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SS置場6
吸血鬼パロ(別バージョン)
どちらかといえばペンキャスかもしれませんがローもバンも出てるのでどれにも区分しにくいシロモノ。










窓から射す光を眺めて キャスケットは小さく溜息をついた

今はまだ昼間。
この屋敷に住む者達は眠っている

とはいえ、もともとあまり睡眠が必要ないのか、当主であるローはきっと起きているのだろう
(だから、あんなに濃い隈を抱えてるんじゃないのか?)
言ったところで彼が眠るわけでもなし
夜ほどの敏捷さは出せないと言っても、彼の持つ力はただの人間であるキャスケットとは
格段に違う

ぺたり、と窓ガラスに手を当て外を眺めるキャスケットの目差しは羨望を湛えていて、
外に出たい・・・と 声に出さずに小さな吐息に乗せる

仕方ないんだ
自分は、この屋敷で飼われている彼等の餌なのだから。

――そう。 "彼等"
本来、吸血鬼は餌を共有するなんてしない。餌として気に入った人間を飼うことがあったとしても、
それは自分一人で所有するのが一般的らしい
らしい、というのはキャスケットが彼等吸血鬼について詳しくないからで、比較的おしゃべり好きの
バンから聞いて知っているだけだ

当主の、ロー。 その他に、彼の友人だというバン。それに加えて、どういう関係なのか分からないが
ペンギンの3人がキャスケットの飼い主としてここに棲んでいる

別に、不自由は何もないのだ

彼等に血を吸われる以外は食事にも娯楽に困らない、何不自由のない生活。
望むものはなんでも与えられる。彼等がどのような経緯でそれを入手しているのかは不明だが、
この3人の吸血鬼に用意できないものはないようだった
お金に不自由していないのかもしれないし、力で奪ってくるのかもしれない。
どちらにしろ、キャスケットが望めば大抵のものは揃ったし、それは無理だと断られたこともない

(ただし、外には出してもらえないのだけど・・・)

中庭に面した自室の窓から浴びる陽の光だけが唯一外との接触で、逃げる事は不可能だった
『逃げる必要なんてないだろ?』
話しやすいバンに訴えても、そう言って笑われただけで取り合って貰えない
『だってほら。別に俺達はおまえを奪い合ったりしないし、苦しいほど血を採ることもないだろ?』
3人で共有しているくせに、キャスケットが貧血で倒れた事はまだ一度も無い
彼等は人間の体のことをよく知っていて、下手をすればキャスケットよりも詳しいくらいで、
どのくらいの量が体調に影響しないかも充分に理解しているようだった

血を吸いに来るのは、必ず、一晩に一人。
それも、きちんと日を開けてキャスケットが倒れることのないように気遣っているようだった

食い尽くすつもりはないのだろう
ロー以外の2人も、たまに昼にも起きてキャスケットの相手をしてくれるし、淋しければ夜を待てば
全員が起きているのだ。話し相手も遊び相手も足りている
(あぁ。女遊びだけは、無理か)
彼等3人のうちの誰かが女であれば可能だったかもしれないが、この屋敷を出る事が
叶わないキャスケットが外で女と会う機会なんて持てるはずがない
仮に、遊び相手としてどこかの女を掠ってきたとしても、最後は彼等に喰われてしまうのだから
自分が原因で誰かを死なせるような望みはキャスケットには言い出せなかった

『欲求不満ならいくらでも相手するぜ?』
くすくすと笑うバンがキャスケットの髪をさらりと手で掬って首筋をなぞる
「いらない。男と寝る趣味はないもの」
答えたキャスケットの顔を持ち上げ、頬に彼の唇が触れる
「そうか? 温もりが恋しいなら、キスくらいはどうだ?」
そのまま、キスされるかと思ったら ふっ・・・、と バンが体を引いた

「おいおい、冗談だろ。睨むなよ」
バンの声を追うように見れば、扉の側でペンギンが腕を組んでこちらを見ている
いつも口数が少ない彼は防寒帽を目深にかぶっているのでどんな表情をしているのか分からない
バンの態度からペンギンの機嫌があまり良くなさそうだと分かる程度なのだが、付き合いの長い
彼等だからか、同族同士通じるものがあるのかはキャスケットには分からなかった
(知ってるか?あいつ、おまえに惚れてんだぜ。吸血鬼のくせに、人間に惚れたんだとさ)
変わり者だろうと耳打ちしたバンが素早くキャスケットの側から離れる
「分かってるよ、交代、だ。キャスの相手はおまえがしてやって」
軽く手を上げて ぽんとペンギンの肩をはたいたバンが入れ違いに部屋を出て行く
・・・別に、バンもペンギンも自分にとっては変わらないのに。
どちらもキャスケットをここから逃がしてはくれないのだから
でも、
と、バンと交代してキャスケットの座るテーブルに向かい合ったペンギンを眺める

この男が、バンの言うように自分に惚れているのなら。
(もしかして 俺を逃がしてくれないだろうか。ううん、自分だけで一人占めしたいと、一緒にここを
出ようって思ってくれないだろうか)

そうすれば、キャスケットはこの屋敷を出る事が出来る
(無理かな。俺に、それだけの魅力はない、かな)
目の前の、この無愛想な男を たらし込めるだろうか
どう考えても自分にその魅力があるようには思えないのだけど、惚れているというのなら可能性も
少しは上がるだろうか
テーブルについた肘に顎を乗せ、間近にペンギンを見つめて キャスケットは柔らかく微笑んだ

「ねぇ、バンはああいってたけど。ペンギンは、俺の相手をしてくれる?」
男相手じゃ無理かな?

驚いた顔を見せた男に向かってキャスケットが伸ばした手は 力強い大きな手にしっかりと掴まれた




「俺、外に出たいんだよ。どうにかしてここから出してくれない?ペンギン」
何度目かの共にしたベッドの中で、キャスケットは思い切ってその願いを口に出してみた

「ダメだ。おまえを外に出す権利は俺にはない」
まだ汗の引かないキャスケットの肌に ペンギンの唇が触れる
どうしてここじゃダメなんだ。何も不自由はさせていないはずだとペンギンが無言の目で訴える
衣食住に娯楽。肉体的な欲求も、彼の奉仕によって発散している
足りないものは何もない。 異種族とはいえ、溢れるほどの愛情だって、キャスケットに与えられている

「・・・共有して、満足なの? そりゃ、寝るのはおまえとしか寝てないけど」
独占してくれないんだ、と言ってみてもペンギンは頷かなかった

「勿論、そうしたい気持ちはある。だが おまえはもともと俺の餌じゃないからな。最初にローが
連れてきたんだろう、ここに。」
そうだ。 事故に遭って死にかけていたキャスケットを屋敷に連れ帰ったのはローだ
その上 何が気に入ったのか助かった自分を餌としてこの屋敷に住ませると決めたのも彼だ
「・・・ローが怖いの?」
キャスケットの質問にはペンギンは答えずに、本当なら自分がキャスケットの血を吸う事も
この体を抱くことも出来ないのだと説明する
「ローが黙認しているから、触れる事が出来るんだ。許されてなければ俺はおまえに触れられない」
キャスケットを抱き締める腕に力が籠もる
もしかしたら、自分が最初にキャスケットを見つけていればと思っているのかもしれない
ペンギンはあまり多くを語らないから こうして肌を合わせていても彼の考えはよく分からないのだけど。
「そう。 無理、なんだ・・・」
がっかりした声を出すキャスケットを慰めるように、ペンギンの手はいつまでもキャスケットの背を撫でていた




キャスケットは、いくらペンギンを唆しても無駄だと悟った

彼等の中で一番力を持っているらしいローが怖いのかとも考えたけど、どうも話はそう簡単ではないらしい
仮にペンギンが先にキャスケットを餌にしていたのなら彼の自由采配でどうとでもなったそうだが、
それもローがペンギンの餌を横取りしたいと思わなければの話だ。
所有権は一番最初に餌を見つけた者にある。なら、その所有者が居なくなれば 次の者の手に権利は渡るのだ
(流石に、彼等を争わせたいとは思わないもの。俺が逃げるのは無理なのか・・・)

それなら、と。 キャスケットはローの不在中にペンギンに別のお願いをしてみた
せめて中庭のテーブルでお茶をするくらいは許して欲しいと。
このところ食欲も落ち、日増しに憂鬱な顔になっていた思い人に頼まれて、迷っている様子のペンギンも、
ついには折れた
多分、ローが居れば彼も許可はしなかっただろうけど、幸いにも当主は出掛けている
"お茶をする間だけだぞ"と何度も念押しするペンギンに連れられて、キャスケットはとうとう中庭に出た

「わぁ・・・!」
久しぶりの外の空気!
屋敷に住むようになってから何年経っただろうと思いながら、自然に顔に笑みが浮かぶ
嬉しそうなキャスケットを、どこか安心したような様子で眺めるペンギンが手早くお茶の準備を整えている
食欲の無かった自分に 少しでも栄養を付けようと たっぷりの蜂蜜を掛けたスコーンと良い香りのお茶。
食べられそうならと一口サイズのサンドイッチまで用意してのアフタヌーン・ティーはペンギンの心尽くしに溢れていた

大切にしてくれているのだと、キャスケットは少し顔を曇らせる
(だけど・・・)
機会は 今しかない
駄目なら殺されてしまってもいい。どうせ自分は餌として飼われるだけの一生なのだ
揺れる気持ちに蓋をして決意を固める

お茶の用意を調えたペンギンが顔を上げる頃には、キャスケットは気持ちを押し隠して笑顔を作っていた


「ねぇ、ペンギン」
向かい合ってお茶の時間を楽しみながら、キャスケットが選んだ話題は吸血鬼についてだった
「貴方達の体は少々の怪我じゃ堪えないんでしょ?銀で心臓を抉るでもしない限り大怪我を負っても
死なないんだよね。毒だって効かないってバンから聞いたんだけど」
ティータイムの軽口にしては少々場にそぐわない話題かもしれなかったけど、キャスケットが久しぶりに
食べ物を口にした事でペンギンも気が緩んでいたらしい
「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」
「あっ、しまった」
新しいケーキを切り分けていたキャスケットの手が当たって テーブルから皿が落ちた
「あぁ、危ないから触るな。俺が片付ける」
屈んだペンギンの背に向かって、手を振り上げる

(騙して、ごめん。ペンギン)

キャスケットの振り下ろしたナイフは ペンギンの背に深々と呑み込まれた






はぁはぁと荒い息だけが響く

咄嗟のことに対応しきれなかったペンギンを傷つけてキャスケットは逃げ出した
きっと、ローにもバンにも内緒で中庭に出してくれたはずだから、他の二人に知れるのはまだ後だ
でも 自分を信じ油断していたペンギンに、あれ以上の怪我をさせる事はどうしても出来なかった

(だから、急がないと。すぐにペンギンが追いかけてくる)

街から少し離れた場所にあるローの屋敷から、乗り物も無く自らの足だけでどこまで逃げおおせるか
不安だった。 街まで辿り着ければ、最初に見えた家に助けを求めて匿って貰おう
"だめなら、街から逃げる間の足を貸して貰うだけでもいい"

そう思って駆け続け、漸く辿り着いた街は、キャスケットの知っている街ではなかった


「え・・・、どうして?」
どこか寂れた空気を含む街を眺めて キャスケットは眉を寄せる
助けを求めて街の中を、行けども行けども人の姿を見ない
(そりゃぁ、この何年も、俺は外を出歩いてなかったけど・・・こんな雰囲気じゃなかったはずだ)
辺りが薄暗くなり日が暮れ始めるまで半狂乱で街の隅々まで駆け回っても、キャスケットの知る人の姿は
どこにも見当たらない

(どうして?! 何が起こったの?)
自分が吸血鬼から逃げている事すら忘れて、人を求めて走るキャスケットが足を引きずるようにして
辿り着いた噴水の麓に、ぽつりと浮かぶ人影が見えた

「誰か、居るの!?」
居たんだ。 やっぱり、人が居た!よかった、俺、人間に会いたかったんだ。

安堵の表情で 涙を浮かべて駆け寄るキャスケットが、不意に、足を緩める

人っ子一人いない街で、自分に近づく不審な人影にも動じずに、キャスケットを待つように立つその姿が、
次第にはっきりと見えてきたのだ

「屋敷を出るなと言っただろう」
「・・・ロー?」
ついには立ち止まったキャスケットの元へ、自分の足で近づいてきた相手に腕を掴まれ、それまでの
疲れもあったキャスケットが崩れ落ちる

「知らない方が幸せだって事もある。おまえは これからも屋敷の中で外に憧れて暮らせ」
体の疲労よりも精神的なショックに青褪め、意識の薄れていくキャスケットの唇にローの薄く冷たい唇が触れた

――何も、知るな

密かな声が聞こえたような気がして、ちくりと首筋に走った小さな痛みと共に、キャスケットはローの腕の中に倒れこんだ




(知らない方がいい。おまえが、最後の生き残りだ――ということは)



部屋から出さないのは他の吸血鬼から彼を守る為

自分だけが生きている人間だと、キャスケットが知らないように、外界の情報は一切与えない

知らなければ 幸せに生きていられる
外に出たいという望みさえ 持つことが出来るのだから


自分を支える腕の確かさに安堵のような気持ちが沸くのを感じながら、キャスケットは深い眠りに落ちた










 吸血鬼の街






ハロウィンとはちょっと違いますが ふっと書きたくなったシチュ!前の吸血鬼パロとはまた設定が違いますね。
ローのキスと吸血に記憶操作の効果があるかは不明です。どっちでもいい


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