[携帯モード] [URL送信]

SS置場6
身代わり
なんちゃってパラレル。ローもペンギンも出ますが恋愛要素はないです。うう、仕事忙しくてまだ時間が全然取れないっ









「俺がいく。大丈夫だよ、幸い俺はちびだし、衣装でごまかせる」

キャスケットがそう名乗り出たのを、両親は顔色を変えて止めた

だがこの集落に年頃の子供はもういない。
成長した娘達は好色な王の元に差し出され、ひっそりと隠れるようにして暮らしていた者も娘狩りと呼ばれる王の家来達に
見つかって連れていかれてしまった

これ以上は差し出せる女はいないというところまで追いつめられた集落の民は、まだ12になったところだという
キャスケットの妹を差し出せと言ってきた

いくらなんでもそんな殺生なと泣きつく両親に詰め寄る民達は明日には娘を連れに来ると宣言して帰っていった。
一家揃って逃げ出すような路銀もない、貧しい集落での暮らしで精一杯の夫婦が不憫な娘を思って嘆く横で、
キャスケットは決めたのだ

「俺だって兄だもの。みすみす妹が不幸になるのを黙って見てられない。この集落から誰か差し出せばひとまず
義理は果たせるんだよね?途中で隙をみて逃げ出せばいいし、逃げられなくても男だとバレた時点で用済みだもの。
すぐに城から追い出されるだろうから、俺を代わりに差し出せばいい」

女だと偽っての登城がバレれば無事で済むはずがない。
キャスケットの出身地を調べるような手間はかけやしないだろうが、男の身でハーレムへと乗り込んだ者は
その場で手打ちにされるに決まっている

分かっていながら、両親はキャスケットの決意を変えさせる妙案を思いつかなかった
キャスケット自身も 二度とこの家には戻ってこれないと知っていながら それを口には出さなかった

「うまく逃げ出せても ここには戻らないよ。すぐに見つかってしまうもの。だけど、離れていてもみんなの幸せを祈ってる」

普段と変わらない柔らかな笑顔でそう言った長男は、妹の為に用意された登城用の、少し自分には小さい衣装に
身を包んで、迎えの輿へと自ら進み出た
家の中に隠された妹の顔を思い出し、青い顔の父と涙を浮かべる母に会釈して背を向けて。

こうして、キャスケットはきらびやかな衣装で性別を誤魔化して王の元へと向かっている

(逃げ出す隙なんて、本当はないだろう)

王と謁見し、二人きりになった時が自分の最期だと予見していた

だけどこれで自分の家には報償が入るし集落で父母が子供を差し出せと責められる事もなくなる
(シャナはまだ12才だ。あんな好色な王に自由にされていいはずがない)
隣の家の息子が自分の代わりに妹を守ってくれるだろう。二人は小さな頃から仲が良かったから、王の目にさえ
留まらなければ似合いの恋人達になるはずだ

妹の未来を思って、これからの自分の身に起こる事を思うと どうしても青ざめる顔でキャスケットは笑った

どうせ夜には殺されるのだ
王がやってくるまで、楽しいことや嬉しいことばかりを考えていよう
最後に笑っていられれば 少しは両親の心苦しさも減るだろうか
そう考えながら通された一室で、キャスケットは小さく息をついて窓の外、抜けるように青い空を眺めた





『静かにしろ。おとなしくしていれば何も危害は加えない』

どうしたことか、室内に入ってきたのは王でもその部下でもなかったらしい

人の気配に振り向こうとしたところへ、ひたりと貼り付いた手に口を押さえられてキャスケットは、
振り向くに振り向けなくなって床に座り込んでいた

『あんたが今日新しくやってきた愛人だろう? なら、間違いなく王は今夜はあんたのベッドに潜り込みにくる』
黙って俺達がこの部屋に潜むのを認めれば、あの好色王に手を出されずに済ませてやると耳打ちされて目を見開く。
渡りに船の提案を持ち込んできた男に、手を離すが大きな声を出すなよと念を押されてこくりと頷くと、
キャスケットの口元を覆っていた大きな手が ゆっくりと離れた

『あの王はもう駄目だ。女に現を抜かし政治は側近まかせ。その側近も自分の懐を肥やすことしか頭にないから、
貧富の差は激しくなる一方だ』
キャスケットの部屋に忍び込んできた二人は そんな王に見切りを付けた者達から暗殺の依頼を受けたのだという
『この国の中にも現状を憂う者もいるし、近隣の国にもそういう者に援助する人間もいる』
『まぁ、そいつらはこの国の内政が荒れれば自分達がいい目をみるチャンスがあると狙ってるんだがな』
背の高い男と、彼よりは小柄で細身の男が簡単に説明をする
どうやらこちらの男の方が頭が切れ口が達者らしく、大きい方が必要最低限しか話さないのを 横から
ちゃちゃを入れてキャスケットにも分かりやすいように話してくれている
自分達が仮に暗殺に失敗してもあんたは脅されただけだと主張すればいいとまで教えてくれて、キャスケットは
評判の良くない見も知らぬ王よりもこの男達の方に好感を持った

だいたい、男の自分がどう頑張っても王の愛人にはなれないのだからこの二人が成功してくれた方が
自分の生き延びる確率は確実に増える
だから、この後女中達が果物や飲み物を部屋に持ってきてくれた時も、王を迎えるべく部屋に香を焚きしめにきた時も、
訪問の前にと化粧を直しにやってきた世話係の女にも、彼等侵入者の事は話さなかった


「では、もうすぐ王がみえられます。貴女はまだ年若いから少々の事は許されるでしょうけど、くれぐれも
ご機嫌を損ねないようになさいね」
親切な女官頭に"気に入らなければ簡単に命を殺める方ですから"と耳打ちされて冷や汗が流れる
やはり キャスケットが最初に考えていた通り、男だとバレればその場で斬られてしまうのだろう

自分の命は彼等の手腕に掛かっているのだなと思ったところで、ふと、気になった

男達の名前も聞いてない

いや、どちらも抜け目なさそうなタイプだから 何かあった時にキャスケットが口を滑らさないようわざと
名乗らなかったのだろう
それが彼等の保身の為か、キャスケットの身を案じての事かは微妙なところだったが、それでも今夜で自分の命が
終わるかもしれない今、聞いてみたい衝動に駆られる

「ねぇ、」
キャスケットが声を出したことで 空気が張り詰める
二人それぞれの場所に身を潜めたどちらもが、自分に声を返すつもりはないらしい
それでも、キャスケットは言葉を続けようとした
「名前・・・」
教えてよ、と言いかけたところで ぱさりと入り口の帳が捲られる
はっと顔を上げると、キャスケットの想像以上に年齢を重ね、日に焼けた中年の男が中へと入ってきた





「おまえがシャナか」
傅いていた部下達をとばりの外へと出した王が にやにやと好色そうな笑みを浮かべて近付いてくる

こんな男に妹を渡さなくて良かったと思ったのも束の間、舐めるような視線にぞっとしてキャスケットは顔を伏せた

「可愛いもんだな。こんなに震えて」
言われて、自分の腕が小刻みに震えているのに気が付いた

恐ろしいと感じたわけじゃない
また、王には秘密の侵入者の存在で緊張しているのとも違っていた

どちらかと言えば、キャスケットの感じていたのは "怒り"だ

彼等の言う通り、税に苦しめられ貧しい集落はこの国にはたくさんあった。
干魃に喘ぐ民からも税は減ることなく取り立てられ、喰い詰める者も多い
なのに、王は贅に奢った生活を過ごしているのが窺える肥え太った肉体をしていて 手にも首にもじゃらじゃらと
宝石を着け、めぼしいところから女を奪っては愉しんでいる

むず、とキャスケットの手首が掴まれ、びくりと身が強ばった

ベッドの下には細身の男が、緞帳の向こうには大柄な男が隠れているのだが、キャスケットにはその気配も分からない

「む?!」
不意に、今にも自分にのしかかろうとしていた王が不審の声を上げた

見れば、王の足首が刺青の刻まれた手に掴まれている
「何者っ!衛兵・・・・」
それを認めた王が 供を呼ぶ声を上げる、と思った瞬間、キャスケットは王の口を手で塞いでいた
「・・・っぐ、」
キャスケットの塞いだ手の隙間から、呻く声と共に赤いものが流れてくる

それが血だと気付いた時には王の胸から剣の先が飛び出していた。
断末魔の足掻きで王の腕がキャスケットの首を掴んだ
本物の暗殺者は王の背後にいるのだが、致命傷を負った王の腕は前にしか伸ばせなかった。
ギリギリと あり得ない力で首を絞められ、仰け反るキャスケットの両手が王の口を離れて首を掴む手を引っ掻く
爪を立てても弛まない力に呼吸が絶たれ、びくびくと痙攣する喉を掴む腕が、急に がくんと下に落ちた

「すげぇ執念だな。まだ首締めてやがる」
「いいから早く外してやれ、窒息するぞ」
男達のやり取りが聞こえて霞む目を凝らすと、キャスケットの首から伸びる二本の腕は肘から先がなかった
ぴゅーぴゅーと血の噴き出す腕を すぐ側にいた細身の男が掴んで床に放り投げる

「あんた、俺達が居るのを知ってんだから、ああいう時はさっさと逃げろよ」
ゲホゲホと噎せるキャスケットを呆れたように眺める男は、それでもにやりと笑みを口元に浮かべている
「だ・・・って、叫ばれ、たら、人が」
来ちゃうじゃないかと反論する前に抱え上げられて驚いた
細身でスレンダーな体つきのくせに、どうしてどうして。 男は軽々とキャスケットを持ち上げている
「まぁ、あんたその様子でこのまま残っちゃ俺らの仲間だと思われちまう。」
「連れていくしかないだろうな」
男がキャスケットを自分の首にしがみつかせている間にテキパキと窓から脱出の用意を調えた背の高い男が
応えた内容に目を瞬かせているうちに、キャスケットは彼の胸にしがみついたまま、王宮の窓から外へと
抜け出す羽目になっていた





「自分の集落に戻るか? あんまり安全だと思えないしオススメしねぇけど」
彼等の住処に連れてこられたキャスケットは、差し出されたお茶を受け取って一口、含みながら首を横に振った
「その方がいいだろうな。少なくともほとぼりが冷めるまで数年は帰らない方がいい」
話を聞いているうちに、最初にお茶を2人分入れて姿を消した背の高い男が何かを手に戻ってくる
「着替えだ。血塗れだからな。悪いが男物しかないぞ」
「おい、俺の服じゃねぇか。おまえ勝手に人の荷物漁るなよ」
「サイズが合わないだろう、俺のだと」
「あの・・・え、と・・・」
会話に割って入ろうとして 呼びかける名前を知らない事を思い出したキャスケットが口篭った
「あぁ、俺はローってんだ。こいつはペンギン。」
察した男が名前を教えてくれる
礼がわりに軽く頭を下げて服を受け取りながら、キャスケットも彼等に自己紹介をすることにした

「男物で、結構なんです。俺、キャスケットって言います。ホントは王の愛人になんてなれなかったんで助かりました」

一瞬、静まり返った室内が けたたましい笑い声に包まれる


「っはは!あんた、男か!どおりで肝が据わってるはずだぜ」
「なんだ。女の前で随分な光景を見せたと気にしていたが、男だったのか」
二者それぞれの感想を告げる暗殺者に おずおずと、声を掛ける
「それで、元々もう故郷には戻れないつもりで家を出てきたんです。よければ、俺をここに置いて下さい」

くすくすと笑うローと顔を見合わせたペンギンが頷く

「巻き込んだのはこっちの方だ。勿論、構わない」
「巻き込んだ責任はとってやるよ」

差し出された手を握って笑みを浮かべたキャスケットは 兄弟のように気心の知れた2人に、こうして
弟分として新しく迎えられた
それは、王の愛人として迎えられるよりも ずっと素敵な環境だった






 召しませ、花を。

擬態した替え玉の行く末




[*前へ][次へ#]

72/100ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!