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SS置場7
遠恋 C
お題ったーでシャチペン。うちのペン受けは乙女な傾向があるかもしれない… 男らしい受けが好きなのに!









鳴りだした携帯に慌てて手を伸ばす
夜も遅く、もう眠る直前といったこの時間に掛けてくる相手なんて 心当たりは1人しかいやしない。

案の定、ディスプレイに表示された名前は思ったとおりの人物で、
「はい」
短い一言で電話に出たペンギンの耳に、夜にしては元気すぎる声が飛び込んで来た


「よぉ、ペンギン!まだ起きてた?」
こんな時間にわりぃねと笑った相手はこちらの返事を待たずに話を続けている
「なんかさ、急にペンギンの声が聞きたくなってさ。そしたら我慢できなくなっちまって」
ペンギンが口に出すのを躊躇ってしまうような言葉も、彼は簡単に声にする
「なぁ、起きてたんだろ? 声、聞かせてよ。 ペンギン」
彼の声に耳を傾けるだけで胸がいっぱいになっていたペンギンは、促されて漸く声を出す

「あぁ、俺も。 丁度 同じ事、考えてた」
"声が聞きたい" と言えずに押し出した言葉だったが、彼は嬉しそうに笑い声を響かせた
「ペンギンも? はは、以心伝心だな。なぁ、俺の名前呼んでよ。もっと声が聞きたい」
「風邪なんかひいてないか?そっちは寒いんだろう。・・・シャチ」
どうしてこうも気の利いた事が言えないのかと思いながら言葉を返す
だが ペンギン的には不甲斐ないと思ったその言葉は、予想外に彼を喜ばせたらしい
「あぁ、ペンギンだー! もう、早く会いてぇよ、顔見てぇ!!」
ペンギン不足でひからびそうだよ、俺!と屈託無く話す彼の声こそ、"あぁ、シャチだ・・・"と、ペンギンに
同じ思いを与える
「シャチらしいな」
声で笑った事が伝わったのだろう。
そぉか? と聞き返すシャチの声も嬉しそうに笑っている
「早く休みが来ればいいのにな」
やっぱり照れ臭くて会いたいと言えなかったペンギンだったが、会いたいという行間をシャチが綺麗に掬い取る
「ホントほんと!俺も早く会いてぇ。 いっぱい顔見て、山ほどキスしようぜ」
今はコレで我慢なー、と 電話越しにキスをしたような音がする
目を閉じて彼の声に聞き入っていたペンギンは その音をリアルに聞き取ってしまい、頬に血が集まってくるのを感じて
からりとベット脇の小窓を開けた

さぁ・・・っと、外の冷えた空気が室内に流れ込む
火照る顔に掛かる風が気持ちいい。
外は夜だったが晴れ渡っていて、小さく輝く星も その隣に光る月も くっきりと見えた
「今、何してる?」
聞こえてきた恋人の声に、ペンギンは素直に 空を見てたと伝えた





"空を見ていた"
電話の向こうのペンギンは 冬の夜なのに窓を開けて外を眺めていたらしい
聞こえてくる声は元気そうだったから、寒さは感じていないのかもしれない

シャチの転勤で、会いたいと思っても直ぐには会えない距離になるのを ペンギンは嫌った。
勿論 彼がそう口にする事は1度も無かったが、転勤の話を聞いた時の彼の様子を見れば
声に出して言われなくても 彼の気持ちがシャチには分かってしまったのだ
自制心に富むペンギンは 昇進の絡む人事異動を聞いて良かったじゃないかと言ってくれた。
言葉の通り、ペンギンの顔は笑っていたが、その抱きしめたら消えてしまいそうな頼りない風情は
表情よりも言葉よりも雄弁に彼の気持ちを語っていた。
断ってもいい、と思わなくもなかったのだが、きっとそれはペンギンが承知しないだろう

『2年。 長くても、3年で戻って来れるから、その間 遠距離恋愛でも構わないよな?』
だから、シャチはペンギンに敢えてそう聞いた

有無を言わせずのお願いは 少しでも彼の悩みを減らす為のもの。
でなければペンギンは 遠恋など続きっこないだとか、やっぱりシャチの相手は女の子がいいだとか、
既に肚を決めたことまで蒸し返して悩み始めるはずだから。
"俺の隣に居るのはペンギンだけだ"って俺が決めたんだから、それを悩むくらいならこの部屋代を
1人で遣り繰りするにはどうすべきか、そっちの心配をしてろ!
シャチは 彼に反論の隙を与えずに畳み掛けた
"どうすっかな・・・俺が 戻ってくるまで暫くあるから、此処を引き払って別に部屋を借りるか?"
2人で住む事を前提に選んだその部屋は、1人で住むには広すぎる。
折半するはずの部屋代を1人で持つには少しばかり負担が大きいだろう
シャチとて、日本での自分の家を引き払いたくはないけど・・・と、ペンギンの様子を窺う
驚きに満ちた彼の顔は、ペンギンも引き払う事は考えてないと見て取れた
『んじゃ、こうすっか。ちょっと負担掛けちまうけど、ここの部屋代と向こうでの俺の部屋代を足したものを
2人で払おうぜ』
シャチの提案で ホッとしたように息を吐いて頷いたペンギンがシャチに上手く誘導されたと気付いたのは
翌日になってからだった
昨夜2人で決めたんだから前言撤回は聞かねぇし!と笑うシャチにしてやられた、という顔をしてはいたが、
シャチに強引に決められて安堵しているようでもあった


「あ、偶然。 俺も今、ペンギンと同じ空を見ていたとこだよ」
シャチの答えに電話の向こうのペンギンが笑う
"同じ空とは大きくでたな。こことそっちでどれだけ離れてると思ってるんだ"
「同じは同じじゃん。空は繋がっているんだし、しかもほら、今はこうして電話でも繋がってる」
話してるだけで距離が縮まる気がしねぇ?と聞いたら、ペンギンは一瞬黙った後、感慨深げに、あぁ、と答えた
彼もシャチと同じで、こうして2人の間の繋がりを感じ取っている
初めにペンギンが懸念したような、距離のへだたりが気持ちを引き離す事にはならなかった。
こうして、今も自分達の心は繋がっている。
「早く会いてぇなァ。 クリスマス休暇にはそっちに帰るから、本当のキスはそれまでお預けな。」
何気なく言ったひとことだったが、後ろの方で カタン、という遠い音が聞こえて苦笑する
きっと、動揺したペンギンが傍らにあった小物でも落としたのだろう
相変わらずだなぁと赤い顔の恋人を思い描いていたシャチの耳に、ぼそりと小さく声が届く

"・・・戻ったら、たくさんのキスだ。約束、だぞ"

予想していなかった答えに、シャチは思い切り破顔する
今頃の彼はゆでたタコも負けるほど真っ赤な顔をしているに違いない
「うわあぁ!俺もう今すぐ飛行機に飛び乗りたい!帰ったら 嫌だって言っても抱き締めて顔中
キスの嵐だかんな!あぁもう、ペンギン愛してる」
距離が愛を育む事だってあるんだとテンションが上がって箍の外れたシャチの台詞に、電話の向こうでは
"シャチ、ばか、やめろ!"と慌てるペンギンの叫ぶ声が聞こえていた







 離れても離れても

心の距離は変わりなく







【シャチペンへの3つの恋のお題:同じ空を見ていた/今、何してる?/抱きしめたら消えてしまいそう】


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