貰って持って来い」
「え、また? 最初に色々検査したじゃないですか」
断りたそうにしているのを "煩せぇ、てめえを乗せてんのはジュエリー屋の能力を調べる為でもあるんだ"
文句を言うなと付け加えて尻を叩く
キャスケットは唇を尖らせつつも、分かりましたと頷いて、食堂の方へ歩きながら振り返った
「船長は? 珈琲でいいっスか?」
なんでもいいと手を振って室内に引っ込む
あの脳天気な様子を見る限り、彼は自分の身に起こっている現象のあやうさに気付いていないのだろう
「本物の子供じゃねぇんだし、この機会に自覚させておくか・・・」
小さく息を吐いて初回の診察時に作成したカルテを取り出す
次に 真っ白の記録用の用紙を取り出していると、コンコンとノックの音がして2人分の飲み物を持ったキャスケットが入ってきた



ローの部屋にある机は1人用の為、作業机ではなく小テーブルに場所を移す
少し落ち着かない様子のキャスケットも促されるままローと向かい合って椅子に座り、たっぷりのミルクの入っているらしい
色合いのカフェオレの入ったコップを手に取った。
ちろりと眺めたローの視線をどう解釈したのか、むぅ、と唇を突き出してボソボソと言い訳する
「味覚も変わってるから」
それまで普通に飲んでいた珈琲が苦く感じると言った後、への字に曲げた口をカップに付ける
まだ子供の体は味蕾細胞が敏感で苦みを強く感じるのだろう。
味蕾細胞が加齢と共に減少していき、苦みに対して舌が鈍くなるから美味いと感じられるようになるのだから。
「つまり、見た目だけじゃなく中身も若返ってるらしいな」
苦みを不味く感じる仕組みを教えてやると、キャスケットはそれまで嫌がっていたのも忘れたようにローの話に聞き入った
「あ、そういう事かぁ・・・。俺、ホントにガキの体になっちまってんですね」
筋力とか落ちてるのもやっぱりそのせいかぁと1人納得している
「そこで話が最初に戻るんだが、問診はマメに必要になる。なにせ、ジュエリー屋の能力をはっきり把握してる奴が
うちの船には居ないからな」
キャスケットは ぱちりと目を瞬かせてローを見た
やはり彼は状況を把握していない・・・というか、かなりの楽観視をしているようだ

「船に乗ってから体重の変化は?」
突然の質問に、顔中に「?」マークをくっつけながらもキャスケットは律儀に答えた
「えーと・・・、まともに喰ってなかった間に減った体重は戻りました。・・・多分、ですけど」
船に乗る前の体重を計っていたわけじゃないから 痩せた分の肉が戻って来たかな?という推測でしかないと補足する。
「雑用も始めたし、筋肉もちょっとは着いたかな?もしかしたらその分体重が増えてるかも」
話しながらも彼はこの会話の結論がどこに辿り着くのか分からないといった様子でいる
「そのくらいの年齢の時の体重と比べては?」
「あ、それは無理っス。毎日喰ってくだけで一杯一杯だったし、体重なんてとても。計る以前に毎日喰えてたかも怪しいんで、
絶対今の方が体重は重いはずです」
「なら、参考になるもんは何もねぇな。これから様子を見るしかねぇか」
一人言のように呟いたローの声に、コトン、とキャスケットが焦れたように手にしていたカップを置いた
「ねぇ、船長。焦らさないで教えて下さいよ。一体、何の事なんです?」
勿論、ローには焦らしていたつもりはない。なので、さっさと結論を明かしてやる
「つまり、お前がこのまま時間の経過と共に成長していくのか、そのままで止まってしまうのか、誰にも分かんねぇってことだ」
「えっ!」

分かりやす過ぎるストレートな言葉をキャスケットは即座に理解した
みるみる顔色が青ざめ、直ぐには言葉もでない様子で おろおろと意味もなく辺りを見回す。
姿形が子供なだけに、ローは まるで自分が苛めているような気分になった

「落ち着けよ。 まだどうだか分からねぇだろ。仮りに成長が止まってたとしてもジュエリー屋を見つければ済む」
「あ・・・、あ、・・・そうですね」
「一月も様子を見りゃ育ってるかどうか分かんだろ。身長と体重、当分続けて計っとけ」
未知の能力なんだから用心するのも分かるだろ?と言ってやると、今度はその必要性が分かったのか神妙に頷いている。
暫くは落ち着かない様子だったキャスケットも ローとの問診だか世間話だか微妙な会話を続けているうちに気分も
安定してきたらしい
当然、世間話に見えてもローは彼の過ごしてきた環境やらを聞き出していたのだが、キャスケットは気にしていないようだ。
聞かれた事には素直に答えるし取り立てて隠し立てするつもりは無いらしい
「あー、でも、俺 ついてたのかも!潜り込んだ船がここで良かった!」
終いには キャスケットは笑顔でそんな事を言い出した
「ついてんのか?」
何気なく聞いたら、彼は自信ありげな顔で大きく頷いた
「だって、この船って医学の知識ある人がたくさん乗ってるでしょ?特に、船長なんか疑問を感じたらとことん調べるタイプ
みたいだし・・・あんな状況で、下調べもなく選んで乗った船なのに、これがラッキーじゃなくて何なんですか」
このツキ具合からみても、俺絶対成長止まったりしてませんよ!とキャスケットは言いきった
なんとまぁ、楽天家もこれに極まれりと目を丸くしたローも、呆れる前に彼につられてか可笑しくなってしまった
「はは!違いねぇ!安心しろ、俺も強運の持ち主だ。てめえは問題なく成長するしジュエリー屋も見つけてやる」
「さすが船長!」
キャスケットがよく分からない合いの手を打つ
多分、彼がもう少し年を重ねた姿をしていたらそのまま酒盛りに突入していたところだろう
妙に機嫌良くなってしまったローが秘蔵の酒を出してくる
飲みたそうにしつつもキャスケットも用心の重要性を弁え、コックに強請って貰ってきた紅茶でティ・ロワイヤルを作るに
留めていた。
その程度では、ローも 子供に酒は・・・などと無粋な事は言えない
アルコール抜きでも陽気に騒げる質なのか、上機嫌でローの酒に付き合うキャスケットと、気付けば一緒のベッドに
転がっていた。
船長室にはベッドが一つしかないのだから それも当然なのだが、隣で すよすよと平和な寝息を立てて眠る子供は
何の心配事もなさそうに見える
くしゃりと柔らかそうな赤茶の髪を撫でれば、眠ったままのキャスケットが にへっと幸せそうな笑みを浮かべた。
こいつは16の体に戻ったとしてもガキみてぇな顔で笑うんだろうなと思ったローも、その太平楽な寝顔につられて
瞼が降りてくる
すっかり二度寝をしてしまったローは 呆れ顔のペンギンに起こされてキャスケットと遅れた朝食に向かう事に
なるのだが、それでも2人は気持ちよく朝寝を貪った


その1ヶ月後、改めてカルテの数字を見比べたローから 『成長している』 とキャスケットは太鼓判を押される事になる








 その後の密航者

彼とその船に乗る船員達の日常




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