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SS置場7
最初のキス P
前回更新はjunk置場でした、ロペン!今回はペンキャスで一場面。相変わらず仕事忙しくてもう…








そいつが部屋に来た時、ペンギンは思い切り顔を顰めた

相手は自分とほぼ同時期に船に乗った男で、だがどういうわけか反りが合わないと 互いに敬遠していた奴だ

穏やかに接しようとするのに 話は合わないし考え方も自分とはかなり違うようで、どちらか片方の頭に血が上っていれば
怒鳴りあいになることもしばしばあった

まぁ、船に乗る全員と親しくなる必要はないし長く航海を続けていればそのうちうまく摩擦を避けられるようになるだろう

そう考えて、このところのペンギンは彼との必要以上の接触を避けていたのだ

それが どうしてわざわざ相手から出向いてくるのか。

ペンギンが眉根を寄せるのも当然で、ただ"夜遅くに悪いけど"と最初に切り出した相手を無碍に追い払う事も出来ずに
しぶしぶ中に通した


「それで何の用だ」
自分たちの間で世間話もなかろうと彼が部屋に入るなりペンギンは切り出した
その即座具合が彼をさっさと追い出そうとしているようにも聞こえるかと少し気になったが、実際にその気持ちも
なくはないのだから今更気遣ってもしかたないかと開き直る。
ところが相手はペンギンの思考なぞ一向に気付いた様子もなく、んー・・・、とあちこち目線をさ迷わせた後、
思い切ったように口を開いた

「ペンギン、俺と 寝てみない?」

「・・・・・・・・・あぁ?」

たっぷり30秒は経ってから出た声は不機嫌極まりないものだった
就寝前の他人の部屋に、わざわざそんなくだらない冗談を言うためにやってきたのか、この男は。
ふざけるにも時と場合を考えろと不満の渦巻く脳内の文句が伝わったのか、キャスケットは慌てて言葉を続けた

「あ、いや!おまえが上でいいよ? 言い出したのは俺だしさ。そりゃ、おまえがネコだってんなら俺が上んなるけど」
「ネコなわけあるか!そもそも男と寝る趣味なんかない。突然何を寝ぼけた事を言い出すんだ。寝言は寝てから言え!」
「だから寝てみようって」
「そうじゃないだろ・・・」
怒鳴りつけてやろうとしたペンギンは 相手がやけに神妙なのに気付いて事を途中で切った

よく見れば普段は笑みを絶やさないキャスケットが緊張に口元を引き結んだ微妙な表情になっている

「・・・本気、か?」
何がどうして自分と寝るなどという事態に転がっているのか分からないが、彼は彼なりに思い詰めてペンギンの部屋に
来たようだ
何を好き好んで、仲も良くない自分の部屋を選んだのか。
あげく、試しに寝てみようときたもんだ

問いかけるペンギンを、瞬きした後 真っ直ぐに見つめたキャスケットが こくりと頷く

その様子は自分をからかっているわけでも何でもなく、どうやら本気のお誘いらしいと分かって益々ペンギンは戸惑った。
だが、ペンギンから苛立ちが引いたと見たキャスケットが、数歩、こちらに近寄る

「な? 一度、寝てみようぜ」
そういって彼の延ばしてきた手が頬に触れたのを切っ掛けに、ペンギンはその手を掴んでキャスケットの体を抱き寄せた




どうして、彼の思惑通りにしてしまったのだろう

使い慣れた自分のベッドに押し倒しながら疑問が浮かぶ
だが、思考より先に体が動いてしまったのだ
ベッドに沈めた彼の服に手を掛け、やり場がないのかふらりと半端に浮いたキャスケットの手を掴んで
シーツに押しつけながら その答えに辿り着く
(手が、震えていたからだ)
頬に触れた指先は微かに震えを伝えてきた
今、こうして掴んだ手首も 直に触れてみれば細かな震えが感じられる
(それに 欲情したのか、俺は)
そうだ。こうして誘いを掛けてきたくせに、全く慣れちゃいない風情が興味をそそった
もしかすると 男と寝るのは初めてなのかもしれない。
それがなぜ自分のところへ――?
疑問に思いつつも 欲に駆られるまま、キャスケットの顎を掴んで顔を寄せる。
唇を合わせようとしたところで、自分の頬に掛かる吐息すら震えているのに気付いて我に返った

身を起こしてみれば、キャスケットはくたりとベッドに沈んでいた
懸命に 強張る体から力を抜こうとしているらしいが、うまくいかずに唇などは細かく震えている

「おい、」
呼びかけても彼はぎゅっと目をつぶったままで、答えがない
「おい、キャスケット。目を開けろ」
ぺち、と軽く頬を叩くと 彼は、え、と唇だけ動かして 恐る恐るのように目を開けた

その目が薄く潤んでペンギンを見上げている
これは誰がどう見ても"はじめて"でしかあり得ないだろう
理由も知らないまま処女を抱くのは自分には荷が重い。

溜息を吐いたペンギンは 脱がせかけていた服をきちんと元に戻してやりながら、
「最初からちゃんと話せ」と言ってベッドから降りた



「落ち着いたか?」
5分後には キャスケットとペンギンは湯気の立つカップを手に座っていた
といっても狭い個室の事なのでキャスケットはペンギンの書き物用の一人掛けテーブルの椅子に、ペンギン自身は
自らのベッドに腰掛けていた
「・・・ん。」
こくりと中のミルクを飲んで、返事らしい声を出したキャスケットは首尾が不発に終わってしょげているらしい
「それで、なんで俺と寝ようと思ったんだ。そういう趣味でもなさそうなのに」
ここまで付き合って起きてるんだ、聞く権利はあるぞと引きそうにないペンギンに問われて 彼は仕方なく種を明かし始めた

「俺とさぁ、おまえって、ほら、あんまり、気が合うわけじゃないっていうか、」
言いにくそうに言葉を濁すのを苦笑して先を促すと、キャスケットの口からは堰を切ったように言葉が溢れ出した
「ま、あの、肌を合わしてみれば案外うまくいったりしないかな、と・・・。一回そういうの経験してみりゃ 親近感も
沸くかもしんないし、言葉が噛み合わなくても何か通じるもんも生まれんじゃないかなっと・・・ちょっとくらい俺のこと
好きになんねーかなとか、 あ。ペンギン、なんか 呆れてる?」
くつくつと、堪らず喉から笑いが漏れた
「おまえ、それだけの為に・・・?」
莫迦じゃないのか、こいつは。
同期の人間とうまくやっていく、たったそれだけの為に 好きでもない相手と寝ようと考えるのだから、どれだけ単純に
出来ているんだろうか、こいつの頭は。
「だってほら、寝てみなきゃ分かんないって言うじゃん」
それは男女間の話だし、同期とか同僚での事ではなくどちらかといえば恋人達の間のことだ
「あの、ペンギン? もしかして、怒った・・・?」
窺うようにいって自分を覗き込むキャスケットに悪気はないのは分かった
馬の合わない自分となんとかうまくやっていきたいと思っている事と、ペンギンが考えていたよりは彼は自分の仲間を
好意的に思っていたことも。
「もういい。よく分かった。おまえが莫迦なんだって」
えー、という不満気な相手の頭をくしゃりと撫でる
「別に嫌ってやいないし、思ったよりおまえが面白いのも分かったから。無理に寝る必要なんかないさ」
これで十分だと告げたペンギンは、突然 "嫌ってない"と宣言されて目を丸くしているキャスケットの頭をぐいと引いて、
まぁこれくらいはいただいておくかと たぶん初めてであろうキスを彼の唇から掠め取った






 手始めのキスを交わしましょう

見る目が変わるかもしれないという目論みは 成功したかもしれない




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あきゅろす。
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