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SS置場6
Lips P

ねぇ、ペンギン。落ち着いて考えてご覧よ


キャスケットが何かを思案するような仕草で そう耳元で囁いた


何もかも、正しい事ずくめじゃなくったって いいじゃない


どう話せば伝わるかなぁ、と一人言を挟みながら 小首を傾げる彼は なんと純粋な目をしている事か。


知ってる? ペンギンて、自分が正しい事から外れるのが、大嫌いでしょ


言いながら、彼の手は棚の中の瓶を物色している
いくつか 手前の瓶を選り分けて キャスケットが選んだのは
少しくすんだラベルの、古ぼけたワイン
確か 見た目は美しくはないが値の張った1本で、普段自分達が気軽に味わうアルコールの半年分を
足したとしても及ばなかったんじゃなかろうか

ペンギンが思い返している最中に ぴり、と封を剥がす音が響く

「…おい、」
止めろ、お前が勝手に味わっていい酒じゃないだろう、と声音に滲ませての呼び掛けを
キャスケットは 緩やかに弧を描いた唇の浮かべる笑み1つで綺麗に聞き流した

キュ、…ポンッ

心地よい音を響かせて コルクが抜ける

とくとくと 微かな流水音の源は 彼によって傾けられたワインの瓶。


「これくらい、些細な悪戯だよ」

押し付けられたグラスは 琥珀色の液体に満たされ 芳醇な薫りを放っている

「こんな色のワイン、飲んだ事がないでしょう」

手にしたグラスを持て余すペンギンの目の前で 自分にも注いだキャスケットが 悪戯な色を浮かべた目で
ペンギンを見つめて笑う

くい、と。
まずは一口と言わんばかりに 彼の薄い唇がグラスに触れる

喉へと流しこまれた液体は 彼にどんな感想をもたらすのだろう

身に過ぎた高価なワインを掠め取った男の漏らす、満足な吐息を聞き分けようと耳を
そばだてていたペンギンにキャスケットが穏やかに微笑む

「試してみなよ。俺の感想なんかアテにせずに。他人ひとの言葉より自分の感覚を
大事にするんだろう?」
この瓶を開けたのは俺だし、おまえの罪にはならないよ。一口味わったからといって共犯なんかに
しないから安心していいよ

からかうように告げて 二口目を啜る

キャスケットの血色の良い唇の中に消えていく液体は 端で眺めていても美味しそうに見えた


「飲めないんでしょう、ペンギンには」

キャスケットが ペンギンの持つグラスを眺めて 妙に確信を持つ口調で笑う

「何もかも。常識に則った正道じゃなきゃいけないと、自分を戒めて生きてきた、真っ直ぐで 間違いを犯さない、
疚しい事なんて一つもしたことのない、清く正しいペンギン」

歌うように吟じる彼が ペンギンの手からグラスを剥がす

「じゃあ。こうしたら、どうなるかな?」

く、と傾けられたグラス。
こくりと音を立てて飲み干す彼の顔が ペンギンの上に影を落とす



触れたのは 先程から見つめ続けた 薄い唇

口内に押し込まれた液体は 自分達のキャプテンの所蔵する、それなりに大切にされていたワイン



それを飲んでしまった事を 悔いるべきか。

それとも、今 自分が悔いるべきなのは
正道を外れた口付けを 彼と交わしている事だろうか


(どちらも、望んでいた事のように思えるのは 自分の気のせいか)


ゆるりと上がった腕が 彼の身を抱き締めるのは自分の意思だ

そう、自覚しながら キャスケットの手からグラスを取り上げ テーブルに乗せる

うまく隠したつもりかもしれなかったが、彼の持つグラスの中身は細波を立てていた

合わせた胸からは どくどくと響く鼓動が伝わってくる

自信ありげに笑った彼の、装った強気に煽られて 今度は自分の方から音を立てて激しく彼の唇を貪った







 その唇は背徳に浸した罪の味








キャスペンでもいいかな〜、それとも襲い受けでもいいなー。そんじゃ、ちょっとへたれさせてみようかなー…ってのが真相。
(誘い受け風ペンキャス(orキャスペン)エンドはこちらです)


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