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戦国BASARA
【吉+政】大空を舞うものども
(戦国)(過去捏造アリ)

とある昔語りをしてやろう。
我には親がおらなんだ。義理はいたが、所詮は義理よ。
また幼少のときから、全身に大やけどを負っていてなァ。
誰も寄ってはこなかった。
我も幼いからな。
幾度となく同じ年頃の童に、

「仲間にいれてほしい」

と項垂れながらも声をかけていたわ。
しかし、童どもは我を見ただけで逃げていった。
まるで蜘蛛の子を散らすように、我先になァ。
仕方ないことだとは、頭ではよう理解しているつもりだった。

「化け物が出た!みんな逃げろー!」

・・・化け物と呼ばれても、仕方ないことだともな
しかし、足がそろり限界を迎えてなァ。
齢25を越える頃に、お家から出られなくなってしまった。
やれ、不憫であろ?キヒヒ
だが我は泣くこともせず、一人でお手玉をしておったのよ。
そんな頃合だったか・・・。
家の庭に、天より童が落ちてきたのは。
我のもとの部屋は庭に面していてなァ、いつでも外の景色が見えたのだ。
それが何よりの苦痛であったことなど、誰も知らなかっただろうがな、ヒヒ。
・・・あぁ、それでその童がなァ。
あわあわと可愛らしく慌てておるのよ。
どうやら柿の木から落ちてきたらしく、何度も跳ねて登り直そうとするも駄目らしくなァ。
不幸不幸、可哀想であろ。
しかし、その童は我を見つけてしまったのよ。
そして我も、初めてその童の全身を見た。
・・・その童は、独眼だった。
しかしながら綺麗な顔立ちをしておってなァ。
我は暫しその顔に見とれた後、ハッとして後ろを向いたのよ。
綺麗なお目々に、我を映してやりたくなかった。らしくないであろ、ヒヒっ。
童の動きが止まって、土を踏む音が我の耳に届く。
どうやら我に近づいてきてるよなんだ。

「ねぇね、」

実に愛らしい声でなァ、その童は我に声をかける。
そうして仕方なしに顔を合わせた我に、その童は笑いかけるのよ。

「ここのおうちの人?」

それ以外に誰があろうか、我が不法侵入者のように見えたか。
幼心にはそんな憤りを覚えたなァ。
しかしその童は動じない、我を見てもなお動揺一つしない。
我は一つ頷き、一連の流れを知りつつも童にどうしたのかと尋ねたのよ。
我より幾分も小さな童と、いや結局は誰かと話しがしたかったのよ。
童はあのね、あのねっと柿の木を指さし声変わりもしておらぬ声で答えた。

「梵ね、こじゅーろとね、かくれんぼしてたの!」

「うんうん」

楽しげに話す童に、我もつい笑みを零しながらの談笑。
いかにも普通の生活であろ?まぁ、なかなか天より降る童もおらんだろうが。
しかしあるところまで話すと、童が急にしょんぼりしてしまってなァ。
どうしたのか、と我は慌てたのよ。
そうすれば、

「・・・こじゅーろ、梵のことみつけてくれないかも・・・ぇう」

とえんえん泣き出してしまったのよ。
我は大層困り果ててなァ。
童に驚かぬよう言い、義理の父君と母君の部屋に向かって叫んだのよ。
‘‘こじゅうろ、という男を探してほしい’’
とな。
我が頼み事をするなど、初めてのことだったからなァ。
バタバタと忙しなく外に出ていく、義父らの姿が見えた。
今思えば、我は愛されていたのやもしれぬな。
・・・我がふと童の方を見れば、すぐに腰回りに抱きつかれてなァ。
その行為の愛いことこの上なくてな、我もポンポンと頭を撫でてやったのよ。
そうすると、童の頭が不意に持ち上がってな。

「・・・ぁ、ありがと、えっと・・・ちょうちょさん」

と、涙で濡れた顔で微笑まれたのよ。
その健気な表情に、我の涙腺は久方振りに機能してなァ。
目尻痛いながらも、涙が止まらなくなってしまった。
童もぎょっとして、大丈夫?だの蝶々嫌いだった?だの言ってくれてな。
嗚呼、何と愛しいことかとその小さな体躯を抱きしめたのよ。
童も先に我がしていたように、頭を撫でようとしてくれた。
しかし手が届かぬようで、ふるふると震えていたがな。
暫くすれば、息づかいの荒い義母が現れてな。
隣には、多分‘‘こじゅうろ’’と思われる男もいた。
随分と探し回ったようで、両者共に汗だくでなァ。

「っ、こじゅ・・・!こじゅう・・・ッ」

我の身体からするりと抜けいでて、こじゅうろに抱きつく童。
いささか寂しい気もしたが、これでよいと我は涙を拭ったのよ。
義母に礼を言い、童にもよかったなと呟いた。
こじゅうろも何度も頭を下げて、感謝の言葉を述べる。
感謝されることに慣れぬ我はしばし驚いていたが、あの童が此方を向いたことで我に返る。

「梵に優しくしてくれて・・・ありがとう、ちょうちょさん」

どうしようもなくその言葉が愛しくて、我は小さく項垂れた。
感謝したいのは我の方であったのに、最後まで言葉が出なかったとさ。



「Hum・・・いい話じゃねェか」

「そうであろ、そうであろ・・・ヒヒヒ」

大谷が長い昔語りを終えれば、ふわりと花の香りがその鼻を掠めた。
刑部の夜の来客、伊達政宗は楽しそうに目を細めている。
どうやら城壁を器用に登って、我の部屋まで不法にたどり着いたらしい。
しかし政宗は、凶王の寝首を掻くわけでもなく、ただただ大谷と話しをしにきただけのようだった。
彼曰く、単なる暇つぶしである。
たまたま此方に用があって宿に泊まることになったが、如何せん退屈であったと。
それでわざわざ大谷の所まで来て、仲良く談笑。
彼の柔軟さと気まぐれさには、凶王軍軍師と呼べる大谷をも唸らせるほどであった。
胡座をかいた状態のまま、政宗が親しげに微笑みを浮かべる。

「しっかし、俺にその話しをする・・・ってことは」

さもすれば、ニヤリと双方意味深な笑みを刻んだ。
大谷は包帯に隠れた口を器用に動かし政宗に問いかける。

「・・・主の幼名を教えよ」

独眼の子供など、早々容易く見つかるものではない。
稀であるがゆえに、大谷はそれなりの目星は付けていた。
奥州筆頭、独眼竜政宗。それ以外には有り得ないと。
しかし大谷が若かりし頃は、女子のように愛らしいのでそれが男だと思いはしなかっただろう。
けれど今まさに、間近で確認すればするほど間違いないと大谷は頷いた。
その白い柔肌も、癖のついた髪も、麗しく整った顔立ちも。
全てがその幼子に類似して、大谷の清い心を掻き回していたから。
得体のしれない高揚感を交えた沈黙、それに政宗の蠱惑的な笑みが重なる。
形のいい唇が夜の冷たい空気を吸い込み、

「梵天丸だよ、蝶々さん?」

と、温かく懐かしい吐息をはき出した。
嗚呼、やっと見つけた・・・大谷の瞳より何十年ぶりかの涙が伝う。
そうして嗚咽混じりに呟く言葉は、紛れもない感謝の言の葉で。
あの日の約束は、天より来る竜の気まぐれに果たされる。
この一時の気まぐれの続く限り、美しき梵天の竜を愛でようと大谷は泣いた。





お粗末様でした。

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あきゅろす。
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