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戦国BASARA
【市+政】唯の一人だけ
(戦国)


「・・・!?アンタ、また・・・っ」

ふらり、ふらりと歩いてたら。
いつの間にか、こんな奥まで来てたみたい。
・・・そんなに驚いた顔をして、どうしたの?独眼竜・・・。
市がここにいると、独眼竜は困る・・・?
市は、ここにいちゃいけない・・・?

「おい!・・・っ」

ぐらりと視界が揺れる。
地に倒れそうになった市を、独眼竜が慌てながら支えてくれた。
嗚呼・・・竜の心臓は、思ったより小さいのね。
市の心臓は、言うことを聞いてくれない・・・。

「・・・Hey、大丈夫か?織田の・・・」

「市・・・?市は、平気だよ・・・」

知らない言葉混じりに、隻眼の竜が心配してくれた。
市が言葉を返せば、独眼竜の口からは悩ましげなため息。
・・・市は、やっぱりここにいちゃいけないのね。
この竜のあったかい腕から、早く抜け出さないといけない・・・。
なのに市の身体、動かない、動かないのよ・・・。
ごめん、ごめんね・・・独眼竜、ごめんね・・・。
市の双眼から、生温い液体が頬を伝う。
・・・独眼竜の一つ目玉が大きく開かれた。

「・・・泣くんじゃねェ、市」
<・・泣くな、市>

「・・・っ、あああ・・・っ、ぁ・・・あああああ」

囁いてくれた言葉は、ひどくひどく残酷で。
市の頭も脊髄も、何もかもが震えるの・・・!
どうして、どうしてどうしてどうしてどうして
こんな時に、そんな顔で、あんな風に、市を呼ばないで・・・!
独眼竜の手のひらが、俯いて泣き喚く市の頭を撫でる。
慈しむように、慰めるように、優しく優しく優しく優しく。
なのに、市の心はこんなに痛いの、痛いのっ・・・いたいの・・・!!!

「・・・そう、めそめそ泣くな」
<・・もう、めそめそと泣くな>

「や、めてやめて・・・市の心を覗かないで・・・ぇッ!!」

市の唇が、勝手に動いてる。
涙もいっぱい・・・市、まだ泣いてるの・・・?
でもそんなこと言わないで、市を壊そうとしないで・・・!
市の闇が、ゆらりと現世に手をひらめかす。
・・・そう、そう。
市が悲しいときは、ずっとこの魔の手が守ってくれるのよ・・・。
他には何も、いらないよ・・・。
独眼竜なんか、大嫌い・・・。
市の目蓋が、重く重く閉じられていく。





「・・・ぅ、ん・・・」
目を覚ますと、頬にざらざらとした砂の感触。
ここは・・・?市は、何をしていたの・・・?
辺りを見渡せば、人が一人倒れている。

「・・・独眼、竜・・・?」

ゆっくりと見覚えのある三日月に近づけば、本当に独眼竜だった。
・・・戦でも、あったの?
独眼竜が負けるなんて、珍しいね・・・。
首に残った赤い痣をみながら、市はそう思った。

「・・・?泣いてるの・・・独眼竜・・・?」

いつもの強く凛々しい瞳は、かたい目蓋に閉ざされている。
でも・・・頬に涙が伝ってるよ?
・・・死んではいないみたい、だけど。
どうして、こんな冷たい土の上で寝てるの・・・?
だめよ、竜はお空で眠らなきゃ・・・。
市はそっと、独眼竜の背負っているお月様を外してあげる。
そうして、その癖のついた艷やかな髪を梳いてあげた。

「・・・・・・っ、つ・・・ぅ」

独眼竜が、目を覚ましてくれた。
市は手の動きを止めて、独眼竜の頭をそっと抱きしめてあげる。
驚いて息をのむ、天上の竜。
その頂に、市の歪んだ雫が落ちた。
嗚呼・・・涙を流してたのは、市の方だったの・・・?

「・・・・・・Sorry」

独眼竜が、市の胸の中で小さな声で呟く。
ふふ・・・何を言ってるのか、全然分からない。
市がくすくすと笑っていると、独眼竜がゆっくりと顔をあげた。
市の暗ぁい瞳が、独眼竜の悲しそうな瞳をとらえる。
・・・どうして、そんな顔をするのか、市には分からなかった。
分かりたくない・・・分かろうとしなくても、誰も何も言わないもの・・・。

「I was not able to save you again」

ひどく重い声で、竜が囁いてくる。
いつも虚勢を張り、とても可哀想な孤高の独眼竜が・・・。
・・・おかしな竜、優しい独眼竜なのね。
市の唇が、小さく弧を描く。
ありがとう・・・本当に、市を助けようとしてくれた人。

「・・・ありがとう、独眼竜。」

そろそろ・・・市の腕から、竜を逃がしてあげなきゃ。
市は独眼竜に静かに笑いかけて、ゆっくりと立ち上がる。
・・・帰らなくちゃ。
市の足が、ふらりふらりと次の場所へと向かっていく。
そう、早く探さなきゃだから・・・。

「待っててね・・・市が、逝くまで・・・」

「今度こそ・・・行かせてやるから・・・」

市の後ろで、震えた竜のなき声が聞こえた。
独眼竜の夢、叶うといいね。
だから、市は・・・いかないと・・・。

<・・・泣くな、市>

ああ、長政様・・・
泣かないよ、泣きたくない、でも・・・泣きたいよ。
長政様のお傍で、泣いていたい・・・っ
独眼竜が天に昇って、長政様を連れて市の所まで来てくれる・・・
その日まで、市、頑張るから・・・っ。

「・・・もう、泣かないから」

ぽつりと、市の頬に涙が降った。
そしてまた、市のせいで。
天上の人は瞳から血を流す。
――――優しいのよ、独眼の竜は。
だから、

「市のせいで、泣かないで・・・」

痛い、痛い・・・
市の心が悲鳴をあげる。
でも、歩かなきゃ・・・泣かないで、歩かなくちゃ・・・。
ここから先は、市、一人で歩いていく道だから・・・・・・ね。





お粗末様でした。

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あきゅろす。
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