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SS置場7
半身 W
シャチキャスで現パロ。多分キャス贔屓。後味悪い系じゃないと思いますが2人の環境はよくありません。









はじめて会った兄は気持ち悪いくらいに自分とそっくり同じ顔をしていた

緊張しているのか人見知りなのか、ぺこりと頭を下げた兄の表情は乏しく固いままだ

だから、シャチは わざとらしいくらいに満面の笑みを顔に張り付けてみせる

「キャスケット? だよな。俺、シャチ。これからよろしく」
快活にそう言って笑顔と共に手を差し出す

両親の離婚で物心も付かないうちに離れて以来、初めて顔を合わせた双子の兄は、戸惑ったように、おずおずと
差し出されたシャチの手を握った

「・・・よろしく、お願いします」
キャスケットです、と名乗る声はあくまでも遠慮がちで小さい
「兄弟じゃん。しかも俺のが弟だし、敬語いらないよな」
あんまり改まった言葉使い得意じゃないからと敬語を止めるように申し出る。
母親を事故で亡くしたという兄は、今日から自分達の家で一緒に暮らす事になっていた
「は・・・、」
はい、と言いかけて 固い言い方だろうかと躊躇ったキャスケットは、結局 こくりと頷くだけに留めたらしい

仲良くしようなと彼の肩に軽く触れて、部屋に案内するから入ってと家へ迎え入れた

「俺と同じ部屋になるけど。マンションなもんで、余分な部屋なくてさ。窮屈じゃないかな、平気?」
リビングダイニングと父の部屋以外は小さな書斎しかない。息子を一人引き取る事になった父は、わざわざ
引っ越すなんて考えてもなくて、結局シャチの部屋に兄を迎え入れる事にした

「書斎じゃ狭いからなー。いいよな? 一緒で」
「構わないけど・・・」
キャスケットが自分のせいで部屋の半分を明け渡す羽目になったシャチにすまなさそうな顔を向ける
「いや、書斎、半分物置になってっからさ。あそこ片付けるよか俺の部屋のが楽だし。なんか分かんないこと
あったら何でも聞いて」
部屋の狭さを解消すべく、ベッドだけは二段のものに新調していた。
「あ、俺が下の段使っちゃってるけど、そっちがよければ代わるし」
ベッドを指しながら聞くと、上でいいとキャスケットが首を振った
・・・手強い。初めて家にやってきたこの兄は遠慮の塊のようで打ち解けようという気概が感じられなかった。
"なら、上のベッドの方が落ち着いて丁度いいのかもね"
そう考えたシャチは兄用の机と、クローゼットを教える
「荷物。ここに入んなかったら書斎にも置いていいから。物置みたいだってさっき言ったっけ?」
こくりと頷いたキャスケットが 自分に割り振られたテリトリーの一つ、机の上に持っていた鞄を置く
「あまり荷物は持ってないから、大丈夫」
ありがとう、と小さく添えられたお礼で言葉は終わった
それでも彼は今までで一番長く声を聞いた
あんまり緊張されても シャチの方が肩が凝る。どうにかしようと快活に話を続けていく
「ご存じの通り、うちは女手がないんで、夕食俺が作ってんの。嫌いなものとか喰えないもんとか、何か注文ある?」
ふるふる、と兄が首を振ってないと告げる
「そんじゃ、俺買い物行ってくるから。あぁ、そうだ。食べたいものあればリクエスト聞くぜ。っても、あんまり
上手じゃないけどな、料理。」
今日は初めての晩餐だから少しばかり豪華になると言うと、キャスケットは考え込むような仕草を見せた
「もしかして、料理とか出来んの?」
聞かれた言葉に慌てて出来ないと首を振っている
当然だろう。あっちは母親が一緒にいたのだ。
手伝いくらいはしたのだろうけど、おさんどんが彼に回ってくる事はなかっただろう
(恵まれてるよな。俺の方は、親父しか居ない家庭だったし)
夫婦は婚姻関係を清算しただけにとどまり 互いに別の伴侶と一緒になるという事はなかったのだ。
おかげで、一人になった兄は自分達の元へ来ることになった
そのキャスケットの口から一向に希望が出てこないところをみると、料理の種類にも詳しくなさそうだ。
溜息をこぼしそうになって、シャチは慌てて喉の奥に飲み込む
「それじゃ、一緒に買い物行こうか。近所の案内がてら、何か食べたいものを見つければ買えばいいし」
シャチの提案に頷いたキャスケットが慌てて立ち上がる
「慌てなくていいって。落ち着いたら買い物に出よう」
お茶入れてくるから一休みしてからでいいと笑顔を向けると キャスケットが少しだけほっとしたように表情を動かした
「珈琲、入れてくるから荷物片付けたりしてなよ。あ、紅茶のがいい?」
「珈琲で・・・」
「分かった」
兄を残して部屋を出る
こうも緊張されては一緒にいるだけで疲れる。早く兄にはこの家に慣れてもらおう
「・・・一週間もすれば慣れてくるかなぁ」
キッチンに向かいながらの一人言は キャスケットには聞こえないだろう
自分相手に緊張するようでは父親の前では飯も喉を通らないんじゃないだろうか
(大丈夫かなぁ・・・)

キャスケットが家にやってきた時は、こんな風だった






「シャチ。キャスケットはどうした?」
バンから聞かれたシャチは 苦笑を浮かべて首を振った
「来ないよ。お酒はあんまり得意じゃないって」
そっかと肩を竦めた友人が小さく溜息をこぼす
「飲めなくても来りゃいいのに。馴染まねぇなぁ、おまえの兄貴。」
「俺等と一緒じゃ浮いてるもんな」
横から別の声があがる
「育ちの良い優等生って感じじゃん?性格も大人しいし、合わないのかもね」
シャチの友人達も 仲間の兄だからと何かと声を掛けたりしているのだが、キャスケットはどこか遠慮がちで
未だに打ち解けていない
学校でも、人当たりは悪くないのだが、誰とも当たり障りのない浅い付き合いしかしていないようだった
「転校生だからか?」
「いや、元々の性格みたいだ。家でも親父に対してあんな感じ。」
まぁ、母親に引き取られた子供としては別れた男親に対する複雑な気持ちもあるのかもしれないけど。
「飲酒に反対なだけじゃないのか?」
ペンギンの言葉で一同がそれぞれ納得の声を出した
「あー、そっか。未成年!」
「忘れてたな、それかもね。じゃぁ彼から見たら俺達ふりょー?」
「合うわけねぇよなぁ、それじゃ」
ゲラゲラと笑う仲間は それでも じゃぁ今度健全な集まりに誘ってみるかなどとふざけ半分で話している

「だが、シャチには随分懐いてるみたいじゃないか」
ペンギンからの指摘に苦笑が漏れる
「一緒に暮らしてておまえらと同じじゃ立つ瀬がねぇよ」
"そりゃ、努力したからな"という呟きは胸中に留めておく。
キャスケットの方でも家族には馴染まなければと思っていたのかもしれないが、何かと世話を焼き明るく声を
掛け続けた努力の成果は現れていた
「あいつ、おまえと一緒の時だけは雰囲気違うよな」
そう。シャチにだけは警戒を緩めているのか、一緒にいると笑顔を見せることも多いし身に纏う空気も穏やかだった
「家族だからか、甘えた感じがするよな。俺達相手だとお行儀良い態度を崩さねぇのに」
「"気を許すのはシャチだけ"かぁ。それ、双子だからかな」
隣で飲んでいたバン達も会話に入ってくる
「"双子"関係ないって。一緒に育ったわけでもないし、考えてることが読めるわけじゃなし」
笑って手を振りながらも、兄が自分に心を開いていると見えることにシャチは満足していた。
今日も、キャスケットは部屋で自分の帰りを待っているのだろう
簡単な料理の仕方は教えてあるから自分の食事くらいは作っているかもしれない
おっかなびっくりのキャスケットに包丁の握り方からきちんと自分が教えてやったのだ。
初めて作った味噌汁を味見するシャチを、キャスケットはどきどきした面もちで眺めていた
味を褒めると嬉しそうだった。戯れに よしよしと頭を撫でてみると、子供じゃないよと首を竦めつつも
頬を赤くしていたから それ以来ことある毎に彼の頭を撫でるようにしている

「あ。シャチくん、何を考えているのかなぁ。楽しそうにしちゃって」
言われて目を向けると隣のバンも肘をついて自分の顔を眺めていた
「な〜に 悪巧みしてんの、おまえ。にやにやしちゃって、まぁ」
「うるせぇよ」
ピッ、とバンの咥えた煙草を奪って一口ふかす
そういえば キャスケットは煙草が嫌いだったなと思い出したがそのまま吸い続ける。
返せよと言うのをいなして 家じゃ吸えないから1本だけ、と片目をつぶった
やれやれとバンが新しいのを取り出していたから 見逃して貰えたのだろう
(あんまり、遅くなる前に帰るか)
今日は父親が出張で家にいないからと遊びに出たのだが、兄を誘い出すのは成功しなかった。
あの家で、キャスケットが待っている――

「もうちょっとしたら、俺抜けるから」
ぎゅ、と吸い終わった煙草を灰皿に押しつけて言ったシャチの耳に、ローが唇を寄せる
「家に兄貴がいるからか?」
囁かれた言葉に眉を顰めたシャチは、肯定とも否定ともつかない様子で首をゆるゆると振ったのだった





「ただいま」
帰宅すると、キャスケットが意外そうに迎えに出てきた
「おかえり。早かったね」
朝帰りかと思ってたと言いつつも彼の顔は嬉しそうだ
「何か食べた?」
「うん、簡単なのを」
ちゃんと夕食を作って食べたのかと、頭を撫でると、やっぱり彼は少し恥ずかしそうながらも首を竦めて笑う
「何か飲む?」
珈琲か冷たい飲み物でも入れてくれるつもりなのだろう
お酒を飲まない彼にはこういうとき何が飲みたいのか分からないらしい
「水でいい。部屋に持ってきて」
「分かった」
キッチンに向かう兄と別れて部屋に向かう
少しすればキャスケットは水を持って戻ってくる
(今夜・・・かな)
今日が一番都合がいい
上着を椅子に放ってベッドに沈んだところで、キャスケットが水の入ったコップを持って入ってきた





「シャ・・・チ?」
窓からの薄明かりだけの部屋に戸惑った兄を、腕を引いて引っ張り込む
二人分の重みでギシリと軋んだベッドの音だけが室内に響いた。
自分の上に倒れ込んだ兄を受け止めて、ついでのように頭を撫でる
そうされると嬉しそうにするキャスケットが 今夜は戸惑ったように自分を見た

するりと背中に手を回す
間近に見える兄の顔には 全くというほど警戒がなく、自分なんかをそれほど信頼しているのかと感心する
(その信頼も、これまで・・・かな)
くる、と互いの位置を入れ替えれば、シーツに沈んだキャスケットがシャチを見上げていた
その顔に向かって、唇を落とす
帰る前に煙草を吸った。彼には嫌な臭いだろうなと思いながら口付ける
目を閉じずに観察していたシャチの目に、キャスケットが大きく目を見開くのが見えた
驚きに開いた唇の隙間から舌を差し込む

この段階になって初めて、キャスケットが身を強張らせてシャチの下から逃げようと蜿いた

「ん、な、何っ・・・シャチ!」
唇を解放した途端に声が上がる
自分に、弟が何をしようとしているのか、キャスケットの問う声は驚きしか見受けられない
これくらいじゃ、事態が把握できないのか。
幸せな頭だなと愉うも それが普通なのかもしれないと思った
自分がこれからするような事は 世間一般では馴染みのない行為だろうから、彼が知らなくても仕方ないのだ

「んむ、・・・む、」
答えずに シャチは再び兄の唇を奪う
わざわざ答えてやらなくても、これから彼は身を以て知るのだから。

「っシャチ、」
馬乗りになり、ベッドに押さえつけながら兄の服を剥いでいく
その間もキャスケットの自分を呼ぶ声は続いていた
頑なに答えないまま、黙々と行動し続けるシャチは 彼の声が煩くて もう一度口付ける
こんなこと、知らないだろうまっ白な体を 自分の手で暴いて汚す
その相手の呼ぶ声に答える言葉なんて持ってやしない
(それなら、快楽を与えてやろうか)
答える声の代わりに、それくらいはしてやっても罰は当たらないかもしれない
自分は、これから兄を穢すのだから。
父親は帰ってこない。彼が助かる道は どこにもないまま、シャチの思惑は果たされるのだ

未だ戸惑いを表すキャスケットの頬に唇を落とす
これからの行いに反するほど、そのキスは優しくキャスケットに触れた
「シャチ・・・?」
首筋から鎖骨、さらにその下へと滑っていく唇は彼の官能を刺激する事だけを念頭に置いて――

最後に、二人が交わったのは 念入りな準備に長い長い時間が過ぎた後だった






眩しい光に顔を顰めたシャチは、うっすらと視界に映る白をぼんやりと眺めた

カーテンを閉めない部屋は朝日を存分に取り込んでいて、それが自分の枕元にまで届いたのだ
(そうだ。カーテンは開けたままにしてたんだっけ・・・)
真っ暗では何もかも手探りになるからとわざと開けておいたのだ
電気をつけたままの行為は欠片も考えず、躊躇うことなくシャチは月明かりを選択していた
(信頼しきっていたキャスケットは隙だらけだったから 別に、暗くしなくても油断は誘えたのに)
馬鹿だなぁと自分を笑って、同時に目の前の白は彼の肌だと気付いた
気付いたシャチは、眠ったのは明け方だというのに眠気もふっとび飛び起きる

キャスケットはまだ眠っていた
起きる気配はないのだが、かなり遅くまで繋がっていたからそれに不思議はない
(けど、これは・・・何だ?)
白い肌にちらちらと朱が見える
いくつかは確かに付けた覚えがあったが、あまり派手に跡を残さないようにしたつもりだった

思わず伸びた手が、指先で跡を辿る

彼の肌に いくつも散る消えかけた鬱血。歯形のような跡まで見えるし、
(これは・・・引っ掻いたような、跡。・・・これは?)
鞭打たれたような黒ずんだ跡は、絶対に自分のはずがなかった

「これも。・・・これも。一体、なんで。・・・誰が?」

これがどうしてキャスケットの肌にある
シャチの、自分の肌にあるのと同じような傷跡が、なぜ。

思わず辿った指に力が籠もってしまったのか、呆然と跡をなぞっていた肌の持ち主は いつの間にか目を開いていた

シャチの視線に気付いたのだろう
毛布を引き上げて肌を隠しながら、ごめん、気味悪いもの見せて・・・とキャスケットが目を伏せる。
その仕草は 自分の体を恥じているようだった

「それ・・・どうした? 誰が・・・?」
俺じゃない。俺のはずがない。なら、なぜ。どうして。

シャチの混乱に気付いたのか、キャスケットが慌ててシャチに手を伸ばす
「違う、違うよ。これは、シャチじゃない。シャチは 凄く優しかった。あんなに優しく抱かれたのは、初めてだ、俺」
兄の言葉は一層の混乱をシャチにもたらした
「じゃぁ、まさか、親父が・・・?」
シャチの震える声にキャスケットが戸惑ったように自分を見上げた
「お父さん? ・・・どういうこと?シャチ」

問われて初めて、自分の失言に気が付いた
撤回しようにもキャスケットはしっかり聞いてしまっていて、動揺の激しい今の自分では誤魔化しようがない

「話して、シャチ。全部、最初から」

真剣な顔で起きあがった兄の肩から毛布がずり落ちる
シャチには、それを どうしても正視できずに シーツの上に視線を落とすと、観念したように頷いた





「俺のこの跡は、シャチでもお父さんでもないよ。母の同棲相手の仕業。」
初めに シャチを安心させる為か口を滑りやすくする為か、キャスケットはそう教えてくれた
この兄は昨夜の自分の行為を怒ってはいない。
シャチを信じ、何一つ疑いを持たないこの相手に、これから話す事が酷く怖かった

「言いにくいなら、俺から質問するから答えて。もしかして、シャチにも、俺と同じような跡があるのかな」
キャスケットの質問に頷いて答える
昨夜の行為の間も自分が服を脱がなかったのは、万が一にも彼に見られたくなかったからだ
「それは、お父さんが・・・?」
頷く自分の顔が歪んでいるのがシャチには分かった
それを見たキャスケットが、そっと シャチの肩を抱き寄せる
「言いたくないのは良く分かる。ごめんね、答えにくい事を聞いて。なんでそう思ったかっていうと、俺の、
母の相手が、そういう奴ばかりだったから」
「え・・・っ」
聞き返したシャチの目を キャスケットは真っ直ぐに見つめた
「いつも半年くらいで破局しちゃうんだけど、大抵 暴力を振るう相手ばかりだったから」
最初は甘い恋人生活。きちんとした人に見える。それが、一月もすれば馬脚を表し始める。
母に暴力を振るうようになり、終いにはキャスケットにまでそれが及ぶ。
外面が良くても家の中では暴力が普通になり、半年も経つ頃には疲れきって別れる事になる。
それでもしばらくすると母はまた懲りずに男を作るのだ
母は弱い人だったから、誰かに側にいて寄りかかっていないと生きていけない人だった
「俺が最初にした性交って小学生の時だったよ。母の留守中に、そういった同棲相手から」
びくり、とシャチの肩が揺れる
「だからね、もしかしたら お父さんもそういうタイプかなって さっき思った」
ぎゅっと、肩を抱く腕に力がこもった
一呼吸置いた後、キャスケットが静かな声で質問する

「お母さんの、代わりに・・・されてた?」

頷いたシャチは、とうとう、自分の罪の告白を始めた




「代わりにしようと、思ってた」
言いたくなかった告白を聞いた後も キャスケットは表情を変えなかった

「同じ顔なら、俺じゃなくてもいいはずだから」

だって、キャスケットは母のところにいた
生活は楽ではなかったかもしれないが、少なくとも自分のように父から性交を強要されることはない。
母からの愛情を受けて、自分よりは幸せに生きてきたのだと恨めしく思った

「俺はもう何年も父の相手をしてきたから、後は、・・・代わって、もらおうと・・・」
思って、という声は小さく細いものにしかならない
自分の計画がどれだけ卑怯だったか知っている。
同じ顔なのにこんなに違う生活を過ごしてきたのかと思うと憎いくらいの相手だからと立てた卑怯な計画。

「ぜ、・・・全然、ヤった事ないなら、代わりにはならなくて、父が戻ってきてしまうと、思った、から・・・」

憎い、と 思っていたのに。 自分にだけ心を開いて甘えてくるキャスケットの信頼が心地よかった。
甘えられて、嬉しかったのかもしれない
可愛いと思う時さえあったのだ。これじゃ、計画を実行する前に挫折してしまうと、シャチは昨夜
キャスケットをベッドに引っ張り込んだ

だけど、こうして事実を知れば彼の信頼は失うだろう
唯一 自分の手にしたまともな家族だというのに。シャチは自分の手で彼の信頼を捨ててしまった


「俺、シャチが好きだよ」

耳を疑う言葉に顔を上げる
キャスケットは予想に反して普段と変わらない表情で自分を見ていた

「いつだってシャチは親切で優しかった。そんな目に遭ってたのに、あんなに明るく笑ってたなんて。シャチは強いなぁ」
俺は怖くて誰とも親しくなれなかった
自分だけが薄汚れてるみたいで、誰とも友達になんてなれなかった
「シャチはたくさん友達いるよね。俺なんかより、ずっと強い」
ぶるぶると首を振る
本当に強かったら、兄を犠牲にして地獄から逃れようなんて考えるはずがない
「計画だって、迷ってたでしょう。昨日だって、明かりを消さなきゃ、出来なかったんじゃない?」
顔が見れなくて明かりを消した。キャスケットの泣き顔を見たら きっと、自分は手を止めてしまう
「それに、シャチは凄く丁寧に準備してくれたよね。俺、抱かれて気持ちよかったのって、シャチが初めてだった」
肌を交えた翌朝 目が覚める時に穏やかな気分だったのも。
起きたらシャチが呆然としてて、びっくりしちゃったけど、とキャスケットは舌を出して笑った
シャチに心を開いてから見せるようになった彼の、少し恥ずかしそうな笑顔。
醜い告悔の後も、彼のその笑みは変わらなかった

「2人で、考えようか。今の地獄から逃げ出す方法を」
俺は母が居なくなって母の男達から逃れられたけど、シャチを、ここから逃がさなきゃねとキャスケットは言った
「2人で家を出てもいいし、下宿が許されないなら虐待を通報してもいい。 母が居たから我慢してたけど、
シャチは俺とは状況が違うから」
我慢しなくていいんだよと言われて 初めて熱いものが目から零れ落ちる
キャスケットは母親の為に逃げなかったのだ。自分よりも、彼の方がずっと強いじゃないかと思った

「たった一人の家族だったもの。守る為には何でもした。その母も亡くなって一人きりになったと思ってたけど、
今は俺にはシャチが居る。」
一緒に、生きていこうねと言われて 何度も頷く
お互いに支えて守り合えばいい。自分達は、双子なのだから。

穏やかに笑う兄の顔は、それまで頼りなく見えていたのが嘘のように、力強くシャチの目に映った







 もう一人の自分

確かに彼は自分の半身なのだと、その時 強く感じた






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