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SS置場1
怪我 P


ペンギンが、怪我をした
船長から「半年はベッドから抜け出すな」と念を押されるほどの。

みんな、あのペンギンがそんな大けがを負うなんて思ってもいなかったのでかなり動揺したように思う。
とくに、ペンギンを巻き込む形で、自分は比較的軽傷だった船員は目も当てられなかった
そんな中で一番落ち着いていたのは意外な事に真っ先に声を上げて騒ぎそうなキャスケットだった
船長と一緒に医務室に運び込み、引き返してきたと思うとまだ呆然とするクルーをひっぱって行った。
後で聞いてみると ペンギンの手当で手一杯の船医と船長に変わってそのクルーの処置をしたのは
キャスケットだという。
手当を終えた後で、甲板に出てきたキャスケットの「あれ?」という顔ではじめて我に返った
進行方向を変えたのは多分掃除道具を取りに行こうとしたんだと思う
ベポは慌てて「キャスケット!掃除は俺がやるからいいよ!」と声を掛けて後を追った
「あ、じゃぁ、頼むね」 とベポの肩にポンと手を置いて、輸血のためかペンギンと同じ血液型の船員を
探しに戻っていくキャスケットを見送って、ベポは首を傾げた
「キャスケットの手、震えもしてなかった。体温も至って普通。・・・平然としすぎじゃない?」



動けないペンギンの世話は、責任を感じた船員が任せてほしい、と言い張ったので
他のクルーは見舞いに顔出しする程度で、医務室に長く詰める者はいなかった
食べる分には支障はない、と聞いたのでベポは、お菓子を手に何度か見舞いに行った
動かないのにお菓子ばかりじゃ太る、と笑うペンギンが何気ない風を装って尋ねてくる
「そういえば、キャスケットはどうしてる?」
あれ、もしかしてあんまり顔出してないのかな、と ちらっと思ったものの、来る途中で見かけたので
トレーニングルームに居たよ、と答える
それを聞いたペンギンが小さく また? と呟くのが耳に届いた
「"また?"」
繰り返したベポの言葉にペンギンがこちらへ目を向けた
「誰かと組み手でもして負けたのか?最近やたらとトレーニングしてるらしいな」
寝耳に水だったベポの驚いた表情で分かってしまったらしい
「知らなかったのか」
もともと練習嫌いじゃなかったけど、キャスケットがそんなに熱心にやってるというなら
ペンギンの言う通り、誰かに負けて悔しかったんだろうなと想像がつく
それはとてもキャスケットらしい事に思えた
くすっと笑ってそれならこの後冷やかしに行ってやろうかな、と言うとペンギンの口角が僅か上がった




「珍しいな、ベポが筋トレなんて」
体力余ってんの?と聞かれてベポは曖昧に笑ってごまかした
冷やかしのつもりでやって来たはずが、なんで筋トレなんてはじめたの、との問いに
俺、筋力が足りないんだよね、と普通に返されて からかう気持ちがくじかれてしまった
そのまま流れでなんとなく並んで筋トレをはじめてしまい、今に至る
なので、普段のベポなら聞きそうな芯を突いた質問はなされなかった
――何をするのに足りないの? もしくは、何と比べて足りなかったの?
でもそれも、しばらく後、ペンギンを欠いての戦闘中に明らかになる
その戦闘では、キャスケットの動きは普段の彼の動きとは異なった
普段自分の好きに動いて「視野が狭い」と注意されている戦闘スタイルとは違って
周りがよく見えているようだ
他のクルーや船長のサポート的な動きをとるキャスケットを見て誰かを思い出す
「あ。」
あれ、ペンギンのスタイルだ。
なんだ。キャスケットも結構視界が広いんじゃないか、とそこまで考えて思い当たる
それだけじゃない。スピードが、いつもと違う
なるほど。 "ペンギンと比べて" 筋力が足りなかったんだ
"まるでペンギンが乗り移ったみたいだ" という言葉は誰が言い出したのか
でもそれは、その場に居た全員の気持ちを代表した言葉だったから。
誰もが否定することなくその言葉に頷いたのだった




「おまえ、何かやっただろう」
ようやく顔を出したキャスケットにペンギンが断言した
「え、俺?」
傍らで紅茶を淹れていたキャスケットが顔をあげてペンギンを見る
何をやった、と問われて 首を傾げて 筋トレ? と答えたキャスケットはペンギンから冷たい目で
見られて肩を竦めた
「心当たりあるんだろ」
「なんで断定なわけ」
決めつけるペンギンの言葉に苦笑を零しながら淹れたばかりの紅茶を手渡す
手を伸ばしたペンギンが、カップを受け取らずに腕を掴んだ
ぐい、とひっぱられたキャスケットが体勢を崩しながらも慌てて零さないようにカップを脇に置く
間髪入れずに唇を奪われて、ペンギンに体重を掛けないようキャスケットがシーツに手をついて踏ん張る
「・・・なんだよ、急に」
「おまえが全然顔を見せないからだろう」
覗き込むペンギンの目が笑っている
「あいつが戻ってきたらどうすんだよ」
「問題ない」
ありまくりだよ!と食事に行ったクルーが戻ってくるんじゃないかと気にするキャスケットをさらに引き寄せる
「おまえ、怪我人だろ!あぶないから離せって」
久しぶりの腕の中で蜿く体の感触を楽しみながら、
「なら、白状しろ?」 と目の前の耳に囁くと
おまえね・・自分の怪我を盾にって、それどんな脅迫だよ、とキャスケットが首を竦めて溜息をついた


「別に何をやったってわけじゃないんだけど」
ペンギンが怪我した時、やけにてきぱき動いてたな、見直したって言われたから
俺も慌ててたから自分がどう動いたかよく覚えてないっつっただけだよ、と答えるキャスケットは
今度はちゃんと紅茶を手渡して、ベッドサイドの椅子に腰掛けていた
「それで、筋トレは何だ?」
「何って、俺 筋力足りないから。あと、瞬発力と。」
は?と声には出さず疑問を呈したペンギンの為にキャスケットが補足する
「咄嗟にさ、どう動くべきか見えてても動けなかったら意味ないじゃん?だからだよ」
そういえば最近誰かが言ってたな。敵味方入り交じっての戦闘でキャスケットの動きが違うとか。
「・・・おまえ、俺の代わりしてんのか」
だって誰かがやんなくちゃ。戦闘にペンギンは必要だろ?と答えるキャスケットの声が笑ってる

「おまえっ、わざとやってるだろ!」
「イヤだったらさっさと治して復帰しろよ」
食事から戻った船員は、明るい笑い声をたててじゃれているペンギンとキャスケットを見て目を丸くした
「ちょ、ずるいぞ、こっちが怪我に気遣ってるからって!」 助けてよ、ペンギンとめて!と笑って
こっちに助けを求めるキャスケットは起き上がったペンギンに頭を掴まれてジタバタしていた。
「ちょっと、ペンギンさん!まだそんな暴れちゃだめですってば」
船員が慌てて止めに入ったのを切っ掛けにペンギンの手がキャスケットを離した
あはは、ずっと寝てるから退屈なんだろ、ベポに見舞いに来るように言っといてやるよ、と
キャスケットが船員と入れ替わるようにして出口へと向かいながら話している
ベッドから離れられてはもう手が届かないペンギンがぼそりと「おまえは来ないのかよ」 と
つっこんでいるのを、船員は驚いた思いで聞いていた。
あのペンギンが、口調はとてもそうは聞こえないがまるで甘えるような言葉を吐くなんて!
「来ないよ!顔が見たけりゃ気合いで早く治せ」 キャスケットは後ろにハートマークでも
つきそうなくらい機嫌の良い声で言い置いて、ペンギンと船員に手を振って行ってしまった

その後ろ姿を見送って、ぱたんと扉を閉めた船員が室内に戻ってくる
「・・・仲良いですね、お2人。」
言わずもがなの事を言ってしまったのは失言だったかもしれない
じろりと無言で睨まれた船員は、おずおずと、
「あの・・・俺・・看護、降りたほうがいいですか」 と切り出した
その一言でペンギンが少し表情を緩める
「いや。 立候補してくれて有り難いよ、助かる」
どうやら不満はあるものの、キャスケットの行動を受け入れるつもりらしい
「早く治るといいですね」
船員の言葉にペンギンは力強く頷いた




 
その見舞い ―― 俺 流



弱ってるところなんて見せたくないんだろ?




最初にキャスが「自分がどう動いたかよく覚えてない」 と答えたのは本心から。そこから妙な
戯れ言が飛び出したからわざと煽ってみました!ってのが真相です。いや、ベポ視点難しい!
ので途中で退場してもらいました。というかベポ視点とその後は書いた日が違うので気分が
変わっちゃったというか(千堂の)。ロキャスでもペンキャスでも仲良しだったらそれでいい♪


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