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戦国BASARA
【三政】盃が見せた執着
(戦国)

「大丈夫、だ……」

俯いて、まるで自分に言い聞かせるように政宗はそう呟いた。
何を考えている、いつもの貴様の気まぐれなのか。
喉を突いた言葉は、外に吐き出されることなく霧散する。
私の瞳が見開くと同時に、政宗の隻眼から小さな滴が落ちていった。




「……悪ィ、らしくねェよな」

「政宗ッ!!貴様っ、何を我慢をしている!?」

勢いに任せて怒鳴りつけても、政宗はただただ俯いていた。
力なく笑んで、政宗は再び杯を煽る。
己の奥歯が擦れて、苛々とした感情が胸を叩き警鐘を鳴らした。

「まさむっ……!」

「三成、…嫌だ……嫌だ、っ」

奴の名を叫んだ瞬間に、不意に政宗が私の体を強く押した。
体勢を崩し仰向けに寝そべった私の上に、政宗の細い体が乗る。
竜の涙で、上物の着流しが瞬く間に濡れていく。
唖然とする私を気にかける様子もなく、政宗はまるで幼子の如く泣きじゃくった。

「…っや、行くな…!どこも、っ三成ぃ……ぇっう」

まさか、と頭に思い浮かんだ案がある。
……暇だから、とわざわざ奥州から私の所まで出向いた政宗。
月が綺麗だから酒を、と差し出すと、少しだけ迷うような仕草をしていた。
その理由とは、まさか……

「っみ…つなり…?何で…っ何で返事してくんねェの……?」

「…………貴様、泣き上戸か。」

深くため息をつく私を見て、政宗はまた泣きそうな顔をした。
普段あんなに強気な政宗の面影は、もう跡形もない状態となっていた。
相手にされないと踏んだのか、政宗は部屋の隅で一人縮こまっている。

「政宗」

「…………っ」

返事すらしない、代わりにグスっと鼻を啜る音が聞こえた。
どうやら、まだ泣いているらしい。
気配を殺して政宗の背後に近づいて、思いっきり肩を掴みグルリと回す。
政宗の隻眼が見開いてこちらを向き、畳の至るところに涙が散った。

「……泣くな、政宗」

「だって、……とまんね、っふぇ」

白く美しい政宗の指先が、何度も何度も目尻を擦る。
白い肌に赤く腫れた目元が、あまりに痛々しい。
グっと拳を握り、半ば衝動的に政宗の唇を塞いだ。
生温い液体が、政宗から私の頬にまで伝う。

「…っん、ん、三成……?」

政宗の口から左の目蓋へと、緩やかに唇を移動させる。
温かな政宗の涙を舌で掬い上げ、溢れる度に喉へと送り込む。
腕に触れた政宗の体温が、徐々に高まっていくのを感じた。

「っ、やめ……!みっ、三成…もう大丈夫だから……ッ!!」

「……大丈夫だ、泣くといい。泣け、政宗」

「さ、さっきと言ってたことと違ッ……ふ、ぁ!」

酔いではなく、羞恥に頬を赤らめ始めた政宗を見て堪らなくなった。
政宗の頬に描かれた涙の跡にさえも、舌を這わせて舐めとる。
貴様の涙一つ、何にもくれてやるものか。
自分の執着心が伝わったのか、政宗はぐったりと身を委ね始める。

「……私は、貴様の傍を離れない」

だから安心しろ……そう呟けば、政宗は静かに目蓋を閉じた。

「…………三成、ごめんな」

そう小さく呟いて、政宗は小さく寝息をたて始めた。
そっとその目尻に触れれば、熱いだけでもう涙は見当たらない。
政宗を抱きしめたまま、そっとその柔らかな髪を撫でる。

「……謝るな、」

貴様はもっと、私に執着すればいい。
もっと泣けばいい、甘えればいい、我慢などするな、私の前で嘘などつくな。
抱きしめた腕に、さらに力がこもる。
この強がりな幼子が、素直に泣ける日が来るまで……。
穏やかな寝息だけが満ちる室内で、酒の注がれた盃が二つ、ゆらりゆらりと揺らめいていた。







お粗末様でした。


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