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SS置場7
24時間 P
後輩ペン×先輩シャチ。若い感じのペンギンです。こういうペンギンでもいいのかなぁ・・・w いやこれ、ペンシャチでも
出来るんだけどさ!"先輩シャチ"が書きたかった。"多分へたれペン"につき注意









"千載一遇のチャンス!"
ひょんな事から手に入った幸運を、ペンギンは どう使おうかと暫し考えた

これから24時間限りの、限定されたラッキー。
――自分がそれを手に入れた事は、誰も知らない

それは、この幸運を現状打破に用いろという、啓示だ。 そう、考えても いいだろう?

手段を選んでなんかいられない
(どうしても、自分は願いを叶えたいのだ)
迷いを捨てたペンギンは、その前に 先ず、その効力を確かめようと 船を下りて街に出た



手始めに、一番最初に目についた女をじっと見つめる
逸らす事なく注がれる視線に気付いた女が ペンギンの方を振り向いた

しっかりと目が合ったが、構わずにペンギンは女の目を覗き込む
すると、不審そうに眉を寄せた女が ポッと頬を赤らめた
(お。 効果あり、・・・か?)
見ている間に、女は持っていたバックを胸に抱き、何かを訴えたそうに唇を開く
その女が、こちらに向かって歩みだそうとする直前に、ペンギンは興味を失ったように女から目を逸らした

(効果は嘘じゃないようだな。 といっても、1人試しただけで断言は出来ないか・・・)
たまたま、自分が女の好みだったとも考えられる
あと3〜4人。・・・そうだな、今度は男連れの女で試してみるべきか。
俗に、3度続けばそれは偶然じゃないと言う
(以降は男付きの女で試して、・・・最後は、念のため 男でも・・・?)
正直気が進まないのだが、いかにもノンケな男にも効果があればこれはもう確実だろう
ペンギンは、どうしても確かな効果が必要だった
平穏な恋人達の間に少しばかりの波風を立てるのは悪いが、数日で効き目が切れるから勘弁してもらおう。
自分に都合良すぎる言い分だが、形振りかまっていられない程 ペンギンは思い詰めていた

(納得いくまで試し切りして、本命に挑む!)
キッ!と顔を上げたペンギンは 次の被験者を求めて街中へと歩いて行った


ここまでで分かる通り、その日、ペンギンは ある能力を手に入れた
と言っても、ほんの偶然で手にしたもので、ペンギンがその能力を駆使できるのは1日限り。24時間が過ぎれば
元の通り、何の能力も持たない普通の人間に戻る。
だがその能力というのが、その時ペンギンが喉から手が出るほど欲しかったもので、それはつまり、
(目が合った相手を惚れさせる力・・・)
ペンギンにはベタ惚れに惚れた相手が居て、絶賛片思い中の今、その能力を得たということは
(・・・この機会に叶わぬ恋の相手のあの人と、両思いに・・・!)
その願いを叶えろと、神様が告げたような気になったのだった





バタン、と閉めた扉に背を当て大きく溜息を吐く
あれだけ意気込んで帰って来たのに、ペンギンはまだ望みを果たしていない
(ダメだ、見れない・・・っ)
先輩船員の姿を探して船の中を歩いたペンギンは、船内に響く声を聞きつけ、そちらの方へと向かった。
遠目に、彼の姿が見える
じっと見つめればいいだろうか、それとも名前を呼んで話し掛けたらいいだろうか。
エンジニアの船員と談笑する先輩の、赤い髪が日に透ける
暗い場所では赤茶に見えるシャチの髪は、こうして日の下で見ると本当に綺麗な赤に見えるのだ
船で一番陽気な彼の朗らかな声がやけに耳に付き、気付けば赤い髪を目で追うようになっていて、そこで初めて
ペンギンは自分は彼が好きなのだと気が付いた
(ちょっと待て!相手は男だぞ?!居るだろう、他にいいなと思う女が!)
勘違いだろうと慌てて自分の中をあちこちひっくり返して探すのに、どれだけ探しても先輩以外見つからない
歌手だったり女優だったり 果ては故郷にいる友人達から海軍の女まで思い浮かべて比べてみても、秤は先輩の方へと沈む。
認めがたかったペンギンは、とうとう 島で女を買ってみたのだが、その時でさえ無意識に赤毛の女を選んでいた

我に返った時にはもう女とベッドにしけ込んだ後で、しかも下手に途中で我に返ったものだから始末が悪い。
どうやっても、腕の中に居るのが先輩に思えてしまうのだ
まずい、これでは逆効果だとペンギンの理性は訴えた。
だが 体は意思に反して俄然やる気を帯びた
先輩、かもしれない・・・と思うだけで、実際は違うと知っているのに 嘗てないほど興奮する。
衝動を抑えきれずに闇雲に抱いたペンギンを、買われた女は情熱的で素敵だったと評価したのだが、それも女が
ペンギン以上に夢中になっていて 放つ瞬間、ペンギンが "シャチ" と呼んだのに気付かなかった故の評価だ。
(娼婦を先輩になぞらえるなんて・・・)
彼に失礼だと落ち込む反面、誤魔化しようがないほど興奮した一夜は、結果的にペンギンの首を絞める結果となった。
(先輩の顔がまともに見られない!)
いたたまれない気分と申し訳なさを感じると同時に、シャチの姿に酷く欲情する。
"自分の腕の中で悶える彼は、どれだけ扇情的だろう"
気付けばそんな夢想をしているのだから、多分自分はかなり挙動不審だったはずだ。
その上、シャチが笑って話す相手悉くに嫉妬を感じるのだから始末に負えない
シャチと肩を組んだ船長にすら殺意を覚えるに至り、これではダメだとペンギンも考え始めた

そんな風に思い悩んでいた矢先のこの能力。
(一日限りの能力だが、一日あれば想いを通じ合わせるには十分だ)
「先輩の目を見ての告白→能力の効果でOKの返事を得→シャチと恋人になる」という既成事実を作ってしまえばそれでいい。
効き目が切れた翌日から自分達は恋人同士だと恋に浮かれた頭は都合良く考える

(だから、早く先輩に)
口を開こうとしたペンギンの目の前で、シャチの笑顔がこちらへ振り向く
あと少しで目が合う―――

そう思った瞬間、ペンギンは身を翻して先輩の前から逃げ出していた




(ダメだ。あれ以来 碌に顔も見れないでいたのに、急に先輩の目を見て告白だなんて、今の自分には敷居が高すぎる!)
バクバクと速くなる心臓を上から押さえ、大きく息を吐く

――本当に、24時間内に告白できるんだろうか

この様を情けなく思いつつ、ペンギンは逃げ込んだ自室のドアに凭れたまま、両手で頭を抱える
(チャンスはかっきり24時間しかない。ぐずぐずしてる場合じゃないってのに)
逃げてどうするというのだ
当たって砕けろとよく言うが 今日に限っては砕ける事はないと保証されているのに、こんな最初の段階で躓いてどうする
(思い切って、もう一度・・・!)
こぶしを握って決意を改めるペンギンの背中で、ドン、と扉が振動する
「うわっ?!」
扉の向こうでは、"仕事だろ、ペンギン!遅れんなよ" というクルーの声が聞こえて 慌てて部屋を飛び出した



*******



はぁ・・・、と疲れ切ったペンギンは肩を落として力なく溜息を吐いた

仕事の合間を縫ってシャチを探したというのに 告白に持ち込む事は元より、なかなか目が合わせられない。
せめて目を合わせる事さえ出来ればシャチの方でも2人きりになりたいというペンギンの希望に協力してくれそうだと
思うのに、一体自分は何をぐずぐずしているのか
彼を発見しても仕事に集中するシャチが一向に顔を上げなかったり、仲間に呼び留められて言葉を交わしてる間に
シャチが次の持ち場に消えていたりで、告白に持ち込めそうな場所で会えないのだ。
(これはもう、ダメなんじゃないのか)
天からの啓示だと思ったのは自分の勘違いで、寧ろ諦めろとでも示されているのではないか。
やはり、彼は高嶺の花なんだろうか
片思い中のペンギンに、24時間限定の夢みたいな能力を与えたくせに 悉く失敗しているのが神の意思なら、きっと
恋の神様はうちの船長のような顔をしているに違いない
気紛れにチャンスを与え、それを手に右往左往する自分を笑って眺めてでもいるのだろう
"どうせ俺はへたれだよ" と口をへの字に顰めたところで、ペンギンはそれを想像してゲンナリした。
仮にそれが船長だったら、笑うだけ笑った後は思い切り馬鹿にするだろう
『とんだへたれ野郎だ。チャンスがあってさえ踏ん切りが着かねぇんなら、てめえの願いが叶うこたぁねぇな!』
想像の中の、船長の言葉で ハッとする。

(そうだ。こんなチャンス、一生に1度の幸運だと 自分で言ったじゃないか!)
この機会を逃せば 本当に彼が手に入る事は一生ない!・・・ような、気がする
チャンスを生かせなかった自分は この先、先輩の側で彼が自分以外の誰かと幸福になるのを涙を呑んで眺めているしか
ないのではないか
(それは困る、それだけは嫌だ!)

外へと飛び出し ドアも開け放したまま部屋を後にしたペンギンは、目当ての姿を見つけて、声を張り上げた

「シャチ先輩っ!!」

大声で名前を呼ぶペンギンの声に真剣さを感じたのか、先程は側にいたペンギンに気付きもせずに海図に目を
落としていたシャチが驚いた様子で顔を上げた

ばっちりと視線が絡み合う

このところ 目を合わせない後輩の、いつもとは違う表情を、シャチは "ふぅん?" という顔で見た。
だが、これから言う事で頭がいっぱいのペンギンはシャチのその表情に気付かない
"この勢いを逃せばまた言えなくなってしまう!"
シャチ以外の一切を視界から遮断したペンギンが、周囲の船員の注目を集めまくっているのも知らずに どもりながらも
必死で告白の言葉を告げる

思いの丈を告げ、シャチに向かって付き合って下さいと言い切った後輩に、自分の大好きな笑顔でOKの返事を
くれたシャチしか目に入っていなかったペンギンが、クルーの囃し立てる声と拍手で我に返って真っ赤な顔で硬直する。



だがその時には24時間を疾うに過ぎていたことに、まだペンギンは気付いていなかった







 24時間の品隲

"恋を叶えるのに余計な能力なんて要らない"
それが天の意思ならばそういうこと






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あきゅろす。
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